お詫びも兼ねてお話は長くしています。
一応、原作と少し違って 1学期末つまり七月の半ばで暑い時期です。
マンションの玄関には、静寂が漂っていた。
だが、その静けさの中に張り詰めた空気が漂っているのは、新八がそこに立っているからだった。
彼は腕を組みながら、玄関のドアをじっと見つめていた。まるで今にも飛び出してくる敵を迎え撃つ戦士のように、全神経を集中させている。
誰を待っているのか?
それは――
ガチャリ――
ドアノブが回る音とともに、足音が響く。
「今戻った。」
現れたのは、上杉風太郎だった。
彼は疲れた表情を浮かべながら部屋に足を踏み入れると、当たり前のように靴を脱ぎ、いつもの調子で挨拶をする。
だが、そのその挨拶が命取りだった。
「さぁ今からあの五つ子を勉強の海へと沈ませにーー」
言葉を言い終わる前に、新八の怒りが爆発する。
「沈むのはテメェだァァァァ!!」
怒号とともに、彼の手に握られた木刀が音速で振り下ろされた。
次の瞬間、ゴシャアァァッ!! という鈍い衝撃音とともに、上杉の頭が床に埋め込まれる。
「ふごぉ!!」
床に沈められたまま、情けない声が漏れた。
だが、新八の怒りは収まらない。まるで沸騰した湯のように、感情が爆発し続けている。
「てめ〜〜人に散々満点の答案見せびらかしといてコミュ力ゼロで人様をクビに追い込む失態を犯しただァ〜?」
バゴォォォォ!!
容赦ない二撃目が上杉の背中に炸裂する。まるで雷が落ちたかのような衝撃が、彼の全身を貫いた。
「ふざけんのも大概にしろォォ!!」
新八の目は、燃え盛る炎のようにギラついていた。
「何が原因で五月さんと喧嘩した。あん?何をして五月さんを怒らせた?」
新八が鋭い視線を突き刺すと、上杉は慌てて体を起こし、必死に言葉を紡ぐ。
「ちょっ、ちょっと待て。今はそういう事をしている場合じゃないだろ」
そう言うと、彼は時計を指差した。
「ホラ見ろ今にも期末試験までの時間が襲いかかりそうな雰囲気だよ」
新八の眉がピクリと動く。
「うるせーんだよ!!こっちも襲いかかりそうな雰囲気!!」
彼はようやく観念して口を開く。
「待て、落ち着いてくれ。確かに俺のせいで五月を怒らせてしまったことは謝る。」
新八は鋭い目をしたまま、静かに続きを促す。
「今回の件は、お前たちのところにも掛かってきたお父さん(五つ子のお父さん)からの電話に動揺してしまって、何も考えずに暴言を吐いてしまったのが原因なんだ。」
「俺にもどうしていいかわからないから、こうしてまずは他の姉妹に勉強をーー」
「だからなんで自力で解決しようとしねぇんだよォォォォ!!」
ドガァァァッ!!
再び、容赦のない一撃が炸裂する。上杉は吹っ飛び、壁に頭を打ち付ける。
新八は肩で息をしながら、ため息混じりに呟いた。
「はぁ〜、もういいです。事情は分かりました。五月さんに嫌われていたとしても、僕たちのすることは変わらないので」
上杉は床に崩れ落ちながら、ぼそりと答えた。
「そ、そうだな………助かった。」
新八は腕を組み、少し考え込んだ後に、注意を促す。
「それと、二乃さんには気づかれないようにしてくださいよ。」
「二乃さんにもバレたらほんとに詰むんで」
上杉の表情が一瞬で硬直する。
「ああ分かっている。」
新八は深いため息をつき、ようやく落ち着きを取り戻すと、リビングの方へと視線を向ける。
「さて銀さんたち、上手くやってるかな?」
静かだった玄関から一転、扉の向こうには、すでに騒がしさの予感が漂っていた。
上杉はゆっくりとリビングへと続く扉に手をかけ――
その先に待ち受ける惨状を、まだ知らなかった。
上杉は慎重に扉を押し開けながら、部屋の様子を確認した。
すると、そこには―― 一花、三玖、四葉の三人が、きちんとテーブルに座っていた。
まるで模範的な生徒のように、彼女たちはお行儀よく腰を掛けている。
一切の騒がしさもなく、規律正しく並ぶ姿は、まるで静かに試験勉強に打ち込んでいるかのようだった。
上杉は目を細め、疑念を抱きながらも口を開く。
「なんだ。一花、三玖、四葉の全員、ちゃんとテーブルに座っているじゃないか」
新八はその光景を目にし、ほっと胸を撫で下ろした。
「ほんとだ、良かった〜〜。だってあんなこと言われた後ですもんね。銀さんだって本腰入れ始めたみたいです。」
だが、上杉の表情は晴れない。
「………」
眉間にわずかな皺を寄せながら、彼はさらにじっくりと室内を観察した。
――何かがおかしい。
「なんか異様に神妙な顔をしていないか、アイツら?」
新八は眉を上げ、きょとんとした顔で答える。
「真剣に勉強してるんですよ。期末試験が近いから」
しかし、上杉の直感は警鐘を鳴らし続けていた。
「でも、なんか変――」
彼らは目を細めながら、じっくりとテーブルの上を見つめる。
広げられているのは…… 教科書でも、ノートでもない。
そこにあったのは――
「それェ!!」
人生ゲームだった。
一花は興奮した様子で立ち上がり、拳を突き上げる。
「やったァァァァ!!」
彼女の目の前には、色とりどりのボードと駒、そして紙幣の束。
そして、彼女が指を指しているのは―― 「人気女優になって収入2000万増える!」 というマスだった。
「以後、順番が回ってくる度に2000万入るって!!」
彼女の瞳は希望に満ち溢れ、口元には勝ち誇った笑みが浮かぶ。
「勝ったよ。これは完全に勝った!! 私にピッタリのマスだし、もう勝ち組確定!! 負ける気がしないね。」
しかし、その隣では、三玖が静かに溜息をついていた。
「一花、黙って。「絶対は絶対にない」って言葉があるように、勝負はまだ分からないよ。」
「もう三玖ったら負け惜しみはよしなよー。」
一花はふふんと鼻を鳴らし、両腕を組みながら偉そうに椅子にもたれかかった。
「さて、こっから君たち負け組がどうやっても追いつくことは不可能だよ」
「だって勝ち組だもん!! 女優だもん!!」
四葉はそんな一花を見て、ぷくっと頬を膨らませる。
「いくら自分の職業のマスの上にいるからって、現実でもそうなるとは限らないからね!! ねぇ、銀さん?」
銀時は腕を組みながら、ふんっと鼻を鳴らした。
「そうそう。そこのバカウサギの言う通りだ。」
「ボードの上でいくら有名で金持ちだからって、こっちの人生(ボード)の上では、アンタはまだ新米女優ということになんら変わりねーことを忘れんなよコノヤロー」
一花は、ぷんっと頬を膨らませた。
「そこまで言わなくていいじゃない!! ゲームの中くらい夢見させてくれてもいいんじゃない!!」
しかし、銀時の反応は冷たい。
「黙れマダオ(まるでダメな女)。」
彼は腕を組み直し、厳しい目つきで一花を睨みつける。
「自分の部屋も悪く場所がないくらい散らかして、部屋の中じゃほぼ裸族。」
「まんじりとも動けねぇ人生を送ってるくせに、調子に乗んなよ」
三玖はすかさず便乗する。
「調子に乗らないで、一花」
四葉も、腕を組んで頷いた。
「乗るな乗るな〜」
一花はムッとした表情で、反論する。
「それをいうなら、ゲームの中でも負け組のあなた達よりはマシでしょ!!」
三玖の目が鋭く光る。
「それを言っちゃったなら、仕方ない」
彼女は銀時の方を向き、静かに言った。
「銀ちゃん、獄門打ち首の準備」
銀時は立ち上がり、勢いよく敬礼する。
「アイアイサー」
その瞬間――
「アイアイサーじゃねぇわァァァァ!!」
新八と上杉のツッコミが炸裂する。
ドカァァァァ!!
