最強勇者パーティー(9割マザコン)から追放された賢者(みんなのお母さん)ですが、皆が中々、母離れしてくれなくて困ってます   作:塩ようかん

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戦士(に、なってしまった男) タクロウ(拓郎)

 

「う、ううう………」

 

 高く登った太陽の光が木々の隙間から顔を覗かせる中、腰を曲げ、今にも倒れそうな覚束ない脚で、転生特典に貰った剣を杖のように地面を突いて使いながら荒れた山道を進みながら拓郎はくるしげに呻く

 

 既に拓郎が転生を果たしてから一週間の時が過ぎていた。が、その表情には既に転生当初の余裕は無く、顔には色濃く疲労の色が滲み、目には睡眠不足の証である隈がくっきり浮かんでいた

 

 しかしかと言って僅か一週間で拓郎がこうなるに至ったのにアマトーが渡した剣と盾に問題があった訳では無い

 

 むしろ剣と盾は元からゴキブリや蚊、ハエ程度しか殺めた事が無かった拓郎をも戦闘時には熟練の戦士と変わりない程にまで底上げさせ、思わぬ形でかすり傷を負うことはあっても一週間の中で戦ったいかなるモンスター相手でもタクロウが深手を負うことは無く何度も命を救い、襲い掛かってきた全てのモンスターを拓郎が振るう剣の前に屍へと変え、正に『転生特典』と言うべき輝かしい成果を上げていた。が

 

「も、モンスターは……いない……よな……? なら……ちょっと………休もう……」

 

 何度も何度も周囲を見渡し、剣も反応しない事でどうにか安全を確保出来た事を確認すると拓郎は道端の大きな岩に腰掛け、大きく息を吐き出す

 

 そう、戦闘行為そのものに関しては何の問題は無いのだ。問題だったのは……

 

「もう脳味噌とか内臓とか血の海は勘弁してくれ…………」

 

 拓郎の精神はあくまでごく普通の一般人であり、リアルよりの創作物は何度か目にしたこそあれど、17才の拓郎では見れないような規制がかけられたダークファンタジーのような作品は目にした事がないし、戦闘と言えるものは極稀にした同級生同士の喧嘩程度しか経験が無い

 

 つまり戦闘の度に向けられる喧嘩の時とは段違いの殺意と悪意が込められた攻撃や、勝利したとは結果として必然的に見ることになるゲームのように宝石になったり貨幣になったりはしないモンスター達の死体の数々はあまりにも拓郎にとっては刺激が強く、日にちが立つにつれて次第に精神を蝕んでいったのだ

 

「誰か……誰かいないのか……?」

 

 そして何よりこの世界に来て以来、会話が出来るような存在に誰にも拓郎は出会っていない。歩き回っても出会うのは血に餓えた叫びしか放たぬゴブリンやウェアウルフやリザードマンなどのモンスターだけであり、夜はモンスターの襲撃に警戒して禄に眠れず、肉の解体の知識が無かった為に食事は果実程度しか食べておらず、それ対して誰にも悩みも愚痴も言えぬ環境は拓郎の中で心細さを次第に大きくしていく

 

「そもそも本当に勇者なんているのか? 俺、もしかして騙されたのか……? そもそも死んだのだって嘘なのかも……いや……でも……」

 

 そして、やがて心細さは疑心暗鬼を生み、拓郎は次第にアマトーに疑いの念をも抱きだしていた

 

「もし、本当に騙されたとしたら俺はどうすればいいんだ? あぁ……こんな事なら気軽に転生なんて……望むん……じゃあ……」

 

 頭で思い浮かんでいてた理想と現実とのギャップに加えて先が全く見えない展望。それに加えて禄に眠れていない事へのストレスからか、気が付けば拓郎は杖代わりに使っていた剣を腰に収め、岩に座って頭を抱えたまま眠りに落ちてしまっていた

 

「……い! ……い君! 大丈夫か!?」

 

 と、そんな風に拓郎が眠り落ちていくらかの時間が過ぎた時だった。何者かが拓郎の身体を揺すぶりながら声をかけてきたのだ

 

「(て、敵……!? 少しはゆっくり寝させてくれよ!)」

 

 それに瞬時に意識を覚醒させた拓郎は咄嗟に腰に収めていた剣の束を握り、斬撃を繰り出そうとし────

 

 

「(……って待った!? モンスターの奇襲にも自動で反応して俺に刃を抜かせた剣が全然反応してない!? ってか今、聞こえたのって……間違いなく人間の……!!)」

 

 直後にその違和感に気付くと目を見開き、剣の束を握ったまま咄嗟に顔を上げる。そこには

 

「……! 良かった。生きているは分かったけど、重篤な病気で動なくなってるのかと心配して声をかけたんだ」

 

「昼寝の邪魔をしたなら悪いけどね……ここで寝るのは止めた方がいいわよ? ここの森、魔物がうじゃうじゃ出てくるもん」

 

「待ってレイ、フレア……様子がおかしいよ。 この人、凄く顔色が凄く悪いし……辛そう……。マム、この人を見てあげて?」

 

