機動戦士ガンダムSEED THE GATHERING   作:えいじぇんと

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2024年12月30日 修正
前後編をまとめました。




剣を継ぐもの

 

 

C.E.70 6月18日

L3宙域アルテミス近郊に特務隊Xの母艦・アガメムノン級宇宙戦艦オルテュギアが停泊していた。

戦略的には何の価値もない、宇宙の片隅である。現在ザフトは東アジア共和国が保有する資源衛星・新星に侵攻中で、余程の事がない限りザフトと鉢合わせになるような事もない。

そこは、モビルスーツの活動テストをするのにうってつけの空域だった。

 

オルテュギア艦内に新設されたモビルスーツデッキに灰色の巨人―ジンが佇んでいる。新設された、と言っても艦載機を退かしたがらんどうのスペースにモビルスーツ汎用ハンガーを設置しただけに過ぎないそれは、急ごしらえといった雰囲気がありありと感じられる。

元々地球連合軍にはモビルスーツが存在しない為、必然的にモビルスーツを運用出来る艦艇も存在しない。かといって新造するには時間も予算もかかり過ぎる為、既存の艦艇をカスタマイズする形で間に合わせたのだ。

 

カナード・パルスは自分の機体に乗り込み、システムを起動させた。

機体に火が入ると即座にメインモニターに《MOBILE SUIT OPERATION SYSTEM ZGMF-1017 GINN》の文字が表示される。

ユーラシア連邦軍が鹵獲したジンの一機だ。

エンジニアの話では、ジンに使用されている工業部品は骨格フレームを除けば特殊な物は無く世界規格のパーツで統一されているという。

その為解析して同じ物を作ろうと思えば作れなくもないらしい。

ただ生産時期によってOSのバージョンに若干の違いがあるとの事だ。

リニアカタパルトへ通じるエレベーターの上に機体を運ぶと、ジンの載った床がゆっくりと上昇していく。

 

《ジン、パルス機スタンバイ。進路クリア。発進どうぞ》

 

「カナード・パルス、ジン出す!」

オルテュギアのオペレーターに促され、カナードはジンを真空へと躍らせた。

ちなみにカナードがモビルスーツで宇宙に出るのはこれが初めてとなる。

そこは一歩外に踏み出せば死に至る宇宙空間。決して生身では生きられない場所だ。

モビルスーツ越しに見た宇宙は、ただただ広大で深く、暗い闇をたたえていた。

聴こえてくるのは自分の呼吸音のみ、という静謐な空間。

こうして茫漠と広がる虚空に身を浸していると、自分という存在が酷く矮小な物に思えてくる。メンデルに居た頃はそんな考えなど抱いた事もなかった。自分がそんな感慨深げな人間だとも思っていない。だのに、この感情はどこから来る?

 

「パルス特務兵、機体の調子はどうか?」

オルテュギアの艦長メリオル・ピスティスからの通信に、カナードは我に返る。

 

「反応は悪くない。実際に戦ってみないことには分からんがな」

応えながらカナードは姿勢制御バーニアを炊いて機体を停止させた。何気なしにマニピュレーターを開いたり閉じたりしてレスポンスを確かめる。その時、先に艦の外に出ていたダンテ・ゴルディジャーニから光通信が入った。

 

「宇宙ではあまり上下を意識するなよ。重力下にいた時と同じに考えると機体に振り回されるぞ」

 

「素人扱いするな。言われんでも分かっているっ」

苛立ち紛れに吐き捨てて、カナードはレーダーに視線を這わせた。待機位置についた事をオペレーターに告げると、カメラを操作して周辺の様子をサイドモニターに拡大表示する。ジンのマニュアルは頭に叩き込んであるが、実際のハンドリングを把握しておかねばいざ戦闘になった時に命取りになる。

 

「相変わらず口の減らないヤツだ」

ダンテが嘆息し方をすくめる。

ダンテには劾とエルザ、2人を育てた経験があるが、そのどちらともタイプの違うカナードを扱いあぐねていた。若い時の自分も相当尖っていた自覚はあるが、カナードの場合はそれ以上だ。例えるならばまるで抜き身の刃のように荒々しく、それを隠そうともしない。どうにも手が掛かりそうだ。

