最強勇者パーティー(9割マザコン)から追放された賢者(みんなのお母さん)ですが、皆が中々、母離れしてくれなくて困ってます 作:塩ようかん
レイの記憶に残る最も古い記憶は未だに開かぬ目で感じた炎の熱さと人々の悲鳴だった
当時、王都の外れの山中にあり、王国騎士達による見回りが十全では無かったレイの故郷の村は、僅かな隙を付かれて魔物のオークとゴブリンの群れの襲撃にあい、逃げ遅れた殆どの住人は無惨に殺害されてしまったのだ
当然のようにレイの実の両親も被害に合い、産まれたばかりで目すら開いていない一人息子のレイを必死に庇おうとするも惨殺されレイもまた同じ運命を辿ろうとしていた。まさにその時だった
突然、海も遠く離れた筈のレイの村に津波のような勢いで青く透き通った水がなだれ込んできた
それも器用に水は倒れた者やまだ戦ってるを者だけを意思があるように避け、オークとゴブリンのみを狙って襲い掛かかると、彼等を攫って洗い流し一瞬して全滅させた
「…………ごめんなさい。もう少し早く来れば間に合ったのかも知れませんが……こんなのは言い訳にはならないですよね」
オークとゴブリンが全滅したのを確認すると、泣き喚くレイをそっと抱き抱えながらティアーナは心底、申し訳無さそうにそう言う
そんな光景を生き残った僅かな村人はつい先程まで頭の中に浮かべていた恐怖心や疑問が心の中から消え去って行くのを感じながら、ただただ圧倒されてその光景を見ている事しか出来なかった
何も無い場所から水を洪水のような勢いで発生させる魔法がある。と、言うことは田舎とは言えこの村の住人も知ってはいた。だが、突如として現れた長い銀髪に純白の法衣を持つ女性、在りし日のティアーナが使ったそれは噂程度で聞いた話から遥かに上回って強大で美しく、そして何より神秘的であり、女神とさえ見間違えるようなその輝きは住民の心を奪うには十分に過ぎたのだ
「あなたは……なるほど、レイと言うのですね。素晴らしい名前だと思います」
レイが唯一身に付け、実の両親が最後まで守ろうとした証の血が付着したおくるみから名前を知ったティアーナは労るようにレイの頭を撫でる。と、その時、生まれて以来、閉ざされたままだったレイの目がひくりと動く。恐怖から解放された安堵感、そして何より襲い来る業火とはまるで違う暖かなティアーナの体温と優しい声に反応し、ゆっくりと目が開き始めていたのであった
「安心してくださいレイ。君の事は責任を持って絶対に私が守り抜いて見せます。それこそ、あなたの母親になる覚悟で」
だからレイが生まれて初めて見たのは、自分をしっかりと抱きかかえて『母親だ』と言って微笑むティアーナの姿であり
やがて年を重ねて真相を知る日が来てもレイは亡くなった実の両親の事も尊重しつつしつつティアーナを自身の母親だと決して止める事は無かったのだ
◆
「すまなかったぁーーーーっっ!!」
(散々時間をかけてお別れの言葉をかけつつ、平地ならば1km以上先の物をもを視認する出来るスワロウが姿が見えなくなるまで)ティアーナを見送った後、タクロウは全く突然にレイ、フレア、スワロウの三人に勢いよく頭を下げられつつ全力で謝罪された
「え、えっと……? ど、どうしたんだよ三人とも? 話しづらいから顔を上げてくれよ!」
唐突な謝罪に内心では大変困惑しつつ、タクロウはどうにか精神を落ち着かせ出来るだけ落ち着いた口調でレイ達に呼びかける
「……先程俺は母さんを失うショックのあまりに取り乱して大臣を切り刻む等、とんでもない事を言ってしまった………っ! 俺は皆を守る勇者だと言うのに……! すまんタクロウ! 困惑しただろう!?」
「私も同罪よ……魔法使いは冷静である事が常であるとママから教わったのに……まだ入って新しい貴方の前で怒りの感情に飲まれてしまうなんて……合わせる顔が無いわ……」
「ごめん……タクロウ。あたしはあんまり口が上手くないからごめんって気持ちを上手く伝えられないけど……借りはあたしに出来る範囲で返すよ。マムもきっとそう言ってくれると思うし……」
余程、悔しいのかレイはギリギリと歯噛みし、フレアは唇を噛み締め、スワロウは普段は男性に間違われる程に鋭い瞳をしょんぼりと曇らせつつ謝罪を続ける
「いっ……嫌、大丈夫だって!? 皆が凄くティアーナさんを大事にしてるのは知ってたし! 今回の事件は俺も許してはいけないと思ってるよ!? それに……ほら……俺達仲間じゃないか!? 遠慮は無しで行こうぜ!?」
そんな態度がいたたまれなず、咄嗟にタクロウはそう言い放ち無理に笑顔を見せる
実際、タクロウの内心的にも言ってることに嘘はない。まだこの勇者パーティに加入して日が浅い自分でも彼等が(マザコンではあるが)基本的には平和を好み利益が無くとも人々の為に戦えるようか優れた精神を持つ物が多いと言う事を理解していた。だからこそ3人が揃って自分に頭を下げると言う事を受け入れがたかったし
「(み、皆に人気者の勇者パーティの3人を新入りの俺が頭を下げさせたなんて周りに見られたらマズい……絶対にマズい!! 最悪、いつの間にか俺が悪いって話にされかねない!! は、早く頭を上げてくれよみんなぁ!?)」
何よりタクロウの精神がこの状況が続くことに耐える事が出来なかったのだ
「そう……か……君がそう言ってくれるなら俺達がこれ以上、頭を下げ続けるのは失礼になるな………。フレア、スワロウ、タクロウの言う通り、謝罪はここまでにしよう」
そんなタクロウの心の叫びが通じたのかレイは迷いながらも顔を上げ、それに二人も続いたのを見るとタクロウは心の中で大きく安堵のため息をついた
「それよりは……さ! どうやったら乱暴抜きで平和的にティアーナさんをパーティに呼び戻せるか皆で考えようぜ!? ほら皆、席についてついて!」
謝罪こそ終わったものの、依然として漂う葬式のような重苦しいムードを吹き飛ばすそうと懸命に笑顔を作り、明るい態度でギルドハウス内に設置されている、いつもメンバー全員で使っている木のテーブル(机、椅子共にスワロウ作)に誘導する。すると3人は迷いながらも
促されるまま席には着いた。そう、椅子に座りはしたのだが
「このテーブル………母さんが得意料理のクリームシチューを皆に振る舞ってくれたなぁ……」
「このカップの後……あぁ、私、悪夢で起きちゃった時、ママに悪夢を忘れて良い夢を夢を見れるようになるハーブティーを淹れて貰ったなぁ………」
「この椅子とクッション……そうだ……アタシは椅子ごとマムの膝に抱き着きながら、落ち着くまで相談に乗って貰ったっけ…………」
「……き、気持ちは分かる……!! 分かるけど今は未来の事を考えようぜ!?」
当然ながら長い間、ティアーナと共に過ごしたギルドハウスはテーブル一つに渡っても思い出がそこらかしこに溢れており、それを思い出す度に3人の涙腺は緩みまくり、タクロウはまず話を聞いて貰う。と、言う初手から大きく苦労することになるのであった