一人の傭兵がキヴォトスに迷い込む。
彼は先生としてこのキヴォトスで生きていく事となる。
そして、彼は空を見つめてこう呟く。

「よう、相棒。まだ生きているか?」

※ピクシブにも投稿しています

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ある傭兵の戦い

 銃声鳴り響く市街地を一人の男が走り抜ける。

 

 男の背にはMANPADS…携帯式の地対空ミサイル。そして、頭上では甲高いジェットエンジンの音が鳴り響いていた。男はかつてパイロットであり傭兵であった。しかし、今ではある小国の義勇兵として陸の上で戦っている。

 

「降ってきたか?」

 

 冷たい小雨がポツポツと背に当たる。しかし、彼は建物の梯子に手をかけるとそのまま登り始める。こんな天候だが、頭上のエンジン音はまだ消えない。そして、この音の正体は敵の攻撃機である。こいつがいる限り、味方は上からの攻撃を浴び続けて一方的に叩かれる事となる。

 そして、彼は一人その攻撃機に立ち向かおうとしていた。苦境の味方を救う為…その背に抱えた一発のミサイルで。そうして梯子を登り終えて、建物の屋上に降り立つ。そのまま顔を上げて周囲を見回す。すると、機影を見つける…一目見て分かる程の独特な形状、A-10だ。彼はミサイルのランチャーを肩に抱えて照準器を覗き込む。すると、シーカーが目標を捉えたという合図の音が甲高く鳴る。そして、彼は反射的に引き金を引いた。

 

「…しまった、外した」

 

 ミサイルを発射する寸前に敵機はフレアを放出。相手がこっちの攻撃に勘づいたのか、予防的にフレアを放ったのかは分からない。だが、結果としてミサイルはその囮の熱源に喰らい付いてしまった。そして、敵機の鼻先がこちらを向いた。敵のパイロットはミサイルの発射煙を目視したらしい。状況は最悪そのものだ。

 

「くそ!」

 

 そう叫び、空になったランチャーを投げ捨てる。そして、やけくそ同然に屋上から飛び降りる。その刹那、彼は数日前にとある記者から受けたインタビューの事を思い出す。そして、とある傭兵の姿。

 

「これで最後か…まあ、あいつに言葉を残せて良かった。あの記者が撮った映像を見ていれば…だが」

 

 そして、轟音と共に視界は白く染まった。

 

 

 

『私のミスでした…』

 

 誰かが近くで話をしている…そう自覚して彼は目を開く。すると、眼前には見知らぬ女性…そして、ここは電車の中か?先程まで硝煙漂う戦場にいた筈の彼はこの事態に困惑する。

 

『私の選択。そして、それによって招かれたこの状況…』

 

 まるで現実離れしたような状況。しかし、五感の感覚は現実のそれだ。

 

『結局……』

 

 目の前の女性が何を言っているのか分からない。お前は何を言っているんだ?そう立ち上がろうとしたものの、体も口も動かない。どうなっている?更に困惑している間にも彼女の話は進む。しかし、その内容は相変わらずさっぱり掴めない。

 もしや、ここはあの世ではないか…彼がそう考え始めると、意識は途端に暗転する。

 

 

 

「すみません、起きてください。さあ、起きて」

「今度は何だ…?」

 

 彼は目を覚ます。眼前には再び見知らぬ女性…しかし、先程とは別人だ。そして、今度は電車の中ではない。建物の中、周囲は高層ビル群…どこかの街中らしい。これほどの大都会…まさか、オーシアか?

 

「先生、目を覚ましましたか?」

「先生…?俺の事か?」

「ええ」

 

 俺が先生だと?彼は訝しむような表情を浮かべた…全く身に覚えがないからだ。状況はさっぱり掴めない。そして、目の前の女性の頭上にはまるで天使の輪のような発光体が浮かんでいる。それにその女性の耳は異様に尖がっている。まるでファンタジー作品に出てくるエルフの様に。

 

「あなたが連邦生徒会長の指名した先生であると聞いています」

「いや、そんな話は知らない。そもそも、あんたは誰でここはどこだ?」

 

 すると、その女性は口を開く。

 

「失礼しました。私は七神リン、連邦生徒会所属の幹部です。そして、ここは学園都市キヴォトス」

「生徒会…?それにキヴォトス…そういう名前の街は知らないが。国名を言ってくれ。ここはオーシアか?ユークトバニアか?それとも、エメリアかオーレリアか?」

「まだ混乱しているようですね。いいでしょう、まず簡単に状況を説明しましょうか」

 

