銀時「今日は二本立てだよォ」
五つ子の家での騒がしい一日を終え、上杉は銀時、新八、神楽と共にマンションを出た。夜の静かな通りを歩きながら、上杉はようやく肩の荷が下りたような気持ちになっていた。
銀時は片手にジャンプを持ちながら、ポケットにもう片方の手を突っ込み、適当な調子で話しかけてくる。
「いやぁ、ヘッドホンのあんこ丼、うまかったな。甘党派としては満点だ。」
新八が顔をしかめる。
「銀さん、それで勉強のサポートしたつもりになってるんですか?」
神楽が肉まんを頬張りながら銀時を横目で見て言った。
「銀ちゃんが今日したことは、甘いもん食べたのとジャンプ読んだだけアルよ。」
銀時は悪びれた様子もなく肩をすくめる。
「おいおい、俺の胃袋を満たすってことは重要だろ?それだけでみんな幸せになるんだから。」
新八は呆れたようにため息をついたが、上杉は苦笑いを浮かべつつ無言でポケットを探った。そして――。
「あれ?」
足を止めた上杉の表情が曇る。ポケットに入れておいたはずの財布がない。もう一度、ズボンやカバンを確認するが見つからない。
「……忘れたか。」
銀時が立ち止まり、面倒くさそうに振り返る。
「おいおい、どうした?もう何か問題か?」
上杉は短くため息をつき、銀時たちに視線を向けた。
「財布をリビングに置き忘れたみたいだ。戻る。」
神楽が驚いたように声を上げる。
「戻るアルか?めんどくさいネ!」
新八が真剣な顔で上杉に話しかける。
「上杉さん、一人で大丈夫ですか?僕らも一緒に――」
上杉は軽く手を挙げて制した。
「いや、一人でいい。時間もかからないだろうし、すぐに戻る。」
銀時は頭を掻きながら、どこか面倒くさそうに呟いた。
「じゃあ俺たちはここで待ってるぜ。そんじゃ、さっさと行ってこいよ。」
上杉はマンションまで戻り、部屋番号を入力した。
すると出たは三玖で
「……忘れ物?シャワー浴びてるから勝手に取っていいよ。」
上杉は一瞬固まり、眉をひそめる。
「いや、それは流石にまずいんじゃ……」
しかし、シャワーの音が再び響き、返事は返ってこない。軽くため息をつきながら、慎重に扉を開け、中へ足を踏み入れた。
上杉はリビングに足を踏み入れると、微かに残る石鹸の香りと共に「ブォオオオオオ」というドライヤーの音が耳に入ってきた。そして目の前の光景に、一瞬動きが止まる。
「……」
リビングのソファの前に、一人の少女が髪を乾かしている。その姿はタオル一枚だけで体を覆い、背中をこちらに向けている。
上杉は思わず心の中で呟いた。
(……タオル一枚で髪を乾かしている奴がいるんだが……あれ、三玖じゃ……?)
混乱しながら声をかける。
「み、三玖!?もう上がったのか!?」
しかし、ドライヤーの音が大きすぎるのか、相手はまったく反応しない。ドライヤーを動かす仕草だけが続いている。
(……誰だ?本当に三玖か?)
「……!」
髪を乾かしていた少女が、こちらの気配に気づいたように少しだけ動く。そして、何気ない調子で口を開いた。
「お風呂に入ってるんじゃなかったっけ?空いてるけど。」
その言葉に上杉は心の中で悲鳴を上げた。
(二乃だと~ッ!?!?)
振り返った彼女は、目を細めて上杉を見ているが、どうやら視力が悪いらしい。上杉が誰なのか認識できていないようだ。
「いつもの棚にコンタクトが入ってるから取ってくんない?」
その言葉に、上杉はさらに動揺を隠せない。
(ど、どうする……。ここは正直に……いや、それは絶対にダメな気がする。)
上杉は申し訳なさを感じつつも、とにかく財布を見つけようとリビングを探し始めた。しかし、なかなか見つからない。
その間も、二乃はぼそりと呟き続けていた。
「お昼にしたこと、まだ怒ってるの?」
上杉はその言葉に耳を傾けながらも、手を止めない。
「あれは勢いで……悪いとは思ってるわよ。」
(……へぇ、二乃って根は優しいんだな……。)
その言葉に少し感心しながらも、彼女が指示した「コンタクトが入った棚」を探し始めた。しかし、どれのことか分からない。
(……どれだ?コンタクトが入った棚って?)
すると二乃が苛立ったように声を上げた。
「何してんの?そこじゃないって。」
その瞬間、上杉の背中に冷や汗が流れる。
(ちょっと待って。声が突然大きくなった気がする。いや、これ近づいてきてるッ!?)
二乃の足音が聞こえ、次の瞬間にはその気配が背後に迫っていた。
「場所変えてないわよ?」
上杉は緊張のあまり固まる。そして――。
(な、何か背中に柔らかいものが当たっている気がするんだが……)
迫る危機――棚から落ちる本
緊張の中、背中越しに聞こえる二乃のぼやき声に耳を澄ませる。
「……やっぱり怒ってんじゃん。」
上杉は無言で歩き出し、距離を取ることに成功するが、その瞬間――。
「ドンッ!」
彼が何かにぶつかった衝撃で、二乃のすぐ横の棚が揺れ、上段に置かれていた分厚い本が滑り落ちそうになる。
(あっ……!落ちたら二乃に直撃する!)
