「嫁魂~騒がしすぎる青春模様篇~」   作:時代に遅れている

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前回のあらすじ
銀舞学園を舞台に、異なる二つの物語が交錯する中、物語は波乱の幕開けを迎えた。

坂田銀時と桂小太郎は不良たちに追われながらも、煙玉や木刀を駆使してなんとか学園に登校。遅刻寸前で教室に駆け込むも、担任の坂田銀八先生(銀時そっくり)が容赦なく二人を叱責した。しかし、その後始業式で5つ子の転校生が登場し、物語はさらに混沌を増す。

始業式では、五つ子(一花、二乃、三玖、四葉、五月)がそれぞれ個性的な挨拶を披露。しかし、生徒たちは「本当に五つ子なのか?」と疑問を抱くほど性格がバラバラだった。彼女たちは異なるクラスに割り振られたが、それぞれの行動が学校中に波乱を巻き起こし始める。

その一方、学食では第二の主人公、上杉風太郎が登場。彼は合理的な注文(焼肉定食焼肉抜き)で周囲をざわつかせ、そこで五女の五月と小さな衝突を起こす。上杉の無遠慮な態度や100点のテスト答案を巡るやりとりに、五月は憤慨しつつも彼の才能に興味を持つようになる。

そんな中、上杉の元には謎の依頼が舞い込む。それは「五つ子の家庭教師」という破格の条件付きの仕事だった。父親から紹介された上杉はその依頼を引き受けるが、彼女たちが学校の転校生であることをまだ知らない。

一方、銀時は抹茶ソーダを巡る奇妙なやりとりの中で三女の三玖と出会う。自分の趣味を恥じる三玖に、銀時は「好きなものを堂々と好きだと言え」と励ます。その言葉に三玖は驚きつつも勇気をもらい、次第に心を開き始めた。



第ニ講 あれ?家庭教師の仕事をするんじゃなかった?

放課後、万事屋部の前にて

夕焼けの光が校舎の窓を赤く染め、学園の部活動が活気づく時間帯。校内の一角にある「万事屋部」の扉の前で、中野三玖が所在なさげに立っていた。

 

三玖は制服の裾を握りしめ、顔を俯かせて思案している。

 

(……来ていいって言われたから来たけど……)

 

心の中でそう呟くものの、どうしても一歩が踏み出せない。彼女の視線はちらりと扉へ向けられたが、すぐに地面に落とされた。

 

(いざ入るとなると……恥ずかしい。)

 

扉を開ける勇気が出ず、三玖は足元を少し動かし、ウロウロと歩き回る。まるで周囲を見張るかのような動きだが、その顔には決心がつかず迷う様子がありありと浮かんでいた。

 

そんな時、後方からもう一人、疲れた声が聞こえてきた。

 

「おい、桂。いつまで学校の中を移動しなくてはいけないんだ。」

 

声の主は上杉風太郎。疲れた表情を浮かべ、肩を落としながら歩いてきた。

 

その言葉に振り返ったのは桂小太郎だった。

 

「風太郎、貴様には分からんのか!この校内を散策し、やっとの思いで辿り着いた……この過程こそが何よりも重要なのだ!」

 

桂は拳を握りしめ、力強い口調で熱く語り始めた。

 

対して、風太郎は深いため息をつきながら呟く。

「はぁ、ただの迷子になっていただけなのに大袈裟な奴だな。」

 

その言葉に桂は目を鋭く光らせ、すぐさま言い返す。

「迷子ではない!武士たる者、目的地に辿り着くまでの道のりこそが修練であり、修練こそが心を鍛えるのだ!あと少しで着くのだから黙ってついてこい!」

 

胸を張り、自信たっぷりに語る桂に、風太郎は呆れた顔で応じた。

「どうでもいいけど、俺は早く終わらせたいんだよ。」

 

そんなやりとりをしているうちに、三人と一匹(?)はついに万事屋部の前へと辿り着いた。そして、扉の前でウロウロしている三玖と鉢合わせる。

 

桂は興味深げに三玖を見つめながら問いかけた。

「ほう、君もこの万事屋部に何か用があって来たのか?」

 

三玖は少し戸惑いながら答える。

「そ、そうだけど……」

 

彼女は視線を桂たちから逸らし、そっけなく答えた。その態度に、桂はキッとした目つきで続ける。

 

「ならば、なぜ扉を開けない?一歩を踏み出さなければ何も始まらんぞ!」

 

桂の自信満々な断言に、三玖はさらに戸惑いながらも小さく言った。

「……ちょっと、恥ずかしいだけ……」

 

その時、風太郎が面倒くさそうに割って入る。

「なら早くしてくれないか?こっちは時間がないんだ。」

 

