響鬼偽伝 まつろわぬ鬼   作:EpoMeta

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十八之巻「窮まる強さ」

 砕鬼と渇鬼、二人の強力な鬼を相手に、礫鬼は音撃弦と音撃増幅球を力いっぱい振り抜き、時には殴り、蹴り込みながら自らの過去を思い出していた。

 存分に戦える力を持ちながらも、それを振るうことを許されず後進の育成の名目で離れることとなった最前線。自分は強いのに、まだ戦えるのに。そうした思いは常に彼の全身に満ちていた。

 より自分が強くなること、そして歯ごたえのある戦いをこそ望む礫鬼にとって、経験の浅い若者の育成というのは非常につまらないものだった。自分より遥かに力の劣る弱者のために身を粉にして働く、というのは屈辱的ですらあった。時に、彼らは手加減してあげていることにさえ気づかず、こちらに一撃を与えてくる。その時の信じられないような、嬉しいような表情に、苛立ちを覚えることは日常だった。

 自分の強さはそうした役割に「奪われた」。常に礫鬼はそう感じていた。

 

 それだけに、今回の戦いは心が躍る。鬼を倒す、人を倒すというのは魔化魍退治よりもずっと良い。人を殺すことは犯罪。だからこそ知能も技術も、身につけた全てを使って戦うことができる。これこそが、自らの渇望する戦いだと礫鬼は強く信じていた。

 

「どうした!鬼共!」

 礫鬼が振るう音撃増幅球の一撃が渇鬼の音撃鉦を大きく陥没させ、音撃弦の斬撃が砕鬼の音撃櫃の表面を切り裂いていく。今の礫鬼はまるで鬼のカタチに擬人化した土石流の如き、圧倒的な破壊そのものだった。

「コイツ!戦うのを楽しんでやがるのか!」

「そうだ!象の鬼共、貴様等も鬼と戦うのが楽しいだろう!そうでなかったら、ここまで鬼は殺せんはずだ!」

 音撃増幅球の攻撃にその装甲を大きくへこませた砕鬼の言葉に礫鬼はそう返す。その声は歓喜にあふれていた。

「楽しい、か……」

 礫鬼の声に、渇鬼は静かにそう呟いた。そしてそのまま続ける。

「ボクはね、こんな戦い楽しいと思ったこと一度もないよ。人殺しは悪いことだし、他の皆みたいに魔化魍から人を助けるために戦いたいなぁって考えるばかりさ。だからさ!」

 一際強力な音撃槌の一撃が、迫る音撃弦の切っ先を弾き返した。礫鬼の表情がわずかに変わる。

「楽しむために人を殺す鬼なんて、もう殺すしかないよ」

 そう言い放つと、渇鬼は伸ばした両腕に気を集中させていく。それに呼応するかのように両腕は段々と赤い光を帯び始めた。

「鬼闘術・暁血(ぎょうけつ)だな……?全身の血流を操作し、特定の部位に集中させることで身体能力を伸ばす。それを紅の状態で行うとはな」

 振り上げた渇鬼の両腕は光り輝き陽炎が揺らめいている。その様はまるで燃え上がる「かいな」だ。だがその姿を目の当たりにしても、礫鬼の態度は何も変わらない。

「まるで玉葱の皮のように、剥けば剥くほど中身が出てくる……。渇鬼、貴様は秘めた力でも解放したつもりだろうが、その実その体力はどんどんちっぽけになっていくぞ?」

「それが何の問題?魔拳礫鬼。すぐに倒せばスタミナなんて何の問題もないでしょ」

 そう言うと渇鬼は光り輝いている両腕をわざとらしくだらりと下げて見せた。そこに握られる音撃槌、すなわち武器に警戒して目線を少し下げる礫鬼。しかしその頭部を突如として高熱が襲った。

「何ッ!」

 思わず顔回りを防御しながら薄目で状況を確認する礫鬼。その瞳には、大きく口を開きそこから火炎を吐き出す渇鬼の姿があった。鬼幻術・鬼火だ。

(わざとらしい強化に口調、全部囮か……!)