「危ない!」
咄嗟に上杉はその本から二乃を庇うために二乃に覆い被さった。
「痛いわね~……次から気をつけないと。」
上杉は心の中で安堵し、静かに呟く。
(せ、セーフ……。)
その瞬間、背後から五月の声が響いた。
「あれ?上杉くん?どうしてまだいるんですか?」
振り返った上杉は驚愕する。五月の声を聞いた二乃も、ようやく目を見開いて事態を理解したようだ。
「えっ……上杉って……えっ??じゃ、じゃあ今覆い被さってるのって……!!!!」
二乃は顔を真っ赤にして叫ぶ。
「ちょっと待って!じゃあさっきのって、見てたってこと!?ありえない!」
五月も焦った様子で声を上げる。
「ま、まさか!二乃の風呂上がりを狙って待機していたんですか!?そんな人だとは思っていませんでしたッ!」
上杉は必死に否定する。
「ち、違う!!俺はただ忘れ物を取りに来ただけで!」
しかし二乃の混乱は収まらない。
「そんなの不法侵入じゃない!それに撮るなんて――!」
「撮る!?そんなことするか!!」
上杉は混乱を沈めるべく深く頭を下げる。
「とにかく、財布を回収した。それじゃ、俺はこれで失礼する!」
慌ててその場を後にする上杉。その背中を見送りながら、二乃は顔を真っ赤にしたまま怒鳴る。
二乃「許さない……絶対許さない!!裁判よ、裁判するわよ!!」
上杉「はあァァァァ!!?」
リビングのテーブルを囲むように、五つ子と上杉が揃って座っている。真剣な表情で裁判ごっこを進行する五月の声が響き渡る。
「それでは揃ったところで裁判を始めます!」
五月は堂々と立ち上がり、手元に持ったノートを叩きながら続けた。
「裁判長発言の許可を!」
一花が椅子にもたれかかりながら、やる気なさそうに手を挙げる。
「検察の五月ちゃん、発言をどうぞ~。」
五月は満足げに頷き、ノートを開きながら声を張る。
「裁判長、ご覧ください!被告は家庭教師という立場にありながら、ピチピチの女子高生を目の前に欲望を爆発させてしまったのです。この写真をご覧ください!被告・上杉風太郎で間違いありませんね?」
五月が掲げたのは、一花が撮影したと見られる上杉の困惑した表情の写真。
「え……それは……冤罪だ!」
上杉が慌てて否定するが、その声に二乃がすかさず乗っかる。
「まあいいわ。裁判長!」
一花が笑顔で答える。
「はい、原告の二乃くん、発言をどうぞ。」
二乃は立ち上がり、厳しい口調で話し始めた。
「この男は一度マンションから出たと見せかけて、私のお風呂上りを待ち伏せしていたの!悪質極まりない犯行よ。だから私は、こいつとあの腐れ天パたちの今後の出入り禁止を要求します!」
「お、おい。それはいくらなんでも!」
上杉が声を荒げるが、隣の一花は頷きながら感心したように言った。
「たいへんけしからんですなぁ。」
「一花!俺は財布を忘れて――!」
上杉の必死の訴えにも、一花はぷいっと顔をそらして無視する。
「……」
上杉は肩を落とし、ぼそりと呟いた。
「さ……裁判長……」
(裁判長と言い換えたってことは、無視されたのか。変なところは徹底してるなぁ……)
その時、黙っていた三玖が静かに立ち上がった。
「異議あり。」
一同が驚きながら三玖を見つめる。
「フータローは悪人顔だけど……これは無罪。」
「三玖~~!」
上杉が感激のあまり叫ぶが、それを遮るように二乃が声を上げる。
「あんた、まだそいつの味方でいる気なの!?こいつはハッキリ『撮りに来た』って言ったのよ!盗撮よ!」
三玖は眉を寄せ、冷静に言い返した。
「忘れ物を『取りに来た』でしょ。」
二乃は憤慨しながら裁判長に向き直る。
「裁判長~!三玖は被告への個人的感情で庇ってま~す。」
その言葉に三玖は赤面しながらも反論する。
「な、何言ってんの……それは違うって言ったはず……銀ちゃんが来なくなるのは困るから……」
「三玖……信じてくれると信じてたぜ!」
上杉が安心して声をかけるが、三玖はピシャリと答えた。
「それ以上近づかないで。」
上杉はその冷たい反応にガックリと肩を落とす。
(ガーン……)
二乃はそれを見てさらに調子に乗る。
「え~~?その態度は警戒してるってことかな~~?」
三玖は視線をそらしながら答えた。
「してない。二乃の気のせい。」
二乃は立ち上がり、さらに畳みかけるように言った。
「言っとくけど、私は裸を見られたんだから!」
三玖は冷静に応じる。
「見られて減るようなものじゃない。」
「はー!?あんたはそうでも私は違うの!」
「同じような身体でしょ。」
五月はたまらず立ち上がり、二人を止めようとする。
「い、今は私たちが争ってる場合じゃ……」
しかし三玖はそっけなく五月を制する。
「五月は黙ってて。」
さらに、二乃に向かって指を差した。
「てか、あんたもその写真消しなさいよ。」
二乃が肩をすくめるように笑いながら答える。
「え~~……」
姉妹の争いが激化する中、五月は再び裁判長に助けを求めた。
「裁判長~~!」
