カルナック城内で爆発が頻発し、煙が立ち込める中で、どうにか出口付近までやってきたバッツ達は、そこで軍曹とカルナック3匹との戦闘になった。
レナは未だに立ち上がれずにいる中で、バッツ、ファリス、ガラフは一撃でカルナック3匹を退治したため、残ったのは軍曹のみになった。
しかし、彼は正体がアイアンクローであることを明かした上で変身し、モンスターの姿になって地面に降り立った。
すでに城内からの黒い煙は風に乗ってバッツ達の背中にもかかるようになったため、彼らは息苦しさを感じるようになってきた。
「このままでは一酸化炭素中毒になりかねないな。」
「それに壁が崩落したらそのままお陀仏だろうな。」
「とにかく相手を倒さなければ脱出出来んぞい。」
ファリス、バッツ、ガラフは極限状態での戦いを余儀なくされた。
一方で、こんな状況でも冷静なアイアンクローは、バッツ目掛けてデスクローを唱えてきた。
幸い魔法は空振りだったため、このターンではノーダメージが確定した。
(チャンスだ!一気にダメージを与えてやる!)
(わしらにはもう一刻の猶予もない。)
(絶対に1ターン撃破してやるぜ!)
バッツ、ガラフ、ファリスはさんざん遅延行為をしてきた相手に対してすっかり血がのぼっていたこともあり、全力で通常攻撃を浴びせた。
しかし、アイアンクローはダメージを受けながらも耐え抜いたため、ここでの撃破はならなかった。
(※バッツ達は変身前の軍曹がノーダメージ魔法を使っていたことが気になっていたため、サンダラなどの魔法で攻撃が出来ずにいましたが、軍曹自身には魔法がかかっていなかったため、実は1ターン撃破も可能でした。)
次のターンになるとアイアンクローは再度デスクローを唱えてきた。
すると今度はファリスに命中してしまい、彼女はHPを大きく減らされた上に、体が動かなくなってしまった。
「大丈夫か!?」
「動けそうか!?」
「………。」
ガラフとバッツの問いかけに対し、彼女はしゃべることも出来ず、その場で固まったままだった。
(く、くそっ!何なんだこの魔法はっ!もしあとちょっと攻撃されたらお陀仏じゃねえか!よりによって厄介なものをくらっちまったな。でもこうなった以上、俺は行動出来ねえが、せめてこの魔法をラーニングしてやる!そして、後は頼んだぜ!)
ファリスは心の底から悔しがりながらも、鬼のような形相でアイアンクローをにらみ続けた。
一方、その姿を見たレナは思わずはっとした。
(私、何も出来ていない…。それどころか足を引っ張ってしまっている…。それに、このままでは敵の攻撃でなす術なく倒されてしまう…。このままではいけない…。何とかしなければ…。)
彼女は未だに爆発や地震や酸欠の恐怖のせいで足が震えたままだったが、ありったけの勇気を振り絞った。
そしておたけびをあげながらついに立ち上がった。
「くらええっ!!」
彼女はあらかじめカルナックの町で買っておいた氷のロッドを取り出すと、力を振り絞りながらアイアンクロー目掛けて投げつけた。
ロッドは見事に相手に命中し、大ダメージを与えた。
「ぐああああっ!何だこれは!おっ、俺の体があああっ!!!」
ファリスにとどめをさそうとしていたアイアンクローは、断末魔のような叫び声をあげながらその場に倒れ込んだ。
それとほぼ同時にロッドは砕け散り、跡形もなく消え去ってしまった。
「おおっ!これはナイスプレイだ!」
「レナ!勝ったぞ!よくやってくれた!」
ガラフとバッツがほっとしながらレナを見ると、彼女は緊張の糸が切れたのか、受け身も取れないまま再びその場に倒れ込んでしまった。
「レナ!」
バッツはその場に駆け寄り、何とか起こそうとしたが、彼女は頭を床に打ち付けたせいか意識がもうろうとしており、とても自力で動けそうにない状態だった。
一方のガラフはファリスのところにやって来たが、彼女は未だにデスクローによるマヒ状態が解除されていないために全く動くことが出来なかった。
しかもHPがわずかしかないため、もし下手に動かしてダメージを与えれば大事故になりかねなかった。
(これはまず回復をさせねば。とはいえ、ポーションやエリクサーでは無理じゃろう。こうなったら!)