だが、その言葉に三玖が振り返り、冷たい目で彼を見つめる。

 

「……焼肉定食焼肉抜き。」

 

たった一言。しかし、その言葉に風太郎の目が見開かれる。

 

「なっ……お前、なんでそれを知ってるんだ!?」

 

驚く風太郎に、三玖はじっと視線を向け、小さな声で静かに告げた。

「やっぱり……話に聞いた通り……あなたは、人の気持ちが分からないんだね……」

 

その一言に、風太郎は慌てて言い返す。

「お、おい待て!何の話だよ!?それにお前……まさか五つ子の――」

 

しかし、三玖は何も言わず踵を返し、そのまま廊下の向こうへと歩き去っていく。

 

風太郎は伸ばした手を止め、呆然としたまま立ち尽くした。

 

「……待ってくれ!!」

 

彼の呼びかけも虚しく、三玖は振り返ることなく遠ざかっていく。

 

桂は小さく頷きながら、低い声でつぶやいた。

「……風太郎よ、グッドラックだ。」

 

振り向いた風太郎は怒りを露わにする。

「お前まで見捨てるのか!?俺を一人にするな!」

 

その時、エリザベスが静かにボードを掲げた。

 

『さっきのはお前が悪い』

 

そんなやりとりの最中、万事屋部の扉が音を立てて開いた。その扉の向こうから現れたのは、団子を片手にだらしなく歩いてくる坂田銀時だった。

 

昼間の眠そうな猫そのもののような表情で、銀時は手に持つ団子の串を軽く振る。周囲を見回し、片眉を上げると、気だるげに口を開いた。

 

「何だよお前ら。廊下でラブコメごっこでもしてんのか?」

 

万事屋部の扉を開けた坂田銀時は、目の前の光景を一瞥しながらだらしなく言い放つ。その声に、上杉風太郎は顔をしかめ、すぐに反論した。

 

「してねぇよ!」

 

風太郎は少しムキになりながら声を張り上げると、軽く手を振り、銀時の言葉を振り払うような仕草を見せる。

 

「というか、この作品自体がラブコメみたいなもんだろうが!」

 

その発言に、銀時は頭を掻きながら、大きなあくびを一つ。やれやれといった様子で、呆れた口調で返す。

 

「おいおい、勝手にメタ発言すんなよ。俺たちがやる分にはいいけど、お前がやるとキャラ崩壊起きかねないからツッコミだけにしとけ。」

 

あくびを終えた銀時は、手元の団子を一口かじりながら、さらに気だるげに続けた。

 

「で、なんだよ?わざわざ俺の部活まで押しかけてきて、説教でもする気か?俺、ヅラの話なんて聞く耳持ってねぇぞ。」

 

その軽口に対し、桂小太郎が即座に反応した。

 

「ヅラじゃない、桂だ!」

 

勢いよく一歩詰め寄ると、桂は真剣な目で銀時を見据え、力強く言葉を続けた。

 

「銀時、この学園を平和に導くために、また一つ頼みたいことがある!」

 

桂の熱い提案に、銀時はわざとらしく肩をすくめ、大げさなため息をついた。

 

「またかよ。前の不良どもとの乱闘で俺のジャンプが買えなかったの覚えてるか?そっちがどうにかしてくれるなら話ぐらい聞いてやってもいいけどよ。」

 

「今回は乱闘ではない。もっと繊細な話だ。」

 

銀時の気怠げな態度にも動じることなく、桂はさらに言葉を続けた。その表情はいつになく真剣だ。

 

桂がちらりと隣に立つエリザベスを見ると、エリザベスは無言でボードを掲げた。

 

『上杉と五つ子たちの仲を取り持て』

 

その文字を見た銀時は、口元を止めたまま団子をくわえ、目を細めてエリザベスを見つめる。

 

「はぁ?五つ子って、あの始業式で妙に目立ってた転校生のことか?」

 

桂は深く頷き、さらに説明を続ける。

 

「その通りだ。彼女たちはそれぞれクラスが違うが、噂によれば人間関係に問題を抱えているらしい。そして彼女たちの家庭教師に選ばれたのが……」

 

その時、風太郎が疲れた顔で頭に手を置いた。

 

「俺だよ。」

 

銀時は風太郎を睨みながら団子の串を振り、無気力そうに言い放つ。

 

「……お前が勝手に五つ子家庭教師に巻き込まれた話なんて、俺ぁ関係ねぇんだけど?」

 

風太郎はその言葉を受け流すように苦笑しながら首を振る。

 

「確かにアンタにとってはただの面倒な話かもしれない。だけど俺は……正直、全然うまくいく気がしないんだ。」

 

その言葉に銀時は片眉を上げ、風太郎の話に耳を傾けた。

 

