風の支配者 作:ベルト不使用
おばあちゃんの開いたゲートを通って、スカイランドへは問題なくたどり着けた。
名前の通り、空に浮かぶ大陸に
俺とましろ、ソラちゃんにツバサくんは、エルちゃんの両親である国王夫妻の前にいる。
「そなたたち、よくぞ我が最愛のプリンセスを守ってくれた。命だけでなく、その笑顔も」
「本当に、感謝しています。よくやってくれました」
王様たちから直々に労いの言葉をかけられて、柄にもなく身を引き締める俺。
ましろもだし、現地人の二人の緊張感は相当なものだろう。
まあ国王夫妻は威張り散らすような態度は
「ソラ、ましろ、ツバサ、ふうか。そなたらは、スカイランドのヒーローだ!」
王様の言葉でツバサくんと、特にヒーローを目指すソラちゃんは目をキラキラさせながら喜んでいる。
その王様の腕に抱かれるエルちゃんも、親元に帰されたことですっかり安心した表情だ。
……ちょっと寂しい気持ちもあるけど、子供は、特に赤ちゃんなんて親と一緒にいるのが一番だからね。
「プリンセスが戻ったぞー!」
「お帰りなさい、プリンセス!」
王様は帰ってきたエルちゃんを街の人々に見せてあげ、みんなして彼女の帰国を喜んでいた。
城下はちょっとしたお祭りのような陽気さでにぎわい、俺たちも笑顔で歓迎されている。
褒められるのもいい気分だが、自分のしたことでみんなが喜んでくれるのを見るのも、もっといい気分になるね。
そして今、俺とましろ、ツバサくんの三人は城下の街を散策してから、一軒の食堂で昼食をとっていた。
ソラちゃんはというと、彼女の憧れの人であるスカイランドの護衛隊──その隊長のシャララさんと再会し、親交を深めているところだ。
邪魔しちゃ悪いから、というましろの気づかいで席を外したってわけ。
我が妹ながら、気配りの達人だねほんと。
「ツバサくん、食べないと冷めちゃうよ?」
異世界の食事は地球のシチューに似ていた。
シチューっぽい
ツバサくんは、先ほど王様から言われた言葉を
「だって、『これからもプリンセスのナイトとして側にいて欲しい』って頼まれたんですよ!」
「『子守り役として』、じゃなかったかな?」
スプーンを口に運ぶ手を止めて、ましろはつっこんだ。
「俺も同じこと言われたよ。確かに『子守りとして』って言ってた」
チシューの中身は人参にジャガイモ、玉ねぎと、あとなにかの肉。
うん、地球のシチューと変わりないね。
ところで、とツバサくんが話題を変えた。
「お二人は、本当に王様からのご褒美がいらないんですか?」
「特に欲しいものはないし、エルちゃんがお家に帰れただけで十分だよ」
妹よ、欲が無いのは美徳だけど、そんなんじゃ人生損するぞ?
「俺はお金が欲しかったけど……この国の通貨、ソラシド市じゃ使えないからなぁ」
宝石とか貰っても換金できないし、眺めるだけじゃ宝の持ち腐れだし。
他に代案もないから、俺も丁重にお断りした。
まあ、ましろの言うように、タダ働きして損したーなんて考えは微塵もないからいいけど。
「そうだ、あげはちゃんへのお土産として、なにか宝石でも貰えばよかったかも」
「それはちょっと重すぎるんじゃないかなぁ?」
「変に勘違いされますよ?」
俺の思いつきに柔らかな反論を投げかける二人。
俺は自信満々で、こう答える。
「勘違い結構! なんなら勘違いさせて結婚、からのヒモ生活を目指す!」
「お兄ちゃん、いつまでもそんな冗談言ってると、本当に怒られるからね?」
確かに、いい加減止めとかないと向こうが本気にしたら、俺のせいで婚期を逃されても困る。
ジト目をよこす妹にそんなことを言えば、いよいよ軽蔑の眼差しで刺されそうで、俺はそれ以上の発言は控えるのでした。
◇ ◆ ◇ ◆
なんか、スカイランドの周辺にランボーグが
この国に来て数日が経ったが、その間に国の外の町やそこかしこで、ランボーグが出現するようになった。
青の護衛隊というスカイランドの警備隊の人たちが、その対処に当たっている。
護衛隊に入ったソラちゃんも、シャララ隊長に連れられて今は街の外へ。
今の所護衛隊だけでランボーグを倒せているため、ましろたちプリキュアにはお呼びがかかっていない。
ランボーグの生みの親は、バッタモンダーというアンダーグ帝国の新幹部だった。
エルちゃんを狙っている奴らは、彼女がスカイランドへ帰ったのを知って、ここまでついてきたようである。
ストーカーかよ~、勘弁してくれぇ……。
