機動戦士ガンダムSEED THE GATHERING   作:えいじぇんと

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魔女の流儀

 

 

気が付くとローラ・ヴァイスは、回廊もとい地下通路のような場所に立っていた。

薄暗いが一応天井に明かりは付いており、電気が通っている事が判る。

無機質な素材で作られていると思しき壁には、赤い文字で

 

《←貿易港方面》

 

とだけ書かれていた。

 

貿易港というのは、プラントが主にジャンク屋との物品取引に使用している宇宙ステーションの事で、戦時下という事情もあり通行手形を持たないジャンク屋は基本的にプラントの中には入れないようになっている。

このまま壁伝いに進んでいけば港に出られるのだろうか。

というか、ここは港の近くなのか?

 

(私、何でここにいるんだっけ?)

ローラはポケットをまさぐってみるが、携帯端末はおろか身分証も持ってない。

何気なしに壁に手を触れてみる。

貿易港に行けば分かるだろうか。

壁の案内に従って、ローラは通路を進む事にした。

 

 

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どれくらい進んだだろうか。

壁の案内に従ってずっと歩いてきたが、似たような景色が続くばかりだ。

時計が無い為、詳しい時間は分からないが体感で一時間近くは経過した気がする。

 

不自然な程に長い迷路のような通路。

これだけ広いにもかかわらず自分以外の人気がない、というのも妙だ。

何かがおかしい。

ここに来る途中で、三度階段を降りた。今は下の階層にいる事になるのだが、先程から同じ場所をぐるぐる回っているような、そんな気さえしてくる。

 

(なんかもう、疲れたな)

壁に背中を預けてローラは座り込んだ。

歩くのにも、考えるのにも疲れてしまった。

息を吐きながら天井を見つめる。

 

閉じ込められた、と仮定するには早計だがそれにしたって迷宮のような場所だ。

もしかしたら一生出る事が叶わず、自分はここで朽ち果てるのか?と一抹の不安が頭をよぎる。

自問しても、答えは出ない。答えの出ない問題を考えるのも億劫だ。

 

座り込み、瞳を閉じる。そうして休んでいる内に、いつの間にかローラの意識は闇に沈んでいった。

 

 

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いつの間にか眠ってしまっていたらしい。

うっすら瞼を開けると、目の前に誰かが立っているのに気が付いた。

 

「気が付いたか?ローラ・ヴァイス。さっさと立てよ」

ハッとなり目を見開く。喫驚の理由は突然話し掛けられたから、というのも勿論あるが。

眼前に佇んでいたのは、ローラがかつてメンデルの訓練施設にいた頃の知り合い―仲間だったからだ。

 

「カナード?カナード・パルス!」

ローラが子供だった頃の記憶の中にあるカナード、そのものの姿だ。

不敵な表情を顔に貼り付けた、目付きの悪い男の子。

でもここにカナードがいる筈はない。道理に合わない。

 

「約束したろ。俺達は地べたを這いずり回ってでも、必ず生き延びると」

座り込む自分に言い聞かせるようにしてカナードは語る。

それは幼い日に、仲間内で立てた誓いだ。随分と懐かしい記憶だった。

 

「約束は取り消せない」

そう言ってカナードは右手を前に出すと、所在なさ気にしていたローラの左手を掴む。

 

「何故立ち上がれない?納得のいく説明が出来ないんなら今すぐ立て」

カナードはローラの手を取って無理やり立ち上がらせる。並んで立つと()()()()()()()()カナードを見上げる形になった。

カナードが、ふらつくローラの背中を叩き叱咤する。痛みに顔をしかめてローラが振り返った時には、カナードの姿は何処にもなかった。

 

まるで初めからそこに誰もいなかったかのように―。

 

 

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「ローラ?妙な所で会うわね」

再び迷路のような通路を進み始めたローラの前に現れたのは、薄い緑の髪を腰のあたりまで伸ばした美しい少女―エルザ・ヴァイスだった。

 

「お姉ちゃんっ!どうして」

ローラは幼かった頃に一度だけ、姉に会ったことがある。姉とは別々の施設で育てられたのだが、ある日突然、姉と姉の担当官がローラと弟がいる訓練施設にやって来たのだ。

その時は姉の担当官にそそのかされて、姉とスパーリングをしたのだが一方的に床に転がされた苦い記憶しかない。

 

「どうしてかしら。だけど私はここであなたを阻む役みたい」

「お姉ちゃん、私は―」

 

ローラが後退り、反対にエルザは肉薄する。

エルザの右腕がムチのようにしなり、ローラの腕を絡め取る。咄嗟に振り払おうと力を込めるのだが、びくともせず逆に首元に拳を食らい仰け反る。何とか踏み留まり蹴りを放つのだが、お互いの身体が近過ぎる。

ローラの蹴りが加速するより前にエルザの脚に絡め取られ、上から抑えつけるようにして勢いを殺された。

おまけとばかりに顔と胸を殴られ堪らずローラはくずおれる。

 

「早く立ったらどう?」

事も無げにエルザは言うが、いきなり襲い掛かってきてそれは無いだろ、とローラは思う。

エルザとローラの二人の間に()()()()()()()()にもかかわらず、気が付くと一方的にローラだけが殴られている。

昔は何をされたのか分からなかった。だが今ならば分かる。

 

「その戦闘技巧、私にちょうだいッ!」

痛む身体を叱咤して立ち上がりながら、エルザを睨め付ける。

通常は相手の攻撃を捌くのに一手、反撃に二手要る。だがエルザは攻撃と防御を一呼吸の内に行っており、しかも身体を密着させる事でこちらの力は化され、反撃の手が封じられてしまう。おまけとばかりに重心が崩れた瞬間に連打を食らった。

倍以上ウェイトが違う相手にぶん殴られたかのような威力で、クラクラする。

 

「その眼が出来るなら、まだやれそうね」

エルザが再び動く。

先刻と同じようにムチのようにしなる腕がこちらに襲いかかる。

 

(さっきと同じ攻撃!なら!)