「俺には家庭教師として、あいつらを導かないといけないっていう責任がある。けど……全員から嫌われてる状態で、どうすればいいのか分からないんだ。」

 

銀時は団子を頬張りながら肩をすくめる。だが、言葉を発する前に桂が前に出た。

 

「そこで銀時。この状況を放置すれば、五つ子たちの問題が学園全体に波及しかねない。学園の平和を守るためにも、今こそ万事屋として動くべき時だ。」

 

桂の熱い提案に対し、銀時は変わらず気怠げな態度を崩さない。

 

「いやいや、俺そういう学園の平和とか興味ねぇから。」

 

その返答に、エリザベスがすかさずボードを掲げる。

 

『お前が一番役立たず』

 

「黙れ、しゃべる豆腐!」

 

銀時は勢いよく突っ込むと、再び団子を口に運んだ。

 

「……それに万事屋って言ったってボランティアじゃねぇんだよ。他人の家族問題に首突っ込む余裕なんてねぇしな。第一、神楽も補修に引っかかってるし、新八はそれに付き添ってて――」

 

銀時の愚痴が続く中、エリザベスが無言でボードを下ろし、懐から何かを取り出した。それは――

 

結野アナの写真集、限定版。

 

その瞬間、銀時の目が見開かれる。目の前に提示された報酬に、彼のテンションが一気に跳ね上がった。団子の串を握りしめ、口角を上げながら彼は叫ぶ。

 

「お前らも、悪いなぁ……」

 

桂と風太郎が呆然とする中、銀時は拳を握りしめ、やる気に満ちた声で言った。

 

「よし!まずは帰り道を尾行するぞ!」

 

勢いに押される風太郎は、頭を抱えながら呟く。

 

「……お前、どうやってあいつの機嫌取ったんだよ。」

 

桂は胸を張り、どこか誇らしげに答えた。

 

「上杉。勉強だけでは、社会を歩むことなどできんということを覚えておけ。」

 

その言葉に、風太郎は深いため息をつくしかなかった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

教室の片隅に蹲っていた中野三玖は、自分の膝に顔を埋めたまま、声にならない溜息を吐いていた。窓の外から差し込む夕焼けの光が、彼女の髪や制服を赤く照らし出す。

 

肩は小刻みに震え、目には薄く涙が滲んでいる。彼女は自分の内側から湧き上がる言葉を飲み込むようにして、ただ静かに座り込んでいた。

 

(三玖:「私……やっぱりダメなんだ……」)

 

自分の小ささや、行動できない弱さ。それに対する苛立ちを感じながらも、それを打ち消す術も見つけられない。胸の中で膨らむその苦しさを抱えたまま、三玖は動けずにいた。

 

そんな時、教室の扉が軋む音が響く。

 

「全く……せっかくの顔が台無しじゃ。」

 

落ち着いた声とともに現れたのは、学園の日本史担当であり、忍者の腕を持つ月詠だった。彼女の凛とした立ち居振る舞いと冷静な表情が、教室の静けさを破り、三玖の心にわずかな安心感をもたらす。

 

三玖は顔を上げ、驚きと少しの期待が入り混じったような声で問いかけた。

 

「…っ……月詠……先生?」

 

月詠は軽くため息をつきながら、三玖に近づき、その前に腰を下ろした。

 

「何があったか知らんが、主がまた立ち止まってしまうことはわっちにも分かる。」

 

その声には、優しさと厳しさが同居していた。その静かな口調に、三玖の心は少しずつ溶かされていく。

 

「話してみよ。人に話せば、少しは楽になるはずだからな。」

 

そう言って微笑む月詠を前にして、三玖は俯いたまま言葉を飲み込む。しかし、月詠の視線は変わらず優しく、温かく彼女を包み込んでいる。

 

月詠はやがて静かに言葉を付け足した。

「……わっちじゃ話せん内容か?なら、他の先生を――」

 

「聞いて……くだ……さい。」

 

消え入りそうな声で、それでも確かに三玖は言葉を紡いだ。

 

月詠は三玖のか細い声に黙って頷き、耳を傾けた。やがて三玖は、今日の出来事をぽつぽつと話し始める。

 

扉の前に立ちながらも勇気が持てず、結局入ることができなかったこと。自分の弱さに苛立ちながらも、どうすれば良いのか分からなかったこと。そして、自分はきっと変われないのだと、そんな思いが心を縛りつけていること――。

 

三玖の涙声で紡がれる言葉を、月詠はひと言も漏らすことなく受け止める。その後、月詠はしばらく考え込むように視線を伏せ、静かに口を開いた。

 

「……なるほど。」

 

その言葉には、三玖の苦しみをしっかりと受け止めた上で、解決の道を示そうとする意志が滲んでいた。

 

「三玖。」

 

