「嫁魂~騒がしすぎる青春模様篇~」   作:時代に遅れている

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《キノコ頭からのお願い部屋を明るくして画面から目を離して読むんだぞ》


第十三訓 一時の気の迷いは一生かけて背負わなければならねぇ

夜の静寂に包まれた部屋の中で、五月は机に向かいながら、手元のノートを握りしめていた。その視線はどこか不安げで、時折ペンを握る手が震えているのが分かる。対照的に、神楽はベッドの上であぐらをかき、カップラーメンの容器を指でコツコツと叩いていた。

 

 神楽は退屈そうに息を吐くと、ぽつりと呟いた。

「五月ちゃん、夜更かしと無理は美容の大敵ネ。早く寝た方がいいアルよ」

 

 しかし、五月は眉を寄せたまま首を横に振る。

「神楽ちゃん、ありがとうございます。でも……私は大丈夫です。」

 

 そう言う五月の声は、無理に落ち着きを保とうとしているように聞こえた。

 

「私は下で話した通り、足手纏いになりたくないんです。」

「だから……こうやって勉強しないと」

 

 その言葉に神楽はわずかに眉をひそめる。何か言いたげな様子で口を開いたが、結局何も言わず、ふと横に置いてあった五月のスマホに手を伸ばした。

 

 カシャッ!

 

 小さなシャッター音が鳴り響く。

 

「ちょっと何をするんですか!?」

五月が慌てて顔を上げる。

 

 神楽はスマホの画面を五月に向け、にやりと笑った。

「どうして涙目になってるアルか?」

 

 五月の表情が固まる。

 

 さっきまで無理に作っていた強気な態度が、あっさりと崩れていった。

 

五月は小さく息を吐くと、何かを誤魔化すように俯いた。

 

 神楽はそんな五月をじっと見つめた後、突然立ち上がり、「お腹がすいたな〜」と呟いた。

 

 五月は怪訝そうに神楽の様子を見つめる。

「………」

 

 神楽は部屋の隅に置いてあった袋から、カップラーメンを取り出した。

「あっ、そういえばカップラーメン持ってきてたネ。」

 

 五月の眉がわずかに動いたが、それでも何も言わない。

 

 神楽はお湯を注ぐと、コトンと机の上に置いた。

「一緒に食べるアル」

 

 その言葉に、五月はわずかに目を見開いた。

 

「は、はい。」

 

 二人は黙ったまま、ラーメンが出来上がるのを待つ。

 

 湯気がゆらゆらと立ち昇るカップラーメン。

 

 待ち時間の3分間が、やけに長く感じられた。

 

五月の告白

 3分が経過し、神楽がラーメンのフタを開けようとしたその瞬間ーー

 

「神楽ちゃんは知っていますか?」

 

 唐突に、五月が口を開いた。

 

 神楽は手を止めて、ちらりと五月を見る。

 

「私と上杉君が、諍いを起こしてしまった事を」

 

 神楽は、すっとラーメンから手を離し、表情を引き締めた。

「銀ちゃんから、ガリ勉と五月ちゃんが喧嘩したって聞いただけで、詳しくは知らないネ。」

 

 五月はゆっくりと目を閉じる。

 

「…………上杉くんは私にこう言ったんです。」

 

「『黙って、俺の言うことを聞いていればいいんだよ!!!』って」

 

 その言葉を口にすると、五月の手が震えた。

 

 神楽は、カップラーメンの湯気越しに五月をじっと見つめる。

 

(あのガリ勉〜〜!!いくら五月ちゃんのパピーから焦らされていたとは、それはないだろ!!)

 

(悪気はなくても、誰でも傷つくに決まってるアル!!)

