風の支配者 作:ベルト不使用
いつもの六人プラスおばあちゃんそろってのにぎやかな虹ヶ丘家だけど、今は大半のメンバーが出払っていて珍しく静かだ。
ソラちゃんは日課のトレーニング。
ヒーローとしての
ツバサくんは飛行機の観察で、おばあちゃんは趣味の乗馬へ。
あげはちゃんは最近始めたバイトに行った。
ただでさえ専門学校に通って大変そうな上にバイトまで精を出すとか、バイタリティの塊かよ。(戦慄)
今、家には俺とましろ、エルちゃんの三人の
ましろは優雅に紅茶をたしなみ、エルちゃんは定位置の俺の膝の上でミルクを飲んでる。
最近、俺が哺乳瓶であげなくても、自力でコップを使って飲めるようになって、成長を感じるなぁ。(感慨)
と、エルちゃんが膝から降りて、どこかへ歩いて行ったかと思うと、すぐに何冊かの絵本を持って戻ってきた。
「よんで」
「だってさ?」
プリンセスの要望を叶えるため、俺は妹を朗読役に任命する。
ましろは特に文句を言うこともなく、
「……というわけで、二人は幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし」
再び俺の膝の上に座ったエルちゃんは、ましろの読む絵本をきゃっきゃと喜んで聞き入っている。
一冊読み終わってページを閉じると、エルちゃんはすぐに新しい本をとって、ましろに渡す。
「あいっ」
「もう一冊? わかった」
二冊目の朗読も終わり、変わらず楽しんだエルちゃんは、続けざまに三冊目を手にする。
「あいっ」
「はいはい、いいよ~」
三冊目が終わるとすぐに四冊目、四冊目が終わったら即五冊目、とエルちゃんは飽きることなく朗読をせがんだ。
これ終わらないパターン入ったね。皇女様だから事足りることを知らんのかな?
ましろもエルちゃんに甘いから、せがまれるままに延々と読み続け、やがて絵本のストックは尽きてしまう。
「よんで! よんで!」
もっともっとと要求するエルちゃんだが、同じ絵本を繰り返すのはお気に召さないようだ。
「また今度、新しい絵本を買ってあげるね? だから今日は、これでおしまいにしよう?」
「やー!」
やさしく言い聞かせるましろだったが、しばらくエルちゃんはぐずるのでした。
また別の日。
公園の砂場で遊んでいるエルちゃんを、俺とましろ、ソラちゃんの三人が、後方保護者面で見守っている。
スコップで砂をすくってバケツに入れたり、それを元に戻したりするだけで、なんであんなに楽しめるのかねぇ?
子供の感性って不思議だ。
一人遊びを満喫する彼女の元へ、トコトコと見知らぬ同い年くらいの男の子がやってきた。
「あ、お友達ですよ、エルちゃん」
そう、ソラちゃんが声をかけるが……当人はガン無視だよ。
プリンセスは下々の者とは触れ合わない主義なんだろうか。
男の子はエルちゃんと一緒に遊びたそうだが、彼女はというと、自分の使っていた玩具を貸したくないようで……
「だーめ!」
「いけませんよ、エルちゃん。そんな心の狭いことで、どうするんですか?」
お前のものはお前のものでいいが、俺のものは全部俺のもの、という確固たる意志を感じる。
俺はそんな彼女の素質を察して、ちょっとだけ将来を案じる。
「う~ん、どうやらエルちゃんには、暴君の素質があるね」
「ボークンってなんですか?」
「わがままな王様、ってことかなぁ」
「それはよくありません! なんとかしないと、エルちゃんがジコチューになってしまいます!!」
彼女の未来を危ぶんだソラちゃんは、今すぐにどうにかしなければ、と大いに焦る。
優しいプリンセスになって欲しい、とう願いなら俺も、他の皆も同じだろう。
「でも、怒って言い聞かせるのも、よくないんじゃないかなぁ?」
ましろの言うことももっともだ。さて、じゃあどうしようか……。
あっ、と俺は妙案が思いつく。
「エルちゃん絵本が大好きみたいだから、それを通して間接的に伝えればいいんじゃね?」
「さすがふうかさん、ナイスアイディアです!」
「じゃあ、今からそんな絵本を探してみようか」
ましろの提案で俺たちは本屋へ向かったのだが、結果……色々見ても、要望に合った内容の絵本はありませんでした。
困ったね。
そうしたら、なんとましろが、自分で想いを伝えられるような絵本を描く、と言い出したのだ。
マジで? 絵本って子供向けだけど、それだからこそ結構つくるの大変だって聞くよ?
