最強勇者パーティー(9割マザコン)から追放された賢者(みんなのお母さん)ですが、皆が中々、母離れしてくれなくて困ってます 作:塩ようかん
「こうなった以上、これもまた運命と言うものでしょう。レイ、我が愛しい息子よ」
聖剣に選ばれたレイが自ら意志で勇者になると決めた翌日の朝、朝日が差し込み始めた自宅横の森へとレイはティアーナによって呼び出されていた
「私、個人としてはあなたには出来れば穏やかに、普通の人々と変わらないように暮らして欲しかったですが………それは今更、嘆いても仕方がない話。そして何より、幼い身ながらとあなた自身で決めた道。止めはしません」
ティアーナは僅かに表情に曇りを見せながらも、言い淀む事も無くそう言うとレイに一本の引き抜いた聖剣に外見を似せた手製の模造刀を渡す
「私自身、剣の道には詳しくは無い故に貴方には基礎の基礎しか教えてあげる事は出来ません。ですからレイ、基礎を覚えたら、そこから元に貴方自身、戦いの中で腕を磨いて成長するのです」
「……? でも、おかあさん………この近くの森には魔物なんて……」
ティアーナの言葉にレイは首を傾げる。母と暮らす実家と最も近い街の周囲一体にはティアーナの結界や尽力のおかげで人間に好んで危害を及ぼすような危険な魔物や動物は近寄らないようになっていた。そのおかげでレイのような幼い子供でも安心して外を出歩けるのではあるが、それで修行になれるとは幼いレイでも思わなかった
「えぇ、ですからレイ。かねてから貴方の教育の為にと決めていた事ではありますが、予定を早めます」
そう言うとティアーナは優しく微笑みかけた
「レイ、2年後………あなたが7歳になったら私と共に旅に出ますよ。共に世界各地を回って人間として……そして勇者として成長するのです」
そうして2年後、剣の基礎をしっかりと身に着けたレイは7年間過ごした実家を離れ、ティアーナと共に親子2人で旅に出ることになったのであった
◆
オーガとの戦いを終え、街に帰投した後にギルドへと報告すると、レイ達一行はその足で宿に戻り、血糊や泥汚れがこびり着いた服を変え、シャワーを浴びると馴染みの飲食店の馴染みのテーブル席へと集合していた
「うん、注文は終わったね? フレア、スワロウ、タクロウ、今日も皆、ご苦労さま。全員が大した怪我もなく依頼を達成できて何よりだよ」
全員が席に付いて注文を終えたのを確認するとレイは開口一番、そう告げると名前を呼ぶ度に視線を合わせると笑顔で労いの言葉をかける
「それじゃあ……注文の料理が付くまでの間に今日の反省会を始めようか」
パーティーリーダーであるレイが労いの言葉をかけてから、料理が付くまでの時間の間、今日の活動を振り返りながら反省会を行う。これがレイ率いる勇者パーティーの日課であった
「まず今回のオーガ討伐だけど……僕は一番の功績者はタクロウだと思うな。タクロウががんばってくれなかったらこれ程スムーズには行かなかったよ」
「あ、私も。ずーっと最前線で攻撃を受けててくれたからね」
「……あたしもタクロウで。あのオーガ相手に引かなかっただけで褒めるべきだと思う」
「うっ…………いや、でも俺なんか……」
夕日が沈んでから始まった反省会は開口一番、タクロウを称える言葉から始まり、当のタクロウは気恥ずかしさから顔を朱色に染め、悶絶していた
「……タクロウ。僕達のパーティーに加入して日がまだ浅いのに、それほどの実力があっても、尚どういう言う訳か分からないけど君は自己評価が低すぎる。少しくらいは自信を持って……そうだな、今日の正当な評価くらいな受けとってはくれないか?」
そんな様子のタクロウにレイは優しく微笑みながらもしっかりと通る声で視線を合わせ、迷いなくそんな事を言ってきた
「う……わ、分かったレイ。ありがとう、レイ、フレア、スワロウ。次も……うん、頑張るぜ!」
その瞳に射抜かれたタクロウは逃げる事が出来ず、かなりぎこちない奇妙な形ながらも笑顔を作ると仲間達に順番にを言う
「うん、それでいいんだよタクロウ。気恥かしいのは分かるけど君の実力や努力は僕達がしっかり見ている。それを『俺なんて』なんて言って自分を蔑むのは勿体ないと思う。これからもちゃんと褒めるべき所はしっかりと褒めるから準備はしておいてくれ」
「は、はは……りょーかい……」
