響鬼偽伝 まつろわぬ鬼   作:EpoMeta

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第二章「怪鳥」

 目を覚ますと、そこは木の板を張り付けただけのような、粗末な小屋の中だった。気持ち程度の襤褸切れをかけられただけの男は、起き上がろうと体に力を入れるが、まるで動くことができない。布の上では見ることができないが、男は全身を強く打ちつけたことによる大けがを負っていた。それでも一命をとりとめ、こうして目を覚ますことができたのはひとえに、男の肉体が非常に強靭に鍛え上げられていたためである。男は横になったまま目だけを動かし、周囲の様子を探る。すると、自分の近くに座っていた子供と目が合った。

「あっ!おじさん起きたみたい!お姉ちゃん、おじさん起きたみたいだよー!」

 子供らしい甲高い声が男の耳に刺激を与え、目を覚まさせる。目覚めたばかりの男の脳に、眠りによって気づかなかった全身の痛みが体中から伝達される。その激痛に思わずうめき声をあげる男に、先程の子供とは別の声がかけられる。

「目が覚めた?ご機嫌はどう?」

 女の声だった。未だ霞む男の目の焦点が次第に合い始める。彼を覗き込んでいたのは、まだ幼さの残る顔立ちの少女だった。しかしよく目を凝らして見てみると、乱雑に伸ばされた髪は齢に似合わぬ傷んだ白髪であり、手先や指先はがっしりしており絶え間ない労働に鍛えられたものであることが見て取れた。見た目の年齢の割に過酷で非常な苦労をしているのだろうかと男は感じた。

「……ここはどこなんや、あんたは誰なんや」

 男がゆっくりと口を開いた。どうも男はここがどこなのか分かっていないらしい。その狼狽した様子を気にせず、女はゆっくりと続けた。

「まずは命を助けてもらったことにお礼ぐらい言ったらどう?」

「……そうなんや、悪いけど覚えてないがそういうことならありがとな」

 見ての通り寝たきりなんで頭は下げられんけどな、と男は微笑みながら続けた。それに対し女はピクリとも表情を崩さない。ようやく焦点が合い始めた男の目がよく彼女を見てみると、伸ばした手や、男を覗き込みちらりと見えた胸元に刻み込まれた無数の傷跡、目の前の男を威圧し正確にその能力を測ろうとする目線など、目の前の少女に不釣り合いともとれる異様さが周囲ににじみ出ていた。それは常に身を過酷な戦場に置き続ける兵士のものと似ていた。その異様な雰囲気に、男は思わず息を呑んだ。

「気を悪くしたならすまん。ところでさっきの質問の続きなんやけど、ここはどこであんたは誰なんや?」

「名前を聞くならまずは自分から名乗るものでしょう。それが礼儀です」

 冷たく返す女の言葉に、男は少し考え込んだ後、困惑した表情を見せた。

「……それが、何かワイ自身のことよく覚えてなくて、思い出そうとしても何も分からんのや」

 困った様子で返す男の様子に、女は初めて表情を崩し、驚いたような顔を見せた。その動揺した様子を不思議に思ったか、女の傍らの子供が男と女の顔を交互に見やる。

「本当に覚えてないの?何か覚えてることとか」

「……よく覚えてないわ、ワイがどこから来たのかも、名前も全然覚えてへん」

 言葉とかは使えるんやけどな、と続ける男。その様子に、どうやら嘘を言っているわけではなさそうだと女は判断した。

「まあそういうことなら仕方ないか。私のことは『キュウセイキ』と呼んで」

 自らを「キュウセイキ」と女は名乗った。記憶はないが変わった名前だと男は思った。キュウセイキの鋭い視線が男を見つめる。

「ほな、キュウちゃんよろしく頼むわ」

「……キュウちゃん?」

 やや間を空けて男が笑顔で返した。「キュウちゃん」というおかしな単語が自分のことを指していることに気づいたキュウセイキはあっけに取られた様子だったが、すぐに平常心を取り戻すと口を開いた。

「鐵葉鬼……ブリキ、多分貴方の名前。もう読めないけど貴方が持っていた手紙にそう書いてあった」

 キュウセイキはそう言うと懐から泥塗れでちぎれた紙切れを出した。ほとんどの文字は滲み、汚れ読むことができなくなっていたが、かろうじて「鐵葉鬼(ブリキ)」という文字だけは読むことができた。

「鐵葉鬼……ブリキか……。変わった名前やけど、やけに馴染む気がすんな。まあええわ、よろしく頼むでキュウちゃん!」

「……しばらく私はここにいるから、何かあったら聞いて」

 呆れたような口調で返しながらも。キュウセイキの目はまっすぐと床に横になるブリキを見つめていた。

 ところで、この記憶喪失の男は東北の地に鬼退治に向かった音撃戦士鐵葉鬼本人である。魔化魍ライジュウとの戦いの際、謎の音撃によって吹き飛ばされた彼は、山野を転げ落ちる際に重傷を負い、記憶喪失に陥ってしまったのだ。そして気絶し倒れていた彼を拾ったのがキュウセイキなのである。

 

 数週の後、ブリキは鍛えられた鬼としての驚異的な回復力により、ある程度動けるようになっていた。記憶は戻らないままだが、キュウセイキやその周囲の人々との交流を通じて、次第に彼らについてを理解し始めた。いつまでも寝てばかりではいられないと、ブリキは住民たちの仕事を手伝い始めた。大名である彼はそうした労働とは縁遠い人生を送ってきたが、持ち前の明るさから住民たちと打ち解け、いつしか村の一員として馴染み始めた。