次の瞬間、テーブルが勢いよく蹴り飛ばされ、ゲーム盤が宙を舞った。
カラフルな紙幣が空中を舞い、まるで夢と希望が粉々に砕け散るかのようだった。
一花の顔が絶望に染まる。
次の瞬間には悲鳴を上げた。
「アァァァァ何をするのさ、新八君に風太郎君!! せっかく人気女優になれたのに!!」
彼女は両手を振り回しながら、吹き飛んだ紙幣を必死でかき集める。
まるで、路上にばら撒かれた宝くじを拾い集める人のように、彼女の動きには必死さが滲み出ていた。
しかし、新八は彼女の行動に容赦なくツッコむ。
「何をするのさ、じゃねーだろ!!」
その隣で、上杉も呆れたように腕を組みながら一喝した。
「珍しく神妙な顔をしてると思ったら……お前ら、なんて時期に人生ゲームやってんだ!!」
本来なら教科書とノートが並ぶはずのテーブルが、今やボードゲームの戦場と化している。
それを目の当たりにし、上杉の眉間には深いシワが刻まれる。
しかし、そんな説教に対し、銀時は涼しい顔で口を開いた。
「何言ってんだ、ぱっつぁん、キノコ。」
「勉強会に人生ゲームは不可欠だろうが」
その発言に、新八と上杉はピタリと動きを止める。
「……は?」
銀時は腕を組み、どこか誇らしげに続けた。
「普段なら、勉強会と称して不健康に即TVゲームってところだが……」
「今回はご馳走を作ってくれるお母さんの目がいつもより光っている」
銀時は指を立て、得意げに語る。
まるで長年の経験を積んだ軍師が、秘伝の戦術を語るかのように、言葉に無駄がない――いや、無駄だらけだった。
「そこでTVゲームは諦め、人生ゲームあたりで手を打って人生の勉強をしているいい子ぶりをアピールする」
「そうすることで、ご馳走にありつく……」
「これが真の勉強会の極意だろーが」
彼はまるで「この世の真理」を語るかのように堂々と胸を張った。
それを聞いた新八は、勢いよくツッコむ。
「知らねーよ!! てめーらの培ってきたしょうもねぇ勉強会ノウハウなんて!!」
新八が顔を真っ赤にして怒鳴る中、今度は三玖が静かに口を開いた。
「シンパチ、事はご馳走だけの問題じゃないんだよ」
その言葉に、新八はぎょっとした顔をする。
「……は?」
三玖は落ち着いた口調で続けた。
「ここでお母さんの機嫌を損ねると、
地震・雷・火事・母ちゃんがやってくる危険性が出てくるの」
彼女の言葉を聞いた新八は、一瞬固まり、すぐにツッコむ。
「それをいうなら地震雷火事親父!! どんだけ母さん引っ張るんだよ!!」
しかし、そんな新八のツッコミを完全に無視し、四葉が勢いよく手を挙げた。
「そうなれば、みんなでTVゲームのうちトレの可能性が、夢も跡形もなく消えてしまうのです!!」
彼女はまるで国家の存亡を語るかのように、真剣な表情で言い放った。
そのあまりの力説ぶりに、上杉は思わず声を上げる。
「そんな夢抱いた覚えないんだが!!」
そして、眉間に皺を寄せながら、さらに問いかける。
「というかお前ら、どんだけTVゲームで遊ぼうとしてるんだ。童心に返りすぎだろ!!」
「ほんとに何やってんですかアンタら!? もう期末試験まであと一週間もないのに……!」
新八の叫びが部屋中に響く。しかし、当の五つ子たちはといえば、全く動じる様子もなく、平然とリラックスムードを保ったままだった。
「お前ら、点数取りたくないのか」
上杉も腕を組み、冷静な口調で問いただす。彼の鋭い視線が、一花、三玖、四葉に向けられる。しかし、彼女たちはその視線にも動じることなく、むしろどこか楽しげな雰囲気さえ漂わせていた。
三玖は、ゆっくりと上杉と新八を見つめ、静かに首をかしげる。
「フータローにシンパチ、なんか焦ってる」
その言葉を聞いた瞬間、新八と上杉の顔がピクリと引きつる。
「ゲ……」
四葉が目を輝かせながら、三玖に問いかけた。
「三玖はどうしてそう思うの?」
三玖は、まるで謎解きの真相を告げる探偵のように、淡々とした口調で推理を語り始めた。
「フータローたちは、私たちを卒業させればいい。それなら、ここで無理する必要はないはず……」
四葉は、ハッとしたように頷いた。
「確かに……」
上杉・新八 『し、しまったァァァァ!! 焦りすぎて逆に疑われてしまっている!!』
二人の脳内警報がけたたましく鳴り響く。気づかれないようにしなければいけなかったのに、逆に怪しまれてしまうという痛恨のミス。焦りすぎたせいで、墓穴を掘った形になってしまった。
そんな二人をよそに、一花が肩をすくめ、朗らかに微笑んだ。
「まぁまぁ、私たちも放課後、学校に残って頑張ってるし」
「気を張り続けても疲れるだけなんだからさ、息抜きをしてもいいでしょ?」
一花の言葉に、三玖や四葉も小さく頷く。彼女たちは完全に「リラックスモード」に突入していた。新八は、絞り出すような声で答えた。
「そ、そうですね。焦りすぎました。」
なんとかその場を取り繕おうとするが、すでに流れは五つ子側へと傾いている。
そして、その流れに便乗するように、銀時が腕を組みながら口を開いた。
「そうそう。焦らせたって結果はすぐにはでやしねぇんだよ。」
