最強勇者パーティー(9割マザコン)から追放された賢者(みんなのお母さん)ですが、皆が中々、母離れしてくれなくて困ってます 作:塩ようかん
「賢者ティアーナ。パーティーリーダーの権限を持って今日を持って君を我がパーティーから追放を命じる」
緊張した空気が漂うギルドハウスで勇者レイは戦闘する訳でもないのに青く輝く鎧に身を包み、腰には勇者の証たる聖剣を身に付け冷静沈着にそう目の前に立つ長く艶やかな銀の髪を腰まで伸ばし、緩やかながらも上質と分かる神官が着るような法衣にも装備に身を包んだ女性、ティアーナにそう告げる
「追放の理由は以前話した通り、この命令に大して申し立てはあるか? ……皆も反対意見はあるか?」
レイはそう言うとまず眼前のティアーナ。それに続いて長年共に旅をしていた二人、一人は赤い魔道士のローブと長い三角の帽子に身を包み、国に『極めて優秀』と言う認定と実績を残した者だけが持つことを許された巨大な紅石が埋め込まれた魔法の杖を手にした仲魔法使いの女性フレア
「…………私からは何も。急いでは欲しいけどね」
もう一人は若草色の髪を後頭部で縛り、自ら狩った魔物の鱗や皮を加工し密林の中でも身軽に動けるような軽装備に身を包み、背にはエルフの中でさえ伝説とされる選ばれし者しか使えぬ大弓を背負い、手には近接用武器である1対のナイフを手にした女性レンジャーでありハーフエルフのスワロウ
「…………フレアに同意するよ。レイ、やるなら早くして。我慢できそうにないから」
最後にこのパーティーの新入りである青年、短い黒髪と黒い瞳、と一目で上質と分かるようなシルバーの鎧に、とある難関ダンジョン最深部にあるとされた幻の武具たる銀色の片手間剣と小型のラウンドシールドを装備した戦士のタクロウへと順番に視線を向ける
「………………」
視線を向けられたフレアとスワロウはいづれもそう短い言葉だけでレイに話を進めるように促し、タクロウはそんな二人に合わせてか、あるいは空気に飲まれたのか無言を貫き通し、再び三人の視線はレイ同様、ティアーナただ一人へと向けられる
この場に揃った誰もが無駄な口など聞かず、それぞれが真剣な眼差しで己が本気で戦闘を行う為の装備に身を包み、誰もが合図一つで直ぐ様戦闘が出来るような状態で気を張りつめていた
「いえ……これは既に皆で話し合って決めた事。ですので、これ以上、私から何も言うことはありません。レイ、あなたの言う通り私はこのパーティーを離脱して一人旅に出ようかと思います」
そんな異様な空気が漂うなか、当のティアーナはまるで動じず、うっすら微笑みすら浮かべている程の落ち着いた口調で迷い無くすらすらとそう述べる
「っ……! そうか、ならば話は以上だ、早々にギルドハウスから立ち去れ」
「…………っく」
「チッ…………」
「………………」
ティアーナのその態度にレイは額に青筋を浮かべながらそう言い、フレアは忌々しげにそう呟き、スワロウは苛立ちを隠す様子も無く舌打ちをし、タクロウは相変わらずの無言を貫く
「はい、そうします。ですから…………」
そんな仲間達の様子にティアーナは抗議はしない。ただ悲しそうな顔で無理に微笑みを作るだけだ。そうティアーナは事の発端が自分にあるにしても本当に悲しくて仕方が無かったのだ
「ですから、レイ、フレア、スワロウ、そんな今にも泣きそうな顔をしないでください。私まで悲しくなってしまいます」
「「「…………!!」」」
自分が育てた『子供』である三人にそんな表情をさせてしまう事、そのものが。そして、その一言で必死になって感情を抑えていた三人の限界点に到達した
「うわぁああああああああっっ!! お母さん!! 嫌だ!! 嫌だああぁぁ!! 母さん!! ぼくのティアーナおかあさんんんんっっ!!」
「ママァ!! ママァ!! やだもん!! やだもん!! わたし、ママに毎日、髪を櫛ですいてもらわないと元気出ないもん!!」
「マムゥゥゥ!! マムゥゥ!! ごめんなさいごめんなさいっっ!! あたしがダメな子で!! マムに無茶させて!! マムと一緒に冒険出来ないなんて嫌だぁぁぁっっ!!」
レイ、フレア、スワロウ。三人ともが弾かれたように勢いよくティアーナに抱き付き。整っている顔が崩れるのも構わず全力で彼女に泣き付いて幼い子供のように駄々をこねていた
「駄目ですよ三人とも……。さっきまで凄く頑張って堪えていたんですから……私がギルドハウスを出ていくまでは何とか堪えてください」
そんな醜態を晒す三人をティアーナは優しく抱き止め、一人一人順番に頭を撫でながら優しく、そう言い聞かせる。が、ティアーナからは決して突き放したりしない辺り、彼女の隠しきれない程の子供達への愛情が伝わってきていた
「だって……だって! 今まで沢山の人を助けていた母さんが魔族ってだけで! 母さんが一言でも言えば僕はすぐにあのクソ大臣達を切り刻みに行くのに!!」
「待ってレイ! その時は私も一緒よ! 私の最大限の魔力火炎を……!!」
「あたしの弓での暗殺術を……!」
「こら、落ち着きなさい。そんな言葉、感情に流されて仮にも世界を救う勇者達であるあなた達は決して言ってはいけませんよ? めっ」
そんなティアーナへの愛情が大きすぎるのか、何やら怪しい目付きでそんな事を言い始めた途端、ティアーナは普段の彼女にしては珍しく目尻をつり上げ、それぞれに一撃を与える折檻と言う形で指導する
……とは言ってもその折檻の一撃は単なるデコピンであり痛みなどは全く無いのだが
「……いいですか? レイ、フレア、スワロウ。あなた達三人は贔屓目なしに見ても既に十分な実力を持っています。それに最近になって加入してくれたタクロウの実力も荒削りさもありますが非常に高いです。それこそ、私がいなくても……」
「「「誉め言葉は嬉しいし、タクロウの評価も間違ってないと思いますがそれはそれとして嫌です!!」」」
「……うーん……困りましたね……」
未だに泣き付く三人をティアーナは困ったようにしながらも決して自ら突き放したりはせず、抱きしめつづけている。完全に堂々巡りの状態だった
「(ま…………!)」
そして、その状況下で唯一何も言わず、その場から動かぬままでいるタクロウ。彼は口にこそ出さず、表情も必死に堪えていた。がそれでは内心では
「(前から思ってたけどいくらなんでもマザコン過ぎるだろこいつらーーーっっ!? いや最悪、スワロウは15歳でアウトよりのセーフだけどさ! レイとフレア! お前ら俺より年上で成人してるだろーがよ!? 何、抱き付いた上でティアーナさんの匂いを全力で吸い込んでるんだよ!? ああああ……付いていけない……付いていけないっ!!)」
そう激しく、さながらシャウトするかのような勢いで叫んでいた
これは、泣く泣くパーティーから追放する事になった大切な仲間(母親)を取り戻す為に戦う最強の勇者達(マザコン)とそこに加わった一人の(気の毒な)戦士。そして、そんな彼等を何より愛する一人の母の物語
何はともあれ、彼等の波乱万丈な物語はここから始まる事となる