 

 神楽の中で怒りがふつふつと煮えたぎる。

 

五月の不安と神楽の怒り

「上杉くんは、私たちを金のなる木として見ているんじゃないか?」

 

「私たちは、そんなふうにしか見えていないと思うとーー」

 

 神楽は拳をギュッと握り締めた。

 

「そんなわけないネ!!」

 

 神楽の声が、ピシャリと五月の不安を切り裂くように響く。

 

「ガリ勉野郎は確かに鈍感だし、コミュニケーション能力はゴミムシ以下のマダオだけど、五月ちゃんたちのこと、そんな風に思ってないアル!!!」

 

やがて、五月がぽつりと呟いた。

 

「……神楽ちゃんも、上杉くんの味方をするんですね……」

 

 その言葉は、まるで冷たい刃物のように、静かに神楽の胸に刺さった。

 

 神楽の表情が一瞬曇る。

 

「……五月ちゃん、何を……」

 

 しかし、五月は神楽の言葉を遮るように、まっすぐに彼女を見つめた。

 

「じゃあ、何で神楽ちゃんたちは私たちの家庭教師を引き受けてくれたんですか?」

 

 神楽の眉がかすかに動いた。

 

(いえない。言えるわけないネ……銀ちゃんと三玖ちゃんをくっつけるために家庭教師を始めたなんて……)

 

 ほんの一瞬、神楽は視線をそらした。

 

 五月は、その沈黙をただじっと待っていた。

 

万事屋として、友達として

 やがて、神楽は軽く息を吐き、いつものように飄々とした笑みを浮かべる。

 

「私たちは、頼まれれば何でもやる何でも屋。万事屋銀ちゃん部の一員アル。」

 

「困ってる人がいる限り、私たちは手を差し伸べるネ。」

 

 その言葉は、まるで当たり前のようにさらりと口から出てきた。

 

 しかし、五月の表情は険しいままだった。

 

「私は……そんなことを聞いてるんじゃーー」

 

 神楽は、少しだけ真剣な眼差しを向ける。

 

「それに、五月ちゃんと私たちはもう友達アル。友達を手伝うのに理由はいらないネ。」

 

 五月の目が揺れる。

 

(……友達?)

 

 五月はずっと、彼らを「教師」と「生徒」の関係として見ていた。上杉風太郎も、銀時たちも、あくまで勉強を教えてくれる「先生」だと。

 

 でも、神楽たちは違った。

 

 神楽たちは、ただの教師ではなく、対等な存在として、自分たちを「友達」だと認識してくれていたーー

 

 その事実に、五月は驚きを隠せなかった。

 

「…………ごちそうさまでした」

 

 少しぎこちない声でそう言いながら、五月は静かに箸を置いた。

 

神楽の見解

 神楽は満足そうに頷き、ベッドの上で腕を組むと、ゆっくりと話し始めた。

 

「五月ちゃん。私たち万事屋は、一年間で色んな依頼を受けてきたネ。その中で、本当にたくさんの人たちと出会ったアル。」

 

「いい人もいれば、根っからのクズまで……さまざまアル。」

 

 神楽の口調は軽いが、その瞳はどこか遠くを見ているようだった。

 

「上杉は確かに、表面的に見れば悪人ネ。ぶっきらぼうで、言葉も荒っぽくて、誤解されやすい奴アル。」

 

「でも、根はとてもいい奴。これは万事屋としての見解アル。」

 

 神楽は小さく微笑む。

 

「だから、上杉の野郎が謝ってきた時は、素直に謝罪を受け取ってほしいアル。」

 

 五月は、そっと自分の手を握りしめた。

 

「…………」

 

 神楽は、そんな五月の様子を見て、わざと軽い口調で言葉を続けた。

 

「これは、友達としての依頼アル。」

 

「やるもやらないも、五月ちゃん次第アル。」

 

 神楽はニッと笑いながら、指で拳をトントンと叩いた。

 

 五月は、しばらくの間黙ったまま神楽を見つめていたがーー

 

 やがて、そっと目を閉じ、深く息をついた。

 

 二乃は寝る準備をしながら、ベッドの上でスマホをいじっていた。

 

