そこに映ったのは、数多く存在する時計塔。
「ここは・・・どこだ?」
なぜ自分がここにいるのかはわからない。そもそもここに至るまでの過去の記憶が全くもって思い出せない。
「ようこそ。無限地獄に捕らわれた生命者よ」
目の前に黒い影が現れた。
しかし、顔は見えない。まるで顔そのものが定まっていないかのような黒い顔。
「問おう。なぜ、お前は過去に未練がある?」
「過去?」
百代は質問の意味が理解出来ない。過去とは一体なんのことで、未練とはどんな未練なんだろうか。
「お前は過去に未練を残している。だから何度も何度も同じ生命時間を繰り返し、新しく生まれ変わろうとしていない」
生まれ変わるのキーワード。百代はもしやと思う。
ここは俗に言うあの世みたいなものなのかと・・・。だが、そうなるといつ死んだだろうかと考えてしまうが、影の質問は終わらない。
「お前の心の奥そこにある望みはなんだ?」
奥。本心のことだろうか。
そうふと、思えた時に百代の口からでたのは。
「闘争の世界。ずっと強い奴らと闘っていたいことかな」
なぜか過去の記憶もないのに願望らしき言葉を発していた。
「・・・そうか」
黒い影はそう呟き。
「では、叶えてみるとしよう」
影の周囲から大きな金色の時計が現れる。
「川神百代・・・お前の望みを聞こう。お前の望む『闘争の世界』へ・・・」
やがて周囲が全て真っ白に変わった。
一子という少女は真田という家へと養子となった。真田家は代々、槍を重視とした武芸家であったのだが、後継ぎがなく困っていた。そこで駄目元で養子になってくれる施設の子供を探したところ彼女に白矢がたったのである。
最初は施設から出ることにすごく嫌がっていた一子だが、引きとられた真田家は武芸以外ではとても優しく良き家として彼女を支えてくた。
彼女もそんな優しさに答えようと真田という名前を誇りを賭け、りっぱな槍使いへと成長していった。
そんなある日、親から重大な相談を受けた。
「婚約・・・ですか」
一子は少し嫌そうな顔をした。まだ青春真っ盛りなのに、もう将来のお話をしかも殿方を決める相談を受けることになるとは。
「家の事情もわかっているし、私もいつかは結婚するつもりではいたけど、出会ったこともない人を好きになることはできないわ」
親はそれぐらいわかっていると答え、だから地元の学園よりも遠い学園、しかも武道主体性である川神学園へと入学して、相性の良い恋人も見つけてきなさいと親は伝える。
「川神学園・・・確か、武神がいるところよね」
確かに世界最強の武神を倒せば、評判にもなって育ててくれたこの家にも恩返しになる。それに倒せなくても同じ武道を進む学生達の集合校。武神以外にも好敵手や友達が出来るかもしれない。
「でも、婚約はそれとこれとは別の話よ」
お相手は二人。
一人はあちら側からの申し込みで九鬼英雄。
大富豪家であり、一部では世界を支配しているほどの権力を持っている御曹司の息子。そんな人間が一子に交際を申し込んできたのは一目惚れをしたからのこと。当然、親も最初は九鬼への交際を一子に推薦しようとしたが、これほどの御曹司だと『真田』家として名を継ぐとは思えないし、何より性格が彼女と少し合わないように思えたからだ。
相手先も一子が正式に断ればなかったことにすると伝えてきており、ここは彼女優先として保留にしている。
二人目は魔操忠勝。
一子の施設時代の知り合い。これもあちら側からの申し込みである。ただし、大人達の間で決めたこと。
「タッちゃんから聞いたわよ! 私たちに相談もなく勝手に婚約の話を持ち込んだって!」
しかし、これはまんざらでもないのではと親の問いに一子は首を横にする。
「・・・タッちゃんには伝えたけど、まだ恋をしたいという気分にはならないし、何よりタッちゃんは何だかお兄ちゃん感覚で、『好き』という感情にはならないの」
可能性はある・・・がまだ恋ではない。それが保留の理由。
「でも、やっぱり二人のどちらかとか選べないわ。それに、私はまだまだ修行中の身だもん」
とにかく結婚願望とか恋愛願望は今はいらないと固くなに断る一子。けども、親は諦めずに、この人はどうかと写真を見せる。
