『トリガー、大変だ。UAVに包囲されている隊がいるぞ!』
『こちらロングキャスター。待て、そのポイントに他の味方機は確認されていない。どういう事だ?』
『いや、だが…』
『こちらで確認する。こちらオーシア空軍AWACSだ、不明機に告ぐ。貴機の所属を答えよ』
『おい、こいつはそんな呑気な状況じゃないぞ』
見た事も無い土地、聞いた事も無い国名。周囲には見た事も無い航空機。そして、その後ろに見える空は異様な程に赤く染まっていた。
『こいつ、何を言っているんだ?そもそもここはどこだ』
『ウォーウルフ1、そっちにまた敵機が行きました!退避を!!』
絶え間なく鳴り響くアラート、体にのしかかる強烈なG。
『一機撃墜。いや、まだ来る』
『くそ、キャノピーが無い。こいつら無人機か!?』
『こちらウォーウルフ2、これじゃあきりがない。なんとかして退避しましょう』
雲霞の如く次々と押し寄せる敵機。呼吸はどんどんと荒くなっていく。
『ウォーウルフ1へ、とんでもない動きをする奴が一機!そっちに突っ込んでいきました』
『なんだありゃ…』
左急旋回した先に真っ黒な機体が飛び込んできた。そしてその機から放たれたミサイルがまっすぐこっちに飛び込んでくる…
久々に嫌な夢を見た。
ウィリアム・ビショップ中佐は目を覚ます。不快な汗が背に流れるのを感じ、彼は左手で両目を覆った。そして、大きく深呼吸すると体を起こす。外はまだ薄暗い。とりあえず、シャワーでこの嫌な汗を流すか…そうして、彼は立ち上がった。
アメリカ合衆国
2016/03/03 0600
ビショップがシャワールームを出ると部屋の電話が鳴った。
「なんだ?」
「中佐、朝早くに申し訳ありません」
「いや、気にするな。それで…要件は?」
「ええ、今日予定のフライトは中止になりました」
電話の向こうの当番兵がそう告げてくる。
「急な話ですが、ラポワント将軍から招集がかかっています。0900からブリーフィングを行うとの事です」
「了解だ」
そう返すと、彼は受話器を置いた。そして、溜息を一つ。フランス軍のラポワント将軍からの呼び出し…これは自分の所属するアメリカ空軍の任務ではない。国連安保理決議によって結成されたタスクフォース108の任務に違いない。
世界中を戦火に巻き込んだマルコフとその一味が起こした騒動が終結して暫くたった。しかし、世界は平穏とは程遠い情勢が続く。マルコフが撒き散らした戦火は世界各地で燻っていた火種に次々と引火、政情不安な国々を中心に新たなる騒乱を今も起こし続けている。そんな騒乱を世界中の軍が火消として躍起になって動き続けている。
「どうしました、中佐?顔色が悪いですよ」
「いや…何でもない」
「もしや、部屋に幽霊でも出ましたか?」
そんな冗談を言いながら、ビショップの部下であり相棒とも言える二番機のパイロットであるホセ・グティエレス大尉は一足先にブリーフィングルームへと入っていく。溜息を一つ吐き、ビショップも後に続いた。
「さて…諸君、急に呼び出して済まない」
ブリーフィングルーム正面の壇上にはラポワント将軍が立ち、その背後の大型スクリーンに資料等の画像が表示される。
「早速だが本題に移ろう」
各国合同の調査チームがマルコフの一味の背後関係を調べていたところ、ある疑惑が浮上した。
それは全弾使用、もしくは喪失したと思われていたトリニティの未完成品と製造に必要な資材等が残されているというものだ。知っての通り、新型の爆弾であるトリニティの威力は強力だ。核を使用せずとも、たった一発で大都市に深刻な被害を与える事が出来る程。そして、その弾頭は戦闘機に搭載可能な巡航ミサイルに搭載できる程に小型である。万が一、この疑惑が事実であり、どこかの危険な国家や武装勢力がそれを手にして完成させた場合、その影響は計り知れない。
