機動戦士ガンダムSEED THE GATHERING 作:えいじぇんと
「キラ・ヒビキを知っているか?」
止めようとするリリーを無視してカナードはダンテに質問をぶつける。
キラ・ヒビキ。それはカナードが探しているスーパーコーディネーターの成功体の名前だ。何年か前、地上の研究所にいた頃リリーもカナードから聞かされたが、カナードは成功体を倒し自分が本物になる事を望んでいる。リリーには共感できない話だったが、リリーとカナードはお互いの目的達成の為に協力しあうと決めた。
「いや、知らないが―そいつを探しているのか?」
「知らんのなら良い。リリー、さっさとこいつらを連れて行け」
(言われんでも連れてくし!)
リリーが小声でカナードを小突く。
「いや、ちょっとまってくれ。司令に会う前にやりたい事がある」
リリーを片手で制して待ったをかけたのは何故かダンテの方だった。傍らにいるエルザは話に興味がないのか整備デッキで動いている作業員達を眺めていたが、ダンテに視線を戻す。
「正直に言えばこんな面倒な仕事は受けるつもりなかったんだが―あんた達の事を知って気が変わってな」
カナードにそう語ったのは黒いスーツを着た長身の男―ダンテ・ゴルディジャーニだ。
MS実戦部隊の創設にあたりユーラシア連邦は教導官としてフリーランスの傭兵を雇い招いた。ユーラシア連邦軍にMSを操縦できるパイロットがいなかった事もそうだが、コーディネーターであるカナードとリリーを監督する適任者がいなかった、というのも理由の一つである。
「俺はあんた達に興味が湧いた。正確に言えばあんたの秘められた力にな」
ダンテが殺気を込めてカナードを睨め付ける。加えて大西洋連邦の戦闘用コーディネーターの開発に関わった身としては気にするなというのは無理な相談だ。劾やエルザといった自分の作品に納得しなかった連中が作り上げた、余所のコーディネーターがどの程度やるのか。力比べをしてみたい、見極めたいと思ったのだ。
厳密にはカナードは大西洋連邦製の戦闘用コーディネーターではない。しかしそんな事は些末な問題だ。ダンテが望むのは強い者との戦いだからだ。
「エルザ、お前は気にならないか?自分とどっちが強いのか、とかな」
「気にならないわ。戦えというのならそうするけど」
「可愛くないな」
「可愛気なんて求めていたの?」
エルザの物言いに嘆息しつつ、ダンテはゴルフバッグから愛用する二本の刀を取り出した。その内の一本をカナードに向けて放る。
「何のつもりだ」
片手で刀の鞘を掴み取りながら、カナードはダンテに問い掛けた。
「手合わせをしたい。あんたの実力を知りたいんだ。模造刀じゃスリルが出ないだろう?」
ダンテが鞘から刀を引き抜きながら応える。こんな狭い場所で真剣を振り回すなど上記の沙汰ではないが、生憎とダンテは普通ではなかった。ダンテの左手から無造作に滑り落ちた鞘が床を転がり、乾いた音を鳴らす。
「面白い。売られた喧嘩は買う主義だ。相手になっ―」
「え、ちょっ・・・待って!本気なんですか?!」
カナードの言葉を遮ってリリーが叫ぶ。あまりに唐突な展開に頭の処理が追い付かない。ダンテ、カナード、エルザを交互に見やるが、三人ともリリーが慌てふためく様を見ているだけで何も言わない。
「あの、えっと、エルザさんも止めてくださいよ!」
「ダンテが戦いたいというのなら私は邪魔をしないわ。私達は下がったほうがいいと思うけど」
エルザは狼狽するリリーの制服の袖口を指で摘むとダンテ達から距離を取れ、というニュアンスを込めて引っ張る。ふと視線を下にやると、キャットウォークの下で動いていた作業員達も気が付いたのか、何人かが手を止めてこちらを見ていた。
(あぁもう!バカじゃないですか?バカじゃないですか!バカじゃないですか!!)
