「最近、先生がおかしい」 作:Raitoning storm
"じゃあ、アビドス行ってくるね。"
そういうと先生は立ち上がり、身支度を整える。
「はい。気をつけてくださいね。」
アイも微笑みながら返事を返す。
"わかってるよ。シロコたちに迎えに来てもらえるように頼んでるから、心配なら一緒に行く?"
先生は少し意地悪そうにそうアイに言ってみるが、
「シャーレにまだ仕事が残ってますから、遠慮させていただきますよ。」
アイが断ってしまった。
"…むう。まあしょうがないか。今日の当番の子は?"
「えっと、早瀬さんなら、セミナーの仕事を終えてからいらっしゃるそうです。」
"そっか。じゃあ行ってくるね。"
「はい。いってらっしゃいですね。」
そういって先生はドアを開けて、アビドスへと向かった。
「…よし、早瀬さんが来るまでにある程度はやっとかないとな…」
アイはやる気充分といった様子で仕事へと取り掛かった。
小一時間後、
ユウカがやってきた。
「失礼します…あら?先生は?」
「あ、早瀬さん。先生なら今日はアビドスですよ?」
「そっか…じゃあ今日は二人っきりね。」
「はい。早瀬さんには今月のシャーレの会計監査をしていただきたくて…」
「構わないけれど…ねえ?」
「どうしました?」
「その、敬語やめてくれない?学年も同じだし心理的な距離を感じるのだけど…」
「そうですか?ぼくは特に気になりませんが…」
「わたしが気にするのよ!」
「それに、早瀬さんは敬うべきセミナーの会計でもありますし…モモイさんたちみたいにフランクには行きませんよ。」
「あの子たちはどちらかっていうと無礼というか…あと!その苗字で呼ぶのもやめて!」
「…どうしてもですか?」
「…そんなに悲しそうな顔しなくても…まあいいわ。今日は勘弁してあげる。アリスのときもお世話になったし。」
「まあ考えときますよ。僕が呼びたくなったら呼びます。」
約2時間後、
「…はい。終わったわよ。」
「あ、ありがとうございます。どうでした?」
「内容に不備はなかったわ。流石シャーレの部長をやっていることだけはあるわね。」
「そうですか。ありがとうございます。あの、頼みたかった仕事はこれで終わりなので、お帰りいただいても大丈夫ですけど…」
「アイはどうするの?」
「まだちょっとだけ仕事が残ってるので…」
「…そうね。ミレニアムの方も気になるし、お先に失礼しようかしら。」
「はい。本日はありがとうございました。」
「大丈夫よ。また何かあったら頼ってちょうだい。いつか敬語が無くなるのを楽しみにしてるわ。」
「はい。お気をつけて。」
しばらくして、
「…ふう、今日の業務も終わり〜!」
誰もいないシャーレの部室でそんなことを呟く。
背筋を伸ばすとピキピキと心地いい音が出て、凝り固まっていた筋肉のほぐれる感じがする。
「えっと、こっちは明日リンさんに渡して…こっちはアオイさんだな。よし、書類整理終わり!」
生徒会の方に渡す書類をまとめ終わり、ふと考える。
「先生はアビドス行っちゃったし、仕事終わっちゃったな…。先生も今日は遅くなりそうだし…」
カップに残ったコーヒーを飲みながら、今日の残りの時間の過ごし方について考える。
「うーん。先生にメールして…いやでも先生も忙しいだろうし、通知来たら嫌じゃないかな…」
「そうだ。書き置き残せば迷惑じゃないよね。うん。そうしよう。」
そう思い至った僕は書き置きを残すため、紙とペンを取る。
『今日の仕事は終わらせたので、お先に失礼します。』
と書き留め、鍵をしてシャーレを後にする。
今日の晩御飯について思いを馳せながら、近所のスーパーへと向かう。
安くなっている食材から今日の晩ご飯を考える。
買い物を終え、袋を持とうとするが、
「あれ…?」
袋が上手くつかめず、指の間を通り抜けてしまう。
「おかしいな…ちゃんと掴んだはずなんだけど…」
そう思い、もう一度取ってみようとするが、
「え…」
今度は手が震えてしまい、掴むこともままならなかった。
「疲れてるのかな…早く帰って休むか。」
そう思いなんとか家へと向かおうとするが、不安定な足取りになってしまい、ふらつきながら歩く感じになってしまう。
そして、
「うっ!」バタン
その場に倒れ込んでしまう。
「な…んで…」
疑問を呈したそのすぐ後、自分の中にどす黒い何かが現れているような感覚に囚われる。
息が苦しい。
心臓が痛い。
頭も回らなくなってきた。
「えっと、大丈夫ですか…?」
見知らぬ誰かが心配して声をかけてくれるが、応えられるだけの余裕がない。
自分の中から、どす黒いものが沸々と湧き上がってくる。
こころが、よくない感情で支配されていく。
「…れて」
「え?」
「…!離れて!」
「!あんた、こっち!」
「え!?うわ!!」
危険を感じ、近くにいた人が彼女を引き離してくれた。
瞬間、あたりを衝撃波が覆う。
ガラスは割れ、商品棚は中身を落としながら次々に倒れていく。
おそらく30秒は経っただろうか。アイの意識が戻っていく。
「…え?」
周囲には傷ついた生徒たちが、こちらを怯えた目で見ている。
「…ああ」
「…うああ」
「うわあああああああああ!」
恐ろしい。何より自分のことが恐ろしくなってしまった。勢いに任せそのままその場を去る。
「…うああ」
今、なんと言葉をかければよかったのだろう。謝罪か?弁明か?保身か?