 時計の針は深夜を回り、屋敷の中は静寂に包まれている。

 

 そんな中、隣で布団を被っていた三玖が、もぞもぞと動き出した。

 

 二乃は視線をスマホから外し、薄暗い部屋の中で三玖の様子を窺う。

 

「……三玖、どこに行くのよ?」

 

 三玖は眠たげな目をこすりながら、ぼそりと答える。

 

「……トイレ……」

 

 二乃は少し呆れたように息を吐いた。

 

「はぁ?だったらさっさと行ってきなさいよ。寝ぼけて変なところに入らないようにね?」

 

 三玖はぼんやりと頷きながら、ゆっくりと部屋を出て行った。

 

 二乃は再びスマホの画面から目を離し、目を閉じる。

 

 

 

 この時、まだ知らなかったーー

 

 三玖が"間違えて"銀時の寝ている自分の部屋に入ってしまったことを。

 

 そして、それが新たな火種を生むことになるとも知らずにーー。

 

朝、図書館にて

 朝の陽射しが窓から差し込み、静かな図書館の中を柔らかく照らしていた。ページをめくる音や鉛筆が紙を滑る音が、学びの場としての静謐な空気を作り上げている。

 

 そんな中、新八は息を切らせながら図書館の扉を開け、少し申し訳なさそうに中へと足を踏み入れた。

 

「すいません。遅れました。」

 

 一花が顔を上げ、軽く手を振る。

 

「あっ!新八くん。おはよー」

 

 四葉も元気よく微笑みながら続いた。

 

「おはようございます、新八さん!」

 

 二乃は腕を組み、少しすました表情で視線を向ける。

 

「メガネも来たのね……」

 

 上杉は短く頷いた。

 

「来たか。」

 

 新八は図書館内を見渡しながら首をかしげる。

 

「あれ?他の人は?銀さんは……まぁ寝坊でしょうけど……」

 

 一花が苦笑しながら答える。

 

「五月ちゃんは『部屋で自習する』って言って、家に残ってるよ。」

 

 四葉も頷きながら付け加えた。

 

「でも、三玖はどこにいるのか分からなくて……」

 

 その言葉に、新八は目を見開いた。

 

「えぇぇぇ!?どういうことなんですか?」

 

 二乃はため息をつきながら、昨夜の状況を振り返るように語る。

 

「三玖は私の部屋で一緒に寝てたのよ。でも、朝起きたらいなくなってたの。てっきり、図書館で先に勉強してるのかと思って来たら……いなかったのよね。」

 

 上杉が静かに補足する。

 

「今、神楽が町中を探し回ってる。」

 

 新八は眉をひそめ、少し心配そうに息を吐いた。

 

「……そうですか。まぁ、とりあえず僕は銀さんを起こしにマンションに行きますね。」

 

 一花が「お願いね」と微笑んだあと、ふと思い出したように上杉へと声をかけた。

 

「あっ、そういえばフータロー君。私、うっかり筆箱忘れちゃった。私たちだけで先に始めてるから、忘れ物とってきてくれる?」

 

 上杉は一瞬だけ考え込むような素振りを見せたあと、静かに頷いた。

 

「……ああ。忘れ物……を取ってくる。」

 

 彼の表情はどこか曇っていた。

 

 無論、その忘れ物とは筆箱ではないーー

 

 五月との喧嘩で失った信頼。

 

 それを取り戻すための、一歩を踏み出すのだった。

 

マンション・エレベーター前

 エレベーターホールには、まるで出勤時間の駅の改札のように人が溢れていた。誰もが目的地へ急ぐために、狭い空間へと押し寄せる。

 

 無機質な電子音とともにエレベーターの扉が開くと、乗り込んだ人々は我先にとスペースを確保し、瞬く間に中は満員となった。

 

 上杉は、そのぎゅうぎゅう詰めになったエレベーターの内部を見つめながら、静かに息をつく。

 

「新八。すまないがーー」

 