「…はい。」

 

「銀時に依頼は出せんのなら……他人にならどうじゃ?」

 

「え?……」

 

突然の提案に、三玖は涙で濡れた顔を上げ、戸惑いながら月詠を見つめる。

 

「実はな、銀時率いる万事屋部には他にもメンバーがおるんじゃ。」

 

月詠はふっと微笑み、言葉を続けた。

 

「銀時は多分、上杉に丸め込まれて依頼を受けておるかもしれんが……他のメンバーなら、まだ教室にいるはずじゃ。行くか?」

 

三玖はしばらく俯いたまま迷っていたが、やがて顔を上げ、小さくコクッと頷いた。その決意を見て、月詠は静かに立ち上がると三玖を促す。

 

二人が向かったのは、三年Z組の教室。扉の外からは騒がしい声が漏れ出してくる。

 

「おいおい、一体何度言えば分かんだよ……」

 

中では、銀八――坂田銀八が髪を掻き乱しながら補修授業をしている最中だった。

 

「なんで俺がこんな奴の補修なんかやらないといけねぇんだよ!」

 

銀八の隣では、眼鏡をかけた新八が腕を組みながら溜息をついている。

 

「仕方ないですよ。授業中にジャンプを開いたり、ボケて僕らにツッコミをさせたり、真面目な授業を一回も受けたことがないんですから。」

 

銀八は反論するように声を上げた。

「いやいや、あれは生徒の自主性に重きを置きつつも働き方改革ができるっていう夢のような政策だからお前らに文句言われる筋合いはないんだよ!」

 

その横で神楽が机に頬杖をつきながら笑っていた。

 

「その結末がこれとは笑えるネ。ほらさっさと新しい酢昆布と『渡る世間に鬼はいねぇ』のDVD全巻持ってくるアル。」

 

「お前のせいだろォォォォ!!!」

 

銀八と新八が声を揃えて叫ぶ中、月詠は苦笑しながら三玖に言った。

 

「行け。話す相手としては面白い連中じゃ。」

 

三玖は騒がしい教室を前に、再び迷いの表情を浮かべた。

 

月詠はその場を立ち去ろうとし、足を一歩踏み出す。しかし、突然、三玖が月詠の袖を掴んで引き止めた。

 

「帰るんですか?」

 

「!?」

 

月詠は驚き、振り返る。三玖はその目をじっと見つめながら言った。

 

「私と……一緒に話してくれるんじゃ……なかったんですか?」

 

その言葉に、月詠は思わず顔を赤らめ、慌てて言葉を探す。

 

「いや……これは……その……」

 

もじもじする月詠を見て、三玖はふっと表情を和らげ、微笑みながら言った。

 

「もしかして……月詠先生、銀八先生のことが……」

 

その言葉が終わる前に、月詠は勢いよく教室の扉を開け放った。

 

バァン!!

 

その音に、銀八たちが振り返る間もなく、月詠が一瞬で苦無を投げつけ、教室の壁に突き刺さった。

 

「ちょっ、お前!待てよ〜!俺最近何かしたか!?」

 

銀八は驚き、目を見開いたまま叫ぶ。月詠は黙って教室の中に足を踏み入れ、銀八の方へ近づく。

 

「いや、ちょっと待ってくれ!俺だって何も悪いことしてないぜ!」

 

慌てて銀八が言い訳をし始める。

 

「もしかして、職員室の冷蔵庫にあった高級チョコ勝手に食べたことに怒ってんのか?」

 

ピキッ

 

その言葉が銀八から発せられるや否や、月詠の眉間にシワが寄った。

 

新八がすぐさま両手を合わせて頭を下げる。

 

「もしかして、部活の報告書を廃部にならないように改ざんしたのがバレたんですか!?」

 

ピキッ

 

神楽が悪びれた様子もなく言い放つ。

 

「もしかして酔ったツッキーのセリフを録音して流したのがバレたアルか?」

 

ピキピキピキ

 

月詠の眉間が深く刻まれ、教室内の空気が一気に冷えた。

 

「主ら……」

 

冷たく低い声が教室内に響き渡る。

 

「ここが主らの墓場となろう……」

 

銀八たちは恐怖の悲鳴を上げ、身を固くした。

 

その宣告と同時に、月詠の動きが加速する。苦無が次々と宙を舞い、銀八たちは悲鳴を上げながら机の下に隠れたり、部屋の隅へ逃げ込んだりと大慌てだ。

 

「や、やめろぉぉぉ!!俺まだ死にたくねぇぇぇ!!」

 

「ちょっ……これやりすぎじゃないですか!?僕、巻き込まれてるだけですよ!?」

 

「ヒィィィ!やっぱりツッキーは怒ると鬼アルぅぅぅ!」

 