一花は面白がりながら状況を眺めていたが、軽く頷く。
「よーしよし。頑張ったねー。」
そしてテーブルを軽く叩きながら言った。
「うーん、三玖の言う通りだとしても……こんな体勢になるかなー?」
それに対し、二乃は大きく頷いて一花に同調する。
「一花、やっぱあんたは話がわかるわ!こいつは突然、私に覆いかぶさってきたのよ!」
三玖が上杉に向き直り、真剣な表情で問いかける。
「フータロー……それ本当?」
上杉は冷や汗をかきながら答える。
「そ……そうだが、それは……」
その言葉を聞いた三玖はため息をつきながら無表情で言い放った。
「有罪。切腹。」
「三玖!?」
一花も冗談めかして言う。
「うーん……それは庇いきれないよね~。」
そして、一花が判決を下す。
「よって……上杉被告、有罪!!」
上杉の叫びがむなしく響く中、五つ子法廷の裁判は幕を閉じた時。
リビングに緊張感が漂う中、ロビーからの呼び出し音が部屋に響いた。
二乃が真っ先に顔を上げ、眉をひそめながら呟く。
「だ、誰?」
三玖はゆっくりと立ち上がり、静かな声で答える。
「……私が出るよ。」
二乃は少し不安げな表情を浮かべながら、それ以上何も言わなかった。
三玖は玄関まで歩き、モニターに映った姿を確認しながら問いかけた。
「どちら様?」
すると、モニター越しにどこか間の抜けた声が聞こえてきた。
「あのー、こちら上杉被告の第一審の控訴を受けて参りました。高等万事屋裁判所の者ですが……。」
その声に聞き覚えのある三玖は、思わず息を飲んだ。
「……ぎ、銀ちゃん……////」
画面には銀時、新八、神楽の三人が立っている。銀時が適当に手を振り、続ける。
「いやぁ、お宅の上杉被告があんまりにも可哀想だからな。弁護人として来てやったわけよ。」
新八が時計をちらりと確認しながら、どこか焦った様子で付け加える。
「すいません。僕ら、門限があるので早く開けていただきたいんですが……。」
三玖は画面を見ながら、頬を赤く染めたまま口ごもる。
「わ、わかった……////。入っていいよ。」
彼女が了承すると、神楽が勢いよく部屋に飛び込んできた。
「失礼するアル!」
神楽はリビングを見回しながら、そのまま堂々とした足取りで中へ入る。
続いて銀時と新八もリビングに姿を現した。銀時は手を腰に当てながら、まるで裁判官が入廷したかのような堂々とした態度で部屋の中央に立つ。
「さてさて、我々高等万事屋裁判所の弁護団が到着しましたよっと。」
その場にいた二乃、五月、一花が一斉に視線を向ける。特に二乃は、いきなりの乱入者に明らかな警戒心を見せながら声を上げた。
「ちょ、ちょっと何よアンタたち!勝手に入ってこないで!」
銀時は全く気にした様子もなく、リビングのソファに腰を下ろすと、足を組んで悠然と座った。
「いやいや、上杉被告の名誉のために来てるから、」
と二乃を抑えると銀時は上杉に向けて
「上杉、俺たちが全力で弁護するから。安心しろよ。」
と言い放つ。
「銀時……助かった。」
上杉は安堵の表情を浮かべた。
新八が頭を下げながら、少し慌てた調子で二乃に説明する。
「すみません。突然押しかけて。でも、本当に上杉さんが無実なら、僕らがきちんとそれを証明しないといけないんです。なぜなら僕らの給料のために!」
神楽はテーブルに置いてあった肉まんをひょいと掴むと、二乃に向かって無邪気な笑顔を向けた。
「安心するアル!この肉まんの味で私たちが裁判所より公平な存在だってわかるアルよ!」
二乃はその言葉に呆れたような表情を浮かべるが、次第に怒りの色を帯びた声で言い放つ。
「ふざけてるの?こんな茶番、付き合う気はないわ!」
そんな中、三玖は部屋の隅で控えめに立っていたが、ふと銀時に視線を向ける。彼の堂々とした姿にどこか心を動かされたように、少しだけ顔を赤らめて呟く。
「……銀ちゃん、来てくれたんだ……////」
銀時はそんな三玖に気づき、にやりと笑いながら答える。
「おう。ヘッドホン、俺に任せとけ。これ以上、冤罪で誰かが泣くようなことはさせねぇよ。」
三玖はその言葉に小さく頷き、目を伏せた。
一花が銀時を冷ややかな目で見ながら呟く。
「ふーん。そんなに言うなら、弁護団としての腕前を見せてもらおうかな~。」
五月もやや困惑した表情を見せつつ、裁判の進行役としての役目を果たそうと声を上げる。
「それでは……高等万事屋裁判所の介入を認めます。」
二乃は半ば呆れつつも、そのまま腕を組んで銀時たちを睨みつけた。
「いいわ。弁護団でも何でも呼んできなさいよ。どうせ証明できるものなんてないんだから。」
リビングの空気は再び緊張感を帯び、五つ子と万事屋の一触即発の状況が始まろうとしていた――。
リビングに緊張した空気が漂う中、五つ子と万事屋の裁判ごっこが再開された。裁判長を務める一花が、軽く咳払いをして口を開く。
「それでは、高等万事屋裁判所の弁護人による証拠提示をどうぞ。」
