最強勇者パーティー(9割マザコン)から追放された賢者(みんなのお母さん)ですが、皆が中々、母離れしてくれなくて困ってます 作:塩ようかん
「ごめんタクロウ……本当はすぐに君を近隣の村まで送ってあげたいんだけど……そう言う訳にもいかないんだ」
翌朝、空腹を満たした後、久方ぶりに落ち着いて熟睡したまま朝を迎える事が出来た拓郎は朝食の席で開口一番、レイに頭を下げられそう謝罪された
「僕達は今、オーク軍団退治の緊急の依頼を受けているんだ。……この場所では今から引き返せば間に合わなくない。そうなればどんな被害が生まれるか……。だからタクロウ、危険を承知の上でお願いするよ、戦わなくてもいいから安全の為に俺達に同行してくて欲しいんだ」
「い、いいって! こうして助けて貰っただけでも十分過ぎるくらいだからさ! 頭なんか下げないでくれよ! なっ!?」
立派な鎧と剣を身に付け、尚且つ同性の目から見ても十分に美少年に見える容姿のレイが迷いなく自分に向かって頭を下げる姿に耐えられず拓郎は慌ててレイにそう呼びかけ、無理矢理笑顔を作りながらそう言った
「(いやさ、そりゃあ偉そうな奴とか暴力的な奴よりは断然マシだけどさ……何かあからさまに俺よりカッコいい奴が俺に迷いなく頭を下げるのは……何か落ち着かないっての! 今はたたでさえ情けない姿を見せた負い目があるのに……)」わ
「そ、それにほらさ……俺だって戦う力は持っているんだぜ!? 何もしないってのは逆に申し訳なくて居心地悪いから俺も無理しない程度には一緒に戦うよ! ご飯の礼って事で!」
「た、タクロウ…………」
その動揺と胸のつかえを誤魔化すべく拓郎はそれが自分の悪癖だと知りつつも次々と『絶対に不可能ではない』言葉を口にし、へらへらと笑って無事をアピールさえしてみせた。そんな様子が見るだけで察してしまったのだろう、レイは困ったような顔を浮かべると助けを求めるように視線をまずはフレア、次にスワロウと順番に向けていく
「……どうしよう、母さん……」
結果的にレイは年長者であり、自らの母親であるティアーナへと助けを求める。それは昨日タクロウが出会った時点では冷静で落ち着いた剣士であったレイとは大きく異なる、未だに弱さが残る『少年』の姿そのものであった
「そうですね……まず、ここでタクロウ君を置いていくのは論外として……タクロウくん、少しいいですか?」
問われたティアーナは顎に手を当て、思案するように首を傾げると天女のように殆ど足音も立てる事無く吐息がかかりそうな距離にまで近くに拓郎の元へと歩み寄るとその赤い瞳に拓郎の姿を見せる
「は、はい……」
「(タ、タクロウくん……それにこの視線……)」
視線を向けられた拓郎は少しばかり萎縮しながらそう答える。それはティアーナの姿が拓郎の記憶にある女性の中で、最も美しい姿をしている事もあった。だがしかし、一番の理由は
「(これ……完全に母親が子供を見る目だ……)」
それは魅力的な外見を押し退ける程に強くティアーナから放たれる圧倒的な慈しみと慈愛が込められ、実の母にも匹敵する程に強い母性の波長だった。その感覚がどうにもくすぐったく、タクロウの背中をムズムズとさせていたのだ
「脅すようで申し訳ないのですが、私達の冒険は本当に危険を伴います。勿論、最大限の警戒はするつもりですがそれでも万が一と言うのがあります。……それを承知でも付いて来てくれますかタクロウくん? 勿論、無理と言うのならば代案を考えますが」
「お、れは………」
そして拓郎が選んだのは………
◆
「(落ち着け……落ち着け……呼吸も慎重に……でも直ぐに動けるように出来るだけ強張らずに……)」
それから数時間後、自分の手が目を凝らすことで漸く見えるほどに薄暗い洞窟の中、二人が横に並べば互いの肩がぶつかってしまう程狭い道に拓郎は何時でも抜けるように剣の束を握りつつ息を潜めていた
