風の支配者 作:ベルト不使用
スカイランドの外れの方にある草原に謎のゲートが開き、そこからアンダーグ帝国の支配者を名乗る女性、カイゼリン・アンダーグが姿を現した。
連絡を受けて急行した俺たちは、変身してもなおカイゼリンの力の前に、あっさりと返り討ちにあうのだった。
「三百年待ったぞ、プリンセス。そして……」
カイゼリンは地面に転がるエルちゃんと俺を、憎しみのこもった瞳で見下ろす。
俺──というより、恐らくライダーのことだろう、彼女と因縁があるのは。
だって俺は初対面だし。
「かつての恨みを晴らさせてもらうぞ……!」
カイゼリンが構えた掌にアンダーグエナジーが収束していく。
話し合いの余地もなく、彼女は俺たちにとどめを刺そうとしてくる。
ヤバい、このままじゃ俺もエルちゃんも……他の皆もっ。
その時、かたわらに落ちていたマジェスティクルニクルンが突如として輝きを放ち、場面が一変した。
「大丈夫ですか、貴方たち」
俺とエルちゃん、ソラちゃんとましろの四人は、いきなりスカイランドの街中に転がっていた。
目の前には、エルさんにとてもよく似た一人の女性が。
「私の名はエルレイン。このスカイランドのプリンセスです」
街の様子といい彼女の存在といい、どうやら俺たちは三百年前のスカイランドに飛ばされたようだ。
あるいは、クルニクルンが三百年前の記録を追体験させているか……。
怪我をしていた俺たちは、エルレインさんの好意で城に通され、治療を施された。
一息ついたソラちゃんは、スカイランドに伝わる伝説──つまりは、これから起きるこの国の危機──を彼女に伝える。
『嵐が吹き荒れる晩に、闇の世界の住人がスカイランドに攻め込んできた。ヒーローを求めた姫の祈りに応えるように、勇敢な戦士が現れて、スカイランドは救われたのでした』
「不思議なお話ですね」
当然と言えば当然だが、見ず知らずの俺たちの話はやっぱり信じてはもらえなかった。
しかし、その日の夜にことは起こった。
スカイランドの上空に突然の嵐が巻き起こり、闇に包まれた地上に予言の怪物が攻め込んできたのだ。
「我こそはアンダーグ帝国の支配者、カイザー・アンダーグ! 弱き者がうごめくこの無価値な世界を、踏みつぶしに来た!」
「あれが、過去の帝国の王……」
街を襲う多数のランボーグ。
なぜか変身できなくなった俺たちは、それでもなんとかしようとするが……
「ここは危険です! 一緒に避難しましょう!」
非力な人間に怪物の相手は荷が重く、エルレインさんと共に国を出るほかなかった。
街外れの草原に逃げ延びた人々。
その中でエルレインさんは、崖の上に立ち伝説と同じように祈りをささげた。
彼女の長い祈りの果てに、一筋の嵐がプリンセスの前に吹いた。
「! あれは……!?」
俺の目に、嵐の黒い風の中に浮かぶ、一人の人間のシルエットが映る。
それは誰あろう、俺が変身する仮面ライダーの姿だった。
ライダー……ウインドが、静かに皇女の前に降り立つ。
「……あなたも、アンダーグ帝国の者ですか?」
「その通り。我が字は『アルケミス』」
アルケミス……それが
そして彼は、元々アンダーグ帝国に生まれた闇の錬金術師だという、俺たちにとって衝撃の事実が明かされた。
エルレインさんを討ち取りに来たのか? と思えば、どうやらそうでは無いらしい。
「長く帝国に仕えたが、私の力は破壊にしか用いられることはなかった。ふと思ったのだ、それでいいのかと。力とはもっと、別のなにか……正しい使い道があるのではないのか」
アルケミスは自分の力の使い方、もっと深く──自分の存在そのものに疑問を持ち、その答えを求めてエルレインさんに会いに来たという。
「光り輝くスカイランドのプリンセス、そしてこの国の人々を救うため──我が力を役立てたい」
「帝国のためでなく、私たちを助けてくれるというのですか……?」
うなづいたアルケミスは、指輪の力を使ってエルレインさんに、とあるアイテムを授けた。
それは、ましろたちにエルちゃんが与えたのと同じもの──。
「これより私は、降り立つ気高き神秘、キュアノーブル」
アルケミスによってプリキュアに変身したエルレインさんが、静かに名乗りを上げた。