 キュウセイキたちが住んでいるのは東北某所の山奥にある、地図にも載らないような小さな村だ。ここに住む人たちはそれぞれの事情で故郷を追われ、そうした人々がいつしか寄り集まって村を築いたそうだ。彼らの生計は、周辺にある鉱山の採掘労務に大きく依拠している。金属や特殊な成分を含む鉱石が多く採れるその鉱山での作業は危険を伴うが、それでも仕事があるだけマシだという。その鉱山は現地で働く彼らには知られていないことだが、国内にあまり多くはない特殊な鉱石の鉱脈の一つであり、音撃戦士にとって必須である「鬼石」を産出する地でもある。

 そしてここに住む人々の最も大きな共通点は、ある「教え」を信仰していることだ。これは現世で周囲に見返りなく愛を注ぐことで、死後大いなる神により魂が救済されるという教えで、外国から流入してきた概念を祖に持つものである。このような教えは将軍や大名、大地主や金持ちといった既存権力者らは自らの利益追求に対し、その利益を周囲に提供しないことは、死後裁きにあう、地獄に落ちると糾弾し、貧困にあえぐ人々には権力者の不正を吹き込み、それを打倒しないこと、即ち権力者に崇拝者としての行動をさせないことは愛の実践をしていないことであり、人々もまた権力者同様地獄に落ちると恐怖をあおるものであった。

 だが、彼ら自身は心の底から平和を願っており、その思想に共感した権力者も過去にはいた。それらの人々は自らの信じる思想のために大乱の世を戦っていたが、より強大な権力者の前に敗れ去り、異端、邪教、国家の安寧を脅かすものとして排斥され、弾圧され、処刑されていった。それでもなお存在した生き残りたちが次第に集まり、今キュウセイキたちが住む村を作ったのだ。未だなお彼らは、社会から排斥された教えを捨てていない。だがその教えを彼らはブリキに強制しなかった。

これまでの排斥の歴史から、無理に教えを押し付けることは無用な軋轢を生むと理解したからこその態度だった。

 キュウセイキはまだ少女ともいえる若さだが村人たちに慕われ、彼らを束ねる首長、あるいは教祖のような働きをしていた。いわば落ち人達の隠れ里であるこの村は、他の村落などとの交流も大きく制限される。彼女は外部との交易を引き受け、衣類や食料などの物資を村にもたらしていた。だが、具体的に彼女が村の外でどのような仕事をしているのか、村人の多くは知らないようだった。村人が良く知る彼女の姿は、常に村を見守る「鬼」の姿である。

「……鬼ィ?そりゃどういうことやんけ?」

 一日の労働を終え、帰路に就く中で村人たちの話を聞いていたブリキが素っ頓狂な声を上げる。

「はっはっは、ブリキさん。ここで過ごしてたらいずれ分かることですよ」

 村人たちが笑いながらブリキに答える。一日の労働に汚れた顔を手で拭うと、滴った汗が夕日にきらめいた。

「私たちはキュウセイキさんがいるから生きていけるんです。あの方は私達とは違う、神様に愛された方なんです」

「お姉ちゃんはなんかすごいんだよ!」

 最初にブリキが目覚めた時にキュウセイキと共にそばにいた子供も鉱山での労働に従事している。肉体労働はもちろんのこと、鉱石の選別などを手伝っている。

「……ほーん。まあワイもキュウちゃんに助けられたし、皆とおんなじやね」

 記憶の大部分を失ったブリキには、彼らが潜ってきた文字通り地獄のような半生をいまいち理解できていない。それでも彼らがこれまで辛い人生を送ってきたことは理解できたし、今もなお過酷な生活を送っているが、そんな彼らにとってキュウセイキの存在がどれほど大きな支えになっているかも分かっていた。人は何か信じるものがなければ生きていくことができない。

 

 夕日が沈みすっかり夜の帳が下りた頃には、村はすっかり眠りについていた。過酷な労働が続く村人たちは、眠れるときに眠ることが習慣化しており、夜更かしなどとは縁遠い生活を送っている。

 ふと何か妙な感覚で深夜に目が覚めたブリキは、とりあえず村の端で用を足したところでキュウセイキを見かけた。

「おお?キュウちゃんも起きてたんか?おしっこ?」

 からかうようなブリキの言葉に、キュウセイキはあきれた様子で振り返った。

「……別に。それより貴方は何か感じないの?」

 そう言ったキュウセイキの視線は、ブリキの様子を何か探っているように鋭い。どうやら自分のようにふざけた様子ではないとブリキは直観的に理解し、真面目な表情を見せた。

「うーん、何となーく嫌な感じはあるわ。起きた時よりそれとなく迫ってきてる感じも」

 ブリキの言葉を聞き、キュウセイキは一瞬、不安と焦燥が混じった顔を見せたが、すぐにその表情は消え、険しく眉を寄せた。

「貴方も感じるということは間違いないか。皆を起こして私の家に集め……いや、遅かったかな」

 村の外、ぱきりと枝が折れる音がした。僅かな星明りの中、ブリキの目が人影を捉えた。

「んん?誰なんや、こんな夜中に怪しいなぁ」

「怪しいとは心外ですね……。私たちはただ食べ物が欲しいだけです……」

「あなた方が手にしたものが、我が子には必要なのです……」

 まさか返答が返ってくるとは露ほど思わず、ブリキは驚いた。人影が森の中から姿を現す。生気のない顔をした、一組の男女。共に異国の貴族のような豪華な衣装を身に纏っている。しかし、男が女の、女が男の声で話し、その言葉も不気味で要領を得ない。これはただ事ではなさそうだと、ブリキはキュウセイキの方を不安げに見やる。

