クダキは試作ディスクアニマルの「羅紗木兎」の先導で山林を歩いていた。この山奥にその痕跡が確認された怪物「魔化魍」を調査するためである。ばきり、ばきりと地面に落ちた枯れ枝を踏み折りながらクダキはその山の奥へ臆することなく進んでいく。その手には巨大なラジカセのようなガジェットが握られていた。試験中の特殊な音撃武器「音撃櫃」である。まるで人ひとりほどの大きさを持つそれを、クダキは軽々と持ち運び、山中の不安定な傾斜を苦も無く歩いていく。
「このディスクアニマルもそうだが、音撃櫃の実戦運用も初めてだぜ……」
誰に聞こえるとでもなくクダキは小さく呟いた。元力士という異色の経歴を持ち、変身前でも鬼並みの巨体を誇るクダキであったが、一般的な音撃戦士と比べ単純な鬼としての戦闘時間は少ない。成人後に鬼としての修業を開始しすぐに独り立ちしたクダキであったが、鬼の中には学生時代から修行を行っていた者も珍しくない。しかも通常の鬼としての戦闘もそこそこに組織の闇での活動に手を染めていた彼は、このような通常の魔化魍退治の経験が少ないのである。
「さて、霧子さんの新兵器はどう生きるかな」
片手に巨大な音撃櫃を持ち、もう一方の手を伸ばしてバランスを取りながらクダキは斜面を歩く。その動きは軽やかなものだ。彼の前を飛ぶ羅紗木兎は木々の合間を縫い、より深い森の中へといざなう。一歩、また一歩突き進む度、クダキの周囲を覆う嫌な気配が大きくなっていった。
深い森の中で羅紗木兎が動きを止めた。合わせてクダキも歩みを止め、周囲を見回し確認する。だが、異様な気配こそあれど、無数の木々の中に魔化魍の姿は見えない。
「いない、なんてことはねぇよな」
クダキは頭上の羅紗木兎に目線で合図を送る。その視線に羅紗木兎は応え、従来の鳥型ディスクアニマルとは比較にならない大きさの眼部カメラを用いて周囲を精査する。数瞬の後、羅紗木兎は木々の合間の一点を見つめ、大きく鳴いた。そこ目掛け、クダキは腰に下げていた音撃管を、音撃櫃を持つ手とは反対の手一本で抜き、数発の空気弾を撃ち込んだ。すると木々の影から二つの人影がぬるりと姿を現した。
「誰だ」
「オニか」
煌びやかな装飾が施された布を乱雑に巻き付けたかのような男女がクダキに話しかける。その顔に生気はまるでなく、死体のように土気色だ。
「オニは邪魔だ」
「我が子が悲しむ」
男の顔から女の声が、女の声から男の声が放たれる。生気のない不気味な風貌と相まって醸し出される、人間ではない強烈な違和感。
「『童子と姫』だな。あんまりにも久しぶりに見たんで忘れちまいそうだったよ」
彼らこそ魔化魍を育て守る親代わりの存在「童子と姫」。姿かたちこそ人間に似ているが、本来の姿は異形の怪物であり、人間を主食とする魔化魍を育てるために無辜の人々を襲い容赦なく糧とする、凶悪な存在だ。そして彼らがこうして姿を現したということは、その背後には必ず魔化魍がいる。
「オニはこの手で殺す……」
童子の声と共に、彼らの姿はまるでどす黒いミイラを思わせる異形へと変わる。その黒い肉体の半身は紅白の鉱石に覆われ、背中からは大きな翼が生えている。ガラス玉のような眼球がクダキを睨み、その口からは牙を顕にし大きく吠える。彼らの戦闘形態「怪童子」と「妖姫」だ。
