最強勇者パーティー(9割マザコン)から追放された賢者(みんなのお母さん)ですが、皆が中々、母離れしてくれなくて困ってます 作:塩ようかん
「あの子たちは大丈夫かしら……レイ、フレア、スワロウ。3人がとっても優秀ないい子なのは知ってるし……スワロウ君も凄く優しくていい子なのも間違いないわ。でも……」
子供達と別れを済ませてパーティーを離脱してから数時間、ティアーナは悩ましげな表情をしながら街を歩いていた
「えっと……私を監視してる子は合計5人。剣が1人に、暗器の刃物と針を持ってる子が二人。暗器に塗ってるのは……これは神経毒ね。この二人が私を挟むようにいて……高台からは長弓を持った弓兵と雷の魔法を準備した魔術師……あらあら、どの子も中々に強いみたい……」
勿論、ティアーナはそうしてただ歩いている訳ではない。全身から膨大な魔力を優れた魔術師が余程集中しなくては感知出来ない程に細く細く糸のように放出し周囲の様子を伺っていたのだ。その探知の範囲は数万人が暮らす街1つを完全に覆い尽くすまでに広がっており、その様子は糸状の魔力を見ることが出来ればティアーナを中心として超巨大な蜘蛛の巣が形成されているように見えただろう
「……もし何か、勘違いさせて戦闘になったらあの子も街にも迷惑をかけてしまうわね。名残惜しいけど早く街をでましょう」
しかしながらそんな高度な芸当をしながらもティアーナ自身にとってそれは何ら特別な事では無い。例えるならば踵をすって歩く、集中する時には一定の動作で指遊びをする。等と言うレベルの生まれつきの癖のような行動でしか無い
そして何より、いつでも戦闘可能な装備をした追跡者5人の存在を感知しながらもティアーナにとっての懸念は1つ
『自分が万が一何かしらの防衛行動をした事で追跡してくる子達にいらぬ怪我をさせてしまうかもしれない』
ただ、それだけ。奢りでも慢心では無く彼女なりに魔力の糸から読み取った監視者の実力を見て判断した結論だった
だからこそティアーナは後ろ髪を引かれる思いこそあったものの、子供達に背を向ける事は無く。せめてものと冒険者向けの店が立ち並ぶ街並みをゆっくり歩く事で思い出を噛み締めながら、静かに暫し滞在した都を後にするのであった
◇
「………っ! はぁ……はぁ……はぁ……ビシャス! い、行ったか……?」
「…………あぁ、高台で見張ってるマッケイとキョシーから連絡が来た。たった今、正面門から出ていったのを確認したそうだ。二人も今、ここに向かっているそうだから………ゴルド、ルーク、漸く気を抜いて大丈夫そうだぞ」
「………依頼は『対象が命に背いた事を確認次第、即時抹殺』だったか? ははっ……たちの悪いジョークじゃねーか……」
ティアーナが都を出た後、ティアーナを挟む形で監視していた3人の男は揃って路地裏へと向かうと崩れるように地面に座り込むと口から荒い息を吐きつつ、状況を報告し合う。その額には滝のように汗が吹き出ており、まるで山1つを全力で駆け抜けたかのような疲労の色が滲み、ルークと呼ばれた1人に至っては自嘲気味に引きつった笑顔すら浮かべてすらいた
「そもそもの話になるけど……何で俺達が、勇者パーティーの頭脳役とか、切り札呼ばわりされてる『あの』ティアーナの相手を命じられているんだい?」
仲間達と会話する事で幾分か落ち着きを取り戻したのかルークは服の袖で汗を拭いつつ自身の隣で同じく息を整えるゴルドとビシャスに問いかける
この場にはいない2人を含めて彼等5人は世界各国に数多く存在する冒険者達が集まって掲載された組織『冒険者ギルド』の一員であり、5人は長年パーティーを組んでいてそれなりに名も知られ、失敗すれば一つの街が滅びかねないと言う高難易度の依頼も何度か果たした事がある実力者達でもあった
「そもそもの話として……あれ俺達じゃ相手出来るレベルじゃないよ……底すら分かないし……」
引きつった顔でそう言うルークに対して誰も異を唱える者はいない。聞こえるのは表通りから聞こえてくる人々の雑踏だけ。実力がある故に一応に自分達では束になっても構わない事を理解していたのだ
「もう過ぎた事は置いておけよルーク。なんにせよ対象が好戦的で無く、何の問題もなく街を出ていったんだ。だったら俺達が合流すればやる事はあと1つ、ギルドと依頼人……大臣に無事に依頼は成功したと報告に行くだけだろ? 無傷で武器も損傷なく解決できたんだ万々歳以外の何があるって言うんだ?」
そんな重苦しい空気を吹き飛ばそうとしてかビシャスはわざとらしいと言えるまでに明るく仲間達に告げる
「報酬金は中々の金額を貰えるんだ。今日は少しばかり豪勢な宴会と行こうぜ?」
最後にビシャスが仲間達に向けてそう見せる
「そう……だね……俺はガッツリ肉食いてぇ気分だろ」
「……行くなら武器屋隣の酒屋にしようぜ。あそこの新しい看板娘すっげぇかわいいんだぜ?」
その一言で漸く緊張が解れたのかルーク、ゴルドの二人はどちらともなく笑顔を向けるとゆっくりと立ち上がり始めた
「お、あそこから近付いてくるのはマッケイとキョシーじゃないか? おーい! お前らー! 今日は宴会にするぞ〜!」
近付いてくる見慣れた2つの人影を見ると先程までの意気消沈ムードは何処へやら、ゴルドは手を降って呼びかけながら二人に向かって近付いていく
「……そう、俺達の依頼はここまで。これからどうなるかはまた別の話だ。分かってるなルーク?」
そんなゴルドを見守りつつ、ビシャスもゆっくり立ち上がりつつ自身の隣に立つルークへと呼びかける。それはこのパーティーの中でもゴルドのような他のメンバーより、幾分か長く行動を共にし多数決で決めた形だけとは言えリーダーであるルークだからこそ言える事であった
「……あぁ、これで大臣へ最低限の義理は果たした。次からはレイのパーティー関連の依頼は受けないよ。そもそもの話………結果的にだけど俺達もレイ達には助けられていたからね」
ビシャスの言葉にルークは迷わずそう返事を返す。もう緊張の冷や汗は止まっていた
そう、ことレイ達、勇者パーティーについては未だ一部の一般市民や貴族、王族よりもずっと冒険者ギルド側が知っており、危うい所を助けられた者も数多くおり、大臣の依頼こそ義理で一応は引き受けたものほ端からそもそも冒険者ギルドの方針としてはレイ達の側に付くつもりであったのだ
「揃いも揃って実力者のあいつらを怒らせて果たして大臣は無事でいられるのかな?」
「さぁな、もう俺達の知ることじゃないさ。未来の事が分かるのは占い師か女神アマトー様ぐらいのものだろう?」
最後に独り言じみて言うルークにビシャスがそう答えると二人はそれ以降は何も言う事は無く、ゆっくりと仲間達の元へと向かって歩き出した
この日、ルーク達のパーティーで宴会は大いに盛り上がったもののそこに大臣の名が出てくることは一度も無かった