「とりあえず皆を起こして村の集会所に集めて。結界が貼ってあるから。ここは私が何とかする」

「何とかって……キュウちゃんはどうするんや!」

「それは、何とかするに決まっているでしょう。早く行って」

 キュウセイキはあくまで冷たく、冷静にブリキに告げる。それでもなお、ブリキは不安そうな様子を隠せない。

「舐められたものです、私たちも」

「この小娘から先に、我が子に捧げるとしましょう」

 男女はそう言うとその姿を異形の怪人へと変えた。土のように暗い体色の顔の中で、眼球だけが硝子玉のようにギラギラと光を反射している。化け物!ブリキの膝は震え、背中を強烈な悪寒が走った。

「ばばばバケモン!キュウちゃん早く逃げるんや!」

「ああもう!分かったから!邪魔!」

 自分の倍ほどの身の丈がある年上の男の情けないうろたえように、遂にキュウセイキも我慢しきれず、うざったいとばかりにキュウセイキはブリキの首根っこを掴み、片手で後ろへと投げ飛ばした。ブリキも小柄なキュウセイキに投げられるとは思わず、飛ばされた先で唖然としている。

「私の気持ちが変わらないうちに今すぐ消えなさい」

 眼を閉じ両の手を合わせ祈ったキュウセイキは、そう言うと懐から鬼面が刻まれた音叉のようなものを取り出し、自らの手に当てて澄んだ音を鳴らした。そしてそのままキュウセイキは音が鳴り響く「変身音叉・音罰(おんばつ)」を顔の前にかざす。変身音叉から生み出された音の波動が彼女の顔を覆うと、そこから厳めしい獣たちの顔が姿を現した。それと同時に、彼女の全身を暴風雨が覆う。その勢いは凄まじく、怪人と化した男女、怪童子と妖姫は嵐に巻き込まれ、吹き飛ばされた。強烈な暴風雨の内側から現れた腕が、嵐を力任せに薙ぎ払うと、そこにはキュウセイキが姿を変えた異形が立っていた。

 その姿は豪奢な鎧を纏い、全身に十字架のような意匠が現れている。頭部はまるで阿修羅像のように左右に獅子、牛の獣の顔があり、額には翼を広げた大鷲の文様が冠のように止まっている。中心を見据える顔は目鼻がなく、代わりに隈取のような文様が現れ、その表情はまるで何かに怒っているようにも見える。変身前よりさらに伸び黒く変色した髪を後ろに束ねた頭の上にはいかなる仕組みか、光で出来たような円環が輝いている。ただそこにあるだけで周囲に強烈な重圧感を与えるその異形は、鍛え上げられた肉体と聖なる旋律を以て邪悪な魔化魍を祓う「鬼」と比べてもなお怪物然としている。この異形の姿こそ、彼女の戦闘形態「救世鬼」なのである。

「うわあああああ!キュウちゃんがバケモンになっちまったあああああ!」

 異形の存在と化した救世鬼を目の当たりにし、ブリキはおぼつかない足取りで村の中へと駆けていく。その姿を見て、救世鬼は心の中で小さく安堵した。もし彼の記憶があったままだったら、目の前の男女の正体が魔化魍を育てる童子と姫だと一瞬で看破しただろうし、鬼となった救世鬼に攻撃を仕掛けていたに違いないだろうから。

「……さて、殺しますか」

 救世鬼は変身音叉に呪術を施し、その形態を刀剣「鳴刀・十字音叉剣」へと変え、童子と姫に向き直る。救世鬼の頭上で光る円環の輝きが童子と姫を照らし、その姿を明らかにした。赤色と白色が斑らになった半身が金属質に結晶化し、救世鬼の輝きを弾き返す。その背中には大きな翼が生えており、その縁は結晶化し刀のように鋭い。ごう、と咆えると怪童子たちは二方向に分かれ救世鬼に飛び掛かる。

 しかし、救世鬼。ひらりと童子たちの攻撃をかわし、振り下ろした十字音叉剣の一閃が金属質な外殻を砕く。砕かれた破片がまるで血飛沫のように闇に舞った。だが、怪童子らは臆さず、更なる連携攻撃を仕掛ける。

「カスは飛んだけど、内側まで傷は行ってないみたいね」

 救世鬼の十字音叉剣の剣戟は硬質な外殻をたやすく切り裂いたものの、その内側まで傷は入っていないようだ。救世鬼の強化された視力が、切り傷の奥で脈動する怪人の筋肉を捉えた。

 翼を広げ、跳躍と飛翔を組み合わせた立体的な動きで攻撃を仕掛ける怪童子たち。硬質なのは何も外殻だけではない。その猛禽のような爪、手刀、足刀、翼の羽ばたき一つ一つが刀による斬撃と同じだけの攻撃力と危険性を備えている。だが、救世鬼の音叉剣がそのことごとくをいなし、救世鬼にまるで傷をつけていない。一方で救世鬼の剣戟は怪人らの外殻をそぎ落とし、その隙間に刃を突き立て追い詰めていく。斬り上げた十字音叉剣が、妖姫の右腕を落とした。肩の傷口を押さえうずくまる妖姫にとどめを刺さんと救世鬼がゆっくりとにじり寄る。