銀時は堂々と立ち上がると、五月が持っていた例の写真を受け取り、じっくりと見つめ始めた。
「ほほぉ……これが噂の証拠写真か……。」
写真には、上杉が慌てた表情で二乃に覆いかぶさるような状況が切り取られている。
銀時は一度深く息を吸い込み、そして――。
「裁判長!」
銀時は声高に叫びながら手を挙げた。
「この写真ですが……シチュエーションが気に入りません! できればもっといい角度から、もっとこう色っぽい雰囲気の写真を用意していただきたいッ!!」
そう言いながら、銀時の鼻から一筋の血がスッと流れる。
「……」
沈黙が訪れた瞬間、新八と神楽が銀時を一斉に殴り飛ばした。
「ふざけんなぁァァァァ!!!」
銀時は勢いよく吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。
「何シチュエーションが気に入らないからって新しい写真を要求するって!!そんな弁護人なんて聞いたことありませんよ!!」
新八が怒りを込めて叫びながら、眼鏡を押し上げる。
神楽も呆れたように銀時を睨みつけた。
「銀ちゃん、お前のせいでこっちの立場が悪くなるアル!やる気ないなら帰るヨロシ!」
銀時が壁にもたれながら鼻血を拭い、苦笑いを浮かべる。
「……いや、やる気はあるんだよ。ただ、もうちょっとこう……な?」
その場にいた全員から冷たい視線を浴びせられ、特に三玖の鋭い睨みは一際厳しかった。
「……銀ちゃん、失望した。」
銀時はその言葉で自分に味方が誰一人いない事を悟り胸を押さえて崩れ落ちるように床に倒れ込む。
新八が気を取り直し、椅子に座り直すと、真剣な表情で上杉と二乃に問いかけた。
「それでは、事件当時の状況を詳しく教えてください。どうしてこういう写真が撮られることになったんですか?」
上杉は戸惑いながらも、ゆっくりと口を開いた。
「その……俺は財布を取りに戻って、リビングを探していた。そしたら、二乃の背後にある棚から本が落ちそうになって……それをとっさに庇ったんだ。」
二乃が不満そうに腕を組みながら反論する。
「だからそれだけで、こんな覆いかぶさるみたいな体勢になるの?って話になったんじゃない!」
新八はメモを取りながら冷静に推測する。
「それはたぶん、落ちる本の位置や体勢の問題ですね。二乃さんが振り返ったタイミングで、上杉さんが間に入ったから、こういう形になったんだと思います。」
神楽が肉まんを食べながら口を挟む。
「要するに、上杉は本を止めるためにがんばっただけネ。」
その言葉に、一花が軽く頷きながら言った。
「確かに。」
五月も感心したように言葉を続ける。
「さすが新八くん。メガネなだけに着眼点がすごいです。」
「メガネは余計でしょ!!」
新八が怒りの表情を浮かべるが、神楽がさらに追い打ちをかけるように笑う。
「仕方ないヨ、新八はメガネだからネ。」
一花は軽く笑いながら上杉に目を向ける。
「やっぱり、フータロー君にそんな度胸ないよね~。」
二乃は慌てたように立ち上がり、声を張り上げる。
「ちょ、ちょっと!何解決した感じ出してんの!?それって全部ソイツの当てずっぽうでしょ!」
銀時は椅子に腰掛けたまま、飄々とした声で答えた。
「おいおい、満場一致で結果は決まったんだ。もう控訴は認められねぇよ。」
二乃は銀時を睨みつけながら叫ぶ。
「あんたは何もやってないでしょ!!」
その声に三玖が静かに割り込む。
「二乃、しつこい。」
「……!! あんたねぇ……」
二乃の声が詰まり、リビングに再び緊張感が広がる。
そんな中、一花が笑顔を浮かべながら二人の間に入った。
「まぁまぁ、そうカッカしないで。私たち、昔は仲良し五姉妹だったじゃない。」
その言葉に二乃は言葉を失い、短い沈黙が流れる。
上杉が立ち上がり、真剣な表情で二乃に頭を下げた。
「とは言え、俺の注意不足が招いた事故だ。……悪かったな。」
二乃はその謝罪に戸惑いながら、小さな声で呟いた。
「昔はって……私は……」
言葉の続きを口にする前に、突然立ち上がると、リビングの出口へ向かって足早に歩き出した。
「タタタ……」
「ガチャッ……バタン!」
扉が閉まる音が響き、リビングには再び静寂が戻った。
銀時はソファにもたれかかりながら、遠くを眺めるように言った。
「良いのか、追い掛けなくて?」
三玖は視線をテーブルに落とし、少しだけ考える素振りを見せたが、すぐに短く答えた。
「……放っておけば良いよ。その内戻ってくるだろうし。」
銀時はその言葉に肩をすくめ、特に深入りすることなく立ち上がる。
「ま、そういうんならそれでいっか。」
神楽が食べ終えた肉まんの包み紙を丸めてゴミ箱に投げ入れ、新八はそれを呆れ顔で拾い直していた。
「じゃあ、俺たちはそろそろ帰るか。」
銀時がそう言うと、万事屋の三人と上杉は玄関に向かい、外へ出る準備を始めた。
軽口を叩き合いながらマンションのエントランスを出る一行。夜の冷たい空気が彼らを迎え入れた。
銀時は手を伸ばしながら欠伸を漏らす。
