今回の話もなんだか解釈違いな気もしますが、とりあえずお楽しみいただければ幸いです。
この作品は、
・ハーメルン様(ココ)
・Pixiv様
の二つのサイトで投稿させていただいています。
「私のミスでした…」
超人と称されるほどの明晰な頭脳と実行力を持つ少女はそう呟いた。
いつも涼やかな彼女も今回の件には流石に狼狽している様であり、顔色は真っ青で両手はどうしていいのかわからないようで所在なさげに浮いていた。
「私の選択、そしてその選択によって招かれたこのすべての状況…」
「この結果にたどり着いて初めて、私のこの選択が間違っていたことを知るなんて…」
「図々しいお願いですが、お願いします」
そこで一旦言葉を切ると、彼女はあまりにも迫真過ぎる表情で『お願い』をした。その空のように青い瞳に焦りを浮かべているため、本当に冗談抜きで頼んでいる様子ことは傍から見ても明らかである。
「…いや本当に、それはダメです。その、キヴォトスでは恋愛は自由ですが…。…あの、未成年淫行はちょっとシャレにならないので…えっと、それ以上は…ね? そういうのは、…け、結婚してからとか、あの…ですね? わかっていただけますよね…?」
「ち、違っ…! 事故だよ、これは!」
「そ、そうです! 私と先生は、そういうことをしようとしていたわけではなくて、ですね…!」
少女──連邦生徒会長の震える視線の先には、チナツを押し倒している形になっている先生の姿があった。先生の顔はどこか蒼く、一方のチナツの顔はかなり紅潮しており何もなかったというには些か…否、かなり無理がある状況であった。
ここで、何がどうしてこういう状況になったのかを簡潔に説明しよう。
連邦生徒会長と先生は諸般の事情によりゲヘナ学園へと訪れていたのだが、万魔殿との話し合いが終わってさぁ帰ろうかというタイミングで先生はチナツに呼び出されたのだ。曰く書類整理を手伝ってほしい、とのことだったらしい。
連邦生徒会長個人としては別にそれに付き合ってもよかったのだが、しかしながら相手は自治区の治安を一手に引き受けている風紀委員の一員である。なので機密情報保持の関係上、連邦生徒会長が手伝うのは立場の関係上あまりよろしくないのだ。
それ故に連邦生徒会長と先生はいったん分かれて別行動となったために、一人で帰るのもちょっぴりさみしくなった連邦生徒会長はヒナの計らいで風紀委員の生徒を二名連れてゲヘナ内を視察という名目で散策。
時々雑談しながら数時間が経った後『そろそろ終わる』と連絡がきた連邦生徒会長は先生を迎えに行くかと護衛の生徒とともにチナツが管理しているという部屋へと向かったところ、ノックしても返事がなかったために護衛についていた風紀委員会の生徒が扉を開けてみたら(連邦生徒会長視点では)先生とチナツが盛っていた、という具合なのであった。
「で、ですが、ちょっと体勢が…ですね…」
「そっ…! そうだね、これはちょっと説得力がないね!?」
そう言いながら先生はチナツから離れた…途端、押し倒されていた形になっていたチナツが「あ…」と小さく、しかしながら確実に残念そうな声を漏らしたのを連邦生徒会長は聞き逃さなかった。会長イヤーは地獄耳なのである。
「あの…いまチナツさんがなんだか艶めかしい声を出した気がするのですが…? えっ、本当に何もしてないんですよね…!?」
「し、していませんっ! …まぁもしそうなったら…それはそれで…」
「「!!?」」
チナツのつぶやきを聞き逃さなかった連邦生徒会長と先生は、チナツに対して信じられないものを見る目を向けた。本人が思ったよりもそういうことに対して乗り気だった衝撃が凄かったのだ。ちなみに連邦生徒会長と一緒に来た風紀委員会の生徒達には聞こえていなかったようだが、しかしそれでもその顔色は真っ赤である。どうやらそういうことに対して免疫がない…言葉を選ばず言えば、ピュアらしい。
そんな彼女たちに下手なことを言われないようになのか、チナツは焦りを隠しきれない声で先生に確認を取った。
「な、なんでもありません! そ、それよりも! どうしてこうなったかを説明しないとですよね、先生…!」
「そっ…そう、だね…!」
「…聞きましょう」
連邦生徒会長の疑いの視線を受けながら、無理やり誤魔化したチナツはややしどろもどろながらも事の経緯の説明をしはじめる。