その為、実際にこの未完成のトリニティ弾頭が存在するかを調査する。そして、情報部の調査の結果、保管されているとされている場所はこの海域にある…この島だ。
「カリブ海…?」
スクリーンに表示された意外な場所に場がざわつく。アメリカの目と鼻の先である。
「諸君、気持ちは分かるが静粛に」
ラポワントがそう言うと、説明を再開する。
さて、カリブ海に浮かぶこの小島が今回の目標である。
なお、目標のあるこの島については冷戦期に作られた小規模な通信設備が存在するが、現在は放置されている。また、衛星による偵察でも島内に目立った動きは観測されていない。対空砲や陣地が構築されている様子も無い。よって、脅威度はかなり低いと見積もられている。
しかし、万が一という場合もある為、それ相応の備えは必要だ。よって、上空をタスクフォース108各隊で警戒。ノーマッドが艦艇から歩兵部隊を輸送、シューターはその直掩となる。
また、周辺海域にはアメリカ海軍の駆逐艦二隻と強襲揚陸艦が展開する。
作戦開始は明日の2100。以上だ、解散。
カリブ海
2016/03/04 2100
夜の洋上を4機のF-22が飛ぶ。
≪ウォーウルフ1≫ウォーウルフ各機、そろそろ目標だ
≪ウォーウルフ2≫せっかくの南国なのに仕事だなんて
≪ウォーウルフ1≫集中しろ、ガッツ。何が隠れているか分からない
≪ウォーウルフ2≫了解
グティエレス大尉のTACネームはガッツ。そして、どこか呑気な彼にビショップが注意をしていると、空域を警戒するAWACSから無線が飛び込む。
≪マジック≫こちらマジック、タスクフォース108各機へ。作戦開始時刻だ。ノーマッドが降下する。各機、警戒せよ
ビショップは下方に目を向けると、無人島の空き地にヘリが着陸していく様子が見える。そして、ヘリに乗っていた歩兵が降り立つとそのヘリはすぐに上空へと舞い戻っていく。輸送は無事に終わった様子だ。すると、戦闘ヘリのアパッチに乗りヘリ部隊を率いるダグ・ロビンソン大尉の低い声が無線に響く。
≪シューター1≫こちらシューター1、地上部隊の展開は完了した。捜索活動に移行する。今のところ、敵影どころか人っ子一人確認出来ていない
≪マジック≫了解。シューター、ノーマッド各機はそのまま地上部隊の支援に移れ。なお、上空にも敵影は無い
そんな無線が流れている中、ウォーウルフ隊の4機は旋回を続けていた。
「何事も無く終わりそうだ」
ビショップがそう呟くと、気になる内容の無線が聞こえてきた。
≪シューター1≫こちらシューター1、ノーマッド各機へ。地上部隊が妙な事を言いだしている。装甲車を鹵獲したが、見た事の無い車両で型式不明だと…よって、誰か確認に出してくれ
≪ノーマッド61≫了解です、ボス。手近なノーマッド63を向かわせます
そして、暫く経つとヘリ部隊の無線が再び飛び交う。
≪ノーマッド63≫こちらノーマッド63、クルーの一人が知っていました。ドイツ製の装輪装甲車との事
≪シューター1≫なんだって?ドイツ製の車両なら地上部隊でも分かりそうなものだが
≪ノーマッド63≫ただし…WW2で使われていた車両に近いもの、との事です
≪シューター1≫なんでそんな骨董品がこんな所に?
≪ノーマッド63≫いえ、ボス。それが、ここ最近作られたような…まるで新品同様なんです
≪ウォーウルフ2≫下は妙な話をしていますね
≪ウォーウルフ1≫ああ、奇妙と言えば奇妙だ。しかし…ん?
地上で何かが光った。
≪シューター1≫地上から何か飛び出したぞ!こいつはミサイルじゃない!上空目掛けて飛んで行った!!