「ふぁ~……寒くなってきたな。ま、あの五つ子に温められるよりはマシか。」
神楽が銀時を睨みつけ、肩を小突く。
「銀ちゃん、最後にお前が鼻血出したせいで空気悪くなったアルよ!」
新八は半ば呆れながら銀時を睨む。
「ほんと、あの場面でふざけるのやめてくださいよ!弁護どころか火に油を注いでたじゃないですか!」
「いやいや、俺が悪いんじゃなくて写真がな……」
その言い訳を聞き流しながら、上杉は疲れた顔で歩を進める。
だが、エントランスのすぐ側に到達したとき、上杉の足がぴたりと止まった。
「……あれ?」
万事屋の三人もそれに気づき、視線を向ける。そこには、体育座りをした二乃の姿があった。
エントランスの側で膝を抱え込むように座り込んでいる二乃。下を向いているため表情は見えないが、その小さな背中からどこか不機嫌そうな空気が漂っていた。
「おいおい……また面倒な空気だな。」
銀時が苦笑いを浮かべながら呟く。
神楽が上杉の袖を軽く引っ張りながら尋ねる。
「上杉、お前が声をかけるヨロシ。」
新八も気まずそうに周囲を見回しながら言う。
「……いや、これは上杉さんじゃないと無理ですよね。僕らが言っても反応なさそうですし。」
上杉は深いため息をつき、口を開こうとしたその瞬間、二乃が突然立ち上がった。
二乃は一言も発せず、自動ドアに向かって駆け出した。軽やかな足音がエントランスに響き渡るが、ドアは静かに閉じたまま、反応しない。
「……」
彼女は足を止め、無言でドアをじっと睨みつける。しばらくしてから舌打ちをして呟いた。
「チッ、使えないわね。」
その言葉には怒りや焦りというより、どこか自嘲めいた響きが含まれていた。
しばらくの沈黙の後、銀時がやや軽い調子で声をかけた。
「おい、マヨ犬。そいつはドアのせいじゃねぇよ。」
二乃は銀時の声に振り返るが、すぐにそっぽを向く。
「何よ……どうせあんたたちも、私が面倒な女だって思ってるんでしょ。」
その言葉に、神楽が口を挟む。
「そうアルね。面倒くさい女は顔見れば分かるネ。」
新八が慌てて神楽を制する。
「神楽ちゃん、余計なこと言わないの!」
銀時は少しだけ真剣な顔になり、言葉を続ける。
「いや、別に思っちゃいねぇよ。お前さんはただちょっと気が強ぇだけだろ。それが悪いってわけじゃねぇ。」
二乃は微妙に表情を崩しながら、上杉に目を向けた。そして、少し低い声で呟く。
「……勉強勉強ってバカみたい。」
上杉はその言葉に反応し、皮肉を込めて返す。
「勉強が馬鹿とは矛盾してるな。いや、馬鹿だから勉強をしているとも言えるか。」
その言葉に二乃は不機嫌そうに顔をしかめ、語気を強める。
「うるさい!みんなバカばっかりで嫌いよ!」
銀時が腕を組みながら、どこか楽しげに口を挟む。
「おいおい、『みんな嫌い』とか大雑把すぎんだろ。お前、それじゃもうちょっと話題になりたいヤンキーじゃねぇか。」
神楽も軽く笑いながら言葉を足す。
「二乃は強がってるだけアルよ。そういうのは裏で気にしてる証拠ネ。」
二乃は彼らに目を向けて一瞬口を開きかけたが、結局何も言わず、再び上杉に視線を向ける。
上杉は彼女をじっと見つめながら静かに言った。
「姉妹のこともか?それは嘘だろ。」
その言葉に、二乃は目を見開き、すぐに反論した。
「……!! 嘘じゃない!あんたみたいな得体の知れない男を招き入れるなんてどうかしてるわ……私たちの――」
その先の言葉を上杉が代弁するように続けた。
「五人の家に、あいつの入る余地なんてない。」
「!」
二乃は驚きの表情を浮かべ、言葉を失う。
銀時が面白そうに笑いながら口を挟む。
「おー、五人の家に入る余地なし、か。確かに俺らみたいな外野には強固なバリア張ってそうだもんな。石田◯よりは弱いATフィールドを」
新八が呆れた表情で銀時を睨む。
「銀さん、ちょっと黙ってくださいよ!真剣な話なんですから!」
神楽は飽きた様子で空を見上げながら口を開く。
「まぁでも、二乃の気持ちは分かるアル。知らない奴にズカズカ入られるのはムカつくネ。」
二乃がその言葉にうなずき、少し苛立った様子で言い放つ。
「そうよ!それだけ!……だからもういいでしょ!」
上杉はその様子を冷静に見つめながら、再び言葉を続けた。
「お前は本当にそれだけの理由で俺を嫌ってるのか?」
二乃は焦ったように視線を逸らすが、すぐに反発するように返す。
「もういい、黙って!」
だが上杉は譲らず、追及を続ける。
「姉妹のことが嫌い?むしろ逆じゃないのか。五人の姉妹が大好きなんじゃないのか。だから異分子の俺たちが気に入らないんだ。」
その言葉に、二乃の顔が赤くなり、声を荒げる。
「何それ……見当違いも甚だしいわ!人のこと分かった気になっちゃって!」
新八がそこで手を挙げ、場を和らげようとする。
「えっと……まぁ、二乃さんの言いたいことも分かりますけど、上杉さんも悪気があって来てるわけじゃないんですよね。」
銀時はまたニヤリと笑い、口を挟む。