そんな敵さんのしつこさに引き気味の俺は今、王宮の一室でツバサくんと共にエルちゃんの相手をしているところだ。
ツバサくんが絵本を読み聞かせて、俺はエルちゃんを膝の上にのせて楽をしている。
なんかこの子、このポジションが気に入ってるみたいなの。
ツバサくんの朗読の声が室内に静かに響き、きゃっきゃと喜ぶエルちゃんと、邪魔しないようにイスに徹する俺。
数冊分の絵本を読み終えた彼が、本を置いてエルちゃんに言う。
「プリンセス、そろそろお昼寝の時間ですよ」
「え~。やー!」
速攻拒否ですか。さすが皇女さまですね。
と二人のやり取りを黙って見ていた俺の手を、エルちゃんが不意ににぎってきた。
「? どしたの?」
「いっちょにねぅ」
どうやら、俺も一緒に寝るなら寝てやるよ、と言ってるようだ。
そういえばソラシド市でも、彼女が一人じゃ眠れない夜に、一緒に添い寝してあげたっけ。
でもね
「エルちゃん、そろそろ一人寝にも慣れなきゃ」
「や!」
「俺も、いつまでも一緒に居られないんだからさ?」
エルちゃんを抱き上げて、なるべく優しく諭す。
いられることなら居てあげたいけど、俺も向こうで学校があるからさ……せめて高校くらいは卒業しとかないと。
だから、そのまま彼女の小さな体を、ツバサくんに差し出す。
「これからは、添い寝役は君に任せるね」
「ふうかさん……」
ちょっとだけ、しんみりした空気が流れる。
湿っぽいのは苦手なんだよなぁ。
空気を変えるため、俺は最後の思い出にと、三人で並んで昼寝することを提案したのだった。
「あれっ。俺、寝てたよな?」
ちょっと前にツバサくんとエルちゃんとで、なかよく川の字でベッドに入ったのを覚えている。
しばらくしてウトウトしだして、意識がぼんやりとして……
「じゃあ、これ夢だぁ」
夢の中で俺は、一人で草原のような場所に立っていた。
どこだろうここは? スカイランドのどこかに思えるが……。
不意に、青空だった風景が変わり、黒雲が立ち込めてきた。
雨が降るよりも、もっとひどい天候になりそうな予感を覚える。
「うわっ」
竜巻だ。
突如、黒い風によって起こされた竜巻が、俺の前に吹きすさぶ。
そして──ありえないことに、竜巻の中に一人の人間のシルエットがのぞいた。
いや、これは夢なんだからなんでもアリか? 夢にしては妙に現実的な感触だけど……。
竜巻の中の人間は、ゆっくりと俺に語りかけてくる。
『お前こそ、我が魂を継ぎし者。──受け取れ、私の力を』
なに言ってんだ、こいつ? 夢にしても意味不明が過ぎるだろ。
風の中の黒い影は、俺のことを指さす。
その指の向く先──俺の右手に、いつの間にか
「……んぁ」
なんか変な夢見た。
目覚めた俺は王室のベッドの上で、隣にはエルちゃんとツバサくんが、まだ眠ったままの状態でそこにいる。
「えっ?」
起きてすぐ、右手に違和感を感じて視線を降ろす。
俺の右手には、さっき夢で見たばかりの白い指輪が、夢と同じようにはまっていた。
「え、え、なにこれ怖い」
どういうことなの?
不思議な出来事に動揺する俺の声で、横の二人も目を覚ます。
「これ、エルちゃんがなにかした?」
「える?」
過去にツバサくんたちにプリキュアの力を与えたのが、なにを隠そうこのエルちゃんである。
だったら俺のこの指輪もさっきの夢も、この子がなにかしたって考えるのが自然だよなぁ?
だけど、当のエルちゃんは俺の質問にも、キョトンとした顔を返すばかり。
「なんなんだよマジで……」
白い指輪は羽根のようなデザインで、真ん中にはオレンジ色の宝石みたいなものが埋まっている。
デザインが美しいからか、その出現の異様さの割に、この指輪に対する恐怖のような感情は次第に薄れていった。
さっきの夢を思い返しても、黒雲におおわれた不穏な世界の中にあって、黒い風の人物には恐ろしさなど少しも抱かなかった。
その言葉には静かなる大人の威厳があり、見ず知らずの存在である俺への信頼を感じさせた。
「俺に力を託したって、どういうことだ……?」
その時、急に俺たちのいる室内が暗くなった。
窓の外から差し込む太陽の光が、
「うわ、なんじゃありゃあ」
窓の外に顔を出せば、上空には巨大すぎる一個の風船が浮かんでいた。
『ランボーグ!!』
風船が大声を上げる。どうやら風船の姿をした敵の襲撃らしい。
最後の思い出づくりをしてる時に、空気の読めない奴らだね、ほんとーに。
オリ主が変身して活躍するところまで2話以内に納めたかったんですが、自分の力量では無理でした…。
次回に持ち越しです。