心の中で悪態をつきながらもリリーはカナード達から離れる。
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カナードとダンテはキャットウォークの上で向かい会う形で距離を取る。カナードの歩幅で丁度10歩分くらいの距離だ。
「刀は貸してやる。だが壊さないでくれよ」
ダンテは二刀で戦うスタイルが好きだが、一刀での戦いも得意としていた。本来の二刀流は長刀と小刀の二本で行うもので、ダンテのように長刀二本というスタイルは珍しい。近年に於いて二刀流は鍛錬が主で実戦向きでは無いとされている。片手で1本ずつ刀を振るえば、当然の事ながら両手で持った場合に比べて速度と威力が落ちる。元々必要とされる膂力の基準値が常人のそれを遥かに越えているのだ。逆にダンテのような人間にはうってつけだが。
対するカナードはナイフ戦の経験はあっても、サーベルもとい日本刀を扱った事はなかった。近年では軍人が扱うようなサーベルは專ら儀典用が主で、それすらも模造刀が使われる場合が多い。初めて手に取る不慣れな武器―しかしだからこそ面白い。
「良いだろう。後悔するなよ!」
刀を鞘から抜きながらカナードが吠える。鞘を放り捨てながら両手で刀を構え、全身に力を込める。そして身を低くすると床を蹴って走り出した。剣風を纏った横殴りの一閃がダンテに襲い掛かる。対してダンテは刀身を縦にして剣の腹でこれを受け止めた。鋼同士が擦れ合い火花を散らす。角度を変えて力を受け流しながら、ダンテがカナードの刃を押し返した。耐えかねてカナードが飛び退いたのと同時にダンテは踏み込んでくる。そのまま袈裟斬りに刀を振り降ろす。鋼が擦れ合う甲高い音。カナードは再度横殴りの一閃を叩きつけこれを受け止めるが、先刻と違い力が乗っていない。かろうじて防いだに過ぎなかった。
「ハッ!」
だが裂帛の気合いと共にカナードがダンテの刃を押し返した。身体ごと旋回して先刻とは反対側から刃を叩き付ける。
弧を描いて肉薄する一閃をダンテは鍔元で難無く受け止め、自然と鍔迫り合いの形で睨み合う。だがそれも長くは続かなかった。
同時にカナードとダンテが大きく飛び退く。ダンテは身を低くすると先程捨てた鞘を後ろ手で掴み取り、投げ付ける。カナードは咄嗟に飛来する鞘を刀身で弾き飛ばすが、その時には既にダンテの持つ日本刀の切っ先が喉元に突き付けられていた。
「くっ!」
苦悶の呻きを漏らすカナードに反してダンテは楽しそうだ。太刀筋も型も滅茶苦茶なのにもかかわらず、自分と渡り合える者がいる。体格差を物ともせず、自分の剣速に付いてくる動体視力、真剣を恐れない胆力、その全てが面白い。
「悪いな、俺は使える物は何でも使う主義だ」
ダンテは日本刀を愛用していても武士道とは無縁の男だった。どちらかといえば外道と呼ぶにふさわしい戦い方を好む。
一方のカナードはダンテの戦い方を別段卑怯だとは思わなかった。鞘の存在を頭の中から除外した自分のミスとも言える。それに最初からダンテが二刀で戦っていたら同じ結果だったかもしれない。
しばしの間二人は睨み合っていたが、唐突にダンテが刃を退けた。
「それで気は澄んだの?」
エルザが拾って来た鞘とバッグをダンテに手渡しながら問い掛ける。
「あぁ。なかなか見込みがあるぞ。次にやる時はモビルスーツだな」
刀を鞘に戻しながらダンテは楽しそうに呟いた。
「カナードは怪我してない?」
リリーが心配そうに駆け寄ってくる。
「あぁ問題ない」
リリーから乱暴に鞘を受け取ると、カナードは日本刀を鞘に納めてダンテに突き返す。ダンテにとっては小手調べのようなものかもしれないが、負けたカナードの方はやはり面白くはない。
次にやる時はこの男に辛酸を舐めさせてやる。カナードは密かに決意するのだった。
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その他補足・あとがき
・ダンテがカナードをあんた呼びするのはおかしいような気もしたんですが、初対面ならあんたか君、だよなぁと。
・二刀流云々のくだりは《しなこい》という漫画のウンチクをパクりました。
タイトルを変更しました。しっくりこないのでまた変更するかもしれますん。