「おいおい、今のところはどっちも正しいっちゃ正しいぜ。ツンデレ修練者、嫌い嫌い言いながら実は好きってパターンだろ?」
「はぁ!?何言ってんの!」
二乃は顔を真っ赤にして銀時を睨みつけるが、その反応に銀時は満足そうに笑う。
その場の空気が落ち着かない中、二乃は意を決したように立ち上がり、挑戦的な笑みを浮かべながら言った。
「私はあんたたちを認めない。たとえそれであの子たちに嫌われようとも。」
上杉はその言葉を聞き、何か後悔するような表情を浮かべるが、銀時が軽く肩を叩いて笑う。
「まぁまぁ、これくらいは気にすんなよ。強気な女の子はこうやって素直になれないんだよな。つまりツンデレ」
神楽が笑いながら口を開く。
「ツンデレとしてはまだまだキャラ弱いけどな!」
新八は肩をすくめながら、二乃を見つめる。
「二乃さん、そこまで気張らなくても、姉妹の皆さんもわかってるんじゃないですか?」
その時、オートロックの自動扉が開き、三玖が姿を現した。
「二乃。いつまでそこにいるの、早くおいで。」
二乃は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに何事もなかったかのように口を閉ざす。
三玖は続けて、上杉と銀時たちに気づき、軽く手を挙げる。
「あ、フータローに銀ちゃんもいたんだ。ちょうど良かった、明日なんだけど――」
二乃がその言葉を遮るように声を張り上げる。
「三玖!帰るわよ!」
三玖は困惑しながらも、「でもまだ話が――」と続けようとする。
「いいから!」
二乃は強い調子で三玖の腕を引き、マンションの中へ戻ろうとする。その途中、自動扉をくぐったところで振り返り、風太郎に向けてべーっと舌を出した。
二乃が去ると、銀時が肩をすくめて軽く笑う。
「へぇ、あれで精一杯の仲直りのサインかね?つまりツンデレのデレを見せたって事で……ツンデレ女王の化身神楽の中の人!!評価を」
神楽が首を傾げながら肉まんを頬張る。
「いや、あれはまだデレとしてはまだまだだから30点くらいかな。でもあれが二乃の優しさかもしれないアル。」
新八は眼鏡を押し上げながら言った。
「まぁ、あれでもちょっとだけ素直になったのかもしれませんね。」
上杉はそんな三人のやり取りに小さく苦笑いを浮かべ、空を見上げた。
「……俺にはそうは見えなかったけどな。」
銀時がポケットに手を突っ込みながら、軽く上杉の肩を叩く。
「気にすんなよ。姉妹なんてそんなもんだろ。」
銀時は空を見上げながら、ポツリと呟く。
「やれやれだな……家庭教師ってのは、意外と大変だ。」
そして彼らは夜道を歩きながら、次第にその姿を遠ざけていった――。
を届けに
午後、三玖は銀時の家――――へ向かっていた。五つ子たちがお世話になっているお礼として、お父さんが用意した給料袋を届けるためだ。
しかし、三玖にとって銀時の家は馴染みのない場所だった。地図を片手に歩き続けるが、次第に不安が募る。
(ここで曲がるって言われたけど……これで合ってるのかな……?)
細い路地を行ったり来たりするうち、三玖は完全に迷子になってしまった。
道を探し続ける三玖は、角を曲がったところで見覚えのある二人に出くわす。
「……あれ?」
神楽が屋台の団子を頬張りながら、目の前の少女を見上げる。
「おい、新八、あれ三玖ちゃんアルよ。」
新八も目を細めて三玖を確認し、驚いた様子で声をかけた。
「あ、三玖さんじゃないですか!どうしたんですか、こんなところで?」
三玖は少しホッとした表情を浮かべ、控えめな声で答える。
「……あの、銀ちゃんの家を探してたんだけど、道に迷っちゃって。」
神楽が団子を口に入れながら笑った。
「そりゃ無理アル。銀ちゃんの家は看板も出してないし、だいたいボロい建物ネ。」
新八が苦笑しながら頷く。
「確かに、初めて行く人には分かりにくいですもんね。でも、どうして銀さんの家に?」
三玖は鞄から小さな給料袋を取り出し、新八に見せる。
「これ……家庭教師のお給料。銀ちゃんたちに渡しに。」
新八は目を丸くし、袋を見つめる。
「お給料ですか?へぇ……銀さん、こんなこと滅多にないから喜ぶだろうなぁ。」
神楽が団子を飲み込み、興味津々な様子で三玖に詰め寄る。
「銀ちゃんの家案内してあげるアル。でも、給料袋持ってるなら団子もおごってほしいネ!」
三玖が困った顔をしていると、新八が慌ててツッコミを入れる。
「神楽ちゃん、いきなり物をねだらない!銀さんにバレたら怒られますよ!」
しかし、三玖はふっと小さく笑って首を振った。
「……いいよ。お世話になってるお礼だから。」
神楽は目を輝かせながら団子を追加で注文する。
「よし!いい子ネ、三玖ちゃん!その気持ちに感謝して、銀ちゃんの家まで最短ルートで案内するアル!」
新八は溜息をつきながらも、三玖を促した。
「じゃあ、行きましょうか。銀さん、びっくりするだろうな……。」