教室内を駆け回る三人の姿と、冷静かつ怒りを宿した目でそれを追う月詠。外から見ていた三玖は、震える手を口元に当てながら呟いた。

 

「仏の顔も三度撫(な)ずれば腹を立つ……月詠先生は怒らせると……怖い。」

 

三玖はその様子を見守りながら、月詠の力強さに圧倒される。

 

しばらくして、月詠の「刑執行」が終わり、教室内にようやく静けさが戻った。銀八、新八、神楽の三人はボロボロになった姿で机に座り込み、全員の顔には脱力感が漂っている。

 

教室の壁や机には月詠の投げた苦無が突き刺さり、あちこちに痕跡を残していた。

 

新八はぼんやりと天井を見上げながら呟く。

「……生きてるだけマシだったと思うべきなんでしょうか……」

 

神楽は机に突っ伏して、弱々しい声を漏らす。

「……次は酔ったセリフとか録音しないアル……」

 

銀八は頭を抱えながら呻くように言った。

「俺、絶対悪くないよな……いや、悪いのか?でもチョコのことくらいでこれはねぇよ……」

 

教室内の喧騒が漏れ聞こえる。

 

(ここに入るだけでいい……それだけなのに……)

 

自分の心を奮い立たせようと、三玖は制服の袖をぎゅっと握りしめる。しかし、どうしても足が前に進まない。

 

(……怖い。)

 

三玖の頭の中で、さまざまな思いが渦巻いていた。

 

記憶の中の自分

思い浮かぶのは、いつも姉妹の背中を追いかけていた自分の姿だ。勉強でも運動でも何をしても、自分はどこか一歩遅れてしまう。

 

長女の一花は、どんな場面でも堂々としていて、周囲の注目を一身に集める。

二乃は気が強く、いつも自分の意見を貫く。

三玖はみんなの足元にも及ばないと、自分の中で決めつけてしまっていた。

 

(私なんて、姉妹の中で一番役に立たない存在……)

 

目の前の扉が、まるで壁のように大きくそびえ立って見えた。

 

 

そんな時、教室から月詠の静かな声が聞こえてきた。

「どうした、三玖。何か考え込んでおるようじゃが。」

 

その声に、三玖はハッとして振り返る。月詠は腕を組み、じっと三玖を見つめていた。

 

「……わっちは言ったはずじゃぞ。一歩を踏み出さねば、何も始まらんとな。」

 

三玖は言葉を飲み込み、再び扉に目を向けた。しかし、その足は依然として動かない。

 

月詠はため息をつきながら、壁に寄りかかって続けた。

「三玖、主が扉の前で迷うのは、別に悪いことじゃない。」

 

「……え?」

 

その意外な言葉に、三玖は驚いて月詠を見つめた。

 

「勇気を出して何かをしようとする時、迷いがあるのは当然のこと。むしろ、迷いもせずに突き進む奴の方が恐ろしいわ。」

 

月詠はどこか遠くを見つめるように目を細めた。

「……わっちもな、昔はそうじゃった。勇気を出すのが怖くて、失敗するのが嫌で、ずっと同じ場所に立ち止まっていた。」

 

三玖はその言葉を聞きながら、少しずつ月詠の話に引き込まれていく。

 

「……それでもな、ある時気付いたんじゃ。立ち止まっている間にも、周りの奴らは先へ進んでいく。そして、わっちには追いつけない景色が増えるだけだとな。」

 

月詠は自嘲気味に笑いながら、三玖の目をじっと見据えた。

 

「だから、わっちは決めた。失敗してもいい。迷ってもいい。それでも、自分で決めた一歩だけは踏み出そうとな。」

 

三玖はその話に、自分を重ねるように小さく頷いた。

 

「三玖よ。」

 

月詠の声は穏やかだが、その言葉には力強さがあった。

 

「お前が変わりたいと思うなら、迷うことも失敗することも恐れるな。それは全て、主が進んでいる証拠じゃ。」

 

「……進んでいる……証拠……?」

 

「そうじゃ。」

 

月詠は優しく微笑むと、三玖の肩に手を置いた。

 

「迷ってもいい。恐れてもいい。ただ、前に進みたいというその気持ちだけは、捨ててはならんぞ。」

 

 

その言葉に、三玖は心が少し軽くなったような気がした。迷いが完全に消えたわけではない。それでも、心のどこかに一筋の光が差し込むような感覚があった。

 

三玖は静かに深呼吸をし、小さく頷いた。そして、再び目の前の扉に向き直る。

 

「……大丈夫。入ります。」

 

三玖の小さな声に、新八が慌てて立ち上がり、丁寧に挨拶をする。

「あ、こんにちは!始業式で紹介されてた五つ子の方ですよね?えっと……お名前は……」

 

