最強勇者パーティー(9割マザコン)から追放された賢者(みんなのお母さん)ですが、皆が中々、母離れしてくれなくて困ってます 作:塩ようかん
レイがティアーナに引き取られ、彼女が当時拠点としていた森の奥の家で共に暮らすようになってからあっという間に5年の時が過ぎ、レイはティアーナの教育により言葉や計算、礼儀を身に付けた後に、自宅近くのティアーナの結界が張られた安全な森の中や、ティアーナの買い物で同行した街の中を自力で歩き回るのが幼いレイの趣味となっていた頃、レイにとって将来を決定させる一つの事件が起きた
ティアーナがレイを連れて日用品の買い物に向かった際の事だ。その日、街では遥か昔にいたとされる伝説の勇者を讃える祭りが行なわれており、その祭りではかつて勇者が使ったとされる聖剣が神殿から特別に持ち出され、伝説にも記録される勇者から強さの加護を授かり病を退け、強く成長する。と、して子供達が剣を触る神事が行なわれていた
初めて体験する祭りの雰囲気や出店の数々にレイは大いに興奮しながらも『母さんを助けられるような強い男になりたい』と、生まれて初めの決断をしたレイはティアーナに許可を貰うと街の子供達と共に列に並ぶと、やがてレイの順番になり、髭を蓄えた神官が何時も世話になっているティアーナの為ならと自ら聖剣を手に取り幼いレイの前へと差し出し、レイは笑顔で礼を言いながら願いを込めながら聖剣の柄に触れて握った、その瞬間
聖剣がまるで長い眠りから覚めたかのよくに、陽光にも似た淡い白色に眩く輝きたましたのだ
その場にいた誰もが啞然とする中、レイの手の中で聖剣はちゃきんと音を立てると滑るように滑らかに鞘から抜け、日の光を受けて輝く銀色の美しい刀身を表した
まるで自身の手に剣の方から吸い付くように、例えるなら『最初から自分の物であった』ような感覚がする剣にレイが訳も分からず呆然とする中、幼いレイより更に動揺した様子の神官がレイに詰め寄り、保護者のティアーナも合流の後、レイ達は神殿で集まった神官達から話を聞くことになった
曰く『その聖剣は勇者の没後に納められて以来、誰が手にしても鞘から抜けることは無かった』と
曰く『世界に危機が迫りし時、勇者になり得る者だけが剣を抜けると伝えられている』と
曰く『聖剣が鞘から抜けた以上レイを勇者とし、聖剣を授ける。最早、この剣はレイの物だ』と
幼き故に、神官達が話した勿体ぶって小難しい内容をティアーナが分かりやすく噛み砕いた内容を伝えられたレンは母親であるティアーナに言われた通りじっくりと考えるとやがて答えを出した
『わかりました、ぼくは勇者になります。勇者になってみみんなをたすけます』
これが、ただのティアーナの養子の子供だったレイが『勇者レイ』になった瞬間だった
◆
「うっ………ぐっううううううっっ!!」
5メートルをゆうに超える背丈と、全身が岩石のような強靭な筋肉を持ち、頭部から伸びた一本の長い角が特徴的な魔物。オーガが持つ丸太橋の如く太く、巨大なこん棒の一撃を盾を構えて受け止めたタクロウは苦悶の声をあげる
「(なんっっ……って一撃が重いんだよコイツは!?)」
オーガの攻撃を見切り、態勢を整えて受け止めたつもりだった。しかし、それでもタクロウは衝撃で1メートル程背後へと後退し、腕は芯から震えるほど痺れて、気を抜けば盾を取り落としてしまいそうだった
「(でも……! ここで俺が下がるわけには……!!)」
だがしかし、タクロウの戦意はそこで衰えたりはしない。何故なら、この戦いはティアーナの離脱によって乱れた自らも所属する勇者パーティーが復帰しての初戦であり、そして何より
「今だ! レイッ!!」
タクロウの背後には必殺の一撃を放つべく、聖剣を構え、気を溜めていたレイがいたからだ
「はあっ!」
合図が聞こえた瞬間、レイはタクロウの横を猛烈な勢いで通り過ぎると次の瞬間、一気に息を吐き出して叫ぶと大地を蹴って飛び立ち、弾丸のような勢いでオーガに向かって飛び出していった
『………………!!』
洗練されたその一連の動きは正に音速の如き勢いであったが、このオーガも単なる雑魚ではない。降り下ろしていたこん棒をすかさず引くとレイを撃墜せんと構え……