神楽が先頭を歩き、新八と三玖が後ろをついていく。道中、神楽が振り返りながら言った。
「ところで、三玖ちゃん。そのお給料袋、いくらくらい入ってるアルか?」
三玖は袋を見つめてから答える。
「……多分、銀ちゃんの分が3万で、神楽ちゃんと新八くんの分がそれぞれ1万円ずつ……。」
神楽は驚きの表情を見せ、手を叩いた。
「私たちの分もあるアルか!それなら酢昆布もっと買うネ!」
新八がさらに驚いた様子で言う。
「僕たちの分まで!?いや、普通こういうのって銀さんにまとめて渡すんじゃ……。」
三玖は小さく首を振る。
「……みんなで頑張ったお礼だからって。直接渡したほうがいいかなって思って。」
神楽は笑いながら拳を握る。
「やっぱり三玖ちゃんは分かってるアル!銀ちゃんに渡すと全部パチンコに使われるから、先に私たちが確保するネ!」
新八は半ば呆れた表情で、神楽をたしなめる。
「神楽ちゃん、そんなこと銀さんが聞いたら――」
神楽が軽く笑いながら団子を頬張る。
「聞いても銀ちゃん何も言えないネ。だって家賃半年滞納してる奴ヨ!」
三玖は思わず笑い、少しだけ肩の力を抜いた。
ようやく銀時の家に到着すると、三玖は目の前の建物を見て驚いた。
「……ここが銀ちゃんの家?」
神楽が胸を張って答える。
「そうアル!ここが銀ちゃんの秘密基地ネ!」
新八は苦笑しながら付け加える。
「秘密基地っていうか……ただのボロ家ですけどね。でも居心地はいいんですよ。」
神楽が扉を開け、三玖を中へ招き入れる。
「さぁ、入るアル!銀ちゃんをびっくりさせてやるネ!」
扉を開けた先には、ソファに寝転んで漫画を読んでいる銀時の姿があった。彼は三玖の姿を見ると、漫画をパタンと閉じてのんびりとした口調で声をかける。
「おー、ヘッドホンじゃねぇか。どうした?今日は何かトラブルか?」
三玖は給料袋を差し出しながら静かに言った。
「……家庭教師のお給料。みんなへのお礼に来た。」
その言葉に銀時は一瞬驚き、袋を受け取ると中を確認する。
「……おいおい、本当に入ってんのかこれ?」
神楽が得意げに笑いながら銀時の横に座る。
「もちろんアル!でも銀ちゃん、私と新八の分もきっちり三玖ちゃんが持ってきたネ!」
銀時は少しだけ眉を上げ、面倒くさそうに袋を閉じた。
「チッ……そうかよ。俺の取り分が減ってんじゃねぇか。」
新八がすかさずツッコミを入れる。
「銀さん、それでも多めにもらってるほうですよ!」
三玖が銀時の家に到着し、神楽や新八とともにリビングで一息つこうとしたその時、階下から怒号が響き渡った。
「おーい、この天然パーマ!!今日はきっちりと滞納してる家賃払ってもらうからねェェェ!!」
その声に反応して、ソファに寝転んでいた銀時が勢いよく跳ね起き、窓際に顔を突き出して叫ぶ。
「うるせぇなァァァァ!!もうちょいでまともな給料が入るって言ってんだろ?もうちょい気長に待ちやがれ、クソババア!!」
銀時の返事に、さらに激しいお登勢の怒声が飛んでくる。
「何が気長にだ!!学生料金より少なくしてやってんのに、家賃を半年も滞納してる時点で、他だったらスクラップ行きなんだよ‼︎」
新八が額に手を当て、深いため息をつく。
「あぁ……またやってるよ。」
神楽は団子を口に放り込みながら、楽しそうに笑う。
「お登勢とのバトル、毎度恒例アルね。」
そんな様子を見ていた三玖が戸惑いながら新八に尋ねる。
「………あれは?」
神楽が団子の串をくるくる回しながら答える。
「あれは下のお店、スナックお登勢のオーナーのお登勢アル。」
新八が軽く肩をすくめて付け加える。
「訳あって銀さんはお登勢さんからこの部屋を借りてるんですけど……競馬やパチンコでお金を使い果たして、家賃を半年も滞納してるんです。」
三玖は驚きのあまり無表情のまま固まり、小さな声で呟いた。
「……半年も滞納……。」
神楽が慌てたように手を振りながらフォローを入れる。
「だ、大丈夫アルよ!銀ちゃんは自分のお金は使い果たすけど……借金はしないし……まだマシな方アル!」
新八も苦笑しながら同意する。
「そうですね。これでも『ギリギリほんとギリギリの常識の範囲内』ってことで。」
窓越しに、さらに激しいお登勢と銀時の言い争いが続いていた。
「天然パーマが生意気に言い訳してんじゃないよ!滞納してる家賃、今すぐ耳揃えて出しな!!」
「そっちだって客にしつこく酒すすめてぼったくってんだろ!そんくらいの器量で俺を許せ、ケチババア!」
「ぼったくりじゃねぇ!サービス料だよバカ!」
「じゃあ俺の家賃もサービス料でチャラにしろ!」
「何言ってんだい!!サービスになんねぇ奴が何言ってんだい!!」
神楽はそのやり取りを笑いながら見つめ、ふと三玖に目を向ける。
「三玖ちゃん、こんなの普通アルよ。銀ちゃんが本気で焦ることなんて滅多にないネ。」
三玖は少し驚いた表情を浮かべながらも、再びお登勢と銀時の言い合いに視線を向けた。
「……これで普通……なんだ。」
お登勢は最後にとどめの一言を叫ぶ。
