最強勇者パーティー(9割マザコン)から追放された賢者(みんなのお母さん)ですが、皆が中々、母離れしてくれなくて困ってます 作:塩ようかん
レイが率いる勇者パーティーの中で加入して一年も経たない新入り、一番レベルが低いもののその実力を仲間達から評価されている少年と言えるレベルで若い人物がそれがタクロウ。彼が『生まれた世界』では
そして少なくとも木野宮拓郎と言う人間は彼の世界での世間一般的に見ればとても運が悪い最期を迎え、命を落としたのだ
「かっ……はっ……!?」
特に理由も無く、ただ『今日はあの坂道を通るの少しダルいなぁ』等と言う理由で選んだいつもと違う高校の帰り道、彼はそこで偶々老朽化したビルに設置された大型看板の落下自己に巻き込まれ、頭から下敷きになり理由もわからないままにその命を落とすことになってしまったのだ
普通の人間ならば当然、ここで終わり。拓郎の意識は闇の中へと混じり消えていき、あの世と呼ぶべき場所へと行く筈だった
だが、そこで彼にあり得ない奇跡が起きた
「うあ……あ? ここは………?」
拓郎が意識を呼び覚ますと自身が一定の間隔で穏やかに波打つ水の上に浮かぶような心地よい不動感と、温かな光に包まれている事に気が付いた
「確か…学校行く途中でいつもと違う道を通って……道を歩いていたら何か頭の上から嫌な音がして……それで思わず見上げたら………見上げたらどうなったんだっけ?」
その心地よい不動感に再び眠りに落ちてしまいそうになる頭を動かし、必死にここにたどり着く前の事を思い出そうと拓郎は試みてみたが、幼少期の頃など遠い昔の記憶こそあるものの、どうにも直近の記憶だけが自身の頭の中に霞がかかってしまったかのようにどうしても思い出す事が出来ないのだ
『目覚めましたか、木野宮拓郎』
「うあ…………?」
そんな風に不動感を感じつつ再び眠りの世界へと落ちてしまいそうな薄い意識の中で記憶を整理していた拓郎に一つの声がかけられる。それは全く聞き覚えが無い大人の女性の物ではあったが何故か拓郎の心を落ち着かせてくれた
「(なんだか………この人の声……耳でと言うより……頭の中に直接話しかけられている……ような……?)」
『拓郎……いきなりの話で大変、申し訳ないのですが、あなたに一つお願いがあるのです』
ぼんやりとした頭の中で拓郎が考えていると拓郎の後頭頭を身体全体を包むものとはまた別の柔らかな……人間の物らしい温かく確かな肉感のある感覚が包み、同時に頭の中で響く女性の声がより『近く』なったような気がした
「(膝枕………されているのか……? まぁ……気持ちいいから……いいか……)」
相手の姿は見えないが自分の身体を触られている感覚はある。普通に考えれば不気味とも言える状態ではあったが、実際にはぼやける思考と心地よさが拓郎の頭を包み込み、思わず拓郎は欲望ののま身体を後頭部に伝わる女性の太腿に預け、その感覚をたっぷりと味わっていた
『……あなたが、このような状態で頼み事をするのは卑怯な行為なのでしょう。ですが……あまり時間が無いのです。どうか私の話を聞いて欲しいのです』
欲望に任せた拓郎の行為ではあったが声の主の女性はそれを受け入れるようにしっかりと己の身体で受け止め、同時に目にこそ見えないが柔らかな掌が拓郎の頭を撫でる感覚があった
「(なんで……そんなに申し訳なさそうに……?)」
だからこそ拓郎はここにきて始めて疑問を感じる
思えば聞こえてくる女性の声は落ち着く声ではあるが、最初から深く何処か沈んだ様子の声だった。それはまるで犯した罪に苦しむ罪人のようであり、未だに頭がしっかりと働かない拓郎でも何か今の自分の状況と関係がある気がしていた
『私の名前はアマトー。あなたが生まれた世界とはまた別の世界を治めている女神です』
「め……がみ……さま……? 女神様が俺に何のようですか……?」
声の主、アマトーが名乗った事を繰り返すように拓郎が呟く。いきなり自らを神と名乗る存在など通常ならば即座に警戒をしただろうが、拓郎は自分でも驚く程あっさりとその言葉が真実だと受け止めていた
『今、その世界に危機が訪れようとしているのです。このままでは世界に生きる多く生き物が死んでしまうでしょう。私は何としてもそのような事を起こしたくは無い。拓郎、あなたをここに連れてきたのはその為なのです』
拓郎が特に反論の言葉を言わなかったのを確認するとアマトーはゆっくりと言葉を続けると、そこで一旦言葉を区切る
『拓郎、誠に勝手な話ですが、どうか私の世界に来て平和の為……世界を救う為に貴方の力を貸していただけないでしょうか?』
◆
「………っ! はっ! こ、ここは………」
そして再び目覚め、今度は自分の意識がぼやけずハッキリ覚醒している事を確認すると拓郎は咄嗟に周囲を見渡す
目の前に広がるのは日の光を隠してしまう程に背が高く、鬱蒼とした木々。そして自分の手と背中から、確かに重量を感じるのはアマトーに自分が頼んだ剣と盾。好か不幸なのか服装は通学の為に着ていた制服のままだった
「スマホとかが入ったバッグは………無いか。あってても使えるかは分からねーけどな。………とっ!」
一先ず手にしていた剣を腰に下げていた鞘に収めつつ、拓郎は自身の愛用していた鞄が無い事を確認するとそう言ってため息をついた
「折角、生き返れたんだ。そんな所までどーこー言うのは贅沢って奴だろ」
目覚めてから矢鱈に頭がスッキリとした事で拓郎はすっかり思い出していた
自身があの時、死んだ事。アマトーと言われる女神と出会った事。世界の救う手伝いを頼まれた事
「………しっかし、アマトーさん言ってた俺の仲間になる『勇者』とやらは何処にいるのかね?」
そして自分がアマトーの引き受けた事、特典としてこの世界でも最強と呼べる自分専用の武装となる盾と剣を貰い受けた事を
そう、頭部に負った致命打の傷を治癒している途中だったのか矢鱈にぼやけ、霞がかかったような頭でも拓郎は間違いなく説得された訳でもなく進んで自分の意思でアマトーの頼みを引き受けていたのだ
「ともかく、まぁ……散々漫画やアニメで見た憧れの異世界転生なんだ! 転生特典もある事だし張り切ってやるか!」
その動機は至って単純、現代日本に生まれた故の『困ってる人は助けたい』と言うある種の普遍的な正義感。それに加えて良く言えばチャレンジ精神。悪く云えば若者故の無鉄砲さが死の悲しみより先に拓郎を動かしていたのだ
「あっ、でも勇者達がたまにある小説みたいに嫌な奴等だったら嫌だなぁ………。でも女神様の紹介だからそれは考えすぎか!」
『転生特典』である剣と盾、まるで自身の一部のように持ち運べるさの感覚を心地よいと感じつつ、積もった枯葉を踏みしめて木々の間を縫うやうに森の中を進みながら拓郎は呟く。しかし、この時の彼はまだ知らない
女神アマトーの言葉に嘘はなく、世界の平和の為に拓郎を信じて頼ったのもまた真実なのだが彼女はあくまで『この世界の神』であり、拓郎達が暮らす世界の生活や文化には疎い所があった所を
そのおかげで拓郎は心身共に全く想定しなかった苦行を味わう事を
鼻歌を歌いながら気分良く歩く拓郎には気付く由も無かったので