 彼は隣に立つ新八を振り返る。

 

 新八は人混みの向こうに目をやり、わずかに肩をすくめながら答えた。

 

「いいですよ。先に行ってください。」

 

 新八の声には、どこか諦めの色が混じっていた。

 

 上杉は小さく頷き、エレベーターに乗り込んだ。扉が閉まる直前、新八が小さく手を振る。

 

「ありがとな」

 

 上杉の言葉が扉の向こうへと消え、エレベーターは静かに上昇を始めた。

 

上杉は静かにマンションの廊下を進み、五月の部屋の前で足を止めた。白いドアが、冷たい壁に溶け込むように静かに佇んでいる。彼は深く息を吸い、覚悟を決めると、軽くノックを鳴らした。

 

「五月……俺だ……今、ちょっといいか?」

 

 扉の向こうは、静寂に包まれていた。上杉は一瞬、心の奥に小さな焦りが生まれるのを感じたが、それを振り払うように、もう一度声をかける。

 

「五月……俺と口を聞きたくないのは分かるが……話を聞いてくれないか?」

 

 だが、返事はない。まるでこの部屋が、彼の存在を拒絶するかのように、静寂は重たくのしかかっていた。

 

(……駄目か?)

 

 上杉は、軽く唇を噛みしめた。だが、その時ーー

 

 ガチャッ

 

 小さな音が廊下に響いた。

 

 (鍵が、開いた……?)

 

 驚きながらも、上杉は慎重にドアノブを回し、ゆっくりと扉を押した。

 

「五月……?」

 

 部屋の中は、月明かりが薄く差し込み、勉強机に向かう五月の後ろ姿を静かに照らしていた。彼女は、まるで何事もなかったかのように、ノートに向かってペンを走らせていた。

 

 彼の呼びかけにも、一切の反応を見せない。まるで、自分がこの部屋に入ったことすら認識されていないかのようだった。

 

 扉を静かに閉めると、上杉はためらいながらも言葉を紡ぐ。

 

「……勉強中、悪いな。どうしても言いたいことがあって……いや、謝りたくて……」

 

 五月のペンが止まることはない。

 

「一昨日は、その……悪かった。俺も言いすぎた……勝手なことを言ってるのは分かってるけど……もう一度、俺に……いや、俺たちに勉強を教えさせてくれないか?」

 

 沈黙が流れる。

 

 (……やっぱりダメか)

 

 上杉は、静かに息を吐いた。どんなに言葉を尽くそうとも、傷つけた信頼はそう簡単には戻らないーーそう思い、部屋を出ようとした、その時だった。

 

 「……分からない所があるんです……教えてくれますか?」

 

 思いがけない言葉に、上杉の足が止まった。

 

「……!」

 

 振り返ると、五月がゆっくりと彼の方を向いていた。瞳には戸惑いが浮かんでいたが、それでも彼を真っ直ぐ見つめている。

 

「……教えてくれないんですか?」

 

 その声に、上杉の胸の奥が少しだけ熱くなる。

 

「……あ、ああ……どこら辺だ?」

 

 急ぎ足で彼女の元へと向かい、ノートを覗き込む。彼女が指差した問題を見ながら、説明を始めようとしたその瞬間ーー

 

 「私のほうこそ……変な意地張って、すみませんでした」

 

 その言葉は、静かな夜の空気の中で、まるで水面に落ちた一滴の雨のように、優しく広がっていった。

 

「……!」

 

 上杉は、何も言わずに頷いた。それ以上の言葉は必要なかった。

 

「……この問題は、遺伝子の組み合わせの問題だから……」

 

 彼の言葉に、五月は安心したように微笑んだ。その笑顔は、ぎこちなかったが、確かにそこにあった。

 

「よく一人で頑張ったな」

 

「……!」

 

 その言葉に、五月の頬が少しだけ紅く染まる。

 

 そのまま、二人の静かな勉強時間が続いていったーー

 

 ーーはずだった。

 

 しかし、その穏やかな空間は、突如として崩れ去る。

 

ドン!!