「いい感じね。先にコレから始末しましょうか」

 瞬間、救世鬼の後ろから無数の切先が飛び掛かった。背後にいた怪童子が自らの翼から羽根を無数の手裏剣のように放ったのである。その姿は、外殻のあちこちが剥がれ、肘や膝といった関節部から白色の血をだらだらと流した痛々しいものである。救世鬼の不意を突いた背後からの攻撃はしかし、わずかに救世鬼の髪を掠めるだけに終わった。

 攻撃に振り返った救世鬼は、自らの髪の切れた部分を確認している。髪に触れるとはらりと、いくつかの髪の束が地面に落ちた。落ちていくそれを目で追うと、救世鬼は苛立った様子でため息をつくと、怪童子に向き合った。

「……そう、そういうつもりならコレじゃなくてソッチから潰してあげる」

 振り向いた救世鬼は十字音叉剣を妖姫の太ももに力任せに突き刺し、動きを封じた。その切先は足を貫通し地面に突き刺さった。傷口から白色の血液がにじみ出る。救世鬼は怪童子に向けて手を突き出し、何やら言葉を唱え印を結んだ。すると、怪童子の頭上に突如、巨大な碑かあるいは棺のようなものが現れた。いかなる呪術か、どこからか呼び出されたそれは、そのまま地面に向けて落下し、怪童子の身体を圧し潰した。胴体から下は完全に潰れており、かろうじて腕と頭が痙攣している。突き刺さった音叉剣を救世鬼は妖姫の足を切断しながら引き抜くと、怪童子の首を切り落とした。怪童子の身体は数度ピクリと動くとそのまま爆散し、土塊と化した。

 同胞の死を目撃し恐れをなしたのか、妖姫は最後の力を振り絞り、背中の翼を動かし空に飛びあがった。しかし、それをそのままにしておく救世鬼ではない。救世鬼は怪童子の身体を圧し潰したもの、救世鬼の身の丈を超える巨大なそれを、彼女は鬼の怪力で容易く持ち上げた。鬼の怪力で持ち上げられたそれは星の光を受けその姿を露にした。それは無数の管を束ね、下の方には鍵盤のような部品がある。この時代の日本人にその楽器を知る者はどれほどいるだろうか、それは遠い異国で神への祈りを捧げるために生み出された「パイプオルガン」という楽器を模した音撃武器「音撃織管(おんげきおるがん)」である。

 束ねられた無数のオルガンパイプの先端は砲口になっている。救世鬼はその照準を空を舞う妖姫に定めると、握る手に力を込めた。すると、パイプの先端から無数の空気弾が妖姫に向け放たれた。まるで吹きすさぶ雨あられのようになった空気弾が妖姫の広がった翼を穿ち身体に無数の風穴を開けた。あまりの衝撃に妖姫は錐もみ状態になって墜落する。地面に激突した妖姫の身体はバラバラに散らばっているが、まだ息はあるようだった。救世鬼はその墜落地点に駆け付け検分すると、妖姫の首を音叉剣で刎ねて始末した。

「こいつらが出てきたということは、近くに大物もいるね……」

 炸裂し土塊と化した妖姫に一瞥もせず、救世鬼は音叉剣についた白色の血を振り払った。そしてまた何やら呪術を用いて音撃織管をいずこかへと移すと、感じる邪悪な気配を辿り、いずこかへと駆けていった。

 

 一方、ブリキは大声でわめきながら村に戻ると、眠っていた村人の避難を行っていた。

「なんかバケモン出たんや!皆起きて集会所に行くんや!」

 だが、村人たちはどうにも危機感が薄い。まるでこうした事例に慣れているようである。

「ブリキさん、鬼を見たって言ってたでしょう?なら大丈夫。キュウセイキさんが戦ってくれてるんです」

「そうなんや!キュウちゃんが鬼になっちまったんやけど……」

 そう口ごもるブリキであったが、村人たちは相変わらずのろのろとしており能天気なものだ。そうは言っても小さな村、ブリキは持ち前の体力を活かし村人たちを無理やり担いで持ち上げ、キュウセイキの家へと避難させた。

(しかし何なんや……?何かワイ、何でこんなに怖いのに動けるんや?村人たちはあのバケモンを直で見たわけではないからこんな緩いんは分かる。けどワイは……?)

 その心の中に間違いなく恐怖の感情が渦巻いているブリキだったが、何故かそれに支配されることなく行動している自分に違和感を抱いていた。この状況に慣れてるんか?ワイも?記憶を失う前にもこういう事態に遭っていたのか?