彼は余裕たっぷりの態度で、足を組み直しながら続ける。
「ジャンプ漫画代表のドラゴ◯ボールの悟空だって、界王拳使えるようになってからスーパーサイヤ人を使えるようになるまで、すごい時間がかかっただろ?」
彼の語り口は、まるで偉人の教訓を説く賢者のようだった。新八と上杉は、銀時の言葉に嫌な予感を覚えつつも、黙って聞いていた。
「その後の悟空たちは、進化の波に乗り始めて、すぐさま2、3、ゴッド、ブルーって感じでスムーズに成長していったんだから、その波に乗るまでのんびりいこうぜ。のんびり」
彼の言葉に、三玖と四葉が「なるほど」と頷く。完全に流されている。
「……ほう、そんな理屈で試験勉強をサボれると?」
上杉が冷たい視線を銀時に向ける。
銀時は腕を組み、達観した表情でうそぶく。
「そうやって、進化のタイミングを見極めるのが重要なんだよ」
新八は、その銀時の態度に目を見開き、全力でツッコんだ。
「アンタののんびりに悟空さんが付き合ってたら、サイヤ人襲来編で地球は滅んでますよ!!」
そのツッコミが部屋中に響き渡る。
そこへ、玄関から凛とした声が飛んできた。
「なんだー、勉強サボって遊んでるじゃない」
一瞬で室内の空気が変わる。まるで悪事がバレた子供たちのように、全員がビクッと肩を跳ね上げた。
リビングの入り口に立っていたのは、腕を組んだまま冷たい視線を投げかける二乃だった。
銀時は、ゆっくりと口角を上げながら彼女を指差した。
「あっ出た。ツツミレ見習い。《ツッコミとツンデレ》」
「私はアンタらの専属ツッコミ担当でもツンデレ担当でもないわ!!」
バン!と勢いよく踏み込んでくる二乃に、新八と上杉が一斉に身を引く。しかし、銀時はあくまで余裕の表情を崩さなかった。
上杉が、まるで当然のように手を伸ばしながら口を開く。
「お前そこにいたのか。よし、一緒に勉強——」
「死んでもお断り」
即答。あまりにも迷いのない拒絶に、上杉の手が宙で止まる。
新八はため息をつきながら、ふと周りを見渡した。
「そういえば五月さんまだ帰ってませんね。それに神楽ちゃんも——」
その時、二乃が新八の肩を指先で軽くトントンと叩く。
「……どうしました?」
新八が振り向くと、二乃はキッチンの方を顎で指し示していた。
「あれ、何?」
キッチンの入り口に、突如として設置されたテント。まるで登山家が明日を生き抜くために野営しているようなシュールな光景に、全員の視線が一点に集中する。
「キッチンの前のテント何? あれじゃ料理が出来ないじゃない」
四葉は目を輝かせながら、まるで新たな冒険を発見した子供のように呟く。
「わぁ〜登山家でもいるんですかね?」
上杉はこめかみを押さえながら、冷静に反論した。
「そんなわけないだろ。」
しかし、次の瞬間——
シュルル……
テントのジッパーがゆっくりと開き、その中から、まるで生まれたばかりのヒヨコのようにキョロキョロと周囲を見回しながら、寝袋にすっぽりと収まった神楽が姿を現した。
「まだアルか。ツンデレ娘の料理開始時刻は…」
神楽の呟きと同時に、
ドカァァァァ!!
新八の飛び蹴りが炸裂する。寝袋ごと神楽をテントから引きずり出し、床に叩きつけた。
「何、徹夜覚悟の構えで並んでんだァァァァ!!」
「二乃さんの料理にどこまで身体張ってんだよ!!」
神楽はごろごろと寝袋のまま転がりながら、のんびりと答える。
「身体じゃなくて、テント張ってるだけアル」
「うめー事言ってんじゃねーよハラ立つ!! いいから出て来いや恥ずかしい!!」
「そんなに必死にならないでも、どうせツンデレ娘は私たちにご飯を作らねぇよ!!」
新八の言葉にイラっとした二乃が腕を組みながら冷静に口を開いた
「失礼ねぇ。ご飯ぐらいは出してあげるわよ」
その瞬間、神楽の目がキラリと光る。
「聞いたアルか? ご飯作ってくれるって。多分今日は私の好きな春巻きネ!」
パァァァァァ!!
まるで花畑を駆け抜ける少女のように、神楽は寝袋に入った状態でぴょんぴょん飛び跳ね、キッチンの方へと駆け寄った。
「永住するアル。春巻きが出るなら私はここで春を待つアル!」
その発言に、新八は思わず頭を抱える。
「春でも秋でもなんでも巻いてあげるからさぁ。お願いだから神楽ちゃん出てきてよ!! こんな事してたら僕ら追い出されちゃうよ」
しかし、そんな新八の懇願も虚しく、二乃はあっさりとした口調で告げた。
「そんなことしてなくても、ご飯作って渡したら追い出すけどね。」
ドタバタと騒がしい空気が続く中、玄関のドアが静かに開いた。
まるで雷雲が近づくような、静かでありながらも圧力を帯びた足音が室内に響く。
「ただいま帰りました。」
その声に、一瞬、場の空気が張り詰めた。振り返ると、そこに立っていたのは五月だった。
彼女の表情は無表情……に見えて、その瞳の奥にはどこか冷ややかな怒りが滲んでいる。
上杉は慌てて立ち上がり、一歩前へと踏み出した。
「五月! さっきは……」
しかし、その言葉を最後まで言い終わる前に——
サササッ!!
まるで忍者のごとき俊敏な動きで五月は自分の部屋のドアの向こうへと向かい
ドカッ!!