途端にレーダーに反応。数は8、凄まじい勢いで上昇してくる。
≪ウォーウルフ1≫マジック、不明機が急に現れた
≪ウォーウルフ2≫なんだこいつら、どっから出てきたんだ
≪マジック≫ウォーウルフ、不明機の国籍と機種を確認せよ。こちらからの発砲は禁ずる
≪ウォーウルフ1≫ウィルコ
4機は左旋回しつつ降下、正面に不明機の編隊を捉えた。そして、すれ違う。
≪ウォーウルフ2≫見た事の無い機体だ。なんだありゃ
相手は異様に小柄な機体。ビショップが不明機に無線で警告しようとしたその時、コクピット内に警報が鳴り響く。
≪ウォーウルフ1≫ロックオンされたぞ。各機、ブレイク!
≪マジック≫ウォーウルフ、不明機の正体は?
≪ウォーウルフ1≫国籍マーク無し、見た事の無い機体だ
≪ウォーウルフ4≫3が追われている。マジック、交戦の許可は!
≪ウォーウルフ2≫撃ってきた!フレア!フレア!!
攻撃を受けた。最早、交戦もやむを得ない。
≪ウォーウルフ1≫こちらウォーウルフ、マジックへ。攻撃を受けた、交戦する
ビショップは機体を左に急旋回し、味方を追う敵機に喰らい付く。
≪ウォーウルフ1≫後ろを取った
そして、ミサイルのシーカーが敵機の熱源を捉えた音が鳴り響く。
≪ウォーウルフ1≫フォックス2!
放たれたミサイルは白い煙を吐き出しながら敵目掛けて飛んで行った。
≪マジック≫シューター1、地上部隊の状況は?
≪シューター1≫こちらシューター1、捜索中。上空と違ってこちらは静かそのものだ
AWACSからの無線にアパッチの機内からロビンソン大尉は周囲を見回す。歩兵達が散開し、いくつかの建物へと突入していく様子が見える。
≪マジック≫シューター1、先程の航空機はどこから飛んだか確認したか?
≪シューター1≫ああ、視認していた。離陸というよりまるでミサイルみたいに発射されたという感じだった…いや、待て。その辺りに車両らしきものが見える
≪マジック≫確認は可能か?
≪シューター1≫了解、ちょっと待て
アパッチをその方向へと移動させると、車両の正体が判明する。
≪シューター1≫見えた、トレーラーだ。これは…コンテナがミサイルランチャーのようになっているらしい。中身は空だ
≪マジック≫では…周囲に未発射のものはあるか?可能であれば確保したい
≪シューター1≫了解。地上部隊に確認させる。ノーマッド各機及び地上部隊全隊へ、積み荷が入ったままのトレーラーを捜索、確認次第確保せよ≫
≪ノーマッド62≫ノーマッド62、それらしき車両を確認。地上部隊を誘導する
汎用ヘリの内の一機から無線が飛ぶ。
≪シューター1≫トレーラーのコンテナが擬装されたランチャーの部類である可能性がある。可能であれば鹵獲、最低でも無力化しろ
≪ノーマッド62≫ノーマッド62、了解
そして、地上部隊から無線が飛ぶ。
≪ブラボー2≫こちらブラボー2、トレーラーを三両確保。コンテナの中にミサイルらしきものを確認、蓋を固定して全て発射不能の状態にした
≪シューター1≫よし、よくやった。ノーマッド61、地上部隊の進捗は?
≪ノーマッド61≫ほぼ全ての建物を制圧…ん?
≪シューター1≫どうした?
≪ノーマッド61≫地上部隊が発砲、交戦中の模様!
その突然の内容にロビンソン大尉は驚いた声を上げる。
≪シューター1≫何?敵の人数は?
≪ノーマッド61≫人数は4人、島の中心部へと向かっている模様…なんて足の速さだ
≪シューター1≫ノーマッド各機、島の中心部…通信施設跡へ集結せよ。仕事の時間だ。61はそのまま追跡、地上部隊が苦戦するようなら助けてやれ
その無線で上空を飛ぶヘリは一斉に動き出す。
≪ノーマッド61≫くそ…見失った。どこに行った?