 その口から吐き出す炎を絶やさぬまま、渇鬼は音撃槌を振るい、礫鬼の巌のような身体を打ち据えていく。

 

「クソッ、渇鬼さんだけに無茶をさせるわけにはいかんが……」

 一方の砕鬼は一度距離を取ると、武器を大型の音撃櫃から取り回しの良い音撃管に持ち替え礫鬼の身体を撃ち抜いていく。だがそれらの銃撃は、礫鬼の周囲をに振り回される音撃増幅球により弾き返されてしまう。

「かと言ってよ、飛び回っているあのタマを何とかしないと接近できねえな。……さて、どうするか」

 効かぬからと言っても射撃の手を緩めることなく、砕鬼は思考を巡らす。礫鬼のパワー、技術、身体能力、そのどれもが非常に高い次元で完成されていることに疑いの余地はない。特に戦闘経験値に関しては埋めがたい大きな差がある。悔しいが、砕鬼にとって礫鬼は格上の相手だと認めざるを得なかった。

 だが、だからと言って戦わないわけにはいかない。どう勝つか、どう相手を倒すか。それに関する思考を止めた時、それは砕鬼自身が死ぬ時だ。

 砕鬼は周囲を確認して勝つためには何が必要か考える。今ここにあるものは何か。どう使うことができるか。

 砕鬼は大きく息を吐くと、音撃櫃を再装着し、動きを止めて構える。

「……イチかバチかだッ!」

「フン!吾輩に屈する気にでもなったかッ!砕鬼!」

 動きを止めた砕鬼に、礫鬼が振るう音撃増幅球が高速で直撃する。その衝撃に、音撃櫃が変形した鎧は大きく拉げてしまう。

「ぐっ!おおおおっ!」

「砕鬼くん!何を考えて!」

 思わず叫びをあげる渇鬼。その様に礫鬼は大猩々の口元を歪め不気味に笑う。しかし、砕鬼は攻撃の衝撃に血を口元から流しながらも、ゆっくりと口を開いた。

「……ようやく掴ませてもらったぜ」

「……何だと?」

「このタマを潰させてもらおうかァ!」

 そう言うと砕鬼は音撃櫃の鬼石を最大音量で共鳴させる。その爆音は周囲の枯れ木を震わせ枝を折るほどだった。

「こいつ何を……まさかッ!」

「そのまさかよ!」

 砕鬼は礫鬼の音撃増幅球に自らの音撃を流し込み、破壊しようとしているのだ。ちょうど先程礫鬼自身が濃色巨象を破壊したように。

 その目論見に気づいた礫鬼は全力を込め、音撃増幅球を取り戻さんとする。だが、礫鬼の身体に不意に衝撃が走る。

「ボクの相手を忘れてもらっちゃ困る!」

「渇鬼ッ!」

 渇鬼の攻撃に、礫鬼は思わず手にした鎖を放してしまう。やむを得ずと、礫鬼は両手で音撃弦を振るい渇鬼を弾き飛ばす。

「うおおおおお!」

 最大音量の過負荷に耐え切れず、砕鬼の装甲は煙と火花を吹き上げる。しかし、それにはひるまず、砕鬼は握る手に一層の力を込めた。

「砕鬼、貴様ッ!」

 遂に、音撃増幅球が砕鬼の力に耐え切れず粉砕される。しかし、それと同時に音撃櫃も爆発してしまった。

「霧子さん……スンマセン!」

 開発者である霧子さんに謝罪をしながらも、だがダメージは大きく砕鬼は地面に腕をつき大きく息を切らした。

「やってくれたなッ!人殺しの鬼がッ!」

 だが、その隙を見逃す礫鬼ではない。動きが鈍る砕鬼に攻撃を仕掛けんと、彼は大きく音撃弦を振りかぶった。

「それ、君が言うんだ。どれ程大義があったところで、しょせん人殺しは人殺しさ」

 そう言うと渇鬼は礫鬼と砕鬼の間に割って入り、盾でもある音撃鉦を構えた。だが、礫鬼の音撃弦はその重量と力に任せて、音撃鉦をまるでチーズのように切り裂いた。

「……ッ!」

「渇鬼さん!」

 礫鬼の斬撃に思わずのけぞる渇鬼。そこにさらに礫鬼は追い打ちをかける。

「猛士式・鬼蹴!」

 ガードの空いた渇鬼の鳩尾に、礫鬼の蹴りが直撃する。礫鬼の鬼闘術・堅塊固硬により巌の硬さを得たその足蹴りは渇鬼の胸を貫き吹き飛ばした。

 