勢いよく扉を閉じ、鍵までかけてしまった。
「あっ………」
上杉は、ぽかんとした表情でドアを見つめる。
そこに残されたのは、五月がいた空間の残像のみ。
銀時は口笛を吹きながら、肩をすくめた。
「ありゃ相当キレてんな」
新八と四葉が心配そうに上杉を見つめる中、銀時はニヤニヤと笑いながら軽く肘で上杉をつついた。
「まぁ頑張れ、キノコ頭くん」
上杉はこめかみに手を当て、ぐっと奥歯を噛みしめた。
「お前も手伝ってくれよ」
「自分のケツくらい自分で拭けよ学年一位」
銀時は涼しい顔で突き放す。その態度に、上杉は深くため息をつくしかなかった。
——その時、キッチンの方から二乃が腕を組みながら歩いてきた。
彼女は不機嫌そうに銀時たちを見つめながら、わざとらしくふんっと鼻を鳴らす。
「さぁ……アンタらのためにご飯作ってあげたから、さっさと帰りなさいよ」
そう言うと、キッチンのカウンターの上に料理の入った皿をドンッと置く。
香ばしい匂いが漂い、空腹だった銀時たちの胃袋を刺激した。
銀時が顔を輝かせるより早く、二乃は神楽の方を睨みながら付け加えた。
「ちなみにそこのチャイナには春巻きを作ってあげたから」
神楽はぱぁっと顔を明るくし、瞳を輝かせながら二乃に駆け寄った。
「二乃ォォォ!!ついにお前も私の魅力の虜になったアルね!? もう嫁に来るしかないネ!!」
二乃は少し顔を赤くし、両手をぶんぶん振りながら後ずさった。
「べ、別に材料が余って、そのあまりで作っただけだからね!! 勘違いしないことよ!!」
銀時がニヤリと笑いながら茶々を入れる。
「何それ、デレですか? ツン後のデレ、つまりツンデレですか。」
神楽は大きく頷きながら、二乃の肩をポンポンと叩いた。
「さまになってきたアルな……75点」
「採点しなくていいわ!!」
二乃は拳を握り締め、今にも殴りかかりそうな勢いで神楽を睨みつける。
しかし、その視線の先で、銀時たちはしれっと皿を手に取ろうとしていた。
「とにかく早くかーえ〜れ〜!!」
二乃は力強く銀時たちの背中を押し始める。
まるで掃除の時間に机を後ろへと押しやる小学生のように、全力で玄関へと追いやろうとする。
「ちょっと押さないでくださいよ!」
新八が抵抗するも、二乃の押し出し力は強い。銀時も、それに巻き込まれながらじりじりと後退させられていく。
「おい銀時、お前が先だ。お前が先に帰れ!!」
上杉が焦りながらそう言うと、銀時も負けじと反論する。
「ふざけんな! お前らには家族がいるだろ? 心配かけないようにお前らの方が先に帰れぇ!!」
二人は出口へと押し出されながら、互いに責任を押し付け合う。
新八は思わず頭を抱え、神楽は春巻きをもぐもぐと食べる。
「もうみんな、話が違うじゃん。」
その時、一花が二乃の肩にそっと手を置いた。
彼女はいたずらっぽく微笑みながら、ゆっくりと口を開く。
「今日は泊まりで勉強を教えるって話だったでしょ?」
「え、えぇぇぇ!!」
銀時、新八、上杉の三人は、一斉に目を見開いた。
まるで突如として地雷を踏んでしまった兵士のように、彼らはお互いの顔を見合わせる。
その後
銀時たちが泊まりの勉強会からどう逃げようかと密かに画策していると、突然玄関の扉が勢いよく開いた。
鋭い視線とともに現れたのは——
お妙だった。
不気味なほど穏やかな笑顔を浮かべながら、ゆっくりと室内へと歩みを進める。
その表情は一見すると慈愛に満ちた姉のものに見えなくもないが……
しかし、その背後には黒いオーラが渦巻き、まるで鬼神が顕現したかのような異様な威圧感を放っていた。
「新ちゃん?」
「あ、姉上……どうしたんですか?というか一階入り口付近の鍵は……」
新八は冷や汗を流しながら、視線を玄関の方へと向ける。
そう、このマンションの入り口には厳重なセキュリティが施されていたはずだ。
部外者が簡単に入れるような場所ではない。
それなのに——どうやってここまで!?
「あーあれ?なんかよく分からなかったから……」
お妙は微笑を崩さぬまま、さらりと言ってのけた。
「突き進んできちゃった⭐︎」
ズゥゥゥゥ……
その瞬間、そこにいた全員の顔が一斉に青ざめた。
背筋に冷たい汗が伝い、誰もが無意識に距離を取る。
一花が恐る恐る口を開く。
『ねぇ……あれって普通に突き進んで突破できるものだったっけ?』
二乃が即座に否定する。
『そんなわけないでしょ!? 銃弾も通さない特殊な強化ガラスが使われてるって書いてあったじゃない。以前、強盗がこのマンションに来たときも銃弾を防いでいたでしょ!』
四葉が混乱しながら続ける。
「でも、突破してないと番号も知らない新八さんのお姉さんがここまで来ることは出来ないはず……」
三玖は何も言わなかった。
ただ、じっと目を見開き、まるで現実を受け入れられないように震えていた。
お妙は拳を軽く握りながら、新八の前に立つ。
「新ちゃん?門限を守らなかった……どういうことか分かるわよね?」
彼女はニコッと優しく微笑んだが、その手には鋼鉄すら砕くかのような威圧感が漂っている。
新八は慌てて後ずさる。
「ちょっ、ちょっと待ってくださいよ姉上!! これには事情が——」
「言い訳なんて聞きたくないわァァァァ!!!」
ドカァァァァ!!
新八の体が弾丸のように吹っ飛び、床に叩きつけられた。
衝撃でフローリングがわずかに軋む。
「ゴフゥ!!」
しかし、お妙は容赦しない。
すぐさま新八の襟首を掴み、さらに勢いをつけてもう一撃——
「どうせ、私と違って胸のでかい子娘たちに鼻の下伸ばしてただけなんだろうが!!」
ドカァァァァ!!