「大丈夫! おにいちゃんも一緒に手伝って!」
「うん! ……うん?」
なんか、ナチュラルに共同制作者に指名されたんですが。
まあ妹にこうやって頼られるのは、悪い気はしない。
エルちゃんのためにも、一肌脱いでやりますかぁ!
二人でアイディアを出しあい、協議を重ねて、共にストーリーを考える。
最後に、ましろが絵を描いて俺が色づけする、という工程を経て、ついに虹ヶ丘兄妹作の一冊の手作り絵本が完成した。
「二人とも、よくやったわね」
おばあちゃんが、そう言って
「ましろさんも、ふうかさんも、こんなに一つのことに熱中しているところを、初めて見たわ」
そういえば、ましろも俺も将来の夢なんて無く、そのせいか熱を入れて取り組むなにかに出会うこともなかった。
……秘かに心配かけてたのかな? 絵本の完成を見届けたおばあちゃんも、なんか嬉しそうだ。
「ねえ、せっかくだから、今ソラシド市でやってる絵本コンテストに、二人の作品も応募してみたらどうかな!」
あげはちゃんの言で、思いもかけず俺とましろの共作は、プロの審査を受けることとなった。
突発的な思い付きのため、なんと提出の締め切り時間がもうすぐだ。
俺たちは大急ぎで市役所へと向かう。その最中、例のアイツが性懲りもなく顔を見せに来た。
「「「「「バッタモンダー!!」」」」」
「やあ、久しぶりだね」
お久しぶりね、じゃねえんだよ! この忙しい時に野郎、ふざけやがって!!
バッタモンダーはましろへの嫌がらせかのように、信号機をランボーグに変えて絵本の提出を妨害してくる。
「みなさん、いきましょう!」
「いやちょっと待った!」
プリキュアへの変身を
「時間ないし、みんなは先に行け! ここは俺が食い止めるから」
「お兄ちゃん一人で大丈夫なの!?」
「妹のためだ、頑張っちゃうもんね!」
俺の意思に反応して、指輪がオレンジの輝きを放つ。
ポケットからもギガバハムとクロアナの二枚の紙片が躍り出て、俺は手の平で三角形の形を作った。
このポーズに意味はないけど、なんとなく力が溜まっていく感じがする。
「変身ッ」
呪文を唱えて、指輪と紙片の三つのアイテムが、俺の体を変容させる。
「なるほど、君が正体だったのか」
「ああ。字は仮面ライダーウインドだ、覚えておけ!」
対峙するバッタモンダー&ランボーグと俺。
敵が俺に意識を引き付けられている隙に、ましろたちは横を抜けて市役所へと駆け出す。
「いいさ。君程度、すぐに倒してあげるよ」
「そう簡単にいくか……ね!」
俺は手を差し出し、さっさとクロアナのブラックホールで敵を飲み込んでしまおうとする。
が、突然俺の体の動きが、ピタリと停止した。動けない、というか、動きを止められた?
「僕は優しいから教えてあげるよ。このランボーグは赤信号になると、相手の動きを止めることができるのさ」
「え、チートじゃないそれ?」
『ランボーグ!!』
信号が青に変わると、今度はランボーグの動きが加速した。
すごい速さで俺は殴り飛ばされ、ビルの壁面に激突する。
スーツを着てるから命は大丈夫だけど、結構痛いぞこれ!?