「あら、オーガさん? 随分と判断が遅いのね」
「残念、既に、仕掛け済みだよ」
『…………ッ!?』
その瞬間、フレアとスワロウの声と同時にオーガの右足は地面から霜柱の如く生えた氷柱に拘束され、左足には瞬時に5本の矢が膝やくるぶし、アキレス腱に突き刺さり、迎撃に出ようとしてオーガは瞬時にして行動を封じられ、殺気に満ち溢れていたオーガの顔に大きな動揺と驚愕が広がる。その瞬間
「はあぁぁぁっ!!」
既に射程圏内へと突入していたレイがオーガに向け、一気に息を吐き出すと怒号にも似た声で、周囲の空間ごと切り裂きながら横一閃へと聖剣を振るう。レイが持つ勇者の力に強く反応した聖剣は真昼なのにも関わらず太陽にも負けない程眩く輝き、斬った後に沿うように白色に輝く鋭い光の線が生まれた
『………………!』
次の瞬間、レイが地面へ着地して聖剣を納めるのと同時にオーガは首から大量に血を吹き出し地面へと崩れ落ちた
「お、終わった……はぁ……」
それを確認した瞬間、張り込めていた緊張が一気に解けたタクロウは膝から崩れ、荒く呼吸を繰り返し始め、どうやら無意識のうちに自身が呼吸をする事さても忘れかけていた事にタクロウはその時になってようやく気付けた
「お疲れ様、タクロウ。うん、前衛、しっかり頑張ってくれたわね。おかげで簡単にアイツにトラップの魔法を仕掛けられたわ」
と、そんなタクロウの肩がフレアによって優しく叩かれる。それと同時に彼女の手によって回復魔法がかけられ、最前線でオーガの傷を受け続けたタクロウの傷が消えていく
「………これ食べて、疲れがけっこう取れるよ」
フレアによる回復魔法がかけられた後、続いて膝立ちの状態で地面に座り込んだスワロウがタクロウの顔に押し付けんとする勢いでサクランボに似た赤い色の小さな木の実を差し出してきた
「フ、フレア………それにスワロウも………あ、ありがとう………」
二人の施しを受けたタクロウは素直に礼を言い、スワロウから差し出された木の実を口に含む。ほのかな甘さが戦闘で疲弊した身体に染み、若干ではあるが疲れが取れる気がした
「タクロウ大丈夫か?」
と、そんな最中、既にオーガを討伐した証に角を解体し終えたレイがタクロウに近付くと何の躊躇いも無く手を伸ばしてきた
「あ、あぁ、疲れてるけど大丈夫だ。フレアとスワロウが回復してくれたからな……」
「そうか……本当に無理はしないでくれよ? あのオーガが僕らが戦った中でも『そこそこ』強い方だったからね。まだ新入りの君に必要以上に頑張らせるなんて事は出来ないからね」
少し戸惑いながらレイの手をタクロウが握るとレイは力強くタクロウの身体を持ち上げ、肩を貸すとそのまま歩き出した
「ちょっと……レイ!? 俺、オーガの返り血とか俺自身の血とか……あと泥とかで汚れているんだけど……」
「ん? それの何処に僕が気にする必要があるんだ? 仲間の努力の証を不快に思う奴など誇りこそすれど嫌悪感など無いさ」
その突然の行動にタクロウは慌ててそう言うがレイは全く気にかけた様子は無く、迷いなく爽やかに笑いかけながらそう答えた
「(本当……フレア、スワロウ。そして勿論レイも基本的に親切でいい奴等なんだよなぁ……新入りの俺も全然、馬鹿にしたりせずにむしろ積極的に強くなれるようフォロー市てくれるし……)
そんな態度に自身が何を言ってもレイは理由を付けて世話をやいてくるのだと理解したタクロウは大人しくその肩に体重を預けた
「最初から一人前の仕事が出来るなんてきっと本当に一握りの人間だけだよタクロウ。君は君のペースで強くなってくれればいい。それを助けるのが僕達先輩の仕事さ。そして強くなって………」
「必ず! 母さんをパーティーに戻して真のフルメンバーで魔界に向かうんだ!!」
「「うんっ!!」」
「………………………」
迷いなく語るレイに同意し、力強く返事するフレアとスワロウを前にタクロウは密かに頭を抱える
「(本当……いい奴等なんだけどやっぱりどうしようもないマザコンなのも事実なんだよなぁ………)」
ティアーナの離脱から新たに始まったタクロウの気苦労はまだまだこれからも続きそうであった