 

 

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カタパルトデッキへ上がって行くカナード機を見送ったリリーは自分の機体に乗り込む為に踵を返す。

だが次の瞬間に呼び止められ出鼻を挫かれた。

 

「私が先に出る。リリー、あなたは私の後から出て」

話し掛けてきたのは、赤いレザーのような素材で作られた衣服をまとった少女―エルザ・ヴァイスだった。

ダンテ・ゴルディジャーニが作り上げた二人目の戦闘用コーディネーター。

リリーにとっては先輩みたいな存在だが、同じ大西洋連邦製のヴェイアやリリーとは別の研究施設で生み出された実験体で、先日までお互いに面識はなかった。聞くところによると同じ訓練施設にいた仲間が彼女の弟妹だったらしい。しかしダンテはエルザ以外の設計には携わっていないとも語っていた。何か含みがありそうだが、リリーも深くは聞かなかった。

 

「りょうかっ―エルザ姉さん、パイロットスーツは着ないんですか?」

エルザが来ている服は、生地が薄い割には丈夫そうではあるが、腹や太ももの一部は露出していて、身を守るという点では役に立ちそうにない。

着替える事なくジンのコックピットに乗り込もうとするエルザを見て、リリーが喫驚する。

 

「そうよ。私には必要ないもの」

「必要ないって―」

 

リリーは知る由もなかったが、エルザは嗅覚や触覚といった嗅神経、感覚神経を強化されたコーディネーターで、僅かな機械的振動も皮膚で感じ取る事ができる。エルザが自身の能力をフルに発揮するには、衣服ですら鬱陶しい物になる。

戦闘用コーディネーターの中でも特異な能力と言えるが、メンデルで研究されていたコーディネーターの中にはヤコブソン器官を極限まで発達させた、他者の表層意識を感じ取れる実験体も存在するくらいだ。

 

「それと、私はあなたの姉さんじゃないわ」

「はぁ、分かりました」

 

実の姉というニュアンスで使ったわけではないのだが、リリーはエルザとの問答を諦め、手早く自分のジンに乗り込んだ。システムを立ち上げ計器類と武装のチェックを済ませる。

エルザ機が離艦してすぐにリリーもカタパルトデッキへ通じるハッチへと向かった。

 

「リリー・ザヴァリー、ジン出ます」

オペレーターの指示に従い、フットペダルを踏み込んで発進する。アガメムノン級のリニアカタパルトはメビウス等のモビルアーマー専用で、モビルスーツには未だ対応していない。自機の推力で発進する必要があるのだ。

 

オルテュギアから離艦したリリーは素早くレーダーに視線を走らせ、カナードがいる地点に向けて機体を寄せる。

無線から漏れ聞こえてくる声に耳を傾けると、カナードとダンテが何やら言い争っていた。

カナード・パルスが揉め事を起こすのは、もはや日常の一部で珍しくもない。だが厄介なのはアグレッサーとして雇われた教導官―ダンテ・ゴルディジャーニもカナードと似たタイプの人間だった事だ。誰に対しても傍若無人でそれを正す素振りも見せない。

 

「カナード、頼むからちょっとは大人しくしてよ」

「フン、俺に指図するな」

 

「あのさあ、カナードくん。ズイブンじゃない?」

カナードの無礼な物言いはいつもの事だが、だからといって決然とした態度をとっておかねば付け上がらせるだけだ。

 

「生身の格闘戦じゃアンタには敵わない。けどモビルスーツ戦は分かんないよ」

リリーは少しだけ挑戦的に言って、右腕に持たせたバズーカを掲げて見せる。良くも悪くもモビルスーツの操作には正確さと繊細さが必要だ。直情的でキレやすいカナードにそれが出来るのかリリーには甚だ疑問だった。

 

「お喋りしてても良いが、戦いの前に思考を整理しろよ、戦闘中に迷わないようにな。実戦じゃ一瞬の迷いが命取りになるぞ」

ダンテの言葉にカナードは鼻を鳴らす。リリーが了解、と短く呟いた瞬間、アラートが鳴る。エルザ機が定位置に着いた合図だ。

 