 自らの心に湧いた疑問にブリキが向き合おうとしている最中、突如として夜空が光り輝いた。それは星の瞬きや月の輝きではなく、また夜明けでもない。不気味に光り輝く「それ」は唸り声のような音をけたたましく上げながら空を舞っていた。不気味で恐怖感をあおるその音と眩いばかりの光に村人たちは目や耳を塞いだ。その村人たちを守るように、ブリキはその上に覆いかぶさった。

「鬼闘術・鬼嵐(おにあらし)!」

 とそこに、束ねた総髪を揺らし駆け付けたのは救世鬼である。村の様子を見やると、空を飛ぶ光の源に相対した。救世鬼は力を込め、その両腕に嵐を纏わせた。そのまま拳を勢いよく突き出すと、巨大な嵐が救世鬼の前に吹き荒れ、光の源の動きを止めた。

 するとどうだろう。光り輝いていたそれは救世鬼の起こした嵐に巻き込まれ、次第に光が弱まっていく。眩しさに目を閉じていた村人たちがその目を開くころには、光り輝いていたそれの全容と、それに対峙する救世鬼の姿が見えていた。

「キュウセイキさんだ!」「来てくれたんだ!」「お姉ちゃん!」

 村人たちは先程のブリキとは異なり、異形の鬼と化した救世鬼の姿に怯えることなく、むしろ救いの英雄が現れたように盛り上がっている。なるほど、村人の吞気な様子はこれが原因だったのだ。おそらくはこのような化け物、記憶を失う前のブリキなら魔化魍と識別する存在、の襲撃を村人たちは幾度も経験している。そしてそのたびに救世鬼がその姿を鬼に変え対処してきたのだろう。それが繰り返されるうちに、魔化魍による襲撃は彼らの日常の一つになっており、もはや慌てるようなことではなくなっているのである。

 盛り上がる村人たちを救世鬼は手を上げ制止すると、正面の魔化魍を見やる。収まりつつある光の中から現れたのは、巨大な翼を持つ鳥のような怪物であった。蛇を思わせる鎌首をもたげ、牛のような足が空を舞っている。怪童子と妖姫にもあったものと同じような翼は暗い赤色に白が斑に混じっている。

「やはり『カイチョウ』か……。皆はそのままでいて、私がコレを始末するから」

 救世鬼はそう言うと、変身音叉に戻っていた十字音叉剣を腰の装備帯から取り出し、手で鳴らした。すると、暗闇の中から二頭の巨大な馬に曳かれた、異国風の戦闘馬車が飛び出してきた。後ろ側の車両部には先程まで救世鬼が装備していた巨大な「音撃織管」が三門搭載されており、奇妙な文様が施された車輪がその重量を支えている。そしてその車両を曳く馬も、よく見てみると生身の馬そのものではない。どこか平面的で作り物じみた形状に、金属質な光沢が煌いている。その基礎をむき出しの肉や骨などが覆っている。一部の鬼たちが呪術を用いて使役する「音式神」の一種「涅駒(くりこま)」である。音式神は円盤状に変形することができ、車両部を支える車輪も変形した涅駒だ。合計四頭の涅駒により大地を駆けるこの巨大な戦車こそが、救世鬼の扱う音撃武器「音撃織管・神音(かのん)」なのである。

 救世鬼の前に現れた涅駒は、主人を見つけ力強く嘶く。その様子を見た救世鬼は、涅駒の体表を数度撫でると、車両部に乗り込んだ。乗り込んだ救世鬼の正面にはオルガンの鍵盤のような部分があった。彼女がそこを華麗に弾くと、音撃織管の砲口から無数の空気弾が空中の魔化魍「カイチョウ」に向けて放たれた。だが、怪童子や妖姫同様、否それ以上の強靭さを誇る外殻で全身を覆ったカイチョウはその空気弾の乱射にも怯むことなく、巨大な翼を広げ空を舞い回避する。救世鬼は鍵盤上の運指を止めることなく殺意の砲撃を浴びせ続けていたが、このままでは埒が明かないと判断し、とりあえず村の中から魔化魍を追い出すことを優先することにした。

「鬼闘術・鬼指(おにゆび)」

 救世鬼はそう囁き、鍵盤を弾く手先に力を込めた。すると、彼女の手の甲から鋭い切先を持つ仕込み爪のような部位が生えたと思うと、それは次第に太さを増し、指のような形状に変化していく。数度、拳を握り締め感覚を確認した救世鬼は、片手九本、合計十八本に増えた指で力強く鍵盤を押した。音撃戦士の人外の体質や能力を活かした格闘技能の一つに、気を集中させることで己の手の甲から片側四本ずつの鋭い仕込み爪を出現させる技「鬼闘術・鬼爪」というものがある。今回救世鬼が使用したのはその独自版、生やした爪を指に変え、通常の指と同じように扱う鬼闘術「鬼指」である。これを用いることで救世鬼は単純に一度に弾ける鍵盤の数を倍加させた。空気弾の弾幕の密度は二倍ではなく、二乗した。もはや巨大な空気の壁と言っても過言ではない攻撃を受け、カイチョウは空を押されていく。ちなみに、救世鬼は手甲から爪を伸ばす本来の形の鬼闘術・鬼爪を知らず、使えないが、自分の爪を刀剣のように伸ばす術を鬼爪だと誤解している。

「このまま村から押し出して、遠くで仕留める」

 救世鬼に踵を返し、村の外側に向け飛んでいくカイチョウ。だが、それをそのまま見過ごす救世鬼ではない。涅駒が力強く嘶くと、神音の車輪が力強く回転し、空中を舞うカイチョウを追いかける。走り去っていく救世鬼の後姿に村人たちは応援や歓声を浴びせる。

「これで村は大丈夫でしょう。ブリキさん」

「せやな……」

 力強い村人たちの様子の一方、ブリキは遠ざかっていく救世鬼の姿を見ながら、険しい表情を浮かべていた。

「なぁ、いつもああいうバケモンにキュウちゃんは独りで戦ってるんか?」

「え……、そうですね。キュウセイキさんがいつも私たちを守ってくれます。私たちも何度か手助けをしようと思ったのですが、そのたびに断られてしまって……」

 どうも、戦いの際には私たちが遠ざけられているみたいです、と村人は付け加えた。なるほど、確かに強大な破壊力を誇る救世鬼とその音撃武器の前では、戦闘力を持たない村人たちは、共に戦おうとしても足手まといになるだけだろう。そして救世鬼が村人を自ら危険な場に進んで晒そうとはしないだろうということは、ブリキも短い共同生活の中で何となく感じ取っていた。

