世間も名門不死川家のご令嬢が誘拐されたことにより、大ニュースとして新聞に取り上げられたり、情報提供を求めたりとしたが一切の情報が得られないまま数日がたつ。
そんな騒動の中、神羅側にも異変が起こった。
「亜巳姉と辰姉の行方がわからない!?」
「うん。釈迦堂さんから、連絡とか居場所を知らないかって?」
数日前に、釈迦堂から聞いた話。
なんでも数日前から二人が仕事を無断欠勤しているらしく、仕事先でも心配なって釈迦堂に連絡してきたらしい。
「うーん、辰姉はともかくあの亜巳姉が仕事休むなんてヤバイじゃねーのこれ?」
さすがに事態の重さに板垣は心配になり、ごそごそと何か用意を始める。
「何してるの?」
「闘う準備をしてるんだよ。二人が仕事を無断欠勤するなんて、辰姉はともかくあの亜巳姉が休むなんてありえない。絶対に悪い奴らに捕まって何かされているに違いない。探し出して助け出すんだよ!!」
彼女の言葉はもっともだ。これは何かの事件に巻き込まれたに違いない。
これは天使にかまけている場合ではないことに神羅も気付き、スマホで情報収集を開始した。
すると意外な情報がネットを通してわかった。なんと二人だけでなく、マルギッテや板垣竜兵も川神学園の体育祭日の翌日から行方がわからなくなっているようだ。
「これは・・・一体?」
犯人は一体何の目的で四人を誘拐したというのだろうか。
イギリスのローグライン。
ここは外国でありながら、日本人が多く住んでいる街。
しかし、現在は激しい戦闘が繰り広げられていた。
それをこの街を統括する魔繰家の当主魔繰稟は、自身の屋敷から紅茶を飲みながら傍観していた。
「呑気なものだな。自分の街が攻撃を受けているのにティータイムとは・・・」
そこへ図太い声をした老人が、彼女に声をかけた。
「別に楽観しているつもりはないわ。ただこの現状は予測通りだから、少し落ち着くために飲んでいただけよ」
魔繰は紅茶を置き、その声の方向へと顔を向けた。いたのは黒い執事服を着た黄髪の老人。
しかし、明らかに老年とは思えない精悍な顔付きと肉体を持ち戦闘系側の人間だと判別出来る老人でもあった。
彼女はこの老人を知っている。
老人の名はヒューム・ヘルシング。九鬼従者部隊の頂点に立つ老執事で九鬼が抱える戦闘者の中でも最強の実力者。しかもあの川神鉄心とはライバル関係なほどの人物者である。
「一応、それなりに強い魔法使い従者達を貴方に差し向けてみたのだけれど、無意味だったみたいね」
魔繰はヒュームの外見を観察して無傷だと判断。少しため息をついた。
「俺から見れば誰であろうと赤子のような者だ。当然、お嬢さん貴方もな」
彼女は座っていた椅子から立ち上がり、引き出しから数個の指輪を取り出して一つ一つの指につけていく。
「貴方以外の他の2人はどこへ行ったのかしら? 是非とも教えて欲しいわ」
「二人は俺の代わりに君の実験体と闘っている。本来なら、俺の役目だがアイツらの方が色々とわかることもあるからな。生憎、少し私は頭が悪いだよお嬢さん」
口ではそう言っているが、それは口上で真実はヒュームでは何かと都合が悪いとその二人に判断されて、当主との接触役に移されたのである。
「そう、それで私と会話してどう思ったのか。率直に述べて欲しいわね」
「なら、率直に言わせてもらうとしよう」
ヒュームはそう言うと目を一度閉じて、人呼吸してから目を開いて言った。
「手を広げすぎたな女。貴様は踏み込んでは行けないところまで手をだしたぞ?」
その言葉の意味を知っている魔繰は微笑みながら返す。
「そうかしら? その点についてはお互い様じゃないの。あのクローンだって、私が手を出したからこそ助けられた命でもあり、彼女のおかげで謎になっていた魔繰家の情報を少しは知ることが出来たのでは?」
「・・・否定はしない。あのまま放っておいても死ぬのは確実だったからな。だが・・・」
ヒュームの姿が消えた。
「貴様達の研究しているその時計は、破壊するべき対象だ」
消えたわけではなかった。彼は瞬時に彼女の背後を取って、攻撃しようとしていた。
「・・・それは困るわね。この時計は代々魔繰家が研究して世に貢献しているもの。破壊されたらこの街も私達も生活出来なくなるわ」
だが、ヒュームの攻撃は彼女ではなく彼の背後を取った沖田の剣によって阻止される。
「・・・主には触れさせないぞ。吸血鬼狩り」
「ほぉ・・・騎士の登場か。しかし、やはり赤子だな」
次の瞬間、ヒュームは今度は沖田の背後をとった。
「!!」
「ジェノサイドチェーンソー!!!」
ヒュームの蹴り技が沖田に炸裂。彼は刀で防御するが刀ごと折られてそのまま吹き飛んでしまった。
「ぐっ!!?」
すとんと優雅に立つヒューム。その光景を顔色変えずに見ていた魔繰だったが、再びため息をついた。
「うん、無理ね。『私達』の実力では貴方には勝てない。これ確定ね」
「・・・」
ヒュームは何も答えない。
当然だ。彼女は降参だといいながらもその顔色に一切の曇りがない。
「では、彼女に任せるしかないわ」
フッと黒い球体が彼女の左の手の平に現れた。それをヒュームは悪いことに『それ』を待っていた。
恐らく戦う人間側としての本能。
もっと戦いたいという彼の隠された願望が先ほどの闘いによって、呼び起こされて『闘う』の続きが出来ることに喜びを感じてしまっていたからだ。だからこそ、彼女が持つ『切り札』が気になって発動を待つチャンスを与えてしまう。
「ヒューム・ヘルシング。これが私達の切り札よ。これを破られたら降参するわ」
彼女は黒い球体をヒュームに渡し、それを躊躇なく受け取ったヒュームは。
「むっ!?」
その球体の中に吸収されてしまった。
「さて、未来の彼女が相手ではどれだけ持つことやら・・・」
そして、魔繰はその球体を何十もの結界を張って消去した。
迂闊だったと反省するヒューム。
己の闘う本能が、彼女の持つ球体に興味を注がれて策に溺れてしまうとは。
「俺もまだまだだな・・・」
自身の未熟に反省しつつ、目の前に黒い影に視野を向けた。
「・・・なるほど」
そして、理解する。確かに彼が彼女の切り札であるのは違いないようだ。
「――――!!!」
咆哮に吠える女性。しかし、全く見知らぬ相手ではない。
「狂戦士化した川神百代か」
ヒュームはどうしてそんな彼女が存在しているのか、一瞬疑問視するが瞬時に闘うモードへと切り替わる。
「幻想か、本物か。そんなものは戦えばわかることだからな」
そして、二人の狂戦士が激突した。