 そう言うと、リンと名乗った女性は椅子から立ち上がる。

 

「まずはキヴォトスにようこそ。ラリー・フォルク先生」

 

 

 

 

 

 こうして、なんだかよく分からない内に、俺はこの見知らぬ土地で先生をやる事になってしまった。まあ、先生と言っても勉強を教える訳じゃない。簡単に言えば学園都市全体の生徒達を守る事…いや、サポートする仕事だな。

 そして、学園都市キヴォトスというのは大小沢山の学校で構成される超巨大学園都市らしい。しかし、学校と言っても元いた世界の常識とは異なる。最早、学校一つがそれぞれ国と言っていいぐらいの権力を持っている。それだけでも驚きだが、ここでは治安も常識外れだ。レサスやエルジアのような大混乱に陥った国々すら霞む程と言ってもいい、ベルカの過激な連中すら裸足で逃げ出すだろう。

 …それは何故かだって?ここではみんな銃火器を所持していて、どこだろうと何の躊躇いもなくぶっ放すからだ。それだけ聞くと内戦下の地獄のような状況を思い浮かべるだろう。しかし、先に述べたようにこのキヴォトスで常識は通用しない。キヴォトスの人々に銃弾や砲弾は通用しないのだ…被弾して気絶はするが、その程度で済んでしまう。それに生徒達は特殊能力みたいなものを有しているし、無茶苦茶に強いのが一定数いる。そして…そんな光景を見て、俺はただ頭を抱えるしかなかった。

 

 俺も頑丈になったのかって?いや、元の世界と変わらん。弾が当たればただでは済まないし、戦車砲の直撃を浴びたら木っ端みじんだよ。何、それでよく生きているなって?ああ、それにはカラクリがあってな…ここに来た日にシッテムの箱とかいうタブレット…まあ、PDAみたいな物を貰ったんだ。それにはやたら人間くさい人工知能が搭載されていて、どういう理屈か分からないがそいつが俺を銃弾から守っているんだ。で、それを手に入れるまでがまず大変だったが…まあ、それについては今度話すとしよう。

 

 で、お前は今何をやっているんだ?……そうか、相変わらずだな。お前らしい、ある意味羨ましいよ。俺は今、アビドスという今にも潰れそうな学校の手助けをしている。かつて世界から国境を消し去ろうとした男が、自分達の居場所を必死に守ろうとする五人の生徒達を助けているんだ…なんとも皮肉な話だと思うだろ?

 

 おっと、もうこんな時間か…話せてよかったよ。次は直接会おう、積もる話は沢山あるからな。またな、戦友。

 

 そうして、ラリーは受話器を置く。すると、タブレットの人工知能…アロナが話しかけてきた。

 

「先生、どなたとお電話を?」

「知り合いさ、昔のな」

 

 そうして、透き通るような青空を見上げたラリーをアロナは不思議そうな様子でタブレットの中から見つめていた。

 

 

 

 

 

 アビドス高校の救援に来て暫く経過した。しかし、状況は好転しない。むしろ、どんどんキナ臭い方向に話が転がっていく。このアビドスは天災によって砂漠化が進んでおり、それを何とかしようと膨大な借金を抱えていた。そして、その金を借りた先が問題であったのだ。

 どうやら、それがかなり怪しい大企業であるらしく、その関連企業が放棄されたアビドスの砂漠で何やら調査と開発を行っているらしい。だが、それについて探っている間に事件が起こった。生徒の一人である小鳥遊ホシノという生徒が姿を消したのだ。収集した情報から彼女がたった一人でその企業へ乗り込んでいったのは間違いない。そして、ラリーは他の生徒達と共にホシノの救出作戦に参加していた。

 

「先生、大丈夫?」

「ああ、なんとか」

 

 アビドスの生徒である砂狼シロコが心配そうにラリーの顔を覗き込む。今のラリーはこの世界に来た時に着ていた草臥れた軍服を着こみ、使い古されたアサルトライフルを抱えていた。状況は控えめに言っても芳しくない。今度の相手はそこらの不良ではなくPMC…民間軍事企業。要するに傭兵が企業化したような連中である。それでも、他の学校から自発的にやってきた増援でなんとか戦力差はどうにかなった。しかし、相手はプロ。こっちは一人一人が精強であっても少人数。いつ分断、包囲されてもおかしくない。そうなっては終わりである。