≪ノーマッド64≫こちら64、建物に入ったのを視認。一本南の路地に出たぞ
≪ノーマッド61≫いた。ガンナー、射撃許可。撃ち倒せ!
途端に汎用ヘリの銃座に据えられたミニガンが吠える。アパッチのセンサーは暴風の様に降り注ぐ弾丸の雨を映し出す。しかし、異様な光景がそこに映し出される。
≪ノーマッド61≫直撃だ、よくやっ…なっ…冗談だろ、何故動く!?
≪シューター1≫こちらでも見ていた、確かに直撃した筈だが。負傷した様子も無く走っている…現実の光景とは思えん
ヘリからの攻撃を受けても不審な集団は動き続ける。そして、追いかける地上部隊に対して反撃も行い、牽制し続けている。その動きはそこらの武装勢力のものとは違う、明らかに訓練を受けた者の動きであった。
≪シューター1≫こちらシューター1、連中は通信施設跡に転がり込むつもりだ。目標は皆白っぽいマントを被り、顔にはガスマスクらしきもの。ん…なんだ?
突如、視線の先にあった倉庫らしき建物の壁が崩れた。そして、土煙の中で何かが光る。刹那、光線のようなものが放たれる。そして、悲鳴のような無線が飛び込んだ。
≪ノーマッド62≫メーデー、メーデー、メーデー!!テールに何か被弾した、操縦不能!
≪ノーマッド61≫62、テール…いや、機体後部が完全に脱落している!墜落に備えろ!!
≪シューター1≫クソ、どうやら敵の対空砲が倉庫から出てきたらしい……おい!こいつは何の冗談だ!?
土煙が晴れる…そこにあったのは車両では無かった。二足歩行で歩く物体、まるでアニメかゲームに出てくるようなロボット…その異様な光景に味方の無線が一斉にざわつく。
≪副操縦士≫ボス、やばそうな予感がします。回避を!
前席の乗員がそう叫び、ロビンソン大尉は機を滑らせるように左に急旋回。すると、ロボットの背から伸びる砲身のようなものが光る、途端に光線のような何かが機の横を掠めた。
≪シューター1≫くそったれ、ほんとに無茶苦茶なものを撃ってきやがった…各機、低空に退避しろ。あいつはこちらで対処する
謎のロボットは両腕に付いているガトリング砲を乱射、意外にも相手の動きは素早い。一方、アパッチは一気に低空に降下、建物を遮蔽物にして攻撃をやり過ごしつつ移動。相手の死角を目指して建物の間を縫うように飛ぶ。問題は敵がこちらの位置を掴んでいるかどうかである。そうであれば、こっちが頭を出した途端に蜂の巣になるのは確実だ。どうしたものかとロビンソン大尉は考える。すると、新たな無線が飛び込んだ。
≪ウォーウルフ2≫うわ、なんだありゃ。ゲームじゃないんだぞ!
≪ウォーウルフ1≫落ち着け、ガッツ。現に動いて味方を攻撃している以上、これは現実であれは敵だ
≪ウォーウルフ2≫それはそうですが…あんな物どうしろって
ウォーウルフ隊が戻って来た、謎の敵機を片付けてきたらしい。
≪シューター1≫ウォーウルフ、聞こえるか?
≪ウォーウルフ1≫シューター1、聞こえている。そちらは無事か?
≪シューター1≫なんとか。それで、一つ頼みが
≪ウォーウルフ1≫何だ?
≪シューター1≫あのロボットに上から機銃掃射をしていただきたい
≪ウォーウルフ2≫冗談じゃない。何してくるか分かりませんよ、隊長
驚いたようにグティエレス大尉が言う。
≪ウォーウルフ1≫機銃掃射だけでいいんだな?
≪シューター1≫ええ、助かります。ほんの僅かの隙さえ作ってもらえれば
≪ウォーウルフ1≫マジック、聞いていたな。これより対地支援を行いたい、支援を
≪マジック≫マジック了解。突入コースを指示する。ウォーウルフ、シューター各機へ、準備しろ
≪ウォーウルフ2≫ええ…本当にやるんですか?