洞窟の中はじっとしていても汗ばむほどに湿気が酷く、立っている拓郎を踏み台代わりにカマドウマが飛び越えてゴツゴツした壁に捕まり立ち去ってはまた現れると言う快適とは言い難い状況ではあったが拓郎にそれに構っている余裕は無い。拓郎がそれほどまでに集中しているのは視線の先、ただ一つだ
それは拓郎から10メートル程離れた先の開けた空間
拓郎が通っていた高校の教室程度の広さのそこは、偶然かはたまた計算して付けたのか天井には1メートル程の亀裂が走り、そこから太陽の光が差し込む事で洞窟の奥底にも関わらずスポットライトのように照らしていた
その光を中心とし囲むように、まるで人間がシャンデリアの下で着飾り豪華な食事を取るように、極度に大柄で肥満体の人間身体に豚の顔と蹄を付けたのかのようなモンスター………オークが数十体ほど集まり、人間から奪った食料や酒、自分達で焼いた獣の肉を囲み盛大に騒ぎ、宴会を楽しむ真っ最中だった
そして何より、そこにいるのはオークだけでは無い。光を一番受ける場所、スポットライトの中心部には自分達の狩りの成果を誇るようにオークと食料に囲まれる形で荒縄で乱暴に拘束された若い女性達、中には少女と言える程度にまで幼い外見の者までがいた
『村の人達の話を纏めると、村を襲ったオークが持ち去ったのは蔵で保存していた農作物や干した肉や魚と言った保存食、自家製の酒樽十本。そして………村の若い女性達。中にはまだ十歳にも満たない子供までいる』
『オークの数も多い………早く助けないと手遅れになる』
拓郎が脳裏で何度も反覆させるのは洞窟に突入する前のミーティングでレイやスワロウから聞いた話と作戦内容。簡潔に言えば今回の作戦はレイ、フレア、スワロウの3人が主体となってオーク達に奇襲をかけるもので拓郎の役割はオーク達の退路である洞窟のもう一つの入り口の封鎖。つまり、今現在拓郎が立っている場所こそが追われたオーク達が通る可能性がある退路なのであった
『オーク達のレベルもそこまで高くはなさそうだし私達で殲滅は出来ると思う。タクロウの身に危険が及ぶ事は殆ど無いと思うけど………』
『大丈夫、3人の手が届かない所は私がしっかりタクロウ君を守りますからね〜』
当然と言うようにレイ達は拓郎へのフォローを考えており、万が一でもレイ達が取り逃したオークが一定以上出口に近付いた瞬間、待ち構えていたティアーナが魔法で撃ち抜く仕組みとなっており、拓郎がやる事はオークが向かって来た場合、それを伝えるだけで出口に逃げてもその場に隠れていてもいい。そうとまで言われた
「(……それは本当に嬉しい。俺に気を使ってくれているのもよく分かる。でも……)」
だがしかし、拓郎の心の中には形容しがたい曇りがあった
「(本当にこのままでいいのか? 確かにまだ怖いけど………自分で選んで転生して力まてま貰ったというのに……こうして誰かの優しさに甘えるだけなんて……そんなの……)」
それは現代の日本で生きていた拓郎だからこその論理感。そして何の苦労もせずに力を得た事による責任感。その迷いが拓郎の頭の中でぐるぐると回り、迷わせていたのだ。と、その時だった
「タクロウ気をつけろ! そっちに一匹行ったぞ!!」
意識の中にトリップしていた拓郎の意識を切り裂くようにレイの警戒を促す鋭い声が響く
タクロウが気が付けば既に周囲はレイの剣やスワロウの弓の攻撃により噴き出るオークの血による鉄錆臭い臭いと、フレアの魔法による眩しい閃光が薄暗い洞窟を彩り、現実離れした幻想的な光景を作り出していた
「ブグウウ…………!」
