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「私のミスでした…」
休憩室に入った直後にちょっと表情を暗くしてそう呟いた少女は何とも言えない微妙な面持ちでその光景を見つめている。表情からはどのような感情を抱いているかはさっぱりわからないが、とりあえず喜びや楽しみといったものではないということだけは理解できた。
「私の選択、そしてその選択によって招かれたこのすべての状況…」
「この結果にたどり着いて初めて、私のこの選択が間違っていたことを知るなんて…」
「図々しいお願いかもしれませんが、お願いします」
そう言った少女──連邦生徒会長は飲み物を片手に静かに溜息を吐いた後、眼前に座る『少女たち』に声をかけた。
「……その、連邦生徒会の休憩室で個人的なお説教はやめませんか?」
連邦生徒会長がそう言った瞬間、お説教されている方の少女──槌永ヒヨリはぱあと瞳を輝かせ、一方の説教している方の少女──戒野ミサキは連邦生徒会長をぎろりと一睨みしてきた。その表情はお前にも責任の一端があると言いたげで──。
「…あなたにも責任の一端はあるんだけど?」
前言撤回。言いたげにどころか口に出された。連邦生徒会長はえっと思いながらミサキに視線を合わせてみれば、彼女の視線には怒りと呆れが半々くらいで混ざっている。どうやら結構本気でご立腹な模様だ。
何か彼女の機嫌を損ねるようなことをしたかなと連邦生徒会長が記憶の海を探ってみたものの、どうも連邦生徒会長には心当たりが思い浮かばない。
数秒かけたものの最終的にさっぱりわからないとばかりに首を傾げた連邦生徒会長に対し、ミサキは溜息を吐きながら机の上に置かれた雑誌やらモバイルバッテリーやらを掴み上げると。
「…これ。あなたか先生がヒヨリに買ったんでしょ?」
「…おや?」
ミサキの掴み上げたものには見覚えがあった。正確に言うと連邦生徒会長が見覚えがあったのはモバイルバッテリーの方だけだったが、まぁ彼女にとにかく見覚えがある物品がミサキの手につままれている。
それは少し前のことだ。
『えへ、えへへへ…。ここの休憩室、快適ですね…。ちょっと申請すれば雑誌も読めて、充電もできて…ここにもう住みたいくらいです…』
『いくらなんでも流石にダメですよー。色々と複雑な身分なのはこちらも深く承知していますが、我々もそこまで緩くできませんので』
『そ、そうですよね…。…やっぱりこの世界は苦しいですね、世知辛いですね…』
『そんな世知辛い世界を生きるヒヨリさんに、私からのプレゼントです』
『…モバイルバッテリーに、お水…? も、もしかして…これをやるから二度と来るなという事実上の出禁宣言…!?』
『…ヒヨリさん?』
『うわぁぁぁん、もうおしまいですぅ! どうせ出禁になるなら、ついでに食糧もください!』
『いえ、ルールを守りテロとか銃撃戦とかしない限りは別に出禁になんてしませんよ? …ところでヒヨリさんはどういう食べものが好きですか?』
と、こんな具合に嘆くヒヨリに甘めな連邦生徒会長が結局色々と奢ったという一幕があったのだが。
問題はここからであった。連邦生徒会長はこれ以降も度々ヒヨリを甘やかし、そんでもってそれとは別に先生たちもヒヨリを甘やかしていたのである。
これが今回ミサキにバレてしまい、彼女はゴリゴリに甘やかされていることが発覚したヒヨリに説教を敢行。その真っ最中に、休憩しようと思った連邦生徒会長は巻き込まれてしまった、というのが現在の状況である。
「ですが補給は大事では?」
「…頻度ってものがあると思うけど? このままだとヒヨリ達はあなたたちが居ないとそのうち生活できなくなるでしょ」
言ってることがほぼお母さんだなぁみたいなことを思った連邦生徒会長だったが、しかしそうなると甘やかしている自分や先生達の立場はさしずめ初孫をかわいがる祖父母みたいな立ち位置になってしまうことに気づいた彼女はそれを口にせずミサキの反論を受け容れて黙った。こういう言い方はなんだが、ミサキ達にこういったところであまりピンとこないだろうし、あと流石の彼女とて十代でおばあちゃんみたいな立場になっているということを口にしたくなかったのである。