 

 ガタガタガタガタッ!!

 

 壁の向こうから、まるで闘技場のような騒音が響いてきた。

 

 上杉はペンを止め、不機嫌そうに眉をひそめる。

 

「……うるさいな。」

 

 五月もノートから目を離し、呆れたようにため息をついた。

 

「……そうですね……」

 

 どうやら、違う部屋で何かが起きているようだった。

 

 その頃、三玖の部屋ではーー

 

新八は深呼吸を一つして、慎重にドアノブを回した。

 

「おはよーございます」

 

 声を掛けながら、ゆっくりと扉を開ける。朝の光が部屋の中に差し込み、ほのかに漂う静寂を破った。

 

「ハーイ、起きてェ〜朝だよ〜」

 

 新八は軽く手を叩きながら、室内を見回した。

 

「銀さ〜ん、結野アナのお天気注意報始まっちゃいますよ」

 

 しかし、そこに広がる光景を見た瞬間、新八の表情が凍りついた。目を見開き、ゆっくりとドアを閉める。まるで禁忌の扉を開けてしまったかのような仕草だった。

 

「……な、何だ今のは……?」

 

 新八が困惑していると、突然後ろから声がした。

 

「何やってるアルか、新八?」

 

「うわァァァァ!!ど、どうして神楽ちゃんがここに!?」

 

 心臓が跳ね上がるほど驚いた新八は、後ろに飛び退くように振り返る。

 

「町中探しても三玖ちゃんいなかったから、もしかしたら家の中でかくれんぼでもしてるのかな〜って思って帰ってきたネ」

 

 神楽は腕を組みながら、新八をじっと見つめる。

 

「そ、そうなんだ〜……」

 

 新八はぎこちなく笑い、神楽の肩をそっと押して後ろへ下がらせる。

 

「行こう神楽ちゃん。ここには三玖ちゃんいなかったから…」

 

 しかし、神楽はジト目になりながら、新八の動揺に気付く。

 

「新八、なんか怪しいネ。はっ、もしかして!!」

 

 神楽の目が輝いた。

 

「銀ちゃんに何かあったアルか!? スターパーか? ストパーになってたアルか!!」

 

「止めろォォ!! あっちには薄汚れた世界しか広がってねーぞ!」

 

 新八は必死に神楽を押し止めるが、神楽の力は強い。

 

「フンッ!!」

 

 神楽が軽く新八を押しのけると、新八はあっさりと吹っ飛んだ。

 

 バァン!!

 

 勢いよくドアが開かれる。

 

 そして――目の前に広がっていたのは、まさに現実を疑いたくなるような光景だった。

 

 一つのベッドの上で、未成年の男女が静かに寝息を立てていた。

 

 銀時は寝ぼけ眼を擦りながら、のそのそと身を起こした。

 

「う〜ん……」

 

 そして、目の前にいる三玖の姿に気づく。

 

「ん?」

 

 寝ぼけた頭で状況を整理しようとするが――

 

 隣でパジャマの襟元が乱れ、もじもじと頬を赤らめる三玖の姿を認識した瞬間、銀時の意識は一気に覚醒した。

 

「………………え?」

 

 次の瞬間、銀時は新八たちと共に正座した。

 

 三玖は恥ずかしそうに指先をいじりながら、視線を落としていた。

 

 銀時は腕を組み、何とも言えない表情でため息をつく。

 

「…………で、何でヘッドホン娘が俺と同じベッドで寝てるわけ?」

 

 新八が勢いよく銀時を指差す。

 

「アンタが連れ込んだんでしょーが!!」

 

「…昨日は……あ、ダメだ。飲みに行ったトコまでしか思い出せねェ」

 

「アンタこの小説の中だと未成年なんだから、お酒飲まないでしょ!!」

 