新八「ヘボォォォォ!!」
もはや声すらまともに出せない新八。
お妙は止まらない。
彼女の拳が、まるで機関銃のように容赦なく新八を打ち据える。
「オラオラオラオラオラオラオラ!!!」
新八「…………」
新八の意識が遠のく中、彼は悟った。
——この世には話を聞かない奴らの中に姉上が含まれるのだと。
お妙は満足げに頷くと、新八の襟を掴み、ズルズルと引きずりながら玄関へ向かった。
「次はないわよ……」
そして、扉がバタンと閉まる。
新八は連行され、静寂が訪れた。
「……」
上杉が沈黙を破る。
「……あいつの姉……あの描写を見るに握力600はあると思うんだが……」
その言葉に、姉妹たちはゴクリと唾を飲んだ。
強化ガラスを破壊し、あれほどの暴力を振るえるということは……
つまり、お妙の握力はギネス級のゴリラ並みということになる。
「それが本当なら……マジで人類の限界突破してるだろ……」
上杉が冷や汗を流しながら呟いたそのとき——
「え、マジかよ。」
銀時が口を挟んだ。
彼もまた驚愕の表情を浮かべながら、しみじみと呟く。
「マジでゴリラに育てられたんだな。俺なんて去年の握力測定、150ぐらいだってのに……」
「……」
部屋の空気が一瞬にして凍りついた。
上杉、一花、二乃、三玖、四葉、——全員の視線が銀時に集中する。
銀時は何かおかしなことを言ったかとキョトンとした顔をしているが、周囲の反応は完全に異常だった。
「えぇぇぇぇぇぇ!?!?」
一斉に叫ぶ姉妹たち。
上杉も思わず目を見開いた。
「……お前、150kgって……」
「それ普通の人間の数値じゃないでしょ!? なんでそんなに握力あるのよ!?」
銀時はポリポリと頭を掻きながら、あっけらかんと答えた。
「いやいや、お前ら握力150kgなんて、ちょっと修行すれば誰だっていくよ。亀の甲羅を背負って走ればーー」
「ドラゴ◯ボールはもういいわ!!それに甲羅背負って走ってもいかないわよ!!!」
その場にいた二乃がツッコミを入れた。
銀時は「そんな大げさな」と肩をすくめたが、姉妹たちは呆然としたままだった。
唯一、三玖だけが静かに「……すごい……」と感心していた。
なんやかんやあって五つ子の部屋に泊まることが決定した銀時たち。
しかし、このまま無断で帰らないわけにはいかない。
銀時はため息をつきながら、五つ子の一人からスマホを借りて、お登勢に電話をかけた。
プルルルル……
「何ィ!?」
受話器越しに響く、お登勢のガラガラ声。
その迫力に、銀時は思わずスマホを耳から少し離した。
今頃、スナックお登勢のカウンターの向こうで、酒を片手に電話を取っていることだろう。
「それじゃあアンタたちはあの子たちの家に泊まるってのかい?」
銀時は肩をすくめながら答えた。
「しゃあねぇだろ? ガッチリガードされてんだから……それに俺も腹を決めて仕事のプロフェッショナルとして家に泊まると決めたんだよ。」
その言葉を聞いた瞬間、お登勢は電話越しにも分かるほど鼻で笑った。
「へぇ〜……」
「あんたが“仕事のプロフェッショナル”ねぇ……どの口が言ってんだい? どうせアンタのことだから、泊まるっつっても適当にゴロゴロして、気づいたらジャンプ読んで寝落ちするのがオチだろ?」
「バカ言え。俺だってやる時はやるんだよ。いざとなればこの目も煌めくから」
銀時はそう言いながら、すでに面倒くさくなっていた。
実際、目の前にはテーブルの上に積まれた参考書よりも、ジャンプの最新号のほうが魅力的に見えている。
しかし、そんなことはお登勢に悟られるわけにはいかない。
「まぁあの子たちが決めたことなら、部外者の私たちがとやかく言ういわれにゃないけどねぇ……」
お登勢の声が少しだけ優しくなる。
彼女なりに、五つ子の自主性を尊重しているのだろう。
が——
「ただし、夜の暴れん坊将軍は納めておくんだよ。」
——やっぱり続いた。
銀時の額に汗がにじむ。
「は?」
「アンタのことだから、深夜のランデブーでもしようもんなら——」
「やらねぇよ!!」
銀時は慌てて叫ぶ。
しかし、お登勢は全く聞く耳を持たず、むしろさらに鋭い口調になって続ける。
「ほんとかい? あの子たちと一つ屋根の下で、夜のテンションに身を任せて……」
「しねぇっつってんだろ!! 俺はちゃんと段階踏んでからじゃないとしないから! 深夜テンションなんかでヤっちまったりしねぇから!」
銀時の必死の弁明に、電話の向こうから含み笑いが聞こえてくる。
「へぇ……」
「ヤル気満々の奴のセリフにしか聞こえないんだがねぇ?」
その瞬間、銀時の顔が一気に青ざめた。
「ち、違ぇよ!! なんでそうなるんだよ!! てか、いい加減にしろババァ!!!」
銀時は無理矢理電話を切った。
銀時は廊下で一人、冷や汗をかきながら、ため息をついた。
——これは、明日万事屋に帰ったら確実に冷やかされる。
そんな未来が容易に想像できた。
「はぁ……」
銀時は携帯を握りしめながら、心の中で叫ぶ。
(チクショォォォ!!! 何で報告しただけでこんな目に遭わなきゃなんねぇんだよォォォ!!!)