 これだ、この感触だ。この肌触りこそ、自分が求め焦がれた闘争だと礫鬼は感じた。素手での裏格闘大会に参加した時も、自分たちに仇成す人間を秘密裏に殺すときも、これほどまでの高揚は感じなかった。

「ははははは!」

 笑いながら礫鬼は紅を維持できなくなった渇鬼をさらに蹴り込む。地面を転がり衝撃を逃がす渇鬼は、そのまま距離を取り息も絶え絶えながら口を開いた。

「……そんなに面白いかい?」

 だが、渇鬼のその問いかけを礫鬼は一笑に付す。

「面白いとも。鬼として鍛え上げられた力を存分に振るい戦う。これに勝る興奮などあるまい」

 その答えを聞き、渇鬼は残念そうに言葉を漏らした。

「そうかい。それじゃあここいらでおしまいだ」

「何?」

 不意に礫鬼の後頭部に衝撃が走る。それに伴う強烈な痛みに、彼は思わず後ろを振り返った。

「……あ?」

 その目には先程壊されたはずの音撃増幅球の姿が映っていた。瞬間、その球はほぐれるように弾け、無数の繊維状となって礫鬼を拘束する。

「俺が磁力を操れるのは知ってんだろ。だからその磁力を使って助っ人に出てきてもらったってことよ。他ならねぇお前の武器に」

 突き出した両腕に全力で気を込めながら砕鬼はそう言い放った。その言葉に全く意味が分からないといった様子で怒鳴り返す。

「何だと、あの武器が磁石なわけないだろうが!」

「だから、あの時流し込んどいたって訳よ。タマタマ潰すついでに超全力の磁界を」

 砕鬼は音撃増幅球を破壊する際に、音量だけでなく自らが発する磁界を全力で流し込んでいたのだ。結果、スピーカーの役割を果たしていた音撃増幅球はその機能を失い着磁され、即席の磁石と化し持ち主であった礫鬼を縛り付けていた。

「馬鹿なッ!こんな拘束すぐに抜け出して!」

 礫鬼は全身に力を込めて、自らを縛る拘束から逃れようとする。だが、その磁力以上の強度に、瞬間的にとは破壊できなかった。

「やめときなよ、そもそも君が使うために作られた特製の武器なんでしょ……?ボクが作るなら他でもない君自身の力に耐えられるように作るよ」

 そう言いながら渇鬼はゆらりと立ち上がった。事実、彼が指摘した通り、礫鬼の音撃増幅球と音撃弦を結ぶケーブルの引張強度は高く、過酷な耐用試験をクリアした部材が使われていた。このケーブルを破壊するには、渇鬼がやって見せたように「切断」のアプローチが必要であった。

 そしてそれだけの高性能を要求したのは、他ならぬ礫鬼本人であった。

「……んしょ、残った音撃武器はこれだけか。砕鬼くん、もうちょっと頑張ってね」

 そう言った渇鬼が持ち上げたのは、音撃撞・世界樹。礫鬼が自ら手を下した音撃戦士駒鬼の武器だ。それを重そうに渇鬼は担ぎ上げる。

「華々しくはないけど、これで殴り続けて無力化しよう。……いい加減ボクたちも黒幕が知りたいんだよね」

 そう言い小さなため息をつくと、渇鬼は音撃撞を大きく振りかぶり、動けない礫鬼の顔面向けて激突させた。強烈な衝撃を受け、礫鬼の視界が明滅した。

 

 正直、まるでなってないと感じた。強烈な衝撃は純粋な重量と運動エネルギーによるもの。全く腰の入っていない、変に力んだ振り回し。駒鬼の方が百倍マシだ。音撃戦士渇鬼、神室 勘治郎という男の、音撃槌以外の音撃武器の扱いはまるでままならないという噂は本当だった。およそ三十年鬼の闇の最前線で戦い続けた達人がこの体たらくか。そう思うと礫鬼の心を絶望が包んだ。

 しかしそうは言ってもこのままでは自分は死ぬ。動けないまま音撃撞の質量攻撃を頭部に執拗に喰らっては、遅かれ早かれいずれ間違いなく死ぬだろう。

(こんな奴に吾輩が負けるのか……!そんなの納得できるか……!)