だが、その変貌を前にしクダキは落ち着いた様子で、腰に下げた変身鬼笛を手に取り、軽く振って隠れていた鬼面を顕にする。そして、持ち運んでいた音撃櫃を一度地面に置くと、変身鬼笛を口元に運び、静かに、だが力強く息を吹き込んだ。清廉な音が木々の合間を吹き抜け、童子らは思わず顔をしかめる。クダキは鬼笛の鬼面を自らの額に近づけ、そこから放たれる音の波を全身に浸透させる。その音波がクダキの全身の細胞を「鬼」へと作り替えていく。彼の周囲には雷電が沸き上がり土や岩を持ち上げていく。黒々と沸き上がる土が嵐のように渦を巻く磁力線を周囲に形象化させる。力強い雄叫びが響き渡り、磁界が極太の腕で引き裂かれると、そこに立っていたのは、顔面を赤と青の鮮やかな二色で彩った二本角の巨漢の鬼「砕鬼」であった。その両膝には通常の鬼の胸部に見られる金属質の襷のような部分が発達している。砕鬼はその膝に手を当て擦ると、大きく四股を踏み、膝を叩いて気合を入れた。
「さて、早速使ってみるか」
砕鬼は横に置いていた音撃櫃を手に取ると、腰に巻いた装備帯にしまわれていたカセット状のガジェット「音撃匣・枷帯(かせおび)」を取り出した。そしてそれを音撃櫃のカセットドアにはめ込み、音撃櫃のスイッチを入れる。そのスイッチを押したときには、怪童子の猛禽を思わせる爪が彼の眼前に迫っていた。
「ッ!危ねッ!」
瞬間、砕鬼は音撃櫃を力強く振り回し、怪童子の顔面目掛けぶち当てた!その衝撃に怪童子の顔は大きく陥没し、そのまま吹き飛ばされた。同時に音撃櫃の両端スピーカー部分に搭載された巨大な鬼石が震え、周囲に清めの音を鳴らし始める。
「音量・音撃収束度、共に中段階で運用、これより戦闘試験を行うぜ」
砕鬼は巨大な音撃櫃を肩に担ぎ、怪童子らを見る。周囲に絶え間なく流される清めの音に、奴らは苦悶の表情を隠しきれない。怪童子らはぎろりと砕鬼をねめつける。
怪童子と妖姫は高い跳躍力、そしてその翼を用いた立体的な戦法で砕鬼へと襲い掛かる。だが、背中を取られること即ち敗北につながる土俵上で戦ってきた砕鬼は二人の動きに容易く対応していた。正面に構えた音撃櫃を怪童子らの方向へ向けると、鬼石から放たれる音撃が衝撃波となり、彼らに触れることすら許さず吹き飛ばす。接触すら許さず相手に攻撃と疲労を与え続けるその様子はまるで武というより舞。舞踊のように砕鬼は怪童子と妖姫をあしらっていた。
(まるで戦ってる感じがしねぇ……。奴ら相手に絶対背中を見せちゃいけないゲームをやっているようだ)
巨体に見合わず、砕鬼の動きは機敏だ。足が地面に円を描くように動き、怪童子と妖姫を常に音撃櫃の射程に捉え続ける。だが、不意に音撃櫃からの清めの音が止んだ。何事かと砕鬼は手にした音撃櫃の状態を確認する。
「やべぇ!リピート機能忘れてた!一曲終わっちまったんだ!」
その隙を見逃す敵ではない。妖姫は爪をむき出しにし砕鬼向け大きく飛び掛かる。首元を狙った必殺の一撃だ。
だが次の瞬間、妖姫の胸部を強烈な衝撃が襲った。砕鬼の力強い突っ張りが直撃したのだ。力士としての現役時代も鋭い突っ張りが得意技の一つだった。その一撃を受け、妖姫の体表を覆っていた鉱石は砕け剥がれ落ち、一部は砕鬼の掌に張り付くものの、彼が手を振ると地面に零れ落ちた。
「まずいぜ、再設定している余裕ねぇよ」
そう言うが早いか、砕鬼は力強く大地を蹴り、吹き飛ばされた妖姫に接近する。そのまま音撃櫃を振り回し、妖姫に強烈な打撃を見舞う。その一撃を受けた妖姫の身体は大地にめり込み、断末魔もなく爆裂、絶命した。番の死を目の当たりにし、怪童子は翼を広げ、砕鬼からの逃亡を図る。
「逃がすかよ!鬼幻術・大磁輪(だいじりん)!」
