機動戦士ガンダムSEED THE GATHERING   作:えいじぇんと

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前編から大体2年後のお話です。




炎の幻影 中編

 

 

C.E.66年4月22日午後5時

ユーラシア連邦アルメリア研究所

 

 

独房が立ち並ぶ通路。その一室に受刑囚さながらに放り込まれた黒髪の少年がいた。

 

「まったく懲りないよねー」

堅牢な格子扉を隔ててオレンジ色の髪の少女が話し掛ける。

 

「うるさい!」

独房の中から少年―カナード・パルスが叫び返した。

 

「何でわざわざ逆らう真似するかなー」

独房の外から皮肉交じりに返したのは、快活な印象の少女―リリー・ザヴァリーである。

カナードは訓練中の態度の悪さを見咎めた士官に折檻され独房に入れられたのだが、少なくとも従順にしていれば、修正される事もなかった筈だ。

メンデルからこっち地上に降りてからというもの、問題を起こさない日が無いと言っても過言ではないくらいカナードは頻繁にトラブルを起こしていた。

 

(ま、でもアンタのそういうところキライじゃないけど)

戦闘用コーディネーターに限らず一般的なコーディネーターは思考が合理的になるように調整を受けている。

その為、非合理的なカナード・パルスの行動は、当初リリーの目には不可解なものに映った。悪く言えば直情的、良く言えば自分の欲求に正直な奴。それがカナードに対するリリーの評価だった。

自分と同時期に生み出されたグゥド・ヴェイアがメンデルから脱走したと聞かされた時、リリーの胸中を満たしたのは家族を失ってしまったかのような喪失感、それと虚脱感だった。

聞けば脱走をけしかけたのはカナードだと言う。リリーにとってカナードはヴェイアと自分を離れ離れにした元凶とも言えた。だが別にカナードに対して悪感情を抱いているわけではない。

ヴェイアは自分の預かり知らぬ所で脱走を望んでいた。それを阻んだり口出しする権利は自分にはない。何より過去を悔いたところで無意味だ。

 

リリーの望みは至ってシンプルである。生き延びてもう一度ヴェイアと再会すること。

その願いを叶えるには、カナード・パルスが持つモチベーションは必要だ。行動力、意志の強さと言い換えても良い。リリーが持ち得ない良いモチベーションを眼前の少年は持っているのだ。

 

大西洋連邦の軍事施設にいた時からリリーには、《自分のやりたい事》というものがなかった。言われるがままに訓練をこなしていただけ。

大西洋連邦の道具として作られた自分は、創造主の命令に従っていれば良いのだと思ったし、それが間違いとは思わなかった。

だがヴェイアが去り、ユーラシア連邦に捕らえられた事でリリーの精神に変化を起こる。自分の意思で叶えたい願いというものがリリーの胸中に生まれていた。

しかし同時に戸惑ってもいる。望みを叶えたい、だけどその為に何をすべきかが分からない。リリーはずっと自分より強い意志を持った者に決定を委ねてきたからだ。

 

「おい、あれは誰だ?」

格子の隙間から覗き込もうと顔を近付けるカナードの視線の先には、連邦軍の兵士に連添われて歩く少年がいた。

おそらくは自分達より年少の、金髪の巻毛が特徴的な男の子。その表情はどこか虚ろで呆然と明後日の方向を見つめている。

角に位置する部屋の前で兵士は立ち止まる。扉を開けて少年を放り込むと、そのままユーラシア兵士は独房が立ち並ぶ通路の向こう側へ姿を消した。

カナードが居る房と丁度対角にある部屋だ。

 

「私が知るわけないでしょ」

カナードに応えながらリリーは思案する。おそらくは自分達のように無理矢理連れてこられた実験体か―。

 

「あ、新しく来たおっ、男の子の事がきっ気になるのかい?」

「っ、ドクター・ディアス」

 

突然背中から声を掛けられてリリーが仰け反る。

寝癖が付いたボサボサの黒髪、度のきつい眼鏡、病的に痩せこけた見るからに不健康そうな風貌の青年―ディアスはアルメリア研究所に勤務する遺伝子工学の専門家で、クセが強い喋り方をするがリリー達にとってはそう悪い大人というわけではない。医学、薬学にも精通しておりリリー達の怪我の面倒なども見てくれる。

 

「フン。また大西洋連邦の施設でも襲ったか?」

面白くも無さそうにカナードが呟く。

 

「ひ、否定はしないけどね。あっあの子はメンデルの第一訓練所からきっ来たのさ」

 

ディアスが盗み聞いた話によると、第一訓練施設ではソキウスと呼ばれる戦闘用コーディネーターの実験体が戦闘訓練を受けていた。

しかしユーラシア連邦が雇った部隊が踏み込んだ時、施設は既に引き払われた後で残っていた実験体は先程の金髪の少年ただ1人、それもかなり衰弱した状態だったという。

 

公言されていないがユーラシア連邦に他国の情報員が入り込んでいる事は周知の事実であり、逆にユーラシア連邦も様々な国に工作員を送り込んでいる。

結果としてこちらの作戦内容は漏洩し、そのお陰で第一訓練施設から目的の実験体は手に入られられず、また情報収集の為に別の訓練施設に潜入していたスパイからの連絡も途絶えたままだ。

違法に建てた施設を運用する大西洋連邦から正式な抗議など来よう筈もないが、これ以上メンデルで諜報活動を行うのは危険だろうとディアスは推察する。

 

「私達みたいな戦闘用コーディネーターということ?」

単純な好奇心からリリーはディアスに尋ねた。

 

「そ、それはまだ分からないよ。くっ詳しい検査はこれからだね」

ディアスはそう応えたが施設から収奪した資料が正しいとするならば、あの少年はナチュラル、しかも体細胞クローンの実験体だという。

クローン技術は未だ不完全で、諸々の問題を孕んでいる。少年が虐待に近い扱いを受けていた理由もそこにありそうだ。何れにせよあの少年の処遇は、主任引いてはユーラシア連邦軍の上層部が決める事になる。

あまり良い結末は待っていなさそうだ、と思いながらディアスは暗澹たる足取りで先程少年が入れられた房へと向かった。

リリーも好奇心が勝るのか、ディアスの後ろを付いていく。

 

 

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登場人物・その他補足


ドクター・ディアス
ユーラシア連邦所属アルメリア研究所に勤務する研究員。遺伝子工学の専門家。
ややクセの強い話し方をするが、研究所内ではマトモな価値観をもった部類の人間。


>情報収集の為に別の訓練施設に潜入していたスパイ―
これはエルザ・ヴァイスが訓練を受けていた大西洋連邦の軍事施設の事で、そこに侵入してきた身元不明の男をエルザが殺害するのですが、その時の事を暗にほのめかしています(知らねーよ)。
正史での殺害時期は不明ですがおそらく64年以降の出来事と思われます。

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