ミノリなら本編でも舌戦なら大抵の相手に勝てる。なんだかそんな気がします。
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「私のミスでした…」
少女は肩で息をしながら、理想を掲げる彼女らを見すえる。その瞳には余裕の色が見えなくもないが、しかし焦燥と疲労もまたその瞳には色濃く宿っていた。
「私の選択、そしてその選択によって招かれたこのすべての状況…」
「…この結果にたどり着いて改めて、私のあの選択が間違っていたことを思い知るなんて…」
「図々しいお願いですが、お願いします」
そこで一旦言葉を切ると、彼女は真っ直ぐ相手を見据えた。その空のように青い瞳を細め、未だ彼女に対して厳しい視線を向ける『彼女たち』に告げた。
「そろそろ解散してもよろしいのではないのでしょうか…!」
「見ろ、邪悪な権力の犬が本性を現したぞ! 解散させて我々に劣悪な労働環境を押し付けようとしているのはわかっている! 待遇が改善されるまで我々の闘争は終わることはない!」
彼女たち──レッドウィンターのデモ隊長、安守ミノリは周囲の賛同者…というか工務部員に対して高らかに告げた。彼女の言葉に工務部の部員たちは更に士気を上げ、連邦生徒会長の話はあっという間に効力を失っていった。
そんなデモ隊の姿を見て、連邦生徒会長はかなり珍しく苦虫を噛み潰した上で更にまずい水で口をすすいだような凄まじい表情をみせた。
ここまでの状況になった事の発端は、連邦生徒会長がレッドウィンターに視察に来たタイミングで恒例のデモが起こったことが原因である。
『我々はチェリノ会長の退陣を要求するー!』
『そうだそうだ、会長はプリンを毎日二個も食べるなー! 我々にも一個分けろー!』
『週2日労働を認可しろー!』
といった具合にクーデターが起こり、あれよあれよという間に事務局から逃走する羽目になったチェリノやトモエとともに避難を行ったところ、その避難先にて。
『…ところで、なのですが。連邦生徒会長にお願い…というか依頼がありまして』
『…あの、トモエさん? なんだかすごく嫌な予感がするのですが…』
『マリナさんが囮になってしまった以上、レッドウィンター事務局で動けるのが私とチェリノ会長だけとなり、人員が足りません。厚かましいお願いなのですが、このデモ鎮圧に手を貸してはいただけませんか?』
『…やっぱりそうなりますか』
『勿論、ただでとは言いません。全部終わった暁には相応のお礼はさせていただきますが…。いかがでしょう?』
『…いえ、お礼はいりません。レッドウィンターの治安維持も大切ですからね、私もぜひ協力させていただきます』
と、勇ましくレッドウィンターのデモ鎮圧の手伝いを名乗り出た連邦生徒会長だったが、しかし。彼女はレッドウィンターにおけるクーデター鎮圧の大変さをかなり甘く見ていたことを数十分後思い知ることになった。
まずは彼女らの目的、デモ発生の原因について聞いてみることにしたのだが。
『チェリノ会長は我々の過酷な労働に目を向けず、自分だけ! プリンを! 二個も食べている! この横暴、連邦生徒会長ともあろう者が見逃してもいいものか!』
というものではあった…のだが、どう聞いても不満が籠っているのは後者の件であることは彼女の言論からなんとなく察しがついた。
この時点で大分眩暈がしていた連邦生徒会長だったが、とりあえず話を進めるためにも彼女たちは一体何を要求しているのかを聞き出すことにした。
『…いろいろと突っ込みたいところはありますが、とりあえず流しましょう。では、このデモであなた方は何を要求しているのですか?』
『いい質問だ、連邦生徒会長。我々の要求は週休5日の労働、そして私たちにも毎日二個のプリンを支給することだ!』
この返答を聞いた瞬間、連邦生徒会長の眩暈はさらに加速する。連邦生徒会長とて労働者の端くれ、彼女の言っていることは理解できないではない。できないではない…のだが、とはいえ週休5日となってしまえば業務効率や治安は最悪になることは目に見えている。まして建築物の整備を行う工務部であるならなおさらだ。