 新八が鋭く突っ込むが、銀時は「ん?」と首を傾げるだけだった。

 

「それにパジャマまではだけさせといて……ヤッタな? ヤッタんだな?」

 

 新八の目が鋭く光る。

 

「イイ加減にしろよ。んな事するワケねーだろ!」

 

 銀時が面倒くさそうに額を擦る。

 

「どっちかっていうとナースプレイの方がタイプなんだよ俺ァ!!」

 

 三玖 メモメモ

 

 銀時「…………」

 

「あの〜、メモすんの辞めてくんない? 人の性癖メモんの辞めてくんない?」

 

 銀時が困惑しながら三玖を見るが、三玖は何事もないかのようにメモを取り続けている。

 

「……ナース……っと」

 

 神楽は腕を組みながら、真剣な顔で新八を見つめる。

 

「新八、男は若いうちに遊んでいた方がいいのヨ」

 

「は?」

 

「じゃないとイイ年こいてから若い女に騙されたり、変な遊びにハマったりするネ。マミーが言ってたよ」

 

 銀時は遠い目をしながら呟く。

 

「……お前のマミーも苦労したんだな」

 

銀時は頭を軽く掻きながら、ぼんやりとした目をこすった。目の前には、正座する三玖。そして、驚愕の表情で固まる新八と神楽。

 

「……あの〜俺、何も覚えてないんだけど、何か変なことしてないよな?」

 

 三玖は勢いよく首を横に振る。いや、振るどころか、まるで壊れた扇風機のようにブンブンと激しく振り続けた。

 

「そーかそーか、良かった。俺ァてっきり深夜テンションに任せて、何か間違いを起こしたのかと……」

 

 銀時が安堵の息を吐いた、その瞬間だった。

 

「夫婦の間に間違いなんてない。」

 

 静かに、だが確実に三玖が口を開いた。

 

 その一言が、まるで時を止めたかのように、室内の温度を一瞬にして数度下げる。

 

「どんなマニアックな要望にも……私、答えるから。」

 

 銀時の動きがピタリと止まる。

 

 新八と神楽は互いの顔を見合わせた。まるで、すでに決定事項を伝えられた敗戦国の国民のように。

 

 銀時は困惑しながら、苦笑いを浮かべる。

 

「あーはいはい。分かった分かったーー」

 

 だが、次の瞬間、三玖はゆっくりと立ち上がった。

 

 銀時の額には、一筋の冷や汗が伝う。

 

「え? 何? 夫婦って……」

 

 三玖は、銀時を真っ直ぐに見つめながら言った。

 

「責任……とってよね?」

 

 空気が張り詰める。

 

「あんな事――」

 

 三玖の頬が、まるで初夏の夕焼けのように、じわりと赤く染まっていく。

 

「したんだから。」

 

 室内に沈黙が落ちる。いや、もはやそれは沈黙ではなく、爆弾が落ちた後の静寂だった。

 

「「「…………」」」

 

 新八がゆっくりと銀時を見やる。その目には、まるで犯罪者でも見るかのような軽蔑の色が宿っていた。

 

「……やっぱヤッタんだな、アンタ。サイテーだよ。」

 

 銀時は全力で首を振る。

 

「何もしてねーよ俺は!!」

 

 三玖は静かに微笑んだ。

 

「何言ってるの? 納豆のように絡み合った仲なのに……」

 

 その言葉に、新八は両手で頭を抱えた。

 

「銀さん……やっちゃったもんは仕方ないよ。認知して辞職しよう。」

 

 「辞職って何の職だよ!?俺は何の責任も取る覚えねぇぞ!?」

 

 銀時の反論も虚しく、神楽がさらに追い打ちをかける。

 

「結婚はホレるより、なれるアルヨ。」

 

 銀時は自分の胸元を握りしめ、虚空を見つめた。

 

「オメーラまで何言ってんの!みんなの銀さんが……戦国武将好きのヘッドホン娘に取られちまうよ!……」

 