「何時でもいいけど、演習を始めないの?」

エルザからの通信にダンテが首肯する。

 

「おっと、そうだったな。最初は俺とエルザがザフト役をやる。リリーとカナードは俺達の侵攻を阻止する役だ。どちらかが戦闘不能になるか、俺達が母艦―オルテュギアに迫ったら演習終了(ゲームオーバー)としよう。弾丸は全部ダミー(模擬弾)になってるから安心して良いぞ。アクタイオンの連中の話じゃ撃墜判定はコンピューターがしてくれるらしい」

ダンテが言うアクタイオンの連中というのは、アクタイオン・インダストリー社からアルテミスに出向しているエンジニア達の事だ。

ユーラシア連邦に本社を構える軍事企業で、連合とザフト双方に兵器を輸出している。リリー達が所属する特務部隊の目的はモビルスーツの開発・運用にあるのだが、それに協力してくれるのがアクタイオン・インダストリー社だ。リリー達パイロットが鹵獲ジンの実戦データを集め、それらをフィードバックしてユーラシア連邦オリジナルのモビルスーツ開発を進める、という話になってるらしい。

今回の演習に関しても戦闘を記録する為、ダンテ達がいる空域を取り囲むようにしてメビウスが待機している。

 

「最初は機体の慣熟を優先だ。あっという間に墜ちるなよ」

 

「誰に言ってる!」

念を押してくるダンテに対しカナードが激高して吠えた瞬間、演習開始のシグナルを受信する。

ダンテとエルザ対カナードとリリー。4人のモビルスーツ戦が開始される。

 

 

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「どうする、カナード。私が前に出よっか?」

リリーはレーダーに視線を走らせながらダンテ達の出方を窺う。ニ機は直線的な機動でこちらに向かって来ているがまだ大分距離がある。

だが移動速度から推し量るに距離を詰めるのにさして時間はかからないだろう。

 

「いや、俺が前に出る!お前は後ろから付いてこい」

カナードの機体はバズーカと腰にサーベルという標準的な武装だ。対するリリーはバズーカとマシンガン、両脚に短距離ミサイル、腰にサーベルという装備である。リリーの機体に比べればカナードの方が幾らか身軽でその分速力も出る。

勝手が分からなかったのでとりあえず持てるだけ装備を持って、戦闘中に邪魔になったら捨てれば良い、とリリーは考えていた。

武器に関しては、ユーラシア連邦軍がメビウスのリニアガンをモビルスーツが携行出来るように改造しているが実物は未だ出来上がっていない。

 

「この辺の空域に機体を隠せるようなデブリは無い。遭遇即戦闘になる!」

カナードは警告しながら、フットペダルを踏み込んで推力を上げていく。

 

「ちょっと、カナード飛ばし過ぎ!」

 

「お前が遅すぎるんだ!」

悲鳴に近いリリーの声を聞いて、苛立ち紛れにカナードは吐き捨てた。バーニアを焚いて減速しようとしてはたと気づく。

 

「いや待て。そのままでいい、時間差でアタックをかけるぞ。俺が先行して2人を相手する。お前は隙を突いて攻撃を掛けろ」

 

「ハァ?無茶でしょ!アタシが着くまで保つの?」

「舐めるな!それくらいやれる。いいか、奴等は俺達を素人だと思って油断している。ならば奴等の想像の上を行けばいい!」

 

「いやお前は素人だろ!」

リリーが無言で突っ込む。

モビルスーツを手足の様に扱うには、長い訓練時間が必要だ。急加速や方向転換に掛かるGへの耐性、閉鎖された狭空間であるコックピットでの作戦行動に耐えうるだけの精神面の訓練も重要なファクターとなる。

特に新兵は自機の被弾・損傷時にパニックに陥りやすく、そういった観点からも強靭な精神力がパイロットには求められる。

カナードとリリーのニ人は肉体を使った戦闘技術であれば、高いレベルで修得している。だがモビルスーツを用いた戦闘はこれが初めてで、決して練度が高いとは言えなかった。

どのみちまともにやってもダンテ達には敵わない。ならばカナードの言う通りに戦ってみても良いかもしれない。

 