曰く。書類整理の真っ最中にチナツの真上から書類の山が落ちてきたため、それからチナツを守るために先生は庇ったらしいのだがその体勢が悪かったようで。
連邦生徒会長が目撃した通り先生がチナツを押し倒す体勢になっており、そんでもって間が悪いことにそのタイミングで連邦生徒会長が帰ってきて目撃されてしまったとのことだ。ちなみにこれらの音が外にいた連邦生徒会長に聞こえなかった理由はというと、この部屋自体に防音処置が施されていたかららしい。
「…ま、まぁ筋は通ってはいる…っスよね、連邦生徒会長。改めて部屋を確認してみれば資料が散乱してるし…」
チナツの弁明…もとい経緯の説明を聞いたチナツ自身の部下、ないし同僚の一人であるところの風紀委員会の生徒は顔を赤らめたまま連邦生徒会長に問いかける。どうやら話を聞いて意見できる程度にはショック状態から回復したらしい。
「…それはそうですね」
確かに、チナツの説明はかなり筋が通っている。筋は通っている…のだが、とある情報を持っている連邦生徒会長からすればどうも絶妙に信用ならないというのが本音であった。
故に、彼女はじとりとした視線を二人に向けると。
「…ただ、ですね。お二人にちょっと気になる噂がありまして」
「気になる噂…?」
「えぇ。根も葉もない噂だと思っていたので今まで放置していましたが…こんな状況になってしまったからには、やはり確認しておかなければいけませんね」
そこで連邦生徒会長はいったん瞳を閉じ、覚悟を決めるように何度か深呼吸をした。そして、彼女はゆっくりと瞼を開き、照れと緊張が混じったかなり低い声で一つの問いかけを行った。
「チナツさんと先生は…混浴したというのは、本当でしょうか?」
その問いかけの瞬間、風紀委員会の生徒は『それは本気で言っているのか…!?』と連邦生徒会長に驚愕の視線を送り、先生は「うぉぁぁ…」と声の代わりの珍妙な音を鳴らし、そしてチナツは『どこからそれを…』と言わんばかりに目を見開いた。
正直なところ、先生とチナツの反応だけでクロであることは理解した。それでも、連邦生徒会長は彼らの言葉を待つ。何か説明があるかもしれないからだ。
そして、その期待に応えるかのように先ほどまで動揺していたチナツは今や強い意志を感じさせる瞳をしており、そのままゆっくりと口を開く。
「…確かに、先生と混浴はしました」
「「チナツさん!?!?!?」」
「ですがそれはあの旅館でのカップル割引の条件の為であり、そしてあの旅館でのすべての出来事はいつも頑張ってくださっている先生へのお礼にほかなりません」
「…旅館ではふしだらな行為はなかったんですね?」
「はい。風紀の二文字に誓います」
念押しするように言い切ったチナツの言葉に、暫し連邦生徒会長は無表情で沈黙し──そして安堵したようにふうっと息を吐いた後、眉を下げて困った様に微笑んだ。その表情には先ほどまでの尋問するような雰囲気は、もはやまるで無かった。
「…誓われてしまったのなら仕方がありませんね。わかりました、そういった行為はなかったと判断しましょう」
「…ふぅ…わかっていただけてよかったです。信用してもらえるかわからなかったので、正直不安でした」
「不安な人の態度には見えませんでしたよ? …それはそうと、あんまり誤解されるような真似はやめた方がいいですよ。婚約している、とかなら話は別…いややっぱりそういう時に生徒側が未成年だったらやっぱり犯罪扱いで先生がしょっ引かれかねない、かな…? …まぁともかく、そういうことはチナツさんと先生がゴールインした後にやってくださいね。でないとチナツさんか先生のどちらか…あるいは両方が痛い目見そうですので」
「ゴールイン…ですか…」
呟いたチナツの表情にぽっと朱色が差し、またそれと同時にワンチャン狙いであろう風紀委員会の生徒達もまたごくりと喉を鳴らした。『まぁ先生なら上手いこと躱すだろう』という信頼の下焚きつけてしまった連邦生徒会長は、自分の合意もなく勝手に焚きつけられて青い顔のままの先生の為に「…一応言っておきますけど、先生を物にしたいなら合法的な手段をとってくださいね。もし何か犯罪行為が発覚した場合は…ね?」と釘を刺しておいた。強引な手段を取られたら何かと面倒なことになるのが目に見えているからだ。