「……三玖です。」

 

三玖が控えめに答えると、神楽がじっと彼女を見つめながら目を細めた。

「ふーん……なんだか静かそうな子ネ。でもどうしてこんなところに?」

 

その問いに、三玖は一瞬迷うように目を伏せたが、すぐに顔を上げて言った。

「……私、自分を変えたいんです。」

 

そんな中、月詠が立ち上がった。

 

新八は月詠の姿を見て、再び嫌な予感が頭をよぎった。眉をひそめ、恐る恐る問いかける。

「月詠さん……まさか、何か無茶を言うつもりじゃないですよね?」

 

月詠は険しい顔で腕を組み、新八と神楽をじっと見つめた。

 

「いや、今回は頼みじゃ。お前たちの力を貸してほしい。」

 

その一言に、新八と神楽は顔を見合わせる。

 

「頼みって……どんな?」

 

「どうせロクでもないことアルよ……」

 

月詠は答えず、三玖の背中を軽く押した。そして、教室の中央に立たせると、冷静に言葉を告げる。

 

「この娘を、銀時と深い仲にしてやってほしい。」

 

その一言が、教室全体を凍りつかせた。

 

新八は大声で「ええええええ!?何言ってるんですか!!銀さんとこの子を!?」

 

神楽は呆れながら「ツッキー、冗談ならもっと笑えるやつにするアル。」

 

しかし、月詠は真剣そのものだった。

 

「冗談ではないし、恋人にしろとかいう無理な問題ではなく、話せるくらいの仲にしてほしいと頼んでいるのじゃ。それに、三玖には一歩を踏み出すきっかけが必要じゃ。そして、銀時ならその役を務められる。」

 

新八は困惑しながら首を振る。

「いやいやいや!銀さんにそんなこと頼むなんて、絶対無理ですよ!まず彼は恋愛とかそういうのに興味ないですし、適当にあしらわれるのがオチです!」

 

神楽も頷きながら、さらに言葉を重ねる。

「そうアル。銀ちゃんは鈍感だし、相手の気持ちとか全然考えないネ。そもそも、私らにだって『好きなもん食って寝ときゃいい』とか言うだけアルよ!」

 

月詠は二人の反論を聞きながら、静かに息を吐いた。そして、冷静な声で言った。

 

「……分かっておる。銀時がそういう男であることは、わっちも重々承知じゃ。」

 

新八は戸惑いながら「じゃあ、なんでそんな無謀なことを……?」

 

月詠は三玖を振り返り、その小さな背中に視線を向ける。

 

「三玖には、自分を変えるきっかけが必要なんじゃ。たとえ銀時が適当でも、それでも彼は人を救う力を持っておる。」

 

三玖は不安そうに月詠の横顔を見つめていたが、何も言わず俯いた。

 

新八は困惑しつつ「でも……銀さんに任せて、三玖さんが傷ついたらどうするんですか?」

 

その問いに、月詠は少し考え込むように黙り込んだ。しかし、すぐに決意を込めた表情で答えた。

 

「それでもいい。三玖が本当に前に進むなら、傷つくことも必要じゃ。」

 

月詠の覚悟に、新八と神楽はそれ以上何も言えなくなる。

 

新八と神楽はそれ以上何も言えなくなる。しばらくの沈黙の後、教室の隅で転がっていた銀八がむっくりと起き上がった。

 

銀八はあくびしながら「おいおい、何で俺の補修と月詠の刑執行が終わったと思ったら俺のそっくりさんの話になってんだよ。」

 

新八が慌てて振り向く。

「銀八さん、聞いてたんですか!?」

 

銀八はニヤニヤしながら「まぁ、ちょっとだけな。……月詠、お前がこんな頼みをするなんて、珍しいな。」

 

月詠は銀八を睨むように見つめるが、その視線には少し恥じらいが混じっている。

 

「珍しくない。わっちは常に人助けをしておる。」

 

銀八はニヤリとしながら「それがさっき三玖さんに『一緒に話してくれるんじゃなかったんですか?』って言われて赤くなってたやつのセリフか?」

 

その言葉に、月詠は顔を赤くしながら口をつぐんだ。

 

銀八は軽く頭を掻きながら、月詠に目を向けた。

 

新八が口を挟むように言った。

「銀八さん、月詠さんと三玖さんは本気みたいですよ。ここはひとつ、相談くらい聞いてもいいんじゃないですか?」

 

「そうアル!銀ちゃん、自分がダラダラしてんの誤魔化す口実にはピッタリアルよ!」

 

「おい、最後余計なひと言つけ足すなよ!」

 

銀八が怒り混じりに言い返すが、三玖の真剣な表情を見て、肩をすくめた。

 