いや違う。きっと今どんな言葉をかけても怯えられるだけだった。
きっともうみんなのとこにはいられない。いや、いたくない。
"やっと見つけた。みんな探してるよ?"
「…やっぱり来ましたか。」
高層ビルの屋上で、二人の人間がいる。
片方の生徒は、そのヘイローを黒く染め、虚ろな目で街を見下ろしていた。
「…止めようとしても無駄ですよ。今なら開花した色彩の力で、たとえシッテムの箱の力も無力化できる。」
"だとしても放っておけないからね。君も大切な生徒だし。"
「…まだそんなこと言ってるんですね。もうまともな生徒とは言えないのに。」
"それは違うよ。君だって私の大切な生徒、人を傷つけてしまったとしてもそれは変わらないよ。"
「…また人を傷つけるかもしれないのに?」
"みんな君に怒ったりなんかしてない。君のせいじゃないってわかってるから"
「僕のせいで人を傷つけることと、何かのせいで人を傷つけることになんの違いが有るんです?」
"それが君が人を思ってやったことってわかってるから。誰も君を責めないよ"
「…責めなくても恐怖心は消えない。僕がこのままずっと人を傷つけるかもしれないと思いながら生きていくことには変わりありませんよ」
"…みんな悲しむよ。君がいなくなったら。"
「傷つけて恐怖されることに比べたらまだマシですよ。」
そう言って彼は手すりに手をかける。
手すりと端の部分の間に立ちながら彼は続ける。
「きっと最初から、僕がいなくても変わらなかったんだと思うんです。もちろん僕がいて変わったこともあるかもしれませんけど、それでも大部分は多分変わらなかった。」
"そんなことない!君がいたからわたしは!「先生は!」!?"
「…先生は生徒が困ってたら、すぐに助けに行く人だから。僕がいなくてもやったことは変わらないですよ。」
ついに手をかけていた手すりからも手を離し、振り返って彼は言う。
"…!ダメ!!」
「…じゃあ、先生。」
さようなら。
…そこから後のことは、あまり覚えていない。
確かビルの下にいた人が救急車を呼んで、アイ君は運ばれた。でも、
一命は、とりとめなかった。
死因は転落死。黒服にも容体を見てもらったけど、
「…十中八九、あれの影響でしょうね。彼は、もう…」
と、心なしか悲しそうな様子で言っていた。
キヴォトスにいる、彼に関わった子、彼に助けられた子、彼と共に励んだ子全員が悲しんでいる。
特にアイと深く関わってたアリウスの子たちや、ゲーム開発部の子、ラビット小隊の子とかは特に深く悲しんでる、らしい。
直前まで一緒にいたユウカは塞ぎ込んでしまって、今は自室から出てこないって聞いた。
…かくいう私も、まだ、立ち直りきれていないけど。
カタカタと、指がキーボードを叩く音がただ淡々と、シャーレの部室で立っている。
今日も、当番の子には来てもらっていない。あれからずっとこんな調子だ。
『先生、こっちの仕事終わりましたよ。』
「…っ!」
…ダメだ。まだ、わたしは…
「トントントン」
…誰だろう。当番は頼んでいないはずだけど…
"…空いてるよー。どうぞー。"
「…こんにちは、先生」
"…ホシノ?なんで…"
予想外の来客に、戸惑っているわたしにホシノは話す。
「…先生のこと、心配で来ちゃった。一人でやってるって、みんな心配してたんだよー?」
"…わたしは大丈夫だよ。むしろみんなの方が…"
わたしがそう言おうとすると、ホシノはわたしを抱きしめて、
「無理、しないで先生。大切な人、いなくなっちゃうのは悲しいよね…」
"…え?"
「辛いよね…悲しいよね…まだ、もっと一緒にいたかったよね…」
"…っ!"
ホシノの言葉の真意はわからない。さっきの言葉がどういう意味を持っていて、ホシノがどんな経験をしてきたかはわからないけど、
"…うぅ。"
大人として、生徒の前に立つ人間として、自分の中で抑えてきたのに、
"うわぁぁぁ!!"
涙が止まらなかった。
「…先生、今は、たくさん泣いていいよ。」
"…ゔん゛……ねぇ、わたしの、好きだった人、
死んじゃった…!
遺言なんて、残したものなんて、あるわけない。
アイ君がいる本編見たい?
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別に…
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書いてくれたら嬉しい。
-
そんなことよりハピエンの続きを書けよ。