ローラは先程食らった攻撃をそっくりに真似してやり返す。

エルザの腕を反対に絡め取り、そのまま掌打を叩き込む。

だが直前でエルザの左手が翻り、ローラの攻撃を弾く。そのままエルザはローラの腕を絡め取り、バランスを崩しにかかる。

エルザは右手でローラの頭の後ろを押さえ付けながら、自分の方に引き込もうとする。

先刻と同じで、抵抗しようにも力が入らない。

だからローラは逆に自分から倒れ込んだ。

同時に身体を旋回させながら、その勢いを利用してエルザの身体に脚を絡める。そのまま自分諸共地面に引きずり倒した。

 

「ッは」

うつ伏せに倒されたエルザの肺から空気が絞り出され、苦悶の呻きが漏れた。

エルザはそのままごろんと身体を回して仰向けになると、背中から倒れ込んだローラと隣り合う形になる。

何故かは分からないが笑いが込み上げてきて、二人は同時に笑い出した。

 

「夢ってのは滅茶苦茶ね。まさかローラに負けるなんて」

背中を地に付けた姿勢のままエルザは呟く。透き通る綺麗な声だ。エルザの呟きは小声でも明瞭にローラの耳に届く。

 

(そっか。私がお姉ちゃんに敵う筈ないもんね)

ローラは呆然としながら、口の中で呟いた。

 

姉―エルザは最高の戦闘用コーディネーターだ。

だけど、もしかしたらその役目を自分が担う、そういう可能性だってあった筈だ。

だが運命は姉を選び、そうはならなかった。

 

「私、お姉ちゃんともう会えないのかな?」

夢の中で何を尋ねても無駄と知りながら、ローラは問うた。

 

「いいえ、きっとまた会える。忘れないでローラ、私達が血の絆で結ばれている事を」

 

エルザが手を伸ばしてローラの頬に触れようとした瞬間、ローラの意識は覚醒した。

 

 

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「・・・ここ、何処?」

ベッドの上で目を覚ましたローラは部屋の眩しさに目を細めながら、誰にともなく呟いた。

起き上がろうとした瞬間、全身に走った痛みに思わず顔をしかめる。

 

(なに、コレ。バックドロップを100回食らった後みたい)

実際にそんな経験など無いのだが、ローラには適切な例えが思い浮かばなかった。

 

「あ、ローラさん!良かったぁ。えっと、ここはラザフォードの医務室です。あのっ、敵に撃墜されたのを私が―」

ローラの呟きに応えたのは、赤毛を切り揃えた少女―アレックス・リスタだった。若干テンパりながら状況を教えてくれる。

 

「あッ、頭を打ってるんです。安静に」

アレックスは身体を起こそうとしたローラを押し止めて、乱れたシーツを手際良く直す。

 

(あぁ、そっか。そうだった・・・負けたんだ。カッコ悪いなぁ、私)

些か大袈裟に巻かれた包帯とガーゼを確認しつつ、ローラは再びベッドに身を沈めた。

アレックスの話を聞いて、撃墜された時の記憶が少しずつ蘇ってくる。

 

「・・・アレックスちゃん、ありがとう。命の恩人だね」

「そんなっ、とんでもないです。ローラさんこそ私の恩人じゃないですか!」

 

(ええ子や。イマドキいない乙女だ)

ベッドに突っ伏しながら、ローラは微睡む。頭がボーッとして、どうにも思考がまとまらない。

 

しかしそんなことは些末な問題だ、と思いローラは再び目を閉じた。

 

 

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その他補足・元ネタ

時系列的には「星が落ちる時」でローラが撃墜された数時間後の話になります。
説明するのも恥ずかしいという話なんですが、冒頭はローラが見ている夢である為、不思議な現象が起きても夢を見てる本人は何も気ならない、というあんな感じを表現したかったのです。
身長差や体格差を強調しているのも、子供の頃の姿に戻っている事を示唆したかった訳です。エルザの髪が長いのもその一つです。
夢の中の世界で戦うって話は、これはまんま惑星のさみだれが元ネタになります。さーせん。

»気が付くと一方的に
エルザ強え、という話なんですが、小説で彼女は体格や筋力で勝っているイライジャを素手で圧倒するので、これは現代格闘技ではなく中国拳法、詠春拳とかの部類になるんじゃないかなという妄想です。戦闘描写は完全ににわか格闘技知識で適当です。

»その戦闘技巧、私に
相手の戦い方をコピーする戦闘用コーディネーター、スーが元ネタです。

»最高の戦闘用コーディネーター
実際にそういう設定が公式に存在する訳ではなく、子供の頃のエルザが自分をそうだと信じる描写があった為です。

»もしかしたらその役目を自分が
ローラ達の出生の謎について、謎って程のものはないですが。
ダンテが選ばなかった受精卵を再利用して作られたのが、ローラ達です。
ヴァイスさん家の受精卵は適性が高かったという話です。
公式設定では劾、エルザ、ヴェイアの三人が各々誕生した、三つの研究所と訓練施設があったものと思われ(5、6歳頃まで研究所にいて、その後に訓練施設へ移動している描写がある為)、本作でローラやリリーが育ったのはヴェイアと同じ研究所です。赤子のカナードを引き取ったのもこの研究所です。

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