 悲痛な叫びだった。

 

「冗談じゃねーよ! 俺が何も覚えてねーのをイイことに騙そうとしてんだろ? な?」

 

 必死の抵抗を試みる銀時だったが、三玖は静かに一歩、また一歩と距離を詰めていく。

 

「そもそも知り合ったばっかの俺らが結婚だなんて……」

 

 だが、その言葉が終わる前に、三玖は静かに、しかし確実に、銀時を見つめながら告げた。

 

「とぼけた顔しても無駄。…身体は知ってるくせに。」

 

「イヤな事言うんじゃねーよ!!」

 

 銀時の絶叫が、三玖の部屋に響き渡った。

 

三玖の部屋に響き渡る銀時の絶叫を皮切りに、廊下の向こうから慌ただしい足音が近づいてきた。

 

 ドンッ!

 

 勢いよくドアが開き、現れたのは上杉風太郎と五月だった。

 

「何してるんだ!」

 

 上杉の鋭い声が室内を切り裂くように響く。

 

「騒がしいですよ!」

 

 五月も眉をひそめ、やや呆れた様子で銀時を見つめた。

 

 その場にいた新八、神楽、そして三玖は硬直し、まるで現場を押さえられた犯人のように目を泳がせる。

 

 そんな中、銀時は上杉と五月の姿を見つけるやいなや、まるで溺れる者が藁をも掴む勢いで叫びを上げた。

 

「肉まん娘に学年一位~~!!この銀さんを助けてくれ~~!!」

 

 ずざざざっ!

 

 勢いよく床に這いつくばり、銀時は涙ながらに訴える。

 

 だが、その懇願は一瞬で冷たく切り捨てられた。

 

「は?」

 

 上杉が眉をひそめる。

 

 五月も冷ややかな目で銀時を見つめる。

 

 一方で神楽は、銀時の苦しむ様子を余裕の表情で見つめながらポンと手を叩いた。

 

「五月ちゃん、仲直りできたアルな!」

 

 その言葉に、五月はほんの少し表情を和らげ、頷いた。

 

「えぇ、おかげさまで。」

 

 しかしすぐに真剣な顔つきに戻り、改めて銀時へと視線を向ける。

 

「ところでこれはどういうことですか?」

 

 五月の静かだが威圧感のある声に、銀時は思わず背筋を伸ばした。

 

「いや、これは……その……違うんだよ!」

 

 焦る銀時を尻目に、新八が肩をすくめながら説明を始める。

 

「実は――」

 

 すべてを聞いた五月は目を閉じ、一度深呼吸をした後、銀時を真っ直ぐに見据えた。

 

「ほんとサイテーですね。」

 

「ですよね?」

 

 新八がすかさず同意する。

 

「ズゥゥン……」

 

 銀時はがっくりと肩を落とし、まるで一気に寿命が縮んだかのような沈んだオーラを纏った。

 

 その様子を見かねたのか、上杉が銀時の肩に手を置いた。

 

「俺も疑いをかけられたことがあるからよく分かるぞ、銀時。」

 

「おい、学年一位。何か俺の濡れ衣を晴らす証拠を出せる案を出してくれよ。」

 

 銀時はすがるような目で上杉を見上げた。

 

「このままだと濡れ衣着すぎて頭にカビが生えちゃうよ……カビルルンになっちゃうよ……」

 

 だが、上杉は腕を組み、冷静な表情で考え込んでいた。

 

「そうは言われてもな~」

 

 しばしの沈黙。

 

 このまま銀時が言い逃れできないまま終わってしまうのか――。

 

 そんな空気が流れかけた時、上杉の目がふと何かを捉えた。

 

「あっ、そうだ!防犯カメラ!」

 

 一同「ん?」

 

 突然の発言に、全員が一斉に上杉の顔を見た。

 

「防犯カメラだ!」

 

 上杉は力強く続ける。

 