誰もいない廊下で、銀時は孤独な戦いを繰り広げていたのだった——。
銀時がのんびりとリビングへ戻ってくると、テーブルの周りに集まっていた姉妹たちが顔を上げた。
銀時「戻ったぞー。……あれ、キノコの勉強漬けはどうした?」
一花がクスクスと笑いながら答える。
一花「何その料理みたいな呼び名……フータロー君は先にお風呂に入ってるよ。」
銀時は適当に返事をしながら周囲を見渡した。
銀時「で、ツンデレと肉まんは相変わらず部屋に引きこもってるのか?」
一花「五月ちゃんは部屋にいるけど、二乃は……あ、ちょうど帰ってきた」
噂をすれば影。まさにそのタイミングで二乃がリビングへと姿を現した。
しかし、その表情は妙に満足げで、不敵な笑みを浮かべている。
一花「二乃、何かあったのー?嬉しそうに見えるけど」
二乃はニヤリと笑い、ゆっくりと銀時へと視線を移す。
二乃「ええ。とっても良い事……が聞けたもの。嬉しいに決まってるわ」
その瞬間、銀時の眉がピクリと動いた。
銀時「……二乃、あのキノコ頭からアレを聞いたな?」
銀時は小声で二乃に問いかける。
二乃は肩をすくめながらも、自信たっぷりに微笑んだ。
二乃「……ええ。」
二乃「言っておくけど、私はーー」
言いかけたその瞬間、銀時がスッと立ち上がった。
彼は無言のまま、肩に木刀を担ぎ、静かに風呂場の方へと歩き出す。
二乃「……ねぇ、アンタその木刀で何するつもり?」
銀時は振り向きもせず、淡々と答える。
銀時「別に悪いことはしねぇよ。ただここの風呂場を模様替えしに行くだけだから。」
彼は一瞬間を置き、ニヤリと笑う。
銀時「金でも銀でもねぇ、真っ赤にな」
その言葉に、二乃の表情が一瞬にして青ざめた。
二乃「良いわけないでしょ!私達の家を殺人の現場にするつもり!?」
銀時「大丈夫大丈夫。殺しはしねぇよ、俺はこの木刀を持った不殺の誓いを交わしたんだよ。」
銀時「3分の4殺しで許しておくから」
二乃「何よ、その誓い!! 完全に るろ◯に剣心 の誓いじゃない! おふざけで誓っていい約束じゃないのよ!!」
二乃は怒りながら詰め寄るが、銀時は木刀を肩に担いだまま、悠然とした態度を崩さない。
二乃「それに3分の4殺しって何!? ほとんど死んでるじゃないのよ‼︎」
銀時「そんなに言うなら、お前にも真実を知った代償を払ってもらわねぇとな……」
二乃「え、何?何なのよ!」
銀時はニヤリと笑い、どこからともなく縄を取り出すと、それをゆっくりと引っ張りながら二乃に向けて歩き出した——。
風呂場のドアがギィィ……と音を立てて開く。
湯気がほんのりと漂う中、バスタオルで髪を拭きながら上杉が脱衣所へと足を踏み入れた。
しかし、次の瞬間——彼は違和感に気づく。
目の前に立ちはだかる影。
廊下の薄暗い明かりの中、腕を組みながら仁王立ちしているのは——銀時。
彼はゆっくりと指を鳴らしながら、ニヤリと笑っていた。
銀時「……よう、学年一位。」
ゾクリ。
上杉の背筋に冷たいものが走る。
何かがおかしい。いや、これは……間違いなく"詰んでいる"状況だ。
ガシッ!!
次の瞬間、銀時は無言で上杉の頭を掴み、ぐいっと力を込める。
上杉「グオォォォォ!!」
銀時「おい、バレたってどういうことだよ?」
銀時の握力が徐々に増していく。上杉は必死にもがきながらも、何とか弁解しようと声を絞り出した。
上杉「俺は騙されたんだよ!少し話を——」
銀時「聞くまでもねぇよ。」
銀時はため息混じりに言い放ち、さらにギュッと上杉の頭を締め上げる。
銀時「どうせ肉まん女のモノマネしてきたツンデレにゲロっちまったんだろ?」
上杉「ほ、本当にすまん!俺も必死すぎて……考えてなかったんだ……」
銀時はしばらく黙り込んだ後、ゆっくりと上杉を見下ろす。その瞳には怒りと——ほんの少しの哀れみが混ざっていた。
銀時「……謝って済むならこの世に警察はいねぇんだよ。」
指を鳴らしながら、不敵な笑みを浮かべる銀時。
銀時「この後お前を刻んで潰しちゃって痛めちゃっていいかな?」
銀時「キノコのゲロ漬けにしちゃっていいかな?」
上杉の顔が引きつる。
それは——完全に"終わった"者の表情だった。
上杉「本当に悪かった。」
反省の色を見せる上杉に対し、銀時は鼻を鳴らしながら肩をすくめた。
銀時「……まぁいい。過ぎたこたぁもう戻せねーんだ。これでしめーだ。」
ひとまず、上杉への制裁(物理)は終了したようだ。
だが、ここで新たな問題が浮上する。
上杉「で、二乃のやつはどうするんだ?」
上杉「ますますアイツが勉強会に参加しにくくなってしまったがーー」
二乃の気性の激しさを考えれば、今回の件で彼女がさらに勉強会を拒否するのは目に見えている。
それどころか、より一層距離を置かれる可能性だってある。
だが——銀時はニヤリと笑いながら、悠然と指を指した。
銀時「それなら心配いらねぇよ。」
上杉が銀時の指さす方向へと視線を向ける。
次の瞬間——上杉の目に飛び込んできたのは、衝撃的な光景だった。
天井から吊るされた紐に、ガッチリと亀甲縛りされた二乃の姿がぶら下がっていた。
上杉「……」
上杉「……な、何やってんだ銀時!?」
思わず叫ぶ上杉。
銀時「何って、お前。見ての通りだろ?」
銀時「こいつはいやがおうでも逃げも隠れも出来ねぇ、お前はアイツに向かって授業をしてればいいんだよ。」
あまりにも堂々とした言い分に、上杉は言葉を失った。
というより、どこからツッコめばいいのか分からない。
上杉「銀時、お前もドSなのか?」
銀時はニヤリと笑いながら、木刀を肩に担ぐ。
銀時「いやいや、これは愛のムチってやつよ。俺が本気でドSなら、天井じゃなくて地面に埋めてる」
それは……もはや授業ですらなく、"尋問"ではないのか?
上杉の脳裏に、"五つ子の家庭教師"という肩書きが"尋問官"へと変化していく未来がちらついた——。
亀甲縛りされたまま天井からぶら下がる二乃は、顔を真っ赤にして銀時を睨みつけていた。
二乃「アンタ……いい加減にしなさいよ!!今すぐこれ解きなさい!!」
必死にもがくが、縛り方が完璧すぎてまったく動けない。
どこでこんな技術を習得したのか、銀時の意図が読めず、ますます苛立ちが募る。
銀時「やだね。」
銀時はあっさりと言い放つと、どこからかミカンを取り出し、皮を剥きながら余裕の表情を見せた。
銀時「いいか?お前はこれまで何度も何度も勉強会をサボりやがった。だからこうしてお灸を据えてやってんだよ。」
銀時「いい加減観念しろよ。お前がバタバタ暴れたところで、天井の梁が揺れるだけだぞ。」
二乃は歯ぎしりしながら上杉を見た。
二乃「アンタ……!アンタまで黙って見てるつもり!?」
上杉は腕を組みながら深いため息をついた。
正直、彼女をここまで強制的に勉強に参加させるとは思っていなかったが……まぁ、結果的に逃げられない状況になったのは悪くない。
上杉「……諦めろ。今のお前に拒否権はない。」
二乃「はぁ!?ふざけないでよ!!」
二乃はまた身をよじらせようとするが、体勢が不安定すぎて思うように動けない。
くっ、こんな状態で勉強なんて……と、何か反論しようとしたが、ふと上杉の真剣な視線が目に入った。
上杉「……お前も、そろそろ自分の将来を考えろ。」
二乃「……っ!」
今までなら、反射的に「うるさい!」と言い返していただろう。
けれど——そのまっすぐな目を見た瞬間、何かが胸の奥で引っかかった。
彼の言う通り、これまでなんだかんだ理由をつけて勉強から逃げてきた。
でも……本当にそれでいいのか?