 自分を心配そうに覗き込む、全員がモデルや芸能人のように優れた容姿をした3人の男女と

 

「任せて〜スワロウちゃん。………あらあら……これは……」

 

「………………!?」

 

 続いてまだ半分ほど寝ていた拓郎の脳が、視界に入れた途端、一瞬で目が覚める程に美しく、息を飲むほどに魅力的な銀髪の女性がそこにいた

 

 これが木ノ宮拓郎、後にタクロウと仲間達から呼ばれる事になる彼がレイの勇者パーティーとの初会合の時であった

 

 

「なるほど……タクロウは俺達の世界とはまた別の世界から来たんだね」

 

「し、信じてくれるのか!? そんなにあっさり壮大な話を!?」

 

 レイ達が野営地として設置した魔力布で編まれたテントが立つ野営地に招かれ、ティアーナとスワロウが夕食の調理に携わる傍ら、レイに促された事で共に焚き火を囲み、特に打算も無く自分の事情を語った拓郎は、それをレイが頷き一つでそれを受け入れた事で思わず驚愕の声をあげる

 

「勿論だよ。タクロウの話は確かにちょっと驚いたけど………」

 

 そう言うとレイは差していた剣を鞘ごと腰から引き抜くと、拓郎に良く見えるように正面へと突き出した

 

「この剣はただの剣じゃなくて聖剣。この世界では創造の女神であるアマトー様に選ばれた人間だけが手にする事が出来るって言われてるんだ。………つまり俺もタクロウと同じく女神様に選ばれた人、許可を貰って俺は勇者を名乗らせて貰ってるよ」

 

「……!!」

 

 その言葉に再び拓郎は驚愕する。転生して一週間、初めて遭遇した人間がまさに渡りに船と言うタイミングで自身がアマトーから事前に探すように言われていた勇者に遭遇したのだ。あまりにも良すぎるタイミング。それは全てアマトーの計画なのか、否、もしそれが全く関係無いとしたのならそれは………

 

「運命……?」

 

「………? 運命がどうかしましたか?」

 

「うひゃあ!?」 

 

 何気なく呟いた瞬間、突如として背後からティアーナから声をかけられ拓郎は声をあげる。しかもその声は内心の動揺が顕になったかのように少女のような甲高い声であった

 

「(は、恥ずかしいいいいぃぃっ!! 居眠りした所を起こして助けて貰った上に! 今の声! 俺、今日一日でどんだけ恥かくんだよ!?)」

 

「あ……すいません。驚かせるつもりは無かったのですが……夕食が出来ましたので」

 

 内心で盛大に拓郎が自分自身を罵倒する中、ティアーナは心底申し訳なさそうにそう言うと頭を下げる

 

「い、いえっ! 今のは俺が悪かったですし何も……!」 

 

 その優しさで更に申し訳なさを感じた拓郎は慌ててそう言おうとし

 

「な、にも……」

 

 その瞬間、鼻腔に飛び込んできた芳しい匂いに思わず次の言葉は止まり、自然と鼻が動いてその匂いをより丹念に嗅いでいた

 

「ふふっ、これですか? これはクリームシチューですよ。先日助けた酪農家さんからお礼に貰った牛乳とお野菜。今日狩った野ウサギのお肉で作ったものですよ。さぁ、どうぞ?」

 

 そんな拓郎を見てティアーナは微笑みながらそう言うと、そっと拓郎の手に藍色の陶器に入ったクリームシチューと木のスプーンを手渡す。その瞬間、腹が一つ音を立てる。そこで拓郎は漸く自身が酷い空腹に襲われている事に気が付いた

 

「ありがとう……ございます! ………いただきます!」

 

 だからこそ受け取った途端、拓郎は簡潔にそれだけをティアーナに言うとすぐに受け取ったスプーンでシチューを掬っうと息を吹きかけて冷ましてから口へとかっ込む。「イタダキマス……?」と、不思議そうに聞き返すティアーナの声は聞こえてはいたがそれを理解するより早くシチューの味が拓郎の舌へと伝わり────

 

「あ────」

 

 瞬間、拓郎は明日生きれるかも分からぬ思い出した

 

 畑が近くにあった為に少し草の匂いがする自宅、愛犬が引っ掻いた後が残る日焼けした畳、有名な変わり者だが決して自分の話を頭ごなし否定した事は無い父、そしてかなりおっとりとした性格ででもいつも優しかった──

 

 

「(母さん…………)」

 

 気付けば拓郎の頬を涙が伝う。しかし、それでもシチューを口に運ぶ手は止まらない。涙は一向に止まらず気が付けば鼻水まで垂れている感覚があったがそれでもスプーンを口に運ぶ手は止まらない

 

「(そうだこのシチュー………似てるんだ。母さんが作ってくれたシチューに……)」

 

 ありありと蘇るのは、家族の記憶と暖かい記憶。勿論、いい記憶ばかりでは無く喧嘩だってしたし泣きながら家を出た記憶もある。しかし、それでも

 

「(会いたい……! 父さん……母さん……!! 皆に会いたいよ……!!)」

 

 転生してから一週間、この世界に来てから初めて人の暖かさに触れた拓郎はそう強く実感した

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