「今日払えないなら、金◯でも何でも売って金にしてこいや!!」
お登勢が階下に戻ると、銀時は肩を落としながらソファにどっかりと腰を下ろした。
「ったく、あのババア、俺が黙って聞いてりゃいい気になりやがって。」
新八が眉をひそめて言う。
「いや、銀さんが悪いんでしょ!半年も滞納してる時点で何も言い返せないですよ!」
神楽は銀時を指差し、得意げに笑う。
「銀ちゃん、滞納が得意技ネ。家賃払うよりパチンコで夢見てる方が好きアルからな!」
そんな中、三玖は静かに給料袋を取り出し、銀時の前に置いた。
「……銀ちゃん。」
銀時はため息をつきながら給料袋遠手にとり
「……はぁ〜今回は潔く払うか……まぁあんがとなおかげで乗り切れそうだ」
とお礼を言った
ただお礼を言われただけなのに三玖は顔を赤くして俯く
銀時は急いで三玖から貰った給料袋をお登勢に渡した。ちらりと中身を確認し、鼻を鳴らすように言った。
「……三万円かい。家賃の一部としてはまあマシな方だね。でも、残りはしっかり払ってもらうよ?」
銀時は面倒くさそうにソファに寝転び、横を向く。
「チッ……ちゃんと払ったんだから文句言うなよ。これでまた半月くらい確保できんだろ。」
お登勢は銀時を無視し、三玖に目を向ける。その視線が少し柔らかくなり、口調も変わった。
「で、誰だいアンタ?えらいべっぴんさんじゃないかい。」
突然の質問に、三玖は少し困ったように目を泳がせる。
「えっと……その、私は――」
お登勢が口元に手を当て、何かを思いついたような表情をする。
「もしかしてアンタ……この天パに脅されて、こんな場所まで給料袋を届けに来たのかい?」
三玖は驚いて首を横に振る。
「ち、違います!………お、脅されてなんかないです。」
お登勢は銀時を睨みつけ、どすの効いた声で詰め寄る。
「おい、天然パーマ。まさかこの子を巻き込んで何か悪いことしてるんじゃないだろうねぇ?」
銀時はため息をつきながら、お登勢を軽く睨み返す。
「何もしねぇよ。つーか、コイツは俺の客みたいなもんだ。勝手に疑ってんじゃねぇよ。」
三玖はその場の緊張を和らげるように、改めて静かに自己紹介を始めた。
「私は……中野三玖です。銀ちゃんたちには、私たち姉妹の家庭教師を少し手伝ってもらっていて……今日はそのお礼を届けに来ました。」
その言葉にお登勢は目を細め、銀時に視線を戻す。
「家庭教師だぁ?アンタに?この天然パーマが?」
神楽が笑いながら団子の串を振り回す。
「銀ちゃん、家庭教師としての評判ゼロアル!お登勢もびっくりネ!」
新八は慌ててフォローを入れる。
「確かにそうですけど、銀さんなりにちゃんとやってますよ!ほら、昨日もちゃんと姉妹の皆さんの役に立ちましたし!」
お登勢は腕を組み、さらに銀時を睨みつける。
「昨日?一日で三万ってどういうことだい?それに、この子はすっかりアンタに感謝してるみたいじゃないか。」
銀時は面倒くさそうに返す。
「俺がすげぇ仕事したわけでもねぇんだよ。こいつらのために新八と神楽が頑張っただけ。俺はジャンプ読んでただけだしな。」
三玖はその言葉に小さく頷く。
「そう……でも、銀ちゃんたちがいてくれたおかげで、二乃も少しだけ落ち着いてくれたから……。」
その言葉に、お登勢は少しだけ表情を緩める。
「……ふーん。まぁ、こいつが役に立ったってんならそれでいいけどね。」
お登勢は給料袋をポケットにしまい、銀時に向き直る。
「三万じゃ足りないけど、まぁ今日はこの子に免じてこれで勘弁してやるよ。」
お登勢は苦笑いを浮かべながら、三玖に視線を戻した。
「アンタもこんなやつに近づきすぎないようにしな。どこまでも面倒ばっかりかける奴だからさ。」
三玖は少しだけ笑みを浮かべ、小さく首を横に振る。
「……でも、銀ちゃんがいてくれて助かったのは本当です。」
銀時はその言葉を聞いて少し照れくさそうに鼻を掻いたが、すぐにニヤリと笑った。
「ほらな、俺だって悪いだけの男じゃねぇってことだ。」
お登勢はため息をつきながらその場を後にする。
「まぁいいさ。アンタがどれだけマシな男かは、次の給料袋が来たときに判断するよ。」
お登勢が去った後、リビングには一時的に静けさが戻った。
新八が三玖にお茶を差し出しながら尋ねる。
「三玖さん、帰る前に少し休んでいきますか?」
三玖は小さく頷き、茶碗を受け取る。
「……ありがとう。」
神楽が銀時に視線を向けてから、ニヤリと笑う。
「銀ちゃん、次の給料袋はもっと多くするアルか?」
銀時はため息をつきながら、再びソファに寝転ぶ。
「んなもん期待すんな。俺の労働力は世界一高いんだよ。それを三万で済ませようなんて安すぎるだろ。」
新八がため息混じりに呟いた。
「いやジャンプ読んでるだけで三万円って、世界一割のいい仕事だと思いますけど……。」
三玖はそんな万事屋の軽口を聞きながら、静かにお茶を飲み、少しだけ肩の力を抜いていた――。
次回「夏祭りには腐れ縁をも惹きつける何かある」