 そんな最期は納得できない。白兵戦で無敵「魔拳」の異名をとり、最強の鬼を自負し、多くの魔化魍も人間も同じ鬼さえほふってきた自分が、こんな情けない攻撃で死ぬとは。痛みの衝撃を受け続ける礫鬼の内心には憤怒とも呼べる感情がふつふつと噴き上がってきた。

(堅塊固硬の強度が岩のままでは駄目だ……!より強固に、強靭なくろがねのごとく!)

 音撃撞の攻撃を連続して頭部に受け、視界を失いながらも、礫鬼は全身の気を練り上げ高めていく。もし、気の流れを可視化する装置があれば、礫鬼の体内で気が渦巻き輝いているのが見えただろう。

 いや、気に限った話ではない。実際に彼を中心に周囲の砂や土が沸き上がり彼を中心に渦巻いていた。そしてその勢いは次第に増していく。

「ん……?」

 いち早く異変に気付いたのは、礫鬼を拘束すべく磁力を展開し続けていた砕鬼であった。本来は疲弊しておりいつまでも磁界を気によって展開できるはずではなかったのだが、何とか根性で磁界を維持していた。

 だが、それにしてはあまりに長続きし過ぎている。まるで自分無しでも礫鬼自身が磁石となったかのように磁界を生み出していた。

「なんか変だねぇ?」

 遂に湧き上がる砂塵に破壊された音撃武器の破片が混じり始めたころ、渇鬼も違和感を抱いた。塵だけでない、自分自身さえも礫鬼の方に引き寄せられるような感覚があった。

 渇鬼は砕鬼に目配せするが、彼も原因は分かっていないようだった。ならば礫鬼の方に原因があるに違いない。そう思い、渇鬼は目の前に立つ礫鬼の方に視線を向けた。

 そのわずかに攻撃が止んだ瞬間を、礫鬼は目が見えないながらも感じ取った。今こそが好機!吾輩がこんなところで終わるわけがないのだ。全身に満ちる気を極限を超えて高め、渇鬼と砕鬼の二人を倒してくれよう。

「ハアァァァッ!」

 絶叫と共に礫鬼は全身の力を臨界させる。その姿はまるで地震に鳴動する山岳を思わせるほどだった。さらに、礫鬼の体表がそれまでとは異なり、鬼の強化形態「紅」を思わせるがまた別の色の金属質の光彩を放っていく。その尋常ならざる様子に、渇鬼は思わず飛びのいた。

「吾輩こそが、魔拳礫鬼だァッ!」

 そして礫鬼の気が限界を超えた時、周囲のあらゆる金属質が彼向けて結集、彼自身の身体を圧し潰した。その流れに巻き込まれた、礫鬼が乗ってきた乗用車が圧潰しながら彼を潰し、大爆発を起こした。

「は……?」

「え……?」

 そのあまりに突然の幕切れに、砕鬼と渇鬼は言葉を失い立ち尽くすしかなかった。

 

 爆風が収まると、砕鬼と渇鬼はその爆心地に向かい足を進めた。無論最大限の警戒を行いながらだ。渇鬼は徒手だが、砕鬼は音撃管を構え、爆心地にゆっくりと接近した。

「どうなってやがる……」

 そこに立っていたのは、変身を解除した礫鬼こと「座論 三八(ざろん ざんぱち)」だった。しかし筋骨隆々の身体は見る影もなく、潰れたように拉げていた。既にこと切れていた。

「……あれだけの質量に潰されて原形をとどめているのは、流石の鍛えだと思うけど」

 渇鬼が礫鬼に触れると、彼はゆっくり倒れ込んだ。それを支えながら渇鬼は礫鬼の死を確認すると、砕鬼に首を横に振った。

 傍らにはぐちゃぐちゃに潰れた礫鬼の音撃弦が転がっていた。超高硬度・超高密度の金属で構築された刃が砕け捻じ曲がったその様は、礫鬼の身体に振りかかったであろう大破壊を物語っていた。

「しかし、何だってこんなことに?」

 そう問いかける渇鬼に対し、音撃弦をつまみ上げながら砕鬼は口を開いた。

「……これは推論っすけど、多分電磁石になったんだと思います」

「電磁石?理科の実験の?」

 不思議そうな様子で、渇鬼は砕鬼に問いを返した。

「あの時、礫鬼を縛ったケーブルに俺は電気を流し続けてたわけで、それが言わば銅線。真ん中にいた礫鬼が何かの拍子に金属の軸になって、あいつ自身の身体を超強力な磁石に変えちまったんだと思います。その結果周囲の鉄分を吸着し続けて、最後は潰れちまった……」