以上の事から、非常に心苦しいが連邦生徒会長は彼女らの提案を蹴りつつそれに対する代案を提示することにした。
『週休5日は流石に難しいと言わざるを得ないかと。ここは週休…そうですね、3日くらいを提案してみるのはいかがでしょう。プリンは…原材料の関係もあるので要相談、ということで。チェリノ会長もこれなら考慮してくれるのではないでしょうか?』
週休3日は労働者にとってかなり大きな譲歩であるし、というか欲を言うのならば連邦生徒会長自身が所属する組織でそうしたいくらいだ。ネックとなる労働対価問題も前にトモエに見せてもらったところ大分ホワイトであったために、とりあえずこの譲歩は呑んでくれるだろう。連邦生徒会長は発言しながらこんなことをぼんやりと考えていたのだが。
『なるほどなるほど、それが連邦生徒会のトップというブルジョワのやり方か…。だが、我々はそのような卑劣な策に屈することはない!』
『あ、あれ!? 割と現実的な提案をしたと思うのですが!?』
連邦生徒会長の提案はあっさり蹴られ、ミノリのデモの熱は更にヒートアップしていく。それに対して連邦生徒会長は粘り強く代案を作り出していくが、しかしミノリによってことごとく論破されていった。
そしてもともと1時間弱で終わるはずのレッドウィンターの視察は大幅に時間をオーバーし、連邦生徒会長がこのレッドウィンターに到着してからかれこれ2時間と23分もこのレッドウィンターに居座ることとなり、軽率にこのクーデター鎮圧を受けてしまったことを後悔しながら冒頭に至る。
「どうした、それで終わりなのか。連邦生徒会も情けない、レッドウィンター生ならあと数時間は食って掛かってくるぞ」
「皆さんがタフすぎるんですよ…」
ぜぇぜぇと肩で息をしながら、連邦生徒会長は涼しい顔をしているミノリに力なく反論する。
その様相はもはや疲労困憊といった具合だが、しかし依頼を受けてしまった手前降参するわけにもいかないため半ば気力だけでさらなる提案をした。
「…連邦生徒会から各地の美味しいプリンをそちらに送る、というのはいかがですか?」
「なっ、連邦生徒会お墨付きのプリンだと!? くっ、このブルジョワめ、汚い真似を…!」
「…何故私はここまで言われなければならないのでしょう…」
ミノリによる非難を不満に思いながらも、これでようやくこのデモ鎮圧にも決着がつく。連邦生徒会長はそう思い、ふぅと小さく吐息を漏らして軽く安堵した。
…のもつかの間。
「いや、我々はそんな誘惑には屈さない! 労働者を甘く見るなー!!」
「嘘でしょう!? まだやるんですか!?」
その後レッドウィンターのデモ鎮圧は更に3時間ほど延長、結局連邦生徒会長がどうこうするのではなくチェリノの…というかトモエの手腕によって解決の目を見たのだった。
限りない疲労と徒労感を得て、陽が沈んだところで連邦生徒会にようやく戻った連邦生徒会長に待っていたのはというと。
「会長、お疲れのところ申し訳ありませんがこちらの書類の処理をお願いします」
七神リンによる書類の山。それを見た連邦生徒会長は死んだ目で静かに溜息をついて、今日のことを思い出してこの状況に一番有効になるだろう手を模倣するのだった。
「…連邦生徒会には私の扱いの雑さの改善を求めます! あと労働者の労働環境をもっと改善しろー!」
なお一人で始まった連邦生徒会長のデモはわずか数十分で鎮圧され、彼女は死んだ目で書類を処理しきったあと普通に定時で退勤。その後は後腐れもなく日常は戻った…ということはなく、この後数日間にわたり連邦生徒会長はデモを開催し、それに感化された労働環境に不満を持っていた連邦生徒会の生徒たちもデモに加わったことにより一時連邦生徒会は混乱を余儀なくされて最終的に先生まで駆り出されることになったのは別のお話。
ちなみに件のデモにはミノリをはじめレッドウィンターの工務部の姿もあったという。