花火の夜の出来事が脳裏をよぎる。
姉妹みんなで一緒に笑い合ったあの時間。
風太郎や銀時たちが、あんなにも真剣に自分たちを想ってくれていたこと。
もし……本当に、このまま何もしないままでいたら。
今度こそ、みんなと同じ未来に進めなくなるのかもしれない。
二乃「……わかったわよ。」
ぽつりと呟いた二乃に、上杉と銀時が同時に視線を向けた。
二乃「……仕方ないから、ちょっとだけ付き合ってあげる。」
銀時「おいおい、”仕方なく”って割には随分素直じゃねぇか?」
二乃「うっさい!アンタのせいでこんな目に遭ってんだから、せめて普通のやり方で勉強くらい教えなさいよ!!」
上杉は少し驚きつつも、すぐに小さく笑みを浮かべた。
上杉「……いいだろう。だったら、ちゃんと最後まで付き合ってやろう。」
こうして、二乃の"仕方なく"始まる授業が幕を開けた。
もちろん、まだまだ一筋縄ではいかないのは明白だったが——それでも、この一歩は大きな前進だった。
銀時がドンと床に座り込み、腕を組みながらドヤ顔で宣言した。
銀時「さぁて、アメーらもこの銀さんに聞きたいことがあればなんでも聞けよ〜」
彼の言葉に、部屋にいた面々が顔を見合わせる。
一花「うーん……今はないかな〜」
四葉「私は上杉さんに教えてもらったので、まだ大丈夫です!」
銀時は少しつまらなそうに肩をすくめた。
銀時「そ、でヘッドホンは?」
突然名指しされた三玖は、ハッとして身をこわばらせる。
三玖「わ、わたしは……」
言葉に詰まる三玖を見て、神楽がニヤリと笑い、妙な助言をした。
神楽「そういう時はーー」
一花「好きな人について聞けばいいんだよ」
三玖「!?////」
三玖の顔が一瞬で赤く染まり、手元のノートを握りしめる。
一花「あらら〜照れちゃった。」
そんな三玖の様子を見て、神楽はさらに追い打ちをかけるように銀時を見た。
神楽「仕方ないアルな、銀ちゃん先生!」
銀時「はい、なんですか〜?」
神楽はピシッと手を挙げて、得意げに言い放つ。
神楽「銀ちゃんとガリ勉の好きな人のタイプを教えて欲しいであります!!」
その瞬間、空気がピシッと張り詰めた。
三玖は「そんなこと聞くの!?」とばかりに目を見開き、一花はワクワクとした表情で身を乗り出す。四葉も興味津々でノートを構えた。
銀時は少し考えるふりをして、すぐに条件を出した。
銀時「そうだな、ノートを3ページ埋めたら教えま…………って、もう取り掛かってるし…………」
神楽、一花、四葉、三玖が一斉にノートを開き、猛烈な勢いでペンを走らせていた。
「終わった」
「終わったよ~」
「終わりました!」
銀時は目を丸くし、驚きの表情を浮かべた。
銀時「いつになくやる気だしてたな〜おい……………」
一花「そりゃあ、こんなチャンスめったにないしね~」
銀時はため息をつきながら上杉に視線を向ける。
銀時「おい、キノコ。お前が先に答えろよ」
上杉は頷き、真面目な表情で答えた。
上杉「じゃあ、まずは俺のから教えよう!」
彼は黒板の隅にチョークで「上杉風太郎の女の子の好きなトコBest3」と書き出した。
『上杉風太郎の女の子の好きなトコBest3』
1.お兄ちゃん想い
2.料理上手
3.いつも元気
──静寂が訪れた。
部屋の中の全員が、上杉の書いた文字を無言で見つめていた。
一花「……」
四葉「……」
三玖「……」
二乃「……」
神楽「……」
銀時「……」
そして、全員が同じ結論にたどり着く。
銀時「ただのシスコンじゃねぇかァァァァ!!」
上杉は「あれ?」という顔をする。
上杉「いやいや、シスコンじゃない。俺はただ、家族を大事にするらいはのことを思ってだな……」
銀時「それを世間ではシスコンって言うんだよォォォ!!」
神楽はお茶を吹き出しながら笑い、四葉も大爆笑。
三玖と二乃は呆れたようにため息をつき、さらに三玖は静かに「やっぱり……」とつぶやいていた。
こうして、銀時の好きなタイプの発表前に、上杉風太郎は"シスコン"のレッテルを貼られることとなったのだった──。
上杉は腕を組みながら、ジロリと銀時を睨んだ。
上杉「そういうお前はどうなんだよ、銀時!!」
銀時は肩をすくめ、わざとらしく頭をポリポリと掻いた。
銀時「そうだな〜、じゃあ銀さんの場合は、好きなタイプを言う前に"嫌いな人"の特徴を教えるとしようか」
その言葉に、一花や四葉が身を乗り出し、興味津々といった顔をする。
銀時は咳払いをし、堂々と語り始めた。
銀時「まず、文化祭があるってことでテンションが上がってるクラスの女子達」
銀時「そんで、そんな女子達に合わせて、テンション上げてるクラスの男子達」
銀時「さらに、それを微笑みながら見守ってるクラスの先生」
──シーン。
部屋に微妙な沈黙が流れる。
「………」
一花は微妙な笑みを浮かべ、四葉は目をパチクリとさせ、三玖は静かに銀時の言葉を噛み締めていた。
そして、上杉がすかさず突っ込む。
上杉「お前はただ文化祭が嫌いなだけじゃねぇか!!」
銀時はフンと鼻を鳴らし、どこか遠くを見つめながら語る。
銀時「そうだよ。銀さんは文化祭が大嫌いだ。あんなカップルがイチャつくだけのイベント、この世から抹消してぇくらいだ」
彼の言葉に、四葉や一花は「そんなに!?」という顔をする。
銀時「ちなみに好きなアナウンサーは結野アナでーす」
その発言に、全員がズッコケた。
二乃「初めからそれを言いなさいよ!! というかアナウンサーが好みだなんて……夢見すぎじゃない? どうせ結婚どころか、お付き合いすらできないのに……」
銀時はふっと口角を上げ、イタズラっぽく言う。
銀時「よし、沖田くーん?」
その瞬間、二乃の顔が青ざめる。
二乃「悪かったわよ!!」