 だが、最後には自信なく砕鬼は言葉を締めた。鬼の能力にはまだ未解明な部分も多い。慄鬼がいてくれたらもっと正確な分析をしてくれただろうと砕鬼は考えた。

「それじゃあ、ザレキくんは自分が強すぎて死んじゃったってわけか……。自分にさえ勝つとは、大したものだ」

 そう言うと渇鬼はザレキの瞼を下ろし、彼の身体を背負った。だが、その拍子に渇鬼は蓄積したダメージに膝をついてしまう。

「ガハッ!ゲホッ!」

「渇鬼さん!大丈夫っすか?」

「ああ、大丈夫だよ……。本当に強かった。それを他者を害するために使うなんて悲しいことだねぇ……」

 大きく深呼吸をして息を整え、渇鬼はゆっくりと立ち上がった。しかしふらつく足取りを砕鬼が支える。

「鬼は正しく在らなければならない。その結果の歪みを引き受けるのがボクたちの役目さ……」

「そうっすね……」

 いつしか空を夕日が包んでいた。木々がなぎ倒されたその爆心地を西日が強く照らしていた。

「さて、重蔵さんたちの方はどうなったかな」

「でもさ、渇鬼さん。多分さっきの衝撃で携帯はぶっ壊れちまったし、またお堂まで徒歩で行くしかないっすよ」

「うわ、大変だねぇ」

 そう悪態をつきながらも、砕鬼と渇鬼は山を登り、コマキとザレキの遺体を丁重に扱い、「象」が屯するお堂に急いだ。疲弊しているとはいえ、鬼の強靭な脚力をもってすればそれほど時間はかからなかった。

 

「カッキ、クダキ。どうやら終わったようだな」

 お堂についた彼らをまず出迎えたのは、彼らの上司でもある重蔵であった。しかしスーツの裾は汚れ顔にも青あざがあるなど、過酷な戦闘が行われたであろうことを言葉なく語っていた。

「はい、全く大変なことになりましたね」

 重蔵の言葉に顔の変身を解除したカッキはそう答えると、お堂の様子を見た。そこには、祝部宝暗やその妻仄香、そして彼らに付き従った鬼たちが変身を解かれ動けないように拘束されていた。

「何人死んじゃった?」

 カッキは静かな口調で「象」の鬼たちに尋ねた。その問いにツマビラキが答える。その頬とやや乱れた服装から覗く胸元には傷跡が遺されていた。

「今回の戦闘においてこちらは総勢二十二名の襲撃を受けましたが襲撃者含め犠牲はゼロ人ですが全治半年から一年以上の怪我を負った人物は多数を占めます。無論襲撃者側ですがこちら側の損害は中ほどと言ったところでしょう。音撃武器の使用無しという条件こそありましたが無力化に成功と言っても十分な戦果でしょう」

「……二人、死者を追加」

 小さな声でカッキはツマビラキにそう話しかけると、担いできた遺体をクダキと共に横たえた。

「そんな……!ザレキさん!どうして!」

 ザレキの遺体を目の当たりにし、宝暗が絶叫する。

「人殺し!人殺しの鬼め!」

 続けて、仄香が血走った眼でカッキ達を怒鳴りつけた。それに呼応するように、周囲の鬼たちもカッキ達に罵詈雑言を浴びせかける。

「決して!決して許さんぞ!我らを封じたところで勝ったと思うな、必ずあの方が……!」

 口角から泡を飛ばしながら叫ぶ宝暗だったが、その後ろから甲高い声が響いた。

「やめてよお父さん!お母さん!皆さんも!」

 その響き渡る声を発したのは、祝部家の現当主にしてこの中では最年少の鬼。「鬼灯鬼」こと祝部 ほまれであった。

「やっぱり同じ鬼同士で争い合うなんて良くないよ……。こんな争いよりもっと他の道があるはずだよ……」

 しかし、彼女の言葉を宝暗と仄香は頭ごなしに否定する。

「黙りなさい!子は親の言うことに従えばいいのだ!」

「バケモンになった宝一郎や死んだ宝二郎と違って、ほまれはもっと聞き分けがいい子でしょう?」

 有無を言わさぬその親からの圧力の前に、ほまれは俯いてしまった。だが、そんな彼女の肩に手が優しく置かれた。

「あなたの言うことは決して間違ってはいませんよ~。そうわたしたちも信じてますから~」

「ネジマキの言う通りだ。だからこそ俺たちがいる。人を殺すなんて誰にもやって欲しくないが、その責任を負う存在としての俺たちがな」

 ネジマキとマクキはそう言うとほまれの頭をそっと撫でた。

「さっきまでボクたちを殺そうとしていたくせに、こっちを人殺しとなじるのはムシが良すぎないかなと思うけど。ボクたちはそう言われて当然だと思ってるからね。ボクたちは所詮汚れ役さ」