「分かった。けどアタシが着くまで保たせてよ!」

「フン、決まりだな。モビルスーツの操縦は初めてだが、俺をそこらのコーディネーターと一緒にするな!」

 

(こいつ自信満々マンかよ、でも―)

昔ならいざ知らず、カナードの運動能力・反応速度は、今や戦闘用コーディネーターである自分を上回るものだ。

ダンテ達に気後れしてしまっている自分と違い、こういう場面では不安や恐れに縁のないカナードは頼もしい。

 

 

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「突っこんで来る気か。エルザ、狼がくるぞ。気を付けろ」

レーダーを眺めていたダンテはかなりの速さで接近してくる機影を見て、エルザに警告する。

 

「オオカミ?」

「油断ならない相手って意味だ。普通に考えれば一機で二機を相手にしようなんて思わないだろ」

 

「私ならニ機以上相手にしても問題ないわ」

事も無げにエルザは口にする。それは慢心でも誇張でもない事実ではあるが、エルザのように地力が高い相手にどう説明したら良いものか。ダンテは首をひねる。

 

「それはそうかもしれんが―例えばの話、俺とお前が別の陣営だったとしよう。向かってくる敵が俺で、俺の僚機は俺と同程度の腕前だとしたら?」

ダンテはそう口にしながら、二度目の演習ではエルザと分かれて戦ったら面白くなるかもしれないと思った。

エルザにモビルスーツの操縦技術を叩き込んだのはダンテだが、その腕前がどれほどのモノになっているのか。彼女の成長が気にならないといえば嘘になる。

 

「ダンテが敵だったら苦戦すると思う」

「油断できないだろ。敵を過小評価すると足元をすくわれるぞ。過大評価もすべきではないがな」

「了解―でも初めてモビルスーツに乗るカナード達が油断出来ないと何故判るの?」

「ヤツとは一度生身で戦ったからな。実際に矛を交えた者にしか分からん事もあるさ」

 

ダンテの口元が自然と綻ぶ。ダンテが他者に求めるのは強さだ。カナードやエルザのように自分と渡り合える者こそ戦う相手に相応しいと考えている。

 

「その感覚は否定しないわ」

エルザが応えた瞬間、コックピット内に敵機の接近を知らせるアラートが鳴り響く。

 

「来るぞ、エルザ」

そう言ってダンテはフットペダルを踏み込んで推力を上げていく。

ダンテ機の本来の武装は喧嘩用の剣(カッツバルゲル)と呼ばれる旧世紀の刀剣をモデルにした特注品なのだが、今回の演習には持ってきていない。その代わりにマシンガンと短距離ミサイル、サーベルというジン標準の武装を選択した。

一方のエルザ機はバズーカをメインウェポンに選択、マシンガンとサーベルを腰にマウントしている。

アグレッサーとしてのリアリティを追求して自ずとこうなったのだが、二人とも砲撃戦ではなく格闘戦寄りのパイロットである為、万全かと問われるとそうではない。

だがモビルスーツ戦闘の素人であるリリーとカナードを相手に演習をするならば丁度良いハンデと言える。

加えて言うとエルザは未だ奥の手を隠していたが、今回それを使う気はなかった。

 

 

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「堕ちろ!」

カナードは二機のジンを射程に捉えると躊躇いなくバズーカの引き金を引いた。それが戦闘の嚆矢となる。

即座に左右に散開する漆黒のジンと赤紫のジン。

赤紫のジンを駆るパイロット―エルザがバズーカを構えた時には既にカナードのジンはロールに入っていた。

エルザはカナードの進行方向に向けてバズーカの引き金を絞る。偏差射撃と呼ばれる技術で、移動する目標の速度と弾速を計算して敵の行く先に弾を当てるスキルである。

だが照準スコープを覗いていたエルザの前でカナード機の姿が掻き消える。

エルザは即座にスコープを跳ね除け、一瞬だけレーダーに視線を這わせ、メインカメラでジンを補足する。

カナードは姿勢制御バーニアで急制動を掛け別方向に機体を走らせていた。

つまりエルザが予想した軌道を通らなかった事になる。

エルザが撃つのを見越して撹乱に入ったのだとしたら、勘が良いなどというレベルではない。

油断出来ない相手だ、という先ほどのダンテの言葉が胸中で思い出される。

 

