管理人は椎名吹雪に『選択の世界』を渡した。
それによって、彼と結ばれる彼女達の時計塔は無限地獄を脱出し、無事に元の時計塔に戻る。仮にその先が彼女達の『死』の運命が待っていたとして、二度と同じ過去を戻りたいとは思わない。なぜなら戻れば『彼』との幸せの時間をなかったことにしてしまうのだから。
これは前回の黒桜夜叉での検証結果の参照でもある。
しかし、所詮は虚構の世界として構築したもので、本当に繋げなければいけない世界ではない。そのために、『世界』そのものにリスクを残してしまった。
すでにそのリスクが『世界』に隠れ潜み、それらは新らしいリスクの誕生を望んでいる。
「さて・・・どうしたものか」
管理人は鉄心を見た。
「まぁ、すでに起こってしまったことを悔やんでも仕方がないことじゃ。むしろ、それをどう消していくかじゃないのかね?」
管理人は考え、沈黙し始める。
「・・・さて」
考え込む管理人を他所に鉄心はある矛先を見る。
その先には、懐中時計をぶら下げた黒い炎を纏った女性が立っていた。
「・・・」
管理人は何も気づいていない。いや、そもそも気づいていたとしても眼中にないのかもしれない。
やがてその女性は、そのまま消滅した。
「・・・モモ」
鉄心はもはやどうすることも出来ない自分とその運命に目を伏せるしかない。
「思いついた」
「・・・!」
一方の管理人は何もごともなかったかのように、再びいくつかの時計塔と『世界』を混ぜ『新らしい世界』を創設を開始する。
「・・・今度は、誰を中心として混ぜていくのじゃ?」
管理人はチラと視線をそれに向ける。
「・・・彼女もまた、無限地獄を」
その正体に鉄心は少し驚くが、人である以上はありえる話である。
「さて・・彼が『選択の世界』を終わらせる時、どんな結末でこの世界に影響させてくれるかな?」
管理人は微笑む。
「・・・・」
鉄心はそれをじっと管理人の顔を見た。
そして。
「!!??がっ!!?」
管理人の首を絞める。
「な・・・何を?」
管理人は苦しみつつ、鉄心の体に吸い込まれていく。
「簡単じゃ、貴様の『力」が欲しくなった。だから取り込んでいるだけじゃ」
「・・・!!!」
体が鉄心に取り込まれていく中で見る、彼のオデコに宝石が埋め込まれていることに。
最初に出会った時にはなかった。しかし、何度かすれ違いがあった間に彼の身に何かあったんだろう。
「この世界のルールはわかった。だから、安心しろ。これから起こすのはただの余興にすぎないのだから・・・」
「無駄だ。どんなに操作しようとこの世界の管理人は俺だ。取り込んだところで根は変わらないぞ・・?」
「覚えておくとしよう。時の管理人よ」
そして、管理人は完全に鉄心に吸収された。やがて鉄心の体は黒い球体へと包まれて。
「・・・これで俺は少しの間だけ黒桜夜叉として生きられます。感謝します総代」
黒いマントで身にまとい、胸には懐中時計をぶら下げた青年。
黒桜夜叉が現れる。
「さぁ・・・この世界を絶対に救ってやるぞ。どんなことをしても・・・」
第一話 『裏の鎖』
イギリス。
そこはイギリスの地でありながら、日本人が多く住んでいる街があった。
街の名は『ローグライン』。
その街の当主魔繰家では、世間に隠れてあることをしていた。
魔法の研究である。
今の世は武術を学ぶことで、己の闘気を具現化する時代へと変わっていたが魔繰家はそれらも含めて、己の気を宝石石に封じ込め『誰でも』使える魔法研究をしていた。
そんなある日、理想が実現化する段階へと移った頃に男が現れる。
『君たち一族にこの懐中時計を研究してもらいたい』
男が渡した懐中時計は時を操ることが出来る一種の魔法時計。魔繰一族はその時計を長い年月かけて解析していき、それらを元に新たな魔法石の開発にも成功し、魔法石を扱う魔術師を誕生させた。
魔繰家当主、魔繰稟もその一人である。
しかし、その時計の中身自体は未だに謎が多い部分があり、それは魔繰家当主の魔繰稟の時代でも変わることはなかった。そして、長い年月が立ち彼女が死ぬ時に、この懐中時計にはある能力が備わっていることに気づく。
『全ての並行世界への自分自身に通信が可能』
あんな未来やこんな未来、自分が考える限りだけでもありえる『パラレル』の世界の自分と会話することが可能という能力。彼女はそれを数名の『若い自分』に知る限りの懐中時計の能力や歴史、魔法石の製造方法などを教えて死んだ。やがて、伝えられた数名の『若い自分』達も他の『若い自分』に知る限りの懐中時計の能力や歴史、魔法石の製造方法などを教えて死ぬ。
そうやってどんどん伝えられ、初代の世界よりも魔法も世界も発展していった。そうした重ね合いの研究により知ったのが、『時の神』に選ばれた人間達の存在。
選ばれた人間達は生まれた時から使命を与えらられていて、それらを達成させるため生きている。当然、人間たちはその役割を知らず、己の意思で選んだと思い込みで、与えられた『その者にとっての絶対的有利』という能力を得て、使命を全うしている。
その使命とは『相手を満足させた一生を送らせること』である。
最初は理解出来ない内容だったが、使命を持つ人間を研究した『自分』の情報によって、ある世界においてのその者達の人生の無限地獄を解放するためだと知る。
そう知ると、ならばその者達を協力すれば自分達が持つ懐中時計は、どう反応するのか研究したくなった。そこで本来の歴史を変えて『選ばれし者』達の運命を協力した。
一人は川神ではなく真田へ。一人は自ら引き取り研究対象へ、そして本来の軸となる者の中身や肉体の改造へ。
そして歴史を変え、世界を変えていったのが『闘争の世界』である。対象である川神百代を幸せにするために手を尽くした。
だが、そこで問題が発生した。
自分達が干渉したために『椎名京』が暴走した。それが黒桜夜叉の襲撃である。
やがて『時の神』は彼女を軸とした虚構の世界を誕生させる。しかし、それを暴走した彼女は否定したために椎名吹雪が生まれてしまった。二人は姉弟の繋がりとして。
『時の神』は姉弟では『椎名京』の無限地獄を消滅させることは出来ないと判断し、それ以外の武蔵、矢場、大和田などの彼女達の無限地獄を消滅させることから始めた。
8割ほどは成功したと良いだろう。椎名と干渉しない彼女達ならば一切の問題なく終焉を迎えられたが、椎名が干渉している世界では『椎名吹雪』と『選ばれた乙女』での世界では解決は不可能だった。逆に二人は殺されてしまって強制的に椎名を殺す以外に『その世界の終焉』は得られていない。
・・・当然ながらそれを良しとしない『時の神』と魔繰家が動く。
虚構の世界でありながらも、新たな世界として構築された世界。
彼の象徴は『鎖』、しかも束縛の鎖。
だが、相手もその束縛の鎖を受け入れ忠誠を誓う。
束縛は時に棘となるが、結束の鎖ともなる。
――束縛の忠誠の世界が今、始まる