そんなことは恐らく知らぬままのミサキに、連邦生徒会長はまぁ確かにと前置きしてから。
「ちょっとやりすぎたかもしれませんね。先生達からも援助を受けてるなら私からは少し控えた方がいいのかも…?」
「…ちょっとどころかかなりやりすぎだし、少し控えるじゃなくて大分控えてほしいんだけど。この前ヒヨリが食料と水を大量に持ってきたときにははっきり言って盗みを疑ったんだから」
「そうですか、なるほど…」
確かに彼女たちの境遇からすればそう思ってしまうのも無理はないだろうと思いながら、大分長い間正座させられていい加減限界が来ているのかぷるぷる震えているヒヨリに目をやった。
あまり干渉しすぎるのも考え物かと連邦生徒会長は内心ミサキの言い分に理解を示すと。
「では、私からヒヨリさんへの支援物資の提供は少なめにして…」
「…なんなら先生達かあなたのどっちかは提供なしでいい」
ミサキの(ヒヨリ視点では)無慈悲なその発言に、正座している当人は「えっ…」と半ば絶望の表情を見せていたが、しかしお冠なミサキの絶対零度の視線と「何か文句でもあるの?」という問いかけに何も言えずヒヨリは引きつった笑みのまま「な、なんでもありません…」と沈黙するしかなかったようで、そこから彼女は何かを言うことはなかった。
「それじゃ、決まり。これからはあんまりヒヨリを甘やかさないで」
「承知しました。ですが、困ったことがあったらいつでも言ってくださいね」
「…その時になったら考える」
そう言った後にミサキは「あまり遅くならないように。それと連邦生徒会に迷惑だけはかけないで」と未だ正座を崩さないヒヨリに投げかけると、連邦生徒会休憩室から颯爽と去っていった。
それを見送った連邦生徒会長と引きつった笑みのままのヒヨリの間では何とも言えない妙な空気感とともに沈黙が流れていたのだが、しかしそんな沈黙も突如として破られて。
「………うっ」
「…ヒヨリさん?」
「う゛わ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ん゛っ゛! い゛よ゛い゛よ゛も゛っ゛て゛も゛う゛お゛し゛ま゛い゛で゛す゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛!」
「ヒヨっ…凄い声っ!?」
かつてない大声かつ全力でヒヨリは号泣し、連邦生徒会長はあまりの声量に驚愕した。今までもヒヨリが号泣することはあったが、しかしながらここまで大きな号泣をしているのを連邦生徒会長が聞いたことが無かったのだ。
今回ヒヨリが泣いている理由はもう明確だが、とはいえいくらなんでも声が大きすぎる。この休憩室はそこそこの防音機能はついているが、恐らく今のヒヨリの泣き声はそんな防音機構もぶち抜いていることだろう。
「ちょっ…ヒヨっ…、落ち着…」
その証拠に、連邦生徒会長がなだめようとしたその瞬間。
「ヒヨリちゃん!? 何があったの!?」
連邦生徒会になにかしらの用事があったであろう甘やかし要員ことシャーレの梔子ユメ先生がなだれ込んできたのだ。
彼女は連邦生徒会長はおろかイブキやココナにすらやってないレベルで甲斐甲斐しくヒヨリにカウンセリングなどを行っており、そんなユメ先生の姿を見た連邦生徒会長はぼそっと呟いた。
「……ミサキさん…。どちらかというと私よりもユメ先生の方を注意するべきなのでは…?」
後日。表情にはあまり出ていないが態度からして激怒しているミサキがシャーレに突撃してユメに全力のクレームを入れてきたという話をわざわざ連邦生徒会にまで乗り込んで来て報告してきたミサキ本人から聞いた連邦生徒会長は、先生と共にすっかり落ち込んでしまったユメのメンタルケアに全力を入れる羽目になったのだった。