タクロウのその様子を見るとレイは笑顔のまま迷わすそう言い、タクロウは思わず乾いた笑い声で返事を返す。精神的にも肉体的にも欠片も暴力的な事はされていないのにまるで勝てる気がしない。『これが勇者たる者のスペックか』と、タクロウは痛感させられた
「でも勿論、全部が全部、褒めるべき所だけじゃない。勿論、反省すべき点はある。……少なくとも僕はあるよ。次はそこから語ろうじゃないか」
と、そこでレイは微笑みを浮かべていた表情を引き締まった真剣な物に変えると、顔の前で手を組みながら語り出した
「正直に言えば、最後のあの一撃。僕はオーガの首を胴体から切り落とすつもりで剣を振るった。でも結果は……オーガに致命傷は負わせたけど、そうはならなかった。これは間違いなく失態だよ」
「私もよレイ。あの仕掛けた氷魔法で凍らせた上で氷の圧力で足を折し斬るつもりだったけど……精々あれは骨を芯まで凍らせた程度ね」
「……アタシの矢。貫通して地面と縫い付けてやるつもりだった」
レイが歯噛みしながらそう言うと、先程の繰り返しのようにそれに続いて二人も自分の至らぬ所を悔しそうに呟く
「(……っ! そ、そうだ褒められて俺も浮かれている場合じゃない! 早く自分の反省点を纏めて皆に言わないと……!)」
一瞬、その様子をただ漠然と眺めていたタクロウだったが咄嗟にその行動を反省する
「お、俺の反省点はやっぱり防御ばかりで禄に剣を…………!」
「原因はやはり……ティアーナ。僕達のお母さんが抜けた事による支援バフの低下だろう……!」
「え」
そうして脳内でどうにか思い浮かんだ事をタクロウが口にしようとした瞬間、心底、悔しそうに言うレイの声にかき消された
「……やっぱりね。私も同意見よ。ママさえあの場にいれば最低でも100秒は討伐までに短縮でき………いや、そもそもママの万全の支援さえあればあのオーガ程度初手で私達の全力の一撃で決着は付けられたかも。くっ……! 私の術が単独じゃここまで力不足なんて……」
「………マムさえ居てくれればれば戦闘途中の補給も最低限で済んだ。やはりアタシ達にとってマムの存在は大き過ぎる。マムはずっとアタシ達が自立出来るように何時も頑張ってくれていたのに……!」
「(いや、確か今日戦ったオーガって実力ある冒険者を尽く返り討ちにしたって準最高クラスの危険度にされていたよな。それが『程度』………? と、言うかここでもやっぱり結論はティアーナさんの話になるのかよ……)」
呆然として脳内でそんなぼんやりとそんな事をしか呟く事しかタクロウを尻目にフレア、スワロウも共に反省しつつ、まだティアーナがパーティーを離れて3日目だと言うのに懐かしむように語り出していた
「……フレア、スワロウ僕もまだ語りたい事はあるけど聞いてくれ。タクロウも出来れば頼む」
と、そんな最中、気合いを入れるように自身の頬を軽く叩くと新たにそう切り出した
「今回のクエスト結果から言って現状、今のままでも僕達は戦える事は間違いない。しかし、これがベストの状態から遠いのも事実だ。このままこれを放置し続ければ僕達のパーティーはそう遠く無いうちに僅かなケアレスミスや油断等で自己崩壊してしまうだろう。……それに個人的に言えばお母さんと離れ続けていと淋しくて僕のメンタルも持たない」
そう語るレイの言葉にフレアとレイは同意するように頷き。タクロウもティアーナが離れる事によるメンタル云々は置いといて概ね同意であった為に悩みながらも二人に続いて頷いた
「その為にはやはりママを取り戻すのがベスト……ね」
「……その為にはタクロウが言っていた通り悪評が消し飛び、ある程度無茶を言っても許されるような分かりやすい実績が一番」
「うん、だから僕はそれは伝説として伝わる『勇者の使命』を果たす事だと思っている」
そこまで言うとレイは一旦、息を吸い込み肺に空気を取り込むと迷わず宣言の言葉を告げる
「……だから皆、協力してくれ、僕の勇者としての使命……『魔界で魔王と和平を結ぶ』事! 人間界と魔界の長く続くいがみ合いを終わらせよう!」
「「「ええ(うん!)」」」
レイの言葉に直ぐ様、フレアとスワロウは同意を示し、力強く返事を返した。そこに先程のような母親を求めていた甘さは無く、紛れもなく誇り高い勇者一行、そのものの姿だった
「(…………本当、こんな奴等だから俺もパーティーを離れる気にはならないんだよなぁ……)」
「おう……」
そんな勇者一行の姿にどこか眩しさを感じつつ、ワンテンポ遅れてタクロウもまたレイの言葉に返事を返すのであった