 カッキはそう言いながら祝部夫妻の前に立ち、そのまま続ける。

「だから、皆さんに同じ汚名を被って欲しくはありません。当代鬼灯鬼の先程の言葉に感謝します。彼女の言う通り、これ以上犠牲者を出さない道を選びましょう」

 そう諭すカッキの前に、夫妻は思い直したのか、あるいは諦めたのか小さくため息をついてうなだれた。彼らに付き従う鬼たちも同様に意気消沈した状態だった。

「後は、オノノキの方だが……」

 重蔵はそう呟くと静かに息を吐いた。彼の目線の先に映る市街地には、次第に点々と街明かりがともり始めた。

 

―続―

 

・音撃戦士礫鬼

 変身者・ザレキ(座論 三八/ざろん ざんぱち) 享年55歳 男性

 身の丈(身長):7尺5寸(233㎝) 目方(体重):78貫(292kg)

 変身アイテム

  変身鬼弦・音虞(おんぐ)

 音撃武器

  音撃弦・伊達冠(だてかんむり) 音撃震・小町しぐれ(こまちしぐれ)

  音撃増幅球・天山(てんざん)

 特殊技能

  鬼闘術・岩通(いわとおし)

  鬼闘術・割膚(わりはだ)

  鬼闘術・多位坦(たいたん)

  鬼闘術・堅塊固硬(けんかいここう)

 必殺音撃

  音撃斬・千巌磐嶽(せんがんばんがく)

 一線を退き、本部にて後輩の音撃戦士の育成を行う鬼。特に鬼闘術においては、かつて最高峰の達人と呼ばれ、現在では師範を務める。変身前でも並の鬼と引けを取らない筋肉量を持つ巨漢。鬼としては一応一線を退いているが、現役の時以上に鍛えており変身アイテムも返還していない。その強靭な戦いぶりと必殺の鬼闘術から「魔拳礫鬼」あるいは「不死の礫鬼」と現役時代は呼ばれていた。これは3×8=24、つまり「ふし」と読めるのともかかっている。

 くまなく鍛えられた筋肉は他の鬼と比べて肥大化が著しく、規格外の筋肉を持つボディビルダーのような、筋骨隆々というのもおこがましい筋肉の塊のような姿を、金剛力士を彷彿とさせる豪華な装飾と武骨な鎖がその全身を覆っている。

 非常に分かりづらいが顔が「大猩々(ゴリラ)」のものになっている異形の鬼。全身を巌のような硬さと強さに変える鬼闘術「堅塊固硬(けんかいここう)」を常時発動している。

 音撃弦の使い手だが、音撃弦とギターアンプ型の音撃増幅球を有線でつなぎ、まるで鎖鉄球のように振り回して戦うパワーファイターのハードロッカー。シンプルに攻撃力と防御力が高い。

 かつては伝説的な強さを誇っていたが、その栄誉を後進の育成という形で「奪われた」と感じていた。その思いは齢を経て次第に大きくなっていった。彼が育てた鬼たちは、前線の人手不足のため弱い状態で修行を終えていく。そうした弱い鬼ばかり数を揃えたところで自分一人にさえ敵わないだろうという驕りにも近い思い、弱い鬼を出さなければならない猛士という組織への不満を抱いていた。その不満は大きく、時には裏の格闘大会に参加しその鬱憤を晴らしていた。

 鬼闘術の師範として鍛え抜かれた戦闘力を活かし、音撃戦士渇鬼と音撃戦士砕鬼の前に立ちはだかり苦戦させる。最後には動きを封じられその拘束から抜け出そうと鬼闘術・堅塊固硬を限界以上に発動させ全身を鉄の性質へと変えるが、その結果自分を流れる鬼の電流との相乗効果で自分自身が強力な電磁石となり、周囲のあらゆる鉄分を引き寄せ自壊、敗死する。

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