 

「これは、滑走路か?」

「広い…」

「ここは不味い。そこの格納庫に転がり込め」

「了解」

 

 そうして、一行は手近な格納庫に転がり込んだ。十六夜ノノミがドアを破り、黒見セリカが周囲を見張る。そうしていると、後方で情報収集と支援を行っている奥空アヤネから無線が飛び込む。

 

「先生、大変です。敵の増援、そちらに航空戦力多数移動中」

「航空戦力だって…何が来た?」

「戦闘ヘリ複数。そして、ガンシップが一機との事です」

 

 嫌な知らせだ。そんな戦力がやってきたら自分達どころか増援としてやって来た他の生徒達も危険である。ああいう兵器は地上からの銃弾の届かない距離から一方的に攻撃を浴びせる事が出来る。地上側はまともな対空火器を有していなければ悲惨な事態になるのだ。ラリーは撤退の指示を出すか迷う。すると、シロコがラリーの肩を叩く。

 

「ん、先生。あれ」

「なんだ?…おい、こいつは」

 

 シロコの指差す先には複数の航空機があった。一番近くにあった機体はF-14A。ラウンデルはオーシア空軍。尾翼には黒い犬のようなマーク。キャノピーには『ダヴェンポート中尉 チョッパー』という名…この機のパイロットだろう。

 ラリーは視線を隣に移す。そこには何らかの航空機の残骸…見た事がない機体である。オレンジ色のような色が塗られた翼にはエルジアのラウンデルが辛うじて見える。一目見ただけで飛べそうにない状態だ。残骸はまだいくつも転がっている。エルジアの機体の主翼…翼端は黄色に塗られている。その横には見た事もない機体の機首部分。サメのような塗装が描かれている…翼の一部には見た事もないラウンデル。その後ろには見た事もない航空機らしきものが置いてある…その状態は良好に見える、まるで複葉機の様にも見えた。しかし、得体の知れない機体であるので他の機を探す。ラリーは格納庫の奥を見る…機体がまだある。すると、彼はその機体へと一目散に駆けて行く。その様子に驚いたシロコ達も慌てて後を追う。

 

「これは?」

「古い馴染みだ」

 

 F-15C…かつての愛機と同じ機体がそこにはあった。だが、機体の塗装は派手そのもの。国籍を表すラウンデルは描かれていない。そして、尾翼には不死鳥のようなマーク。機体の塗装もまさに不死鳥と例えていいようなものだった。かつての自分の愛機も軍用機としては派手な部類であったが、この機はそれどころではない。だが、見た目は完璧に整備されている様子だ。武装もあるしこれなら飛べる、ラリーはそう確信する。そして、彼は近くに置かれたパイロットの装備品を物色し始めると、自分の体に合うものを探し出す。一方、アビドスの生徒達は唖然としながらその様子を見ていた。

 

「お前達、手伝え」

「え?」

 

 アヤネにラリーから無線が飛び込む。

 

「先生?どうしました?」

「敵の航空戦力はこちらで引き受ける」

「え?あの、先生。どうやって…」

「当機のコールサインはガルム2、俺の事はこれ以降、このコールサインかピクシーと呼べ。いいな?」

「え、ピクシー?あの…先生?」

「ピクシーだ、分かったな。これは…機体の機嫌がいい」

 

 困惑するアヤネを無視し、ピクシーは無線に宣言する。

 

Pixy≪こちらガルム2、離陸する。離陸後はそのまま交戦状態に入る≫

 

 滑走路に響くアフターバーナーの轟音、アビドスの生徒達はそれをただ黙って見送っていく。

 

「シロコ先輩、ノノミ先輩…先生って結局何者なの?」

「分からない」

「でも、歴戦の強者…そういう空気は初めて会った時からずっと纏っていました」

 

 シロコ達がそう話していると、ピクシーの乗ったF-15Cはまさに天を目指すような勢いで上昇していく。後に残るのは凄まじい轟音と衝撃波、機影はあっという間に見えなくなる。

 

Pixy≪ガルム2、エンゲージ。花火の中に突っ込むぞ!≫

 

 

 

Pixy≪よう、相棒。まだ生きてるか?≫

 

 


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