砕鬼は力強くそう言い放つと、空に逃げようとする怪童子向け、まるでそれを捕らえんばかりに両手を突き出した。すると、彼の突き出された腕に沿い周囲の土や石が渦状に怪童子目掛け巻き上げられていく。それらは寄り添い合い黒々とした線を宙に描いていく。
砕鬼は自らの肉体を変化させ魔化魍と戦うために、大自然に満ちる雷のエレメントの力を借りている。それ自体は慄鬼と同様だが、力の扱い方が異なる。慄鬼があくまでストレートに電撃という形で操るのに対し、砕鬼は雷の気を「磁力」という形で扱う。その全身から自在に強力な磁力を放ち操り、魔化魍と戦うのだ。
砕鬼がさらに気合を込めると地面に潜んでいた無数の微細な金属が浮かび上がり、強力な磁力を伴い怪童子の身体を取り囲む。逃れようとする怪童子だが次第にその磁力の嵐が強まり、全身を完全にとらえてしまう。
「爆発四散!」
その声と共に砕鬼は突き出した両手に力を込め握り合わせる。それに伴い怪童子を覆う黒々とした磁界の渦も急激に縮み、怪童子を圧殺した。怪童子諸共超圧縮された金属の塊が地面に落ちる。砕鬼は屈んでそれをつまみ上げると、外見を検分する。
「不法投棄はないみたいだな。全部この土地のものだ」
砕鬼は金属塊に力を込めると、それらを繋ぎとめていた磁力は消え、砂のように崩れ落ちた。怪童子の姿は跡形もない。砕鬼はそれを確認すると音撃櫃を肩に担ぎ上げ、空を飛ぶ羅紗木兎の先導に従いさらに奥へと歩みを進めた。
羅紗木兎は砕鬼を山の上の方へと誘導していた。次第に周囲からは高木が消え、段々と砕鬼の背丈よりも小さな低木が増え始め、さらには草本ばかりになった。
「森林限界が近いのか。確かに鉱石が主食ってんならガレ場が近い方がいいよな」
足元の石ころに注意を払いながら、砕鬼は山の斜面を登っていく。遂に目の前から植物の姿がまるでなくなった時、果たして魔化魍カイチョウは砕鬼の目の前に現れた。
「見つけたぜ、バケモンがぁ」
魔化魍カイチョウは砕鬼の姿を認めるや否や大きく開いた嘴の奥から不気味な鳴き声を響かせ、彼を威圧する。自らの親の仇だと認識しているのだろうか。その鳴き声にはどこか怒りさえ感じさせる。
「今度はちゃんとリピート設定にして……再生!」
だがカイチョウの様子にまるで臆することなく、砕鬼は手にした音撃櫃のスイッチを入れ、周囲に清めの音を鳴らし始めた。やはり単に清めの音が周囲に鳴っているだけでも、魔化魍には不快なのだろう。カイチョウは全身を震わせ暴れ始めた。その宝石のような煌びやかささえある巨大な翼を羽ばたかせ、その鬱陶しい音の源を破壊しようと砕鬼向けて襲い掛かる。その巨体が巻き上げる巨大な風圧の壁、それだけでも脅威だ。
だが、砕鬼はしっかりとカイチョウの動きをその目で捉え、音撃櫃から絶え間なく清めの音を浴びせ続ける。しかし、カイチョウには大きなダメージを与えられていないようだ。怪童子らとは異なり距離が遠いのか、あるいは巨体ゆえにダメージが通りづらいのか。
「音撃収束度を大に変更!喰らいやがれ!」
砕鬼が音撃櫃のダイヤルを操作すると、それまである程度の広がりをもって放たれていた清めの音が、より密度を増してカイチョウ向けて放たれる。その様子を録画機能に優れた羅紗木兎のカメラは、さながら音撃のレーザーのようにとらえていた。
より収束度を増し浴びせかけられる音撃に、カイチョウはたまらず上空向けて飛び上がった。それに向かって音撃櫃を構える砕鬼だが、ある程度距離が離れるとその音撃の通りはやはりよくない。音量を大にして対応する砕鬼。しかし、それでもさらに距離を取られると通りが悪くなってしまう。