「ったく……仕方ねぇな。で、ヘッドホン?お前が変わりたい理由ってのはなんだ?」

 

 

三玖は一瞬言葉を飲み込むが、意を決して静かに話し始めた。

「……私は……ずっと自分に自信が持てないんです。五つ子の中で一番何もできない。みんなの後ろに隠れてばかりで……いつも行動が遅れてしまう。」

 

その言葉に、銀八は腕を組み、黙って聞いていた。

 

「……だけど、最近思ったんです。このままじゃダメだって。自分を変えたいって……でも、その勇気が出なくて……」

 

三玖の目にはまた涙が浮かんでいた。

 

 

銀八はしばらく黙り込んでいたが、やがてため息をついて立ち上がった。

 

「……ヘッドホンよ。自信がないだの、変われないだの、そういうのってのはな……誰だって感じるもんだ。」

 

その言葉に、三玖は驚いた表情を浮かべる。

 

「けどな、自分を変えようって思えるだけ、お前は十分すげぇよ。俺なんざ『変わろう』なんて一度も考えたことねぇからな。」

 

新八と神楽が思わず声を揃えて言った。

「自慢することじゃないでしょ!!」

 

銀八は肩をすくめながら続ける。

「まぁ、それは置いといてだお前が一歩踏み出してみようって思ってんなら、それだけで十分だ。銀時がどうしようもないクズ野郎だとしても、お前がその一歩を踏み出す勇気さえあれば、そいつは一生変わらない宝物になる。」

 

三玖は銀八の言葉に少し驚いた様子を見せたが、やがて小さく頷いた。

 

月詠もその言葉に感謝の念を込めて銀八を見つめると、小さく礼をする。

 

「銀八……ありがとう。」

 

銀八は軽く手を振りながら「礼なんていらねぇよ。俺はお前と同じただの教師だ。それに、銀時がどうしようもない男だってのはそっくりな俺が一番知ってるからな。」

 

その言葉に、新八と神楽は苦笑しながらも、やがて観念したように頷いた。

 

新八は溜息をつきながら「……分かりました。僕たちも協力しますよ。」

神楽はやれやれと肩をすくめながら「しょうがないアルね。私も付き合ってやるアル。」

 

月詠は微笑み、静かに三玖の肩に手を置いた。

 

「三玖……これで、銀時と仲が深まる準備は整ったぞ。主の未来は、もう始まっておる。」

 

三玖は不安げながらも、ほんの少しだけ前を向くような顔をして、力強く頷いた。

 

「それじゃ行きますか!」

 

「自分の依頼何だから勝手に無理ですとか言って逃げんじゃないアルよ〜」

 

「ありがとう……」

 

「ひとまず私の家まで案内するね」

 

そういうと三玖と新八と神楽は中野家に向かって歩き出した。

後ろにストーカー ゲフンゲフン 保護者2人が付いてきていることは知らない。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

銀時たちは桂とエリザベスと別れてから、五つ子が学校帰りに1人になると踏んで、校門近くのコンビニで待ち伏せしていた。夕方の薄明かりが照らす中、校門から出てくる生徒たちの姿を見つめる二人。銀時は腕を組み、顔にうっすらと焦りが見える。

 

「おいおい、下校時の時くらい1人で帰れねえのか? あいつらは」銀時がやや不機嫌そうにぼやいた。

 

上杉は眉を寄せながら、その様子を見て肩をすくめた。「俺も驚いてる。ここからどうするんだ?」

 

その時、銀時の目がパフェ店の半額ポスターに引き寄せられ、視線が外れる。「……ごめん、目の前のパフェ半額店に魅了されて歩いてたら……」

 

上杉は驚きの声を上げた。「何で尾行してる時にパフェ店に魅了されてんだよ!!それに何でそんな都合よくパフェが半額になってるんだ!?」

 

銀時は肩をすくめて軽く笑った。「何でってそりゃあ、作者がこの展開にしたいって意向でパフェが半額になったんだよ。まぁ気にすんな、すぐに慣れるさ」

 

上杉は苛立ったように返す。「気にするわ!!」

 

そんな彼らの背後から突然、二乃の鋭い声が響いた。「なに君たち、私たちを置いて漫才でもしてるつもり? ストーカーさん」

 

驚いた上杉が手を挙げて言い訳を始める。「いや俺たちはストーカーのつもりはなくてだな……」

 

銀時が一歩前に出て口を挟んだ。「おいおい、ガリ勉野郎。そいつはストーカーしてる奴の言い訳にしかなってねぇから……無罪どころか生徒指導室に直行便が加速しちゃったじゃねぇか!!」

 