そう考えたガラフは素早くケアルラを唱え、HPを回復させた。
その間も爆発や揺れは続いており、しかももはや走るどころか立っているのもやっとのだった。
(こうなったらどんな手を使ってでも行かなければ!)
(今すぐ瞬間移動でもして脱出しなければ!)
バッツとガラフはそれぞれレナとファリスの体をつかむと、無理やり引きずるような形でよろめきながら城の外に出ていった。
しかし、外に出たからと言ってもここで大爆発を起こせば、命の保証はない状況だった。
(お願いだ!1秒でも早く安全な所へ!)
(わしらはこんなところで死にとうないぞ!)
バッツとガラフが祈るような気持ちで城から遠ざかる中、ついに彼らが最も恐れていた事態が起きてしまった。
「わあああっっっ!!!」
バッツ達は背後から突如発生した熱風に巻き込まれた影響で飛ばされてしまい、地面に叩きつけられた後、体がゴロゴロと何回も転がった。
「イタタタ…。」
かなりのダメージを受けた状態で横たわっているバッツが城の方を見ると、そこにはまるで火山の噴火のような光景が広がっていた。
しかも爆風に飛ばされたレンガや大理石などのかたまりが四方八方に空高く吹き飛ばされており、辺りに降り注ぎ始めていた。
(このままでは俺達のところにも落ちてくる!もしこれに当たってしまったら…!)
彼は体のあちこちに痛みが走る中で、気力を振り絞りながら立ち上がった。
すると、彼の視界には大きなレンガがこちら目掛けて飛んでくるのが見えた。
(や、やられる…。もはやここまでか…。もし俺達が宝物なんかには目もくれず、一直線に出口に向かっていれば…。)
バッツは悔やんでも悔やみきれないほどの後悔の気持ちを抱えながら、せめて他の誰かだけは守りたい一心で仁王立ちの構えをした。
彼だけでなくガラフ、レナ、ファリスも覚悟を決めていると、ふと彼らの耳に女性の声が聞こえてきた。
(えっ!?誰だろう…。)
バッツはその声を気にした次の瞬間、体に何やら大きな衝撃が走った。
そして彼は力尽きるように、その場で気を失ってしまった…。
「あの、大丈夫なんでしょうか…。」
「大丈夫ですよ。もうすぐ目を覚まします。」
女性2人の声を聞きながらバッツが目を覚ますと、彼の目の前にはレナとカルナック女王がいた。
(えっ?女王様?)
彼が不思議そうな表情を浮かべていると、レナの表情がみるみるうちに緩んでいった。
「良かった…。無事で…。」
あの所は心の底から安心した気持ちでバッツの手をつかんだ。
「レナ…。看病…してくれたのか…?」
「ええ。女王様と一緒にね。」
彼女はあのレンガや大理石が降り注ぐ絶体絶命の状況に陥った時、カルナック女王がやってきてとっさにテレポを唱え、安全な場所に避難させてしまったことを話してくれた。
一方のバッツは麻酔が効いているせいで意識がもうろうとしている状態だったが、それでも彼女の話に耳を傾けた。
「私、あの時立ち上がれなかったせいで、さんざん足を引っ張ってしまって…、本当にごめんなさい。それに女王様も、あと少しテレポが早ければこんなケガをさせなくて済んだことを悔やんでいたの。だから…、2人で、そのお詫びをしなければと思って…。」
「そんなこと言うなよ…。こちらこそ、手当てをしてくれてありがとう…。そう言えば…、ガラフと…ファリスは…?」
「2人とも元気よ。そして、一緒にカルナック城に向かっていったわ。」
「行って…、大丈夫…、なのか…?」
「内部に入らなければ大丈夫よ。そして、自分達を逃がしてくれたウェアウルフにお花を供えてげたいと言っていたわ。」
「そうか…。」
バッツは「ウェアウルフ」という言葉を聞いて、自身も彼がその後どうなったのかが気になった。
(出来れば、無事でいてほしい…。でも、状況からしてそれは絶望的だろう…。せめて、彼の名前を知りたかった…。そして、もし彼の家族に会えたら、自分の命と引き換えに俺達を助けてくれたことを伝え、彼を英雄として語り続けていきたい…。)
バッツは自分が助かった反面、彼を助けられなかった自責の念に襲われてしまい、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