そして、その幻想の中を片手に巨大な石斧を持ったひときわ大柄なオークがうなりながら真っ直ぐに拓郎のいる方角に向かって鼻息を荒げながら突っ込んで来ていた。既にスワロウによって攻撃を受けたのか、脇腹と肩には矢が突き刺さり一歩歩く度に血が噴き出していたがその目に弱っているような様子は無く、自らの行く手を邪魔するのならば例え同族でも攻撃しかえない程の殺気すら放っていた
「っ……!」
その迫力に押された拓郎は武器を抜くのを忘れ思わず一歩、後退する。と、その瞬間、オークが近付いていた来た事と、同じタイミングでフレアが雷魔法を使った事で洞窟が照らされた事で気が付いた
迫りくるオークがもう片手で拓郎よりずっと幼い、小学生程度にしか見えない少女を雑に抱えている事を。その少女が拓郎に気付いたのか両目から一杯に涙を流しなが視線を向けて唇を動かした事を
『た・す・け・て』
「うっ……うおおおおおおおぉぉぉっっ!!」
唇の動きで何を言っているのかを理解した瞬間、拓郎は洞窟中に響き渡るような声で雄々しく叫び、握りぱなしだった剣を抜き、オークに向かって走り出していた
「(そりゃあさ、今だって戦闘になるって考えただけで怖いし、大量の血とか内臓を見るのは勘弁願いたいよ! あぁ、分かってた……こんか心の俺じゃあ物語に出てくるヒーローになれはしないんだって。……でもねぇ!)」
近付いてくる拓郎を目にしたオークは鋭く睨みつけると手にしてた石斧を大上段から振り下ろし、迫る拓郎の頭を脳天から力任せに叩き割ろうとしていた。が、それでも拓郎は足を止めない。全速力で石斧に向かい走り続ける。ティアーナとレイの警告するような叫び声も耳には届いてはいたがそれが届く頃には既に石斧は拓郎の眼前へと迫っていた
「それでも! こんな光景見せられてもただビビって逃げれる程、卑怯者じゃないんだ俺はっっ!!」
いよいよ命中せんとした石斧に対し拓郎が選んだのは回避でも防御でも無く攻撃。石斧の刃部分に向けて剣による最大限の補助を受けつつ横一線を放つ
その瞬間、庭石程の大きさの石斧がまるで綿でも切るように軽々と持ち手ごと真っ二つに切断され、滑らかな断面を晒しながらオークの手を離れ、大地へと落ちていった
「ブグッ……!?」
そして渾身の一撃を衝撃的な方法で無効化されたオークが思わず唸った瞬間には
「らあゃあぁっっ!!」
返す刀で放たれた拓郎の追撃が驚愕の表情を浮かべたままのオークの首を一刀両断し、同時に拓郎は力が緩んだオークの手から少女を奪い返すと守るように抱えたまま、首を失った事で土煙を上げながら崩れ落ちる巨体から離れる
「(俺のこの力はレイ達みたいに努力した得たものじゃなくてチートだ。……言い方を悪くすれば卑怯で得たズルだ。でも、それでも……)」
背中から浴び、顔にまで飛び散った返り血を片手で拭いながら拓郎は自ら助け出した少女の様子を顔を近付けて確認する。幸いな事に突然の攻防で意識を失ってはいたがその顔は穏やかな物であり、抱き返る手からしっかりと命の鼓動と呼吸を感じ、拓郎は心底安堵した
「(それでもこの道を選んだのは俺の選択だ。だったらせめて言われた通り、勇者であるレイ達を助けて一緒に旅をして……旅が終わるまで出来るだけ戦えない多くの人を助けよう。その時こそ俺は)」
「タクロウ! 大丈夫か!?」
洞窟の奥から歩みよってくるレイの声と足音が聞こえる。どうやら既に戦闘は終わったらしい。その声に応えるように手を振る形で返事つつ拓郎は静かに誓う
「(その時こそ俺は本当になれる気がするんだ。物語に出てきた主役達のように……臆病で卑怯者の転生者の木ノ宮拓郎じゃない、この勇者パーティーの戦士として誇れる『タクロウ』に!)」
こうしてこの日から与えられた力だけでは無く、心まで戦士として相応しく生きる事を誓った拓郎はやがてその名を元から有名だったレイやフレアと共に世界に広めて行く事になる
……尚、タクロウがこの勇者パーティーの実態を知り、凄まじく微妙な表情をする事になるのはここから1週間程、後の事であった