無限地獄の意味を。
どんなに努力しても、どんなに強さを持っていても、どんなに綺麗事を並べても、どんなに純粋な心を抱いていても、たった一人の男を手に入れられないならそれは無価値だ。でも、それでも彼の傍にいれるならそれでいいと彼女は思った。
しかし、その願いは見事に壊された。
見知らぬ男が、大和の体を使用して川神百代との間に子供を作ってみたり、自分が大和と結婚できないことを邪険にして『代わり』を用意したり、または『大和』そのものを抹消したりと彼女の逆鱗に触れることばかりを『それ』はしてきた。
だから一度目は、まず肉体を返してもらい。
二度目は、自身の繋がりを斬った。
三度目は破壊。
『それ』が用意したハリボテの仲間なんか認めない。だから、全部奪って破壊してグチャグチャにしようと彼女は決心した。それを自分の懐中時計が力を与えてくれる。
彼女、椎名京の懐中時計は『拒絶』の能力。
あらゆることを拒絶することで『力』を与え、そして拒絶する強さほど威力も増していく。
「そう、私は認めない」
時計の力を通して、椎名京に強力な力が生み出される。
「私は・・・こんな風間ファミリーも秘密基地も大和もいない世界なんて、認めない!!!」
黒い矢は全て百代がみんなより先攻し、バリアーを張って守りきった。
そして、落下していた吹雪を含めみんなは安全に着地して、秘密基地跡地に到着する。
「マルさん!!」
着地してすぐに行動を起こしたのはクリス。
負傷したマルギッテの傍に駆け寄り抱き抱える。しかし、先の闘いで腕を切断されており、そこから大量の血が流れ出ており、いつ死んでもおかしくない状況だった。
「死ぬなマルさん!! すぐに病院に連れて行くから!」
クリスはマルギッテを抱き抱えて、走り出そうとすると人型のロボットが立ちふさがった。
「残念だが、そうはいかない。貴様もここで死んでもらう」
ロボットが握っている光剣がクリスに襲いかかってくる。
「!!」
避けようにもマルギッテを抱いているために動けない。
「はっ!」
だが、ロボットは二つに切断されて爆発。
斬ったのは黛由紀恵。
彼女の瞬時の剣術と身体能力にロボットはついて行けず、隙をつかれて倒されてしまったようだ。
「・・・」
京はそれを厳しい眼差しで彼女を睨みつける。
京にとって、倒されたことは予想内だったため驚きはしなかったが黛の強さ加減に脅威を感じていた。
「京・・・」
傍にいたロボットは心配そうな顔で京を見る。
「大丈夫だよクッキー。貴方は絶対に守るから」
クッキーと呼ばれたロボットは、ロボットだからこそ顔色はわからない。でも、多少の怯えが少し感じられる。感情を持っているからこその怯えか。
「クリス、モモ先輩を連れて病院へ連れていくんだ。まだ間に合うかも知れない」
とにかく病院へ。
しかし、ここから『急いでも』数十分かかってしまう。だから、百代の『武神』のレベルで彼女を病院へ連れていけば数分でいける。そして、今彼女を支えてあげられるのはクリスしかない。
「しかし・・・っ!」
クリスは少し悔しそうな顔で吹雪を見た。
彼女の言いたいことは理解できる。しかし、今は人命救助が優先。
「モモ先輩!!」
百代はこくりと頷いて、吹雪の叫びと共にマルギッテを抱えたクリスを病院へとお姫様抱っこして飛んでいく。
「・・・後は、マルギッテさんや医者を信じるしかない」
吹雪、一子、小雪、翔一、岳人、卓也、忠勝、由紀恵の8人が京とクッキーの前に対立。
それを京はとても不機嫌な表情で見返してきた。
「気分が悪いね」
先ほどの口パク会話ではなく、始めて声に出して言った京のセリフ。
「気分が悪いのはこっちのほうだ。こんなことをして、許されると思っているの?」
吹雪は仲間の代表として彼女と会話し、他は今は様子見として二人の会話に耳を傾けた。
「偽物の世界なんかに興味はないって前の世界で言わなかった?」
京のその言葉を合図に黒い矢が再び全員に向けて放たれた。しかし、今度は由紀恵と一子が前に出て吹雪達を守るように愛刀武器で打ち返していく。その間にも二人の会話は続く。
「前の世界ってなんだ? 姉さんとは今日始めてここで久しぶりにあった」
「ふーん・・・覚えてないんだ」
チラリと小雪を見た。
「・・・」
小雪はそれをただ黙っている。
「ユキがどうしたっていうだよ? 一体、京姉さんは何を言っているんだ?」
すると黙っていたユキが口を開いた。
「簡単にいうと前世の記憶だよ。ボクと吹雪は前世で付き合っていたんだけど、その時にお姉さんに殺されたんだ」
「!!」
前世、小雪が恋人、殺される。
3つのキーワードに吹雪の思考が固まり、そして所持していた懐中時計がそれに反応した。
「・・・どうしたの吹雪?」
心配する卓也の声で吹雪は振り向いた。
「っ!? お前・・・!?」
吹雪は泣いていた。そう懐中時計を通して、前世の記憶を吹雪に伝えたのだ。
「ユキ、俺・・・」
小雪は首を横にして笑顔で微笑む。
「もういいだよ吹雪。また、こうして会えて仲間に入れたんだから」
「でも・・俺、は・・・」
小雪は左手の人差し指で京達をさす。
「前を向いてよ吹雪。今は、お姉さんを止めることが優先でしょう?」
「・・・」
小雪の励ましに吹雪は涙を拭き、再び前に体を向ける。
「・・・ああ!!」
失敗した世界。
僕は吹雪を助けることが出来なかった。僕の力だけじゃ、どうしても勝てなかった。
「じゃあね。ユキ」
吹雪のお姉さんに殺される時に僕は願った。
『もう一度、吹雪にチャンスをあげて欲しい。例えボクと吹雪が恋人同士にならない運命だとしても・・・」
そして。
次に気がついたとき、僕は同じように吹雪達と一緒に遊んでいた。
過去に戻っていたけど、吹雪はクリスやマルギッテを選んだ。
別の世界の別の運命。
願いは叶って、今こうしてまた吹雪のお姉さんと対立している。
「・・・今度こそ」
僕は隠している懐中時計を強く握った。