「オオカミ」

エルザが呟く。獣じみた勘を持っている、という事か。

エルザ自身、何処か侮る気持ちが残っていたかもしれない。エルザはカナードの評価を改めると共に、操縦桿を握る両手に力を込めた。

 

「フッ、やるな!」

カナードの機動を賞賛しつつ、ダンテは機体を回り込ませる。マシンガンを乱射しながらカナードの進路を妨害しようとする。

 

「舐めるなっ!」

何発か被弾するがいずれも致命傷ではない。警告アラートを全て無視してカナードは機体を操る。バーニアを吹かし慣性を無視した機動で無理やり機体を横移動させ、バズーカでダンテを狙い撃つ。

凄まじい加重がカナードの身体に襲い掛かるが、歯を食いしばってこれを耐え切る。

無茶な機動から即攻撃に転じたカナードに喫驚しつつ、ダンテは咄嗟に攻撃を躱そうとした。だが一瞬反応が遅れて、左肩に被弾する。アラートが鳴り響き、メインモニターに不具合を示す警告が表示される。

 

「躱しきれなかったか」

機体に逆噴射を掛けながら、ダンテが口元に笑みを浮かべる。

先のようなデタラメな機動をすれば、並のパイロットは慣性Gに身体が耐えられずマトモに動けない筈だ。

だがエルザのような戦闘用コーディネーターは慣性Gに耐えうるだけの強靭な肉体を有している。眼の前の少年―カナードもエルザと同じ種類の人間だ。

しかし慣性を無視した機動を続ければそのダメージが身体を容赦なく傷付け、いずれは限界が来る。

 

後退して仕切り直しを図るダンテと入れ替わるように、カナードに向かって行く機体―エルザのジンだ。

エルザが再びバズーカで狙い撃つと、カナードは回避する為にスラスターを噴かす。だが回避される事まで織り込み済みだったのか、エルザはカナードの上方に機体を躍らせていた。

その左手には先程まで腰にマウントされていたマシンガンを手にしている。

カナードがバズーカの砲門をエルザに向けて引き金を引くのと、エルザがマシンガンの引き金を引いたのはほぼ同時であった。着弾の衝撃に歯噛みしながら、カナードはレーダーに視線を這わせて叫ぶ。

 

 

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《リリー!さっさと撃て!》

事前の打ち合わせ通り、カナード機を追随してきたリリーの元に近距離用の光通信が入る。

機体を走らせながらリリーはメインカメラにエルザ機を捉えると、素早く照準を合わせてトリガーを引いた。

 

「言われなくとも!」

バズーカとマシンガン、ミサイル、手持ちの火器を斉射しながらリリーが叫ぶ。

エルザは咄嗟に回避運動に入るが、全ての攻撃は躱し切れずにやがて沈黙する。

エルザはリリーが後ろから来ているのは把握していたが、受け切れると思っていた。エルザを撃墜したのはリリーだが、直接の敗因はカナードと一騎打ちを演じた事にある。

 

そしてエルザを倒しても未だダンテが残っている。リリーには単機で戦ってダンテを撃墜出来る自信はなかったが、カナードと二対一で挑めば勝率は上がる。

しかしリリーの意に反してカナード機がロストした事を報せる警告アラートがモニターに表示される。

 

「ハァ?ちょっ、カナード!」

「ちっ、悪いが後を頼む。あのオッサンに手傷は負わせたが油断するなよ」

 

(いや、本当に悪いよ)

エルザと撃ち合いをした時、カナードの機体も撃墜判定を受けていたのだが、あてが外れたリリーは何とも言えない表情でレーダーに視線を這わせた。

 

「おい!動きを止めるな!」

カナードが警告を飛ばしたのと、接近してきたダンテが短距離ミサイルを発射したのは殆ど同時だった。

リリーは超人的な反応速度で攻撃から逃れようとフットペダルを踏み込む。予想以上の加重に頭がくらくらする。

カナードの怒鳴り声とけたたましいロックオンアラートに苛立ちながら、ダンテ機をカメラで追う。

 

「奴は左腕を失ってる。右に回り込め!」

 

(左腕?!)