「・・・?」
見た感じではどうかなと問われて、一子は渋々と眺めた。
「うーん・・・一応引き寄せられる感じ?」
なぜこの答えなのか正直、一子にはわからない。でも、それが率直な意見だった。
親は微笑みながら彼の名を言う。
『黒楼夜叉。武神を倒したことがある青年』
★★★★★★★★★★★★★★★★★★
2008年、春。
真田一子は無事に川神学園に合格。
4月から入学することとなり、故郷から川神市へ。
ただ、時期が春休みということもあり、鍛錬も兼ねて徒歩で川神に向かう。その道中で、ある人間が彼女の前に現れた。
川神百代。世界最強の武神と言われている武道家である。
「初めまして、私は川神学園2年川神百代だ。君は4月から入学する学生か?」
百代はまんべんな笑みで訪ねてきた。一子も「はい、そうですけど・・・」と疑問視した口調で答える。
「じゃぁ・・・川神学園の決闘システムも知っているのか?」
決闘システム。
お互いの合意があれば、白黒つけて戦う事を学校側が許可している。形式は、喧嘩でもスポーツでも論戦でもなんでもいい。また一対一でもチーム戦でもクラスあげての戦いなど人数による縛りもない。生徒の自主性、競争意識を尊重するために創設された川神学園特有のシステムだ。
「ええ、もちろん。私も武術家としてはとても魅力のあるシステムだと思えたわ。だからこそ、川神学園に入学希望したのよ」
一子の入学希望理由が明かされた。そういっても大半の学園の入学生徒の志望理由はそれが多く、別に珍しくもなんともない。
「そうか。なら、それを志望理由とするならば・・・私と今ここで闘っても文句はないということだな?」
「!?」
一子は耳を疑った。武神が自分と闘ってくれるっというのだ。
「ほ、本当ですか!?」
「ああ・・・遠慮なんかするな。全力でこい」
百代はキリリとした顔つきで一子と向き合う。
一子としても願ったり叶ったりだ。自身としても自分がどこまで武神に通じるのか試してみたいと思っていたし、いずれは挑戦しようとも抱いていた。
「それじゃぁ・・・お願いします!!」
一子は一礼をし、荷物を下ろして武器を用意し始める。
「初めから全力でかかってこい。わたしは一切手は抜かないぞ」
一子は両手に槍を構えて百代の前に対峙する。
「はい!!」
返事と同時に、どんっと勢いよく一子は百代に突っ込んだ。
「・・・あ」
ふと声を漏らすと同時にどーんと地面が振動する。
見えた光景は、真田の槍を武神が避けて、そのまま武神が右手の拳を真田に直撃。
当たった真田は武神の力に耐えることができず、吹き飛んで壁に衝突。武神の衝撃波は止まらずに山全体に振動した。震度で表現すると6か7ぐらいか。
「・・・一瞬、か」
椎名家は弓道という武芸をしている。
そのためその家で育った者の目はとても良き目で、かなり遠くの場所でもはっきりと見えるほどの視力を備えていた。
椎名京もその一人である。
だから、川神百代と真田一子の二人の闘いを近くで見なくても、遠くから観戦することが可能だった。
「さーて、次はお前の番だ。椎名京」
ただし、その逆も然り。
特に川神百代にとっては、そんな視力程度の脅威など恐れもなく、それどころか彼女が観戦した瞬間に、居場所も探知し瞬足で移動してくるほどの人間であった。
「・・・何のことかな?モモ先輩」
「とぼけるな。さっきの闘いを観戦していたろ?」
「ここからじゃ、何が起こったのはかは知らないよ?」
「何が・・・か」
京はわかってはいた。しかし、あえて話を逸す。もちろん、百代はそれが嘘のだとわかっているが話を合わせてくる。
「まぁ、いいさ。お前がそういうなら、『そういうことに』しといてやる。でも・・」
百代は京の視野から消える。
「・・・あいつはああ言っているが、渡すつもりは一切ない」
「っ!」
ばっと後ろを振り向くが、もういない。
百代は一瞬で京の背中へと移動し、忠告して去っていった。
「・・・」
残された京はため息をつく。
「罪作りな恋人様なことで・・・」
そして、京は倒された真田方へと向かうのだった。