(まぁ、ゲヘナによく居るアウトローの生徒の皆さんならともかくこの場の皆さんならこのくらいで大丈夫でしょう。なんて言ったって秩序を守る側の生徒達ですし)
と連邦生徒会長が極めてゆるく考えていたところ、背後から声が掛けられると同時にその場の全員──特にチナツや風紀委員の生徒たちはぴっと姿勢を正した。
その声の主が普段は秩序を重視して気を張っている声も、今は動揺に満ちている。
「…先生と、誰がゴールインしたの…?」
先生とチナツの件であまりの衝撃に開けっ放しにしてしまっていた入り口付近に立っている連邦生徒会長や風紀委員会の生徒たちが恐る恐る振り返ると、そこには目を見開いて固まっている空崎ヒナの姿があった。
いつもは普通に立っているだけで感じる威圧感さえ今は全く感じず、風紀委員長ではないただの年頃の一生徒が衝撃の事実を受けて固まっているようにしか見えなくなっていた。どうやら何か勘違いしているらしい。
そんなヒナの姿を見た連邦生徒会長は直感する。
──これはほったらかしたら間違いなく大惨事に発展するヤツだ、と。
故に、連邦生徒会長は即座にフォローに回った。回らざるを得ない、とも言えるが。
「あの…ヒナさん? 別に先生は今のところ誰かとゴールインしたという訳ではなくてですね…」
「………」
「…い、委員長…?」
「……………」
「ひ、ヒナ…?」
連邦生徒会長の説明も先生達の呼びかけも届かず沈黙してしまったヒナ。その目は明らかに焦点が定まっておらず、かなり彼女の精神状態がマズいことになっていることが傍から見ても把握できてしまう。
これはどうするべきかと連邦生徒会長がヒナの様子を、目を離さず確認しながら今後の動きを探っていると。
「………………っ」
「「「「「!!!??」」」」」
じわりとヒナの瞳に涙が溜まり、彼女のそんな姿を見た一同が今度は激しく動揺することとなった。他の皆がどう思っているかはさっぱりわからないが、少なくとも連邦生徒会長としては『先生のゴールイン』という事象が空崎ヒナにまさかここまでダメージを与えるとは思ってもいなかったのである。
「だ、大体先生が本当に結婚するとしたらおかしくないですか!? 先生がものすごく信頼しているヒナさんに結婚報告がいかないなんて、そんなことあり得ないですよ!」
「…でも…。…もしかして、私は先生に信用されていなかった…?」
「ンなわけないでしょ委員長ォ…ッ!」
「なんでそっちに思考が行くんですかヒナ委員長…!」
「信頼してないわけないよヒナ…! お願いだから話を聞いて…!」
もはや溢れだしそうなほどに目に涙を溜めていよいよもって決壊しそうなヒナがネガティブな方向に思考の舵を切り、そんな姿を見た一同は焦りを深めた。まさかちょっとした事故からこんなことが起きるとは夢にも思っていなかった故である。
いよいよもって本格的にマズいぞこれはと一同がどうフォローすればいいかわからずもはやパニック状態になりかけていたその時、ヒナの携帯に着信が入った。彼女の反応から察するに、どうやらゲヘナの恒例行事のテロらしい。
これまた嫌なタイミングで、と一同が思った瞬間にヒナは涙を拭ってだっと駆けだしてしまった。
「これ追いかけないとマズいよね!?」
「お、追いかけましょう皆さん! このままだとヒナ委員長がテロリストを捕縛どころか殺しかねません!」
「い、急ぎましょう! この際ゲヘナとか連邦生徒会とか言ってられませんよね…!?」
一同が慌ててヒナを追いかけてみたものの、しかしながらそこはゲヘナ最強。みるみるうちに引き離され、追いついた時には現場はもう既に死屍累々。テロリストたちがボコボコにされて地に伏し、セナに救急車両に放り込まれて回収されていくいつもの光景があった。
そして、制圧が終わったその中心には。
「…ぐすっ」
嗚咽を漏らしながら立ち尽くすヒナの姿があり、そんな彼女の姿を見た一同が全力で謝りながら誠心誠意経緯を説明したところでなんとか誤解が解け、ヒナは恥ずかしさからか風紀委員長室に籠ってしばらく出てこなかったらしい。
ちなみにこれらの経緯を知らないアコは今回の件に関わった面々にしつこく説明要求をしていたものの、色んな話し合いの末に口を噤むことを全員が合意していたため揃いも揃ってシラを切りまくったので終ぞこの件についてを深く知ることができなかったという。