 だが、そうだと分かっていてもブリキの心の中に去来するものがあった。自分も新設にしてくれている村人を守りたいという思い、自分より遥かに年下の少女が怪物とただ一人で戦っているという現状、そうした様々な感情がブリキの心の中に渦巻いていた。

「……ワイもキュウちゃんを助けに行くわ!一人でなんて大変や!」

「ブリキさん!待って!」

 瞬間、ブリキは闇の中へと駆けだそうとした。だが、村人たちによって制止される。記憶を失ってもなお、ブリキの膂力は健在であり村人数人に抑えられてもなお、強引に救世鬼の元に向かおうとするが、さらに村人が集まりブリキを抑え込む。

「止めんなや!皆の言うこともわかるけどな!」

「ちょっと待ってください!誰かブリキさんのアレを!」

 村人に押さえつけられ多少大人しくなり、頭も冷えたブリキ。だがその表情は不満げであることを隠しもしない。そんなブリキの前に小包が差し出される。

「……コレは?」

「キュウセイキのお姉ちゃんが持ってたものだよ。元々ブリキのおじさんが持ってたものって言ってた……」

 少女が小包をほどくと、その中に入っていたのは鬼面が刻まれた音叉、「変身音叉・音閃」であった。ブリキは変身音叉を手に取ると、それをじっくりと観察した。

「そういえばキュウちゃんも変身する時こんなん使ってたな。何か手に馴染む……」

 ブリキの神妙な様子を村人は固唾を呑んで見守る。ブリキのその姿に村人たちは鬼と化した時の救世鬼と似た者を感じていた。この人ならば、キュウセイキさんの力になってくれるに違いない。

「ブリキさん、こういうのもなんだが、キュウセイキさんを助けてほしい。一緒に戦えない私たちの代わりに……!」

「……任せときや!」

 村人のその言葉に、ブリキは笑顔で答える。決して村人たちはキュウセイキに全てを任せてのうのうと暮らしているわけではない。今の自分と同じような葛藤を抱え込んでいる素直で実直な、守られるべき人々なのである。村人たちをその場に留め、ブリキは救世鬼を追って暗闇の森の中へと駆けだした。小さくなっていくブリキの背中を、村人たちは静かに見つめていた。

「ワイには昔の記憶がないけど、ワイを助けてくれた人たちを守りたい!昔のワイがコレを持ってたってことは、ワイもこれを使えるはずなんや!」

 暗闇の奥にいるはずの救世鬼の元へブリキは駆けていく。闇に一歩また一歩踏み込んでいくたびに少しずつ、邪悪な気配をブリキの全身が感じ取っていく。その気配を感じ取ると、体は数万回繰り返した動きを無意識に取っていた。走りざまに音叉を木の幹に打ち付け、特殊な波動を生み出すとそれを額にかざす。ブリキの全身がまばゆい光に包まれ、それが収まると、牛面を額に戴き天を突く双角を備えた異形、鐵葉鬼の姿に変身していた。

「この体……何か懐かしい感じがするで!これならキュウちゃんを!」

 今の鐵葉鬼には記憶がない。かつて抱いていた鬼の力を振るい天下に覇を唱えんとする野心も記憶と共に消えていた。記憶を失った鐵葉鬼に残されていたのは、純粋に人を守り助けようという、鍛え抜かれた鬼としての正義の心だった。鐵葉鬼の足が大地を蹴ると、しゃらんと清廉な鈴の音が森の中に鳴り響く。鬼と化した鐵葉鬼の動きは一層速度を増し、鎧は星の光を反射し煌いて闇の中を駆けていった。

 

 一方、救世鬼は音撃織管の掃射によりカイチョウを追い詰めていた。カイチョウの硬い羽根はボロボロになり地面に散らばっていた。金属質な光沢を放つ羽毛を、音撃織管の車輪が力強く踏み潰す。絶え間ない砲撃の前にカイチョウは空を暴れるばかりだ。だが、押されるばかりと思われたカイチョウの首や口腔が光り始める。ごう、とカイチョウが咆哮すると、その口から光り輝く熱線が放たれた。その一撃は涅駒の鼻先を掠め大地を抉った。さらに、硬質化した羽根が雨霰のように救世鬼の頭上に降り注ぐ。攻防逆転、地上を走る救世鬼に空中からカイチョウによる猛攻が加えられる。救世鬼は涅駒に指示を出しその連撃を避け、時には手にした十字音叉剣でそれらを切り払う。だが、救世鬼の駆ける地面の状態は悪く、一方音撃織管の砲撃が緩んだ空中を行くカイチョウは自在に羽ばたき、熱線の放射で救世鬼を追い詰めていく。車輪が大地に轍を残し、救世鬼は空を見上げ夜を舞う魔化魍を睨む。