「現段階だと大型魔化魍には『追い払い』が限界か……」
ここまでか。飛行型魔化魍への通常のセオリー通りに音撃管により対処しようと砕鬼は腰に下げた音撃管に手を伸ばした。だがその時、出撃前に掛けられた霧子の言葉を思い出した。
『前の試験では使えなかった音撃櫃の機能を伝えないと……』
「そうだ!それなら!」
自分に浴びせかけられた清めの音が弱まったことをカイチョウはふと感じた。そしてその宝石がはめ込まれたような生気のない眼球で地上に立つ砕鬼の姿を捉える。何か分からないが、自らを脅かす憎い音は少なくなった。後はあの鬼を倒し思う存分生きてやろうと、カイチョウは勢いを強め空中から砕鬼向けてダイブする。
「ヨイショオ!」
目前に迫るカイチョウを前に力強く砕鬼が叫ぶ。その声と共にカイチョウの巨体は大空へと跳ね上げられた。目をぱちくりとするカイチョウ、一体何が起こったのかと眼下の敵を見やる。そこには、先程までとは異なり上半身をさらに鎧のように分厚く覆ったような二本角の鬼の姿があった。そして砕鬼の高々と突き上げられた彼の両手には巨大な鬼石が光を受けて煌めいていた。
「使えなかった機能?なんじゃそりゃ」
出撃前、霧子の言葉に呼び止められたクダキは思わず疑問の言葉を漏らした。その手には音撃櫃が握られたままだ。
「実は、織ちゃんとの試験と並行して行いたかったんだけど……。織ちゃんたちが進めてる研究って知ってます?」
「いや、その辺りは知らねえな」
クダキの疑問に、霧子はテーブルに置いていたパソコンの画面を見せた。そこには音撃櫃のデータと共に、パワードスーツか何かのような図面が表示されていた。
「織ちゃんと直忠先生……一部のグループで音撃戦士の戦闘能力を外部から強化するプロジェクトがあるの。今後少子高齢化が進むに伴い、鬼の成り手は今以上に少なくなっていくと予想されてる。それへの備えとして、一人の鬼をより強くより長く戦えるようにする研究を、織ちゃんたちはしてるの」
「……その一つが、ここにあるような図面か」
クダキがパソコンの画面を指さすと、霧子も頷き返す。
「そう。ディスクアニマルの装甲化は以前から行われているけど、それ以外のアプローチも色々考えられているの。本当はこの前に一緒に試験したかったんだけど」
そう言うと霧子はパソコンの画面を操作し、音撃櫃に関連する説明を大写しにした。すると、隠れていた音撃櫃の図面が明らかになる。そこには音撃櫃の変形した姿が映されていた。
「……これは!」
「その研究の影響を受けて音撃櫃も変形して鬼を強化できる機能がついているの。もしかしたら必要になるかもしれないから……。本当はもっとはやくに伝えておくべきだったんだけれど……!」
霧子は不安げな表情でクダキに話す。だが、クダキは落ち着いた様子で言葉を返した。
「いや、伝えてくれて助かるぜ。このまま操作方法も教えてほしい」
「……はい!」
霧子の表情はぱぁっと明るくなり、クダキに向けてほほ笑んだ。そしてそのままパソコンの画面を操作し、音撃櫃のより詳細なデータをクダキへと伝える。クダキはその説明を聞き、音撃櫃の全てを頭脳の中に叩き込んだ。
「ちゃんと聞いといてよかったぜ……!」