四葉や一花がクスクスと笑う中、三玖は静かに考え込んでいた。
三玖(良かった……条件を見る限り、大人しい人が好きみたいだから、何とかなりそう)
三玖はそっと胸に手を当て、ほっと安堵のため息をつくのだった。
銀時たちがワイワイと騒ぎながら、楽しんでいる(?)と──
「騒がしいですよ。勉強会はもっと静かなものだと思っていましたが」
部屋の空気が一変する。
静かでありながら、どこか鋭い声。
ふと視線を向けると、そこにいたのは五月だった。
彼女は腕を組み、冷ややかな目でこちらを見下ろしている。
銀時は面倒くさそうに言った。
「悪いな、ツンデレ娘が突っ掛かってくるもんだからよ」
その言葉に、即座に反論が飛ぶ。
「突っ掛かって来たのはあんたでしょーが!! もういいわ!」
二乃は怒ったように顔を背け、プイッとそっぽを向く。
銀時は「へいへい」と適当にあしらいながら、五月の方へ視線を戻した。
五月は静かに三玖へと歩み寄り、言う。
「三玖、ヘッドホンを貸してもらえますか。1人で集中したいので」
三玖は少し驚いたように目を瞬かせたが、すぐに小さく頷き、ヘッドホンを外した。
「いいけど………」
その時だった。
上杉が、じっと五月を見据えながら、低い声で問いかける。
「…………お前の事、信頼して良いんだな?」
五月は一瞬、言葉に詰まる。
だが、すぐにまっすぐ上杉を見返し、力強く言った。
「…………足手まといにはなりたくありません」
それだけを告げると、五月はヘッドホンを持ち、自分の部屋へと静かに戻っていく。
その後ろ姿を、神楽はじっと見つめていた。
普段なら何気なくスルーするところだが──
(アイツ、なんか無理してねーアルか……?)
神楽の目には、五月の様子がどこか強がっているように映ったのだった。
「フータロー君、見て、星が綺麗だよ。ちょっと休憩しよ」
一花がふと顔を上げ、窓の外を見ながらそう言った。
勉強中のざわめきから抜け出すように、彼女はすっとベランダの窓を開け、外の静寂へと歩み出る。
室内では相変わらず勉強が続いている。
三玖がノートをめくりながら、暗記したばかりの内容を呟いた。
「家綱、綱吉、家宣……」
その隣で四葉が復唱する。
「なるほど、家綱、綱吉、家綱」
「違う、二人いる」
「家綱吉、家宣」
そこへ、まるで当然のように銀時が割り込んでくる。
「違う違う。徳川田信秀公だってテストに出るから覚えとけよ〜」
三玖はピタリと動きを止め、じっと銀時を見つめた。
「銀ちゃんも合体してる」
そんなやり取りを背に、一花はベランダから振り返ると、軽く微笑んだ。
「………勉強中だし、二人だけにしよっか」
一花がそう言うと、上杉は一瞬迷うような表情を浮かべたが、すぐに静かに頷いた。
「……ああ、そうだな」
そう言って彼もベランダへと足を踏み出した。
室内の喧騒から切り離された静寂が、そこにはあった。
外に出ると、空には無数の星が瞬いていた。
上杉は何も言わず、スマホを取り出し、無言で連写する。
「そう言えば、オーディション受かったよ」
唐突な報告に、上杉は視線をスマホから一花へ移した。
「おー、良かったじゃねぇか。で、撮影はいつからなんだ?」
「テスト後だよ。だから安心しなよ、フータロー君?」
「……………まぁ、それなら良いが」
しばらく星を見上げながら、二人は静かに夜風に吹かれていた。
だが、上杉はすぐに気づく。
「で、本題は?それだけを伝えにわざわざ外に呼び出したのではないだろ?」
一花はくすっと笑いながら、柵に寄りかかった。
「鋭いね……」
少し間を置いて、彼女は静かに問いかけた。
「フータロー君、五月ちゃんと喧嘩しちゃった?」
その言葉に、上杉は目を細める。
「……………気付いてたか。まぁ、いつもの事だ」
「そう?」
一花は夜風に髪を揺らしながら、星を見上げる。
「でも今日はいつもと違う気がしたよ。2人には、仲良く喧嘩してほしいな」
「仲良く喧嘩って……矛盾してるだろ」
「ふふっ。要は喧嘩するほど仲が良いってことかな、多分」
一花は軽く笑いながら、上杉の顔を覗き込んだ。
「……あの子も意地になってるんだと思うよ。小さい頃から不器用な子だったからね。素直になれないだけなんじゃないかな?」
「…………」
「きっと今も一人で苦しんでる。私も出来る限りの事はするけど、フータロー君にしか出来ない事もあるから。そこはお願いね?」
上杉はしばらく黙っていたが、やがて小さく息をついた。
「………」
そんな彼の表情を見て、一花はふっと微笑んだ。
「あれ?フータロー君、やっぱりお姉さんに惚れちゃった?」
その軽口に、上杉は鼻で笑う。
「いや……驚いた。ほぼ同時に生まれたとは言え、長女の責務を全うしてるんだなって」
一花はちょっとだけ目を見開き、それから少し照れくさそうに笑った。
「そりゃあ、お姉さんだからね」
沈黙が流れる。
互いに言葉を失ったまま、しばし夜空を見上げる。
やがて──
「アレ〜なんか暑すぎない?」
一花は急にそう言うと、そわそわしながら身じろぎを始めた。
「誘ったのは私だけど、ちょっと家に戻って涼むね」
「そうか?今日は風も吹いてて涼しい方だと思うが……」
「………//」
一花は顔をそらし、早足で部屋へ戻っていった。
上杉はそんな彼女の後ろ姿を目で追いながら、再び空を見上げる。
満天の星は、さっきと変わらず、ただ静かに輝いていた。
次回
新八「銀さん!?」
銀時「ん、なんだよ新八?」
「ってなんじゃこりゃァァァァ!!」
新八「ヤったんですね銀さん、ヤっちゃったんですね!!」
三玖「責任とってよね」
銀時「俺は断じてやってねェェェ!!」
五月「うるさいですね。」
上杉「全く……何をやってんだ。」