左腕が動かない、という意味か。

一瞬遅れてカナードの言葉を理解した時には、漆黒のジンはリリーの上方に陣取っていた。カナードの言葉に従い、バーニアを焚いて右に機体を逃がしつつマシンガンでダンテを狙い撃つ。

 

「反応は悪くないな、だが」

ダンテは呟きながら、リリーが回り込んで来たのと逆向き、時計回りに機体を旋回させ上下逆さまの状態になる。厳密に言えば宇宙空間に上も下も関係ない。だが虚を突かれたリリーは、反応が遅れ気が付いた時には撃墜されていた。

瞬間、コックピットに演習終了のアラートが鳴り響く。

 

(墜とされた?・・・ウソ、サイアク)

リリーとて戦闘用コーディネーターの端くれではあるが、いざ墜とされるとやはりショックが大きい。

エルザを撃墜した分はリリーのスコアだが、カナードのアシストがなければ取れなかったものだ。

 

(もっと強くなる。すべてはそれからだ。それから―)

こちらは初陣で相手はプロの傭兵である事を鑑みれば大金星ではあったが、もっと巧く立ち回れた筈、とリリーは考えてしまう。

 

「ここまでだな。まぁなんだ、悪くない動きだぞ二人とも。ザフトの新人パイロットじゃこうはいかない」

意気消沈しているリリー達の様子を見かねたダンテがフォローを入れるが、カナードからは不満で鼻を鳴らす音、リリーからの返事は何もない。

もう何回かやればかなり良い勝負が出来そうだ。自分が撃墜される事もあるだろう、とダンテは思ったが口には出さない。状況はモニターしているだろうが、オルテュギアに通信を入れる。

 

「特務隊X、訓練終了。帰投するぞ」

《特務隊X訓練終了、了解。周辺宙域オールグリーン、帰投せよ》

 

「さて戻るぞ。休んだら二回目の演習だ」

正直な話、教導官なんぞガラではないが人を鍛えるのは面白い。筋の良い人間であれば尚更だ。

しかし、この教導期間が終わればカナード達との縁もそれまでだ。もし次に会った時は敵同士かもしれない。

 

だがそれも一興だ。

 

 

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その他補足・元ネタ


›モビルスーツを運用出来る艦艇も存在しない
元ネタはハイペリオンの発進シーンから。

›ヤコブソン器官を極限まで発達
これはアコードの事で、器官云々は捏造です。海外の科学ドラマに出てきた心を読む原理が元ネタです。

›ザフト役をやる
ガンダム作品に時々登場するアグレッサー部隊が元ネタです。史実では日本も鹵獲戦闘機を使い演習をしてた記録があるようで。

›弾丸は全部ダミー
小説だと実弾、リアルビームで演習ってかテストするシーンが多々あるのですが、今回はダミーにしました。
SEED世界は演習でソキウスを殺害したりとか色々ぶっ飛んでますが。確かエルザも模擬戦で一族のパイロットを殺ってる気が。

›出向しているエンジニア達
これはアニメに出て来た私服勤務のコンピューターに詳しそうなおじさん達が元ネタです。

»とりあえず持てるだけ装備を持って
ノーマルジン全部乗せはイライジャが元ネタです。

»本来の武装は喧嘩用の剣
イメージ的にはジン・グラディエーターの剣みたいのを想定してます。

»未だ奥の手を
エルザが本気を出すには服を脱ぐ必要があるのですが今回はナシにしました。

たまにキャラの年齢が分からなくなるんですがエルザはC.E.52年生まれ、本作ではリリーがC.E.53年生まれ、カナードはさらにその後の54年生まれ(サイトによっては55年という記載もある)となります。


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