彼女こそ最初のプリキュアであり、プリキュアとはアルケミスの錬金術によってつくり出された存在だったんだ。
協力した二人はスカイランドにはびこるランボーグを一掃し、カイザー・アンダーグは撤退する。
それから数日して、アンダーグ帝国から新たな来訪者が二人の前に現れた。
現在の時間で俺たちを打ち倒した、まだ幼き日のカイゼリン・アンダーグである。
「お父様は、この世は力がすべてだと、そう言います。けれど私には、そうは思えない。だから……!」
エルレインさんも、この頃のカイゼリンも、共に同じ考えを持っていたんだ。
力と力のぶつかり合いがもたらすのは、破壊と涙だけだということを。
それはアルケミスも同じ。だから彼はアンダーグ帝国に反旗を
「私には、アルケミスのように国を裏切ることはできません……けど、この争いを終わらせたい気持ちは同じです。どうか、私にお父様を説得させてください!」
「…………わかりました、あなたを信じましょう」
カイゼリンの言葉に望みを託したエルレインさんは、日を改めてカイザーと対面することにした。
けど……
カイザーは娘をも騙し、プリンセスを呼び出した隙に、手薄になったスカイランドを配下に襲わせていたんだ。
「カイザァアアアア!!」
「やめてぇーっ!」
激昂したキュアノーブルの攻撃から父親を庇ったカイゼリンが、酷いケガを負ってしまった。
このまま手を打たなければ、命を落とすほどの大怪我を。
「あぁ……! なんということだ!」
「わ、私は、なんてことを……」
動揺をあらわにするカイザーとエルレインさん。
彼女はアンダーグエナジーによる治療を提案するが、カイザーが言うには、闇の力にそんな効果は見込めないと。
そこでアルケミスが一歩踏み出る。
「今こそ、我が力の本当の使い道」
アルケミスがカイゼリンの傷に手をかざすと、指輪が輝き
「これは……キラキラエナジー?」
「いや……アンダーグエナジーを変換しているのか!?」
カイザーの言葉に静かにうなずくアルケミス。
「私の闇の命を、等価交換の原則にのっとり、純粋な生命エネルギーに交換した。これでカイゼリンの命は繋がれる」
「し、しかし、それではお前が……」
「カイザーよ。我が王よ。これでいいのだ。これこそ本当の、正しき力の使い方……」
アルケミスは自分の行いに満足した様子で、なおも行為を続ける。
やがて彼の存在は生命の力へと置換され、カイゼリンの中へと消えていった。
自身の命を他者に与えるというアルケミスの自己犠牲を目の当たりにしたカイザーは心を改め、エルレインさんとも和解。
スカイランドとアンダーグ帝国の争いは終結した……はずだった。
過去の経緯の追体験が終わった俺たち四人は再び現在に戻され、改めてそのギャップに驚く。
どうして今のカイゼリンは、かつて平和を願った心を失いスカイランドを、エルちゃんやライダーを憎むのか。
「正気に戻ってくれ、カイゼリン! あんたアルケミスに命を救われて、プリンセスとカイザーの仲も取り持ったはずだろ!?」
俺の言うことに、いぶかしげな視線を向けるカイゼリン。
「なにを言っている……そのアルケミスとプリンセスこそが、我が父の命を奪った張本人ではないか!!」
「はぁっ!?」
なにいってだこいつ。話しが全然かみ合ってねえぞ!?
長く生きすぎてボケちゃったか?
「もはや問答は無用! ……ぅっ」
攻撃を加えようとするカイゼリンだが、突如胸を押さえて苦しみだす。
あそこは過去にカイザーを庇って、ノーブルの攻撃を受けた場所だ。
突然彼女の側にスキアヘッドが出現。カイゼリンに撤退を即す。
「カイゼリン様、ご無理は禁物です。スカイランドへ攻め込むのは、準備を整えてからにいたしましょう」
二人はゲートに消え、草原には俺たちだけが残された。
俺はエルちゃんを抱え上げ、尋ねる。
「エルちゃん、これ……どういうこと?」
「えるしらない、ぜんぜんわかんない!」
「だよねぇ……」
過去の出来事が丸っとウソとも思えない。
とすると……
「カイゼリンの記憶が、つくり換えられている……?」
けど、一体誰がそんなことを……。