二乃は眉を吊り上げ、銀時を睨みつけた。「髪もボッサボサで、死んだ魚の目してて、まぁ背が高いのは評価できるけど、それ以外全然ダメそうなアンタもストーカーって認めるわけ? とっとと帰って!」

 

銀時は動じずに返す。「おいおい、さっきの会話からどうやって俺がストーカーって認めた事になったんだよ? だいたい、てめー、初対面の人に向かってなんだその口の利き方は? あぁ? 張り倒されてーのか? それともその巨大な胸ん中になんかつっかえてんのか? ゴラァ!!」

 

二乃の頬が赤く染まる。「初対面でセクハラしてくるアンタに口の利き方なんて言われたくないわ! その言葉そのまま返すわ!!」

 

銀時は冷ややかに返した。「いらねーよ、んなもん。当社はクーリングオフは一切受け付けておりません。お客様の自己負担となります。わかったか竹○ピー彩奈?」

 

二乃が目を見開いて叫ぶ。「ってそれアニメでの中の人でしょうが! ちゃんと名前で呼びなさいよ名前で!…………………って中の人って言っちゃったわよ!」

 

その時、一花が穏やかな声で割って入った。「まぁまぁ二乃、少し落ち着こうか?」

 

一花は手を広げて二乃を制し、視線を銀時と上杉に移した。「その調子だと私たちの方が相手のペースに飲まれかねないからね」

 

彼女は柔らかい笑顔を浮かべ、優雅に言葉を続けた。「さぁストーカーの容疑者たち、ここからは一花お姉さんが話を聞いてあげよう!」

 

上杉はホッと息をつき、胸をなで下ろす。「良かった…話を聞いてくれるだけ助かる。」

 

彼は姿勢を正し、真剣な声で続けた。「俺はお前たちの姉妹の五月に先日失礼なことを言ってしまって、その謝罪の機会を伺っていたんだ。」

 

一花が頷きながら、記憶を探るように言った。「ほうほう、そういえば確かに五月がテスト100点を見せびらかすだけ見せびらかして、デリカシーのない一言を言ってきた男子生徒がいたって話してたなぁ」

 

銀時は無造作に腕を組んだ。「俺はただ、こいつに仲直りの手伝いをしてくれと頼まれたからきただけだ」

 

一花が目を細めた。「じゃあ何で私たちを待ち伏せしようとしたの?」

 

上杉は小さく息を吐き出し、説明する。「それは下校時間になればお前らも1人になって帰ると思って待っていたんだ。」

 

五月が心配そうに眉を寄せて声を上げる。「じゃあ何で1人の時にしか謝ろうとしなかったんですか! まさか1人のところを……」

 

その言葉を遮るように、四葉が駆け寄り、「上杉さんはそんなことしないと思うよ」と一言。

 

一花、二乃、五月は驚きの声を上げる。「四葉!?」

 

四葉は真剣な目で言葉を続けた。「私、人を見る目はあると思うんだけど……上杉さんはそんなことしない。」

 

上杉は感動したように呟く。「四葉…初対面の俺に対して弁護してくれるなん……」

 

四葉はにっこり笑って言葉を続けた。「というか出来ない! そんなこと頭の片隅にも存在しない堅物キャラだと私の目には写りました!!」

 

一花が軽く笑った。「確かに! デリカシーのない発言に数日経って謝りに来るくらいだから納得できるね」

 

五月は小さく頷き、二人を見つめる。「四葉と一花がそこまで言うなら信じましょう」

 

上杉は散々言われたことにダメージを受け涙目で「そ……そうだな………まぁ助かった。感謝する」と静かに言った。

 

銀時がニヤリとしながら肩を叩く。「おいおい感謝で泣くのは後にしろってまだ目的は達成してねぇだろ?」

 

二乃が呆れたように銀時を見つめた。「アンタ………敵にも味方にも容赦なく言葉の暴力を振るうのね……」

 

一花はくすくす笑ってまとめる。「まぁここで話すのも何だし、一度家まで行こうか?」

 

二乃が顔を真っ赤にして叫ぶ。「えぇ!? ちょっと待ってよ!! 何で容疑が晴れたからって知り合ったばっかりの男2人を家に入れるなんて!!!」

 

銀時が冗談めかして言う。「っせーな。やかましいぞ塔城小猫。いや、白音の方がいいか?」

 

二乃が拳を握りしめて声を張り上げる。「誰がグレモリー眷属の戦車よ! 中野二乃よ! いい加減覚えなさいよ!!」

 

一花が朗らかにまとめに入った。「まぁまぁ、」

 

四葉は手を軽く振りながら微笑む。「じゃあ早速私たちの家へレッツゴー!!」

 

 

 

銀時と上杉、そして五つ子のメンバーは皆我が家へと向かって行った。

これが波乱の幕開けとなることは作者以外誰も知る由もなかった。

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