≪ウォーウルフ1≫行くぞ、ガッツ
≪ウォーウルフ2≫了解
溜息混じりの無線を聞き終えると、アパッチは建物の間を縫うように再び移動する。
≪シューター1≫いつでもヘルファイアを叩き込めるように準備をしておけ。チャンスはこれっきりだと思え
前席の乗員に向けてそう言うとロビンソン大尉は一瞬だけ視線を逸らす。そして、その視線の先には四機のF-22…ウォーウルフ隊の姿があった。
≪ウォーウルフ1≫攻撃する、各機かかれ
≪ウォーウルフ2≫こいつ…撃ってきた!
曳光弾がロボット目掛けて飛び込んだのと同時にアパッチは高度を上げる。すると、ロボットは通過していくウォーウルフを追おうと向きを変えようとしている。こちらに対して全く注意を向けていない。
≪シューター1≫今だ、全部叩き込め!
アパッチのスタブウイングから次々と対戦車ミサイルが放たれる…計八発。それらが一斉にロボットの背に突き刺さり、炸裂。弾頭の成形炸薬弾がその装甲を次々に喰い破る。いくつもの爆炎が立ち昇ったと思った矢先、ひと際明るい閃光と共に強烈な衝撃と爆風が周囲一帯を襲う。
≪ウォーウルフ1≫シューター1、無事か?
≪シューター1≫派手に揺さぶられましたが…無事ですよ、中佐。それで…敵は?
≪ウォーウルフ1≫消し飛んだ。よくやった、大尉
≪マジック≫ウォーウルフ、シューター。ノーマッド残存機を護衛しながら帰還せよ。あとは後続部隊が引き継ぐ
≪ウォーウルフ1≫了解、帰還する
地上部隊の調査の結果、情報通りにこの島にトリニティの材料等が保管されていた事が判明した。だが…残念ながらそれらは既に持ち出された後だった。押収した書類によると、キヴォトスという土地を経由してベルカという場所に送られたとある。しかし、この書類に書かれている地名は全て暗号であると思われる。よって、情報部が調査中だ。
そして、マルコフは見返りにこのベルカという土地のある組織から武器弾薬を手に入れる予定だった模様。実際にそれを入手できたのかについてはこちらも調査中となっている。
また、作戦中に接敵した所属不明の敵についてだが、海兵隊が上陸して島内全域を捜索中。しかし、今のところ発見の報告は入っていない。
なお、作戦中にヘリが一機撃墜されたが乗員は奇跡的に全員生還している。
「以上だ、各々聞きたい事は多いだろうが…今はこのまま解散して欲しい」
ラポワントがそう言うと、パイロット達は席を立つ。ビショップも退席しようと歩き出すが、そこでラポワントから呼び止められた。
「中佐、ちょっと話がある」
「ええ、構いませんが…何かありましたか?」
「場所を変えよう」
そうして、二人は別室に移動する。
「それで中佐、まずは君が交戦した不明機についてだが」
「正体が分かったのですか?」
「現物は確保した。だが、正体は不明だ」
そして、ラポワントは何枚かの写真を取り出す。そこに写っていたのはコンテナの中に納まる物体であった。
「これはミサイルですか?」
「いや、中佐。君が戦ったあの航空機だ」
「これが?コクピットが見当たりませんが…」
「端的に言えば、これは無人機だ」
ビショップは驚いた表情を浮かべる。
「いや、しかし…あんな高度な飛び方を無人機がするとは到底信じられません。いつの間にそんなものをマルコフの一派が運用していたのです?」
「いや、これまでに目撃された事がない。考えられるのは…先に話したトリニティの見返りの品がこれであるという可能性だ」
「そうだとしても、どこの国がこんなものを作ったという問題が出てきます」
「ああ…だが、部品類を調べてもどれもどこで作られたのかさえ追えない状況だ。全てが未知としか言えない。それに厄介な話はまだまだある」
「例のロボットですか?」
ラポワントは首を横に振る。
「あれはバラバラに吹き飛んでしまった為、調査は難航している。今のところは進展無し、この件では一番気が楽な話だよ。進展が無いからこそ妙な話を聞かずに済む」