場面は戦闘中に戻る。空中向けて突き出した両腕をゆっくりと戻し、吹き飛んだカイチョウをしっかりと見据えながら砕鬼は言葉を発した。その身体には音撃櫃が変形しプロテクターのように上半身を覆っている。両手の先端にはスピーカー部分にあった鬼石が装着されており、内側に握りこむグリップにも操作用のボタンやダイヤルが設置されている。数度握り込み、砕鬼はダイヤルを操作し使いごこちを確認する。良さそうだ。
一方でカイチョウは空中でもんどりうち、突然の衝撃にもがいている。その隙を逃す砕鬼ではない。勢いよく斜面を駆け出し、墜落するカイチョウに一気に接近する。このままとどめを刺してやる!砕鬼は握り込んだグリップを操作し音量も音撃収束度も最大にした。
「行くぜ!音撃……!」
そこで砕鬼はふとあることが気になった。この新型の音撃武器を用いた必殺音撃は何という名前なのだろうか。普段トランペット型の音撃管を用いての必殺音撃には「音撃射・排磁光波(はいじこうは)」という名前がある。だがこれは……。別に音撃など、魔化魍を祓えさえすれば何でもよいという考え方もあることにはあるが、一方それとは別に「言霊」により音撃の力が増すという考え方もある。だが、砕鬼は単にカッコつけたいので必殺音撃の名前を言いたいのだ。もっとも、彼にとっては、自らを清めの音の奏者として再認識し気を引き締めるために技の宣言は重要なルーティーンなのだ。だが、もう捻りに捻った名称を考えている暇はない。そんなことをしていては目の前の魔化魍を取り逃してしまう。駆け出した勢いのまま飛び上がり、必殺の一撃を放たんとするその瞬間、砕鬼は言葉を荒々しく発した。
「音撃破・鬼哭襲々(おんげきは・きこくしゅうしゅう)ッ!」
その言葉と共に、清めの音を放ち続けてきた両手の鬼石がカイチョウの腹部に突き刺さる。必殺のもろ手突きだ。その衝撃は清めの音と共に、カイチョウの全身を突き抜ける。さらにそのまま何度も打撃を浴びせ続ける。
数度の打撃の後に、カイチョウは苦悶の叫びを上げようとした。だがその顔を砕鬼は力づくで叩き潰し塞ぐ。それが最後の一撃となった。ぴくぴくと数度、カイチョウは全身を震わせると爆裂し、周囲に無数の煌きを散らばせた。粉々になった魔化魍の残骸は、山を撫でる強風に払われすぐに霧消した。その風の中にどっしりと砕鬼は立つ。グリップのスイッチを操作すると、音撃櫃は再度変形しラジカセ型へと戻った。そしてそのまま砕鬼は顔の変身を解くと、膝に手を当てて大きく四股を踏んだ。
「ふ~。終わった終わった」
軽く屈伸しクダキはリラックスする。そして手に抱える音撃櫃を確認した。
「……まだまだ改良の余地はあるな。早いところ戻ろう」
周囲を見回し魔化魍の気配がないことを確認すると、クダキは足早にその場を立ち去った。その表情はどこか満足げなものであった。
「はいよ、戻りましたよ~」
「クダキさん!お疲れ様でした」
昼過ぎにクダキは霧子の待つキャンプへと戻った。ちょうど昼食の準備がされていたところである。その準備を止め霧子はクダキを出迎えた。キャンプにつくとクダキは全身の変身を解き、通常通りの服装へと戻った。
「魔化魍はどうでした?」
「予想通りカイチョウだったが全部倒してきたぜ。音撃櫃もかなり面白く使えたが……ちょっと、いやかなり荒く使ったもんで見て欲しい」
「荒く、ってことは装甲化機能も使った?」
「ああ、聞いといたおかげで魔化魍も倒せた。ありがとうよ」