「このっ……!」
すぐ立ち上がって反撃しようするも、また動きを止められてから、相手が加速してやられてしまう。
ちょっと、これ……一人じゃヤバいかも。
と焦っている間にも、俺はランボーグの能力のせいで一方的にボコにされていた。
「あははは! やっぱり君、弱いじゃないかぁ~」
「お前はなにもしてないだろ……ッ」
反論しても反撃できない。
マズい、せっかく力を手にしたのに……これじゃ俺、役立たずのままだ。
「そこまでだ!」
不意に聞こえる仲間の声。
見れば、キュアウイングに変身したツバサくんが、ランボーグから俺を庇うように立っている。
「ちょ、なんで戻ってきたの!?」
「心配いりません。来たのは僕だけで、皆さんは市役所ですよ」
「あ、そうなの? ならよかった……?」
俺はウイングに助け起こされる。
「ふうかさんも、一人で無茶はダメでしょう! 頼ってくださいと言ったはずですよ」
「……確かに言ってた」
いつか、一人で突っ走ろうとするソラちゃんに、ツバサくんは柄にもなく怒って、そう注意していたっけ。
年下に諭されるなんて、俺もまだまだですなぁ。
「じゃあ、一緒に戦おうか」
「はい!」
俺とウイングは、並んで敵と対峙する。
とはいっても、あの信号機の停止能力は厄介すぎるんだよな。
その上加速するし……加速? 加速か。
「ウイング、俺たちも合体技だ!」
「え、どういうことですか?」
「こういうこと……」
相手に聞こえないよう耳打ちして、スカイとプリズムのようなコンビネーションを
即席だけど……まあ、なんとかなるでしょ。
「いきます! ひろがる・ウイングアタック!!」
「止めろ、ランボーグ!」
ウイングは必殺の体当たりを披露し、当然敵はこれを阻止しようとする。
そこで俺は、背後から風を操り、竜巻を発生させてウイングの加速速度をさらに上げた。
ウイング自体が止められてもアタックのエネルギーは周囲を取り巻いたままなので、竜巻で後押しすれば無理矢理だけど、制止空間を突破できるってわけ。
「名づけて、ウイング・トルネードアタックだ!!」
『ランボー!?』
狙い通り、赤信号でもキュアウイングは止まらず、彼の体当たりを受けたランボーグは、綺麗に浄化されたのだった。
絵本は無事提出できたわけだが……後日、市役所からの合否返信には、残念なお知らせが書かれていた。
「せっかく二人で作った絵本なのに、落選かぁ~」
あげはちゃんは自分のことのように落胆していた。
俺はというと、特に賞がもらいたかったわけでもないので、別にガッカリもしていない。
一番張り切っていたましろは……
「でも、お兄ちゃんと一緒に作業ができて、楽しかったよ」
以外にもノーダメージ。
それどころか、次こそは金賞を目指す、と次回作の制作に取り掛かっているしだいだ。
「それに、エルちゃんが喜んでくれたのが一番だよ」
そう、元々の目的であるエルちゃんのための絵本は、彼女のお気に入りの一冊に仲間入りを果たしたのだ。
今も俺の膝の上で、エルちゃんは俺とましろが描いた絵本を、一生懸命読みふけっている。
「これでエルちゃんの情操教育もバッチリですね!」
万事解決、めでたしめでたしと笑顔のソラちゃん。
その横でエルちゃんは、ましろにこう言うのだった。
「つぎは?」
「続きはこれから描くんだよ~」
「はぁく! はぁく!」
「ちょっと待っててね」
「や! いまよみたい!」
彼女のわがままを直すのは、そう簡単じゃないようだ。
……やっぱこの子って暴君の気質あるわ。