最強勇者パーティー(9割マザコン)から追放された賢者(みんなのお母さん)ですが、皆が中々、母離れしてくれなくて困ってます   作:塩ようかん

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 ティアーナの一人旅

 

 昨晩に降った雨は既にあがり、木々の隙間から差し込む暖かな日の光が身体を暖めて道端の草や木の葉についた水滴を美しく輝かせる朝、ティアーナは一人、時折、頭上の木の枝から落ちてくる朝露をかわしつつ、森の中をまっすぐに進んでいた

 

「えぇと……魔導王国はもう少し先でしたかね? レイの育成と勇者パーティーとしての活動に一生懸命で大陸の此方側に行くのは久しぶりですからどうにも確信は出来ませんが………」

 

 小首を傾げながらティアーナは己の記憶と生い茂る短い草の間に僅かに見える馬車の跡や足跡を頼りに道を進み続ける。彼女の言葉の通り幼少期のレイと過ごした村や最近の活動拠点としていた街とは大陸を横断する山脈を挟んで反対方向にある魔導王国に行くのは数十年ぶりの事であったのだ

 

「うーん……急な話だけど大丈夫かしら? 念話魔法も送ってみたけどどうにも魔術防御で使い魔も含めて弾かれているみたいだし……」

 

 ティアーナとしては訪れる前に事前に話を通しておきたかったのだが急な話な上に事前に準備も出来ず、どうにも相手方との連絡が取れず、突然の形での来訪となってしまったのだ

 

「でも……それだけ頑張っているのねエンシスちゃん。あとでしっかりと労ってあげないと……」

 

 しかし今、ティアーナの胸に宿るのは申し訳なさだけではない。かつて自分が弟子として育てた魔法使い、そして今は魔導王国の代表を勤めているエンシスに会う事を心待ちにし、ティアーナは微笑みながら朝の森を進んでいくのであった

 

 

 魔導王国は名前こそ王国を名乗っているものの正確に言えばそれはこの世界で知られる国家としては体制が大きく異なっていた

 

 まず第一に魔導王国が所有する領土は国を名乗るには格段に小さく外周を歩けば半日で一周できる程度の広さしかない。当然、自給出来る農作物は少なく魔導王国に暮らす人々の食料は殆どが他国から輸入した物になっているのが現状だ

 

 そして第二にそもそもの話として魔導王国には王政制度は存在せず、当然、王宮も存在しておらず変わりにあるのは複数人の優秀な魔術師達よって作られた極めて堅牢な砦と魔導王国内に暮らす全員の投票で選ばれた王国の方針を決める代表『マスター』だ

 

 そして前述した通り領土が狭く、それだけで賄えるほど貴重な資源も存在しない魔導王国が主な収入源としているのが名前の通り優れた魔術師達が集まる王国内で切磋琢磨され、他国で流通しているものより更に研鑽された魔術を主として駆使する傭兵業。魔導王国から派遣される魔術師達はギルドにも所属しないものの非常に強力な兵士として大陸各地に徐々に知れ渡り始めており、各国が躍起になって情報探ろうと動き始めていた

 

 だからこそ当然のように魔導王国は外部からの来訪者にはガチガチに気を引き締めており

 

「ダメだダメだ! お前のような馬の骨にマスターと会談の機会が与えられるものか!」

 

 正面から魔導王国へ訪れたティアーナの要求を、他の見張りをしていた白服の魔術師とは異なる緋色の魔術師用ローブに身を包んだ部隊長らしき若い魔術師がティアーナを睨みつけながら高圧的な口調で責め立てる

 

「分かったらさっさと何処ぞの田舎にでも帰るんだな。じゃあないと……この部隊長アナムの必殺魔術を見ることになるぞ?」

 

 更にそれだけではまだ弱いと見たのか魔術師、アナムは杖を抜き、構えてすらいないティアーナの眼前に突きつけて見せる

 