「一度動きを止めればある程度扱いやすいけど……」

 木々の隙間から救世鬼は音撃織管による砲撃を続ける。木々をなぎ倒し林を撃ち抜いて放たれる空気弾の乱撃。空中に飛び散った枝や葉はカイチョウの熱線に焼き払われ、炎の雨となって降り注いだ。それらを救世鬼は振り払い、周囲を見やる。音撃織管の砲撃で木々がなぎ倒され、救世鬼が身を隠せるような遮蔽物はいつしか少なくなっていた。攻撃を回避するため、救世鬼は細かく涅駒に指示を出し、不規則な動きで熱線を避ける。いつしか、救世鬼からの攻撃は乏しくなっていた。空中を舞うカイチョウは硝子玉のような瞳で地上の救世鬼を見下ろし、とどめの一撃を放たんとその口腔から光を漏らし始めた。

「うおおおおお!待てやあああああ!」

 突然の叫び声と共に空中の魔化魍に向けて放たれる、輝く球体。光の鎖で結ばれたそれは、見ると巨大な鈴のようだった。巨大な鈴は眩い光を放ちながらくるりと宙を舞い、鎖でカイチョウの脚を捉え、縛り付けた。

「キュウちゃん!今やで!ワイが押さえとる!」

 救世鬼がその叫び声の元を振り向くと、そこに立っていたのは変身した鐵葉鬼だった。両手で握りしめた音撃金剛鈴の先端から光の鎖が天に向かって伸び、空中のカイチョウを縛り付けている。その強靭な両足が大地を踏みしめ、逞しい両腕の筋肉が、カイチョウの動きを封じ込めているのだ。救世鬼はその姿を見て驚いた。まさかもう変身するとは。救世鬼は動揺を隠せず、思わずその動きを止めた。

「キュウちゃん!やばいで!」

 その僅かな隙を逃すカイチョウではなかった。縛られながらも力を振り絞り放たれた熱線は、救世鬼の右頬、獅子の面を掠めた。火焔光背のような右側の角がわずかに抉れている。もし鐵葉鬼の声がわずかに遅れていたら、その熱線は救世鬼の脳天に直撃していたであろう。救世鬼は角に手をやり、そこに触れて自分の状態を確認した。

「本当はもっと別の村に寄せてから潰す予定だったけど、予定変更。ここで始末するわ」

 救世鬼は怒気をはらませた声で冷たくそう言い放つと、彼女の頭部の後ろに浮かぶ光輪が一層光り輝き始めた。その輝きが臨界すると不気味な音と共に、光輪から光り輝く怪光線がカイチョウに向けて放たれた。その一閃はカイチョウの翼を切り裂き爆発を引き起こした。

「う、おおおおお!?急に落ちんなや!?」

 揚力を失い地面に墜落するカイチョウ。流石の鐵葉鬼もそのあまりに急な動きには耐えられず、カイチョウの動きに引きずられ倒れてしまう。と同時にカイチョウも轟音を立て地面に倒れ伏す。煌びやかな翼は土煙にまみれ見る影もない。

 だがその土煙は無数の礫弾により一瞬で切り裂かれた。救世鬼の音撃織管が一斉に火を噴き、カイチョウの肉体に無数の風穴を開け、清めの音を増幅させる鬼石をめり込ませたのだ。魔化魍の苦悶の様子を見て、救世鬼は心に静寂を取り戻した。腰元の帯から円形の部品「音撃鳴・其方(そなた)」を取り外すと、それを音撃織管の譜面台にはめた。ごきり、と音が鳴ると音撃織管は変形し、砲塔が立ち上がり巨大な塔のような態様を成した。立ち上がった砲塔の裏側には西洋風の浮彫がなされており、いかなる呪術によるものか、守りの結界を張り巡らせた。そして譜面台には清めの旋律の譜面が浮かび上がる。救世鬼は深呼吸すると、静かに言葉を放った。

「音撃射・去神嘆壊(おんげきしゃ・きょしんたんかい)」

 その言葉と共に救世鬼の指が鍵盤の上に振り下ろされる。その指先は静かに鍵盤の上を歩み、その度に音撃織管からは荘厳で神々しい旋律が放たれる。その音色はまさしく天上の神の降臨を思わせるほどのものであった。

「……Amen」

 無数の砲門から放たれた清めの旋律がカイチョウの全身を包みこむと、魔化魍はその音に潰されるようにして果てた。その一部始終を伏した状態で見守っていた鐵葉鬼の背中に、硬いものが降り注いだ。一体何かと思い、背中に手をやってみると、それは独特の光沢を放つ鉱石のようだった。しばらく鉱山での活動に従事した鐵葉鬼がみると、どうもそれはとても上質なもののようである。

「……これってなんや、ええ鉱石やんか」

「この魔化魍は人を食べない代わりに岩や鋼を喰らって体内で特殊な鉱石に変える。これでしばらくの間お金に困らなそう」

 小石を手にした鐵葉鬼に救世鬼が近寄り話しかける。その腕には十字音叉剣が握られたままだ。

「おそらく村人たちが掘っていた鉱石を狙っていたんだと思う。村を襲えば地下にある石をわざわざ自分で掘らなくて済むもの」

 救世鬼の言葉は努めて冷静だ。救世鬼の顔は目鼻立ちの無い面のようなものではあるが、鐵葉鬼には、その奥から突き刺すような冷たく鋭い視線を強く感じた。

「……?まあとにかく村に被害がなくてよかったわ!キュウちゃんも無事みたいだし」

 しかし鐵葉鬼はその視線の真意に気づかない。記憶を持ったままの鐵葉鬼ならすぐに救世鬼の本心に気づいただろう。だからこそ、今はこの二人が衝突することはなかったのである。

