周囲は泣け叫びの声や表情を暗くする者や絶望が辺りを包み込ませた。
・・・だが。
「・・・ふぇ」
たった一声の産声が聴こえる否や歓喜に導かれて、辺りは喜びの舞声と変化した。
彼の名前は『黒楼夜叉』(くろやしゃ)。
第一話 『黒楼夜叉』
黒楼は川神市のある家で暮らしていた。
理由は親が仕事で外国に出稼ぎに行き、海外では自分を育てられないから。
黒桜も最初は親がいなくて寂しいと感じていたが、その家の家族が優しく育ててくれたおかげで、それほど寂しい想いはしなかった。
ただ、その一方で問題もあった。
ここに住み初めてから、その家の関係上で武道を習った。
もちろん本家通りの修行メニュー通り全てをこなしているわけではないのだが、その家の川神百代という少女に勝負をして勝ってから異変が起こった。
いままで喧嘩で負けたことがなかった百代にとって敗北はかなりの屈辱であったらしく、その日から再戦を申し込む日々が続く。
そして黒楼もあんまりにもしつこいので『今度負けたら、将来のお嫁さんになれ』といたずら半分で言ったのが不味かった。
結果は勝利。
多少いざこざが生じてしまったが、川神百代と黒楼夜叉は子供時代からの恋人同士へ。
ちなみにあれ以来からは全敗で、逆に川神百代は黒桜を含めた武道達を全勝して数年後には『武神』と呼ばれるほどになるのだが、その結末でも恋人同士になった日以来、二人の間では無意味のようでずっと仲の良い恋人になっていた。
そんなある日のこと百代はふと思った。
「恋人もいいが、やっぱり闘いの時間が欲しいな・・・うん」
黒桜に敗北して以来、百代は彼に勝ちたい一心で修行してきたため子供らしい遊びはほとんどしていない。また、勝利したのちも彼との恋愛生活を堪能していた影響下か、親友と呼べるほどの仲間とはめぐり会うこともなく、形だけの友達しかいなかった。
その影響か、戦いこそが第二の娯楽と百代は考えていた。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★
2008年、春。
川神院に手紙が届く。
差出人は『黒楼夜叉へ』と書いてあった。
封を開けたのは百代。
黒楼宛なのになんで開けるのだろかと誰もが思う行動なのだが、黒楼から手紙が来るのは親ぐらいなもの。友人からという考えも捨てなくはないが、今は携帯ですぐにメールが送れる時代。わざわざ封筒に届けてくる友人などいないはず。
それに黒楼自身も自分宛の手紙が来たら、先に開けて読んでも良いとお墨付きもあるので問題なかった。
百代自身もこれが浮気の予兆なら『消さなければ』と思っていたので、躊躇いなんか一切ない。
「・・・で、誰だこいつ?」
百代は封筒の後ろを見て名前を確認する。
『真田一子』
百代はその紙を破り、ゴミ箱に捨てた。
「・・・女か。だったら恋人である私が虫を払わないとな」
実は百代は黒桜に近づく女は全て彼の知らぬうちに処分してきた。
理由は、百代にとって彼が他の女と仲良くしているのが我慢出来ないから。要する嫉妬心がとても強いのである。
周囲からの認識で見れば、恋人同士のお互いからの嫉妬は当たり前であり、そういう行動をしたくなるという彼女の行動も納得はできる。
・・・が、嫉妬という魔物は時に『全て』を破壊する。自分自身の立場、彼の立場、周囲との関係、環境の変化。
――果たして、川神百代の嫉妬心はどのような形で世界を変えてしまったのだろうか?
「見つけたわ」
凛とした女の声が響く。
暗闇に影が二つ。そのうちの一人がもうひとりに訪ねる。
「・・・それで、どんな奴でしょうか?」
小柄な影は右手を上空に上げつつ言う。
「一人は囚われの狂戦士。もう一人は紅蓮の輝きを持つ槍使い」
「なるほど。ではまだ弓矢や剣士は不在と?」
「ええ・・・そうね。それに『この世界』では改変させすぎてて先が見えないのよ」
影が動く。
「どこに行くの?」
「主よ。すでにこの世界での我々役目は終わっています。ですが、ここは『闘争』という渦巻く世界です。神にも彼らにも『闘い』を演じさせなければ・・・」
「・・・・」
右手を上空に上げていた小柄な影はゴソゴソと懐を探す。
「これを持って行きなさい」
懐から取り出したものは宝石。それを渡す。
「・・・感謝します。このお――」
「・・・名前はいいから早く行きなさい」
「はっ!」
影は声と共に一瞬で消える。
「・・・・」
後に残された小柄な影は自分の手を見つめる。手には五本とも指輪をはめており、中に石が埋め込まれていた。
「武か魔か、どちらが・・・」
彼女の手が一斉に光る。
「世界というのは常に残酷ね。何かを得るために同等の代価を払わないといけない」
彼女の周囲に現象が起こる。
一度目は紅蓮の炎が包まれた。
二度目は大雨。
三度目は大きな地震。
四度目が雷が落ちる。
五度目は彼女の隣に黒い影。
どうやら彼女は指輪で色々と自然現象を呼び起こせる能力のようだ。
「この世界での私達の役割は・・・もう」
彼女は一粒の涙を流すのだった。