「いえ、アナムさん、突然の来訪なのは申し訳ないとは思っていますが……前述した通り私はマスターエンシスの師範を勤めてまして、それで少し話したい事が……」

 

「またそれか……白々しい嘘を付くな!」

 

 杖を突きつけられても何とかアナムを説得しようと穏やかな口調で宥めようとするティアーナではあったが、当のアナムはそれに耳を貸さず再び大声で叫び、ティアーナを威圧する

 

「あ、アナム隊長……流石にそれはやり過ぎでは……?」

 

「あの人、何もしてないじゃあないですか……」

 

 そんな強引過ぎるとも言えるアナムの態度に思うことがあったのか、側に控えていた部下らしき白いローブ姿の魔術師二人が諌めようと試みる

 

「お前達! そんな甘さをみせた結果先日、どうなったのかもう忘れたのか!? 危うく旅商人と偽っていた他国の間者を領土内にむざむざ侵入させる所だったんだぞっ!!」

 

 が、そんな態度にアナムはますます苛立ちを加速させたらしく、ティアーナに杖を突きつけたまま、額に青筋を浮かべて指摘を仕掛けて2人に激しく叱責する

 

「(あぁ……それでこんなにピリピリしているんですね。当然のように警戒レベルも上げているでしょうしイライラするのも当然ですね……あの子……アナム君も大分余裕が無さそうですし)」

 

 アナムとして大変不本意だろうが、その部下とのやり取りで今現在の魔導王国の状況をある程度察する事が出来たのだがティアーナはそれを指摘する事なく黙ってその様子を伺う

 

「……会談が難しいのは分かりました。ですが、それでもどうかマスターエンシスにメッセージを届けさせてはくれませんか? マスターエンシスにお時間が無ければ手紙でも構いませんので……」

 

「ハッ! メッセージだと!? そうやって呪いやら精神操作の魔術をマスターエンシスにかけようとするんだろ? ワンパターンなんだよなぁ………」

 

 アナムが部下達に叱責を終えたタイミングを見計らって再びティアーナが話しかけるが、アナムは振り向き様に突っぱねると口角を吊り上げる。隠すつもりも無い嘲りの笑顔だった

 

「お前のような実力も才能無い魔力量を低い魔術師のやる事はなぁ!」

 

「………………!」

 

 杖を突きつけながらそう断言するアナムの言葉に思わずティアーナは押し黙り、自身の手元の杖を握りしめた

 

「ふん、何なら自分の魔力量を察知できないように細工をしているみたいだが……それが分からないとでも思ったか? ローブや装備は一流だけがベテラン魔術師の常識は学んで無かったみたいだな」

 

 それを図星を突かれた反応と見たのかアナムは更にまくし立て、矢継ぎ早に言葉を告げる

 

「三流の魔道士は己の装備を誇り、二流の魔術師は己の使える魔術を誇る。そして一流は己の魔力量を誇り、啓示する!」

 

「そうすれば態々、装備や魔術を見せなくとも己の力量が言わずとも相手に伝わることで相手を威圧し、無駄な諍いを避ける抑止力にもなる。だからこそ姑息にも自身の魔力量を隠蔽しようとする者など実力の低い未熟者しかいない! それが必然と言うものだ!」

 

 と、そこまで言い切る事である程度、落ち着きを取り戻したのかアナムは一旦、息を整えティアーナを再度睨みつける

 

「………これで分かったか? そんな小細工をしているお前と私には超えようが無いほどの決定的な差があることを。そんな者がマスターエンシスの師など実にくだらないジョークだ!」

 

「それでも尚、マスターエンシスと面談と取りたいと言うなら、そうだな……」

 

「この私、『紅蓮』の二つ名を持つ部隊長アナムを魔術師の決闘で打ち負かしてみろ!」

 

 杖の先端から自身のローブと同じ緋色の火の粉をちらつかせながらアナムは改めて宣告する

 

「…………」

 

 もはやティアーナがエンシスと出会う為にはこの戦いは避ける方法が無かった

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