「防犯カメラの映像があれば、本当に銀時の奴が三玖を部屋に連れ込んだのかが分かる! これで真実が明らかになる!」

 

 その言葉に、一同の空気が一変した。

 

全員が固唾をのんで見守る中、リビングのテレビに防犯カメラの映像が映し出された。

 

 画面に映るのは、夜中の廊下。

 

 二乃の部屋のドアがゆっくりと開き、そこから半分寝ぼけた様子の三玖がふらふらと現れる。

 

 彼女は夢遊病のような足取りで廊下を歩き、トイレへと向かう。

 

 しかし、そこで異変が起きた。

 

 三玖はトイレの前で立ち止まると、なぜかまるで磁石に引き寄せられるように銀時の寝ている部屋のドアへと進み始めたのだ。

 

 「……?」

 

 誰もが言葉を失いながら、その映像を凝視する。

 

 三玖は無意識にドアを開け、そのまま中へと消えていった。

 

 そして――そのままドアは静かに閉じられた。

 

 「……」

 

 「……」

 

 「……は?」

 

 一瞬の沈黙。

 

 次の瞬間、銀時が仁王立ちになった。

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!

 

 銀時の背後に、まるで嵐のような怒気が渦巻く。

 

 額には青筋が浮かび、手にした木刀がギリギリと軋む音を立てていた。

 

 三玖は真っ青な顔で慌てて頭を下げる。

 

 「ご、ごめんなさい……! ほんとに寝ぼけてて……」

 

 「……はぁ、そういやお前にはババアから家賃の件で助けられたな」

 

 銀時は深々とため息をつくと、三玖をちらりと見た。

 

「今回はあれの借りを返すって事で勘弁しといてやらぁ」

 

 その言葉に三玖はほっと胸をなでおろす。

 

 が――その隣で。

 

 「……ということは……」

 

 銀時がギロリと新八、五月、そしてさりげなく逃げの体勢に入っている神楽に目を向ける。

 

 「テメェらァァァァ!!よくも 俺に濡れ衣着せやがったなァァァァ!!」

 

 「ひっ……!」

 

 新八と五月が一歩後ずさる。

 

 神楽は**シュバッ!**と反射的に窓を開け、すでに逃げる準備万端だ。

 

 しかし――

 

 「てめぇ逃げんなァァァ!!」

 

 銀時が素早く木刀を振りかざし、神楽の背中を狙った。

 

 ゴスッ!!!

 

 「ふごォォォォ!!?」

 

 神楽はすでに脱出モードに入っていたため、木刀の一撃で勢いよく窓の桟に顔面をぶつけて撃沈。(火事場の馬鹿力)

 

 「へへ……銀ちゃん……私はまだ……やれるアル……」

 

 「お前はそのまま寝とけ!!!」

 

 銀時が神楽を軽く放り投げると、今度は残る二人――新八と五月に照準を合わせた。

 

 新八「ギ、銀さん!? いやいやいや!! これは誤解で!!」

 

 銀時「誤解だァ? 俺を犯罪者扱いしたくせに何言ってやがんだァァァ!!」

 

 五月「ちょ、ちょっと待ってください!! 落ち着いて……」

 

 「落ち着くのはテメェらが地面に這いつくばった後だ!!」

 

 ドスッ! ドスッ! ドスッ!

 

 「ぎゃああああああああ!!!」

 

 「ひぃぃぃぃぃぃ!!!?」

 

 マンションの静かな朝に、新八と五月の魂の叫びが轟く。

 

 その声はまるで地獄の底から響く亡者の悲鳴のように、廊下の奥まで響き渡ったという――。




次回 

月詠「今日も残ったな。」

銀八「ねぇ?どうして俺もここにいるワケ?」

二乃「見たら分かるでしょ!!」苦無が刺さってる


ーーーーーーーーーーーーーーーー
上杉「銀時……何か当てはあるのか?」

銀時「俺に任せな、この万事屋部長の銀さんにな」

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