クダキは礼を言うと霧子に音撃櫃を手渡した。それを霧子は両手で受け取ると、テント内の荷物の隣に大事そうに置く。ぱたぱたと羽ばたいていた羅紗木兎がテーブルに置かれたパソコンの隣に留まった。くるりと回った顔のカメラがクダキの顔を捉える。それを見つめ返すクダキだが、その時ふと羅紗木兎以外の視線に気づいた。周囲を確認すると、霧子が開いていたパソコンの画面が目に入った。その画面の中には同じく画面を見つめる自分の顔が映っていた。それを見てクダキは口を開いた。
「もしかして最初からリアルタイムで見てたの?霧子さん!」
「そうですよー。ふふっ、実はずっと見てました」
その言葉にクダキは驚く。何か変なことは言ってなかっただろうか。彼女が気にしていないといいが……。音撃櫃を置き終えた霧子が振り返ると、やや不安げな表情を浮かべるクダキの顔があった。
「『音撃破・鬼哭襲々』私はいい名前だと思いますよ」
「……ホント?マジで?」
そのまま霧子は昼食の準備を再開する。数度屈伸し身体を緊張からほぐしたクダキもその準備を手伝い始める。その様子を羅紗木兎の瞳がじっと見つめていた。
魔化魍の脅威から人類と平和を守るために鬼たちは戦い続ける。しかし、戦い続けるのは鬼だけではない。直接魔化魍と戦うことはできなくとも、彼らに寄り添い力強く支える者たちがいるのだ。
……というのがまっとうな音撃戦士向きの話だ。時を同じくして、オノノキは猛士東北支部の喫煙室に自分用のパソコンを持ち込み、煙草を吸いながらひたすらにキーボードを操作していた。その三県には皺が寄り、眼鏡の奥の鋭い眼力が画面を睨みつけていた。画面上に踊るのは鎧か何かを思わせる武装の設計図だ。
「……今日中には直忠先生に見てもらいたいな」
現在猛士内部で秘密裏に進められている音撃戦士の総合戦力強化計画。そのアイデアの一環としてオノノキは鬼の全身を外部的に強化する方法を考察していた。だが、今設計を行っているのはそんな殊勝なものではない。オノノキが知りえる技術を結集し「象」の様々な任務に対応できるような特製の装備。即ち堕ちた鬼や悪意をもって猛士に害なす人間を確実かつ秘密裏に「処分」するための殺戮兵器なのである。
煙草休憩の終了時間が迫る。オノノキは咥えていた煙草を苛立ちながら灰皿に叩き込むと、大きく深呼吸し気分を落ち着けてからパソコンを閉じ喫煙室を出た。敵は大きい。我々「象」も単なる鍛錬以上に何らかの強化を考えなければならない。そう思い悩むオノノキの表情は険しいままだった。
―続―
・装備:音撃櫃・烈磁(おんげきひつ・れつじ)
音撃戦士砕鬼が主に使用する、ラジカセ型の試作音撃武器。音撃の増幅装置の役割を担う。両端のスピーカー部分に巨大な鬼石が装備されている。音撃匣に録音された清めの音を再生、両端の鬼石から指向性を持って放つことで魔化魍を清める。この音撃の音量や収束度はボタンやダイヤルを用いて自在に調整することができる。
またプロテクターやグラブのように変形し、上半身や腕部を覆う機能を有している。この状態では装備した鬼の筋力などを強化する他、手の先端を覆うように装備された鬼石で殴りつけることで、魔化魍に清めの音を直接流し込むことができる。
・装備:音撃匣・枷帯(おんげきこう・かせおび)
音撃戦士砕鬼が主に使用する、カセット状の試作音撃武器。清めの音の旋律を生み出す役割を担う。音撃櫃にセットし、再生ボタンを押すことで清めの音が流れ、スピーカー部分に装備された鬼石を介し清めの音を増幅させる。
このカセット自体は何種類かあり、それぞれ異なる清めの音の旋律が録音されている。録音された清めの音の演奏については、音撃及び音そのものに関し非常に深い造詣を持つとある音撃戦士によるものである。