そして、彼は自分もカルナック城に行くために起き上がろうとしたが、その時、体に大きな痛みが走った。
「ぐあっ!イタタタ…。」
「あっ、まだ動いてダメ!あなたは落ちてきたレンガで大ケガをしているのよ!」
「俺の身にそんなことが…。」
「ええ。でも女王様の話では、頭に当たらなかったことが不幸中の幸いだったそうよ。もし当たり所が悪かったら、あなたはもうこの世の人ではなくなっていたでしょうって。」
「そうか…。」
バッツは再び横になると、カルナック女王に城とクリスタルを守れなかったことを謝った。
「本当に、すまない…。ごめんなさい…。」
「私からも、本当にごめんなさい。」
「いいんです。あなた達が無事で良かったです。たとえ住む場所や財産など、命以外のすべてを失ったとしても、命があれば必ずやり直せます。私は決してあきらめません。城や町の人達と力を合わせて、また立ち上がっていきます。」
彼女は大きなショックを受けているにも関わらず、それでも前向きなことを言ってくれた。
その言葉は、耐えきれないほどの大きな十字架を背負っていたバッツとレナの心にも大きく響いた。
そして彼らは城の人達や命がけで守ってくれたウェアウルフのために生きていくことや、体が回復すれば城の復興に協力していくことを誓った。
一方、ガラフとファリスはまだ体が万全の状態ではなかったが、それでも花束を持ってカルナック城にやってきた。
現地は爆発や揺れこそ収まったものの、それでもたくさんのがれきで埋め尽くされていたために歩くことすらままなかった。
しかも、城内はまだ煙が立ち込めている上に火がくすぶっており、ブリザラを唱えても焼け石に水だった。
そのため、城内にはとても入れる状態ではなく、到底地下に眠るウェアウルフのところに向かうことは不可能だった。
「すまねえな。せめて時間を戻せたら、あの軍曹の行為を事前に食い止められたら、あのレバーを元に戻せれば、お前も一緒に脱出出来たのにな…。」
「まあ、今更悔やんでも仕方がない。とにかく、中に安全に入れるようになったら、彼の遺品を探しに来ることにしよう。」
彼らは悔しい気持ちを懸命にこらえながら入口の近くで花束を置き、その場で手を合わせ、彼の冥福を祈った。
その後、2人がバッツとレナがいるカルナックの町に向かって引き返そうとした時、ふと近くで何か光るものがあることを見つけた。
「これは、火のクリスタルのかけらじゃな。」
「あの、城内で砕けたクリスタルのか?」
「そうじゃろう。とにかく、これは回収していくことにしよう。」
「そうだな。持っていればどこかで役に立ちそうだからな。」
彼らはがれきをかき分けながら、手分けしてクリスタルのかけらを集めた。
5分後。これらを集め終わると、それを持ってうつむきながら町に向かって歩き出した。
(今回は何とか助かったけれど、俺が宝物に目がくらんだせいで、あわや命を失いそうになってしまったな…。)
(もし今度城が爆発するといったような事態に巻き込まれたら、命が助かることを第一に考えなければな…。)
ファリスとガラフは緊急事態の中でついつい欲を出してしまったことを心の底から反省していた。
その後。彼らに加えて、レナと元気になったバッツは、機会あるごとにカルナック城で経験したことを人々に伝えていった。
その中で、もしそのようなケースに実際に遭遇した場合、落ちているアイテムに気を取られないようにすることや、現在所持している手荷物を置いていき、身軽な状態で避難することがベストな選択であることをみんなに伝えていった。
聞き手の人達の中には納得してくれる人もいたが、手荷物を置いていくことに関しては反対の声も上がった。
しかし彼らは人生はやり直しがきかないことや、いくらお金や有用なアイテムがあっても命を失えば全てが無駄になってしまうため、早期脱出で命を守ることが何よりも大事であることを人々に繰り返し説得していった。
その考えが後に、燃えあがる乗り物から誰一人犠牲者を出すことなく、全員を脱出させるといった偉業につながることを、彼らはまだ知らずにいた。