「私があの程度に後れを取ることはない。それよりも、この石を拾うのを手伝ってくれない?」

 救世鬼はそう言うと顔だけ変身を解いた。鬼の顔を覆う獣らの面が消え、その威圧感溢れる重装備とは不釣り合いな少女の顔が現れる。その表情は齢に似合わず険しく、鐵葉鬼を正面から見据えている。

「そうやな!皆に楽させられるんならそれに越したことないわ」

 鐵葉鬼もそう言うと変身を解いた。すると、キュウセイキの顔が急に赤くなり、ブリキから目を背けた。その急な表情の変化と垣間見えた可愛らしさにブリキは一瞬顔をほころばせるが、それにしてはやけに全身が寒い。

「……気を緩ませすぎ。早くそれしまって」

 顔を手のひらで覆ったキュウセイキだったが、十八本の指の隙間の視線はブリキの下半身に集中している。その視線を追うようにブリキも顔を下に向ける。

「ワァ……!」

 視線の先には鍛え上げられた筋肉と立派な一物が。鬼が変身する際には周囲に強力な気を纏うため衣服などが吹き飛んでしまう。そのまま変身を解いてしまうと今のブリキのように全裸になってしまうのだ。特殊な訓練を積むことで変身解除後も衣服を復元することができる技術を本来ブリキは習得しているのだが、記憶を失っている彼が今それを知る術はない。二人の間を冷たい夜風がひゅうと吹き抜けた。

 

―続―

 

・音撃戦士救世鬼

 変身者・キュウセイキ 18歳 女性

 身の丈(身長):6尺9寸(210㎝) 目方(体重):34貫(127kg)

 変身アイテム

  変身音叉・音罰(おんばつ)

 音撃武器

  音撃織管・神音(かのん)父・子・聖霊 音撃鳴・其方(そなた)

 特殊装備

  鳴刀・十字音叉剣

  大型絡繰動物・涅駒(くりこま)

 特殊技能

  天使の輪から放つ怪光線

  鬼闘術・鬼指

 必殺音撃

  音撃射・去神嘆壊(きょしんたんかい)

  音撃射・霧詠礼賛(きりえれいそん)

 鷲・獅子・牛という三つの獣面を戴く鬼。十字などの宗教的シンボルをあしらった陣羽織を身につけ、鍵盤のような襟巻、胸に十字を刻んだ派手な姿に変身する。二頭の馬形カラクリ動物「涅駒(クリコマ)」に曳かせるチャリオットのような音撃武器「音撃織管(おんげきオルガン)」の使い手。音撃織管の楽器部分は呪術により分割召喚することができ、基本的には三門あるうちの一門を呼び出し、身の丈ほどもある十字架あるいは棺桶のような銃火器として扱う。

 三つもの獣面を持つ、鬼としても類を見ない異形は歪んだ鍛錬によるもの。再現しようと思ってできるものではない。彼女が護る人々は信仰を隠し、東北某所の鉱山やその近くの農村で過酷な労働を行っているが、生きているだけマシである。これらの人々をかくまってくれる人を魔化魍などから守るのも彼女の仕事だ。

 

・絡繰動物・涅駒

 身の丈(身長):8尺5寸(2.58m)

 目方(体重):640貫(2.4t)

 特色/力:高い走力と持久力

 江戸時代の鬼である救世鬼が使用していた、絡繰動物と呼ばれる式神の一種。変身音叉・音罰などを使うことで円盤型から馬型へ変形。手から離れると死肉や怨念のような炎を纏い人を乗せて走れるほどに巨大化する。重量級の音撃武器である音撃織管をけん引しながらでも1町(約100m)を5秒で走破する(時速約72km)。

 救世鬼の音撃織管はその車輪にも同型のものが使用されており、変形した涅駒が二体、円盤状で車輪の役割を果たすものが二体、そして予備として救世鬼の変身装備帯に装着されているものが四体の合計八体を救世鬼は保有している。その身体を動かす魂として、救世鬼は戦乱で無念にも落命した数多の馬たちの迷える魂を用いている。生前の無念を晴らすべく、怨念の死肉を纏い涅駒は疾駆するのだ。

 

・魔化魍カイチョウ

 身の丈(身長):26尺(7.87m)

 目方(体重):1120貫(4.2t)

 特色/力:宝石の硬さを持つ翼、口から放つ破壊光線

 牛のような胴体から蛇のような首、猛禽の顔や翼が生えたような魔化魍。宝石が集まったような翼は鉱石と同じだけの硬さと鋭さを持つ。また、口に気を込めることで、高熱の破壊光線を放つことができる。魔化魍としては非常に珍しく人を喰わず、希少な鉱石を食するという特異な生態を持つ。

 

・カイチョウの怪童子

 身の丈(身長):6尺6寸(2.09m)

 目方(体重):24貫(90.0㎏)

 特色/力:宝石のように硬い甲殻、翼から放つ礫弾

 カイチョウの童子の戦闘形態。赤と白が斑となった半身は宝石の輝きと硬さを持つ。また、翼が発達しており、これを用いた身軽な動きで敵と戦う。

 

・カイチョウの妖姫

 身の丈(身長):5尺6寸(1.7m)

 目方(体重):20貫(75.0㎏)

 特色/力:宝石のように硬い甲殻、翼から放つ礫弾

 カイチョウの姫の戦闘形態。赤と白が斑となった半身は宝石の輝きと硬さを持つ。また、翼が発達しており、これを用いた身軽な動きで敵と戦う。

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