そう言いながらラポワントは新たな報告書の束を取り出すと机の上に置いた。
「さて、中佐。問題はそれだけではないんだ。押収した物資の中に戦闘機が複数あった。で、その機体が問題で…F-22とF-35が一機ずつだ」
「まさか、アメリカ軍の中から盗まれたと?」
「いや、アメリカ軍内部で既に調査を実施。全ての機が揃っている事が確認されている。無論、工場で出荷待ちの機や他国に納入された機も含めて」
「では、その二機はどこから…?」
「分からん。正規品で無い事は確かだ。部品は全てオリジナルのものと異なる。聞いた事も無い会社名が記載された部品ばかりだ。この写真の様に」
機内の電子機器が映し出された写真をビショップは見る。
「ノースオーシア…?確かに聞いたことが無い…生産された場所を秘匿する為の偽装でしょうか?」
「おそらくな。そういえば、機体の調査を行った連中がこんな事を言っていた…うまく機内が簡素化されていて、これなら二機の予算で三機目が作れそうな程だ、と」
「ただのコピー品ではなく、改良まで…?どこの誰がそんな事を」
謎の高性能な無人機も含めて、そんな技術力を持った組織がこの地球上にいるとは思えない…万が一、そんな相手と戦う事になれば厳しいものになるだろう。そう考えているとビショップの背に嫌な汗が流れる。
「そして、最後に地上部隊が交戦した勢力についてだが…個人的にはこれが一番厄介に思える」
作戦後、隊員達の中で突然現れた敵について噂が流れていた。曰く、いくら銃弾を浴びても動く、特殊部隊の隊員達の追跡を軽々振り切る程の脚力を持つ…あれは人間では無いのではないか、というものだ。
「騒ぎになっていますが、正体が判明したのですか?」
「いいや。だが、地上部隊が映像で敵の姿を短時間だが撮影していた。これがそれだ」
机の上に置かれたディスプレイに映像が映し出される。それは10秒にも満たない短い映像である。撮影者のヘルメットに固定されたカメラによる映像らしい。移動している最中のようで、その映像は大きく上下左右にブレる。そして、撮影者が建物の影から小銃を構え、ブレが収まった瞬間に敵の姿がはっきり映る。白いマント、手には小銃…ガスマスクを被っておりどんな顔なのかは分からない。しかし、その人物の頭上には奇妙なものがあった。光り輝く輪が確かに浮いている…それを見たビショップの口からほぼ無意識に言葉が零れ落ちた。
「これは…天使…?」
キヴォトス ミレニアムサイエンススクール
エンジンの調子は良好、地上でのテストはこれで全て完了だ。
イーグルのコクピット内でラリー・フォルクはチェックリストの用紙にテスト結果を書き込む。
先に砂漠で手に入れたこの機の整備と改修をキヴォトスで最も高い技術力を有するミレニアムサイエンススクールに依頼し、それが完了したと聞いて受領にやって来たのだ。
ラリーはチェックリストを書き終えると、背後を振り返る。機の右翼は見事に赤く塗装されている、かつてウスティオで乗っていた愛機と同じ様に…元の持ち主には申し訳ないが、この機の元々の塗装は派手過ぎた為、整備と同時に新しく塗装も依頼したのだ。
「さて、午後はテストフライトか…」
そう呟くと、無線が入ってきた。相手はミレニアムの生徒であった。
「先生、機体の調子はどうでしょうか?」
「ああ、今のところは問題ない。それでどうした?」
「セミナーの会計がお呼びです。何か話があるとの事で」
「分かった、すぐ行く」
セミナー…この学校の生徒会、そこから呼び出しがあった。機体の整備代金に関する話だろうか…そう考えながらラリーは機から降りていく。そして、地上に降り立つと、空を見上げる。
視線の先の空は雲一つ無く、澄んだ青空がただ広がっていた。
エスコンの新作が出ると聞いたので