機動戦士ガンダムSEED THE GATHERING 作:えいじぇんと
本当はもう一話後に投稿する予定で下書きをしたつもりが、寝惚けて投稿していました(しらんがな)。
近日中に加筆するか修正話を再投稿いたします。
C.E.70年7月12日
ディーツェン隊の母艦、ナスカ級宇宙用駆逐艦《ストークス》に帰投したローラ・ヴァイスは、暗澹たる思いでモビルスーツハンガーに固定された愛機―ジン・ハイマニューバーを見詰める。
(私達これからどうなるんだろう?)
先の新星攻落戦に於けるディーツェン隊の被害は甚大だった。オロールとマシューは帰還する事が叶わず、パイロット二名並びにジン二機を失った。
それぞれ小隊を率いていたミゲルとローラの機体は大破し、修理するにしても時間が掛かる。ストークスの格納庫には代替機として予備のジンがもう一機積まれてはいるが、高機動機に慣れたミゲルやローラには専用の調整が必要になって来る。
「戻ったかローラ。ってか怪我は大丈夫なのかよ?心配したぜ」
しばし呆然としていたローラに声を掛けてきたのは同僚のパイロット、ミゲルだった。その後ろにはデレクもいる。
ローラが負傷して治療を受けていた事はラザフォード経由でディーツェン隊のメンバーにも伝わっていた。
「ご心配をお掛けしましたが大丈夫です。これは、ちょっと大袈裟なだけで。二人こそ怪我はなかったですか?」
ローラは頭に巻かれた包帯に軽く触れつつ、ほつれた髪に手櫛を入れる。
先の戦いから命からがら生還を果たしたのは間違いではないが、重症という程の怪我でもない。
「掠り傷程度ならな。今のお前よかよっぽどマシだぜ」
ローラが頭に巻いた包帯を指してミゲルは言う。
「なんか思ってたより元気そうだな。でも病み上がりなんだから無理すんな。休んどけよ」
デレクは負傷したローラを気遣う。考えても詮無い事ではあるが、デレクが上手く立ち回っていればローラも余計な手傷を負わなかったかもしれない。デレクは少々バツの悪さを感じていた。
「いつでも復帰できますよ。頑丈さが取り柄なので。…というかこの場合、病み上がりとは言わないのでは?」
ローラは口調こそ穏やかだが、その双眸に微かな昂揚を滲ませる。自分一人休んでいる訳には行かないという意志の表れだ。
「えっ、そうなのか?じゃあ何て言うんだよ」
デレクが怪訝そうに聞き返す。
「改めて聞かれると分かんねえけど。まぁでも病み上がりは違うだろ。そいつは病気が治った時だけだ」
腕を組みながらミゲルが応える。ローラ達は知る由もなかったが、ミゲルには病弱な弟がいる為、そういった快気の謝辞について正しく認識していた。
「えっと、治りかけ、とかで良いのでは?」
ローラが苦笑しつつ応える。
「それだ!」
「それか!」
思わず口走ったミゲルに、すかさずデレクが賛同する。
二人のやりとりが可笑しくてローラはつい笑ってしまった。
気が付けば三人で笑い合う。三人とも無意識の内に仲間を失った哀しみを払拭しようとしたのかもしれない。
「あの…私、ディーツェン隊長に状況報告してきます。これからの予定とか、二人は何か聞いていますか?」
次第に笑いが引いてくると、ローラが切り出した。
無事母艦に帰投したばかりのローラだったが、直後に隊長から呼び出しを受けていた。
戦線離脱した件に関しては踊る黒い死神ことアイリ・シュヴァルツァーがとりなしてくれたらしいが、どちらにせよ、ディーツェンに復帰の報告はしなければならない。
「補給が終わり次第、本国に帰るんじゃねーの?休みが貰えるのかは、わかんねーけど…」
そう言ってデレクは何かを思案するような素振りを見せる。
「ま、お前の休みが任務より優先される事はないだろうけどな。さっさと話を聞きに行こうぜ」
ミゲルはデレクとローラの間に割って入ると、二人の肩に手を置く。どうやら隊長から呼び出しを受けたのはローラだけではないらしい。
しかし口調こそ戯けているがミゲルの表情は硬かった。
ローラの視線に気が付いたミゲルは、一瞬物憂げな表情を浮かべるが、すぐに顔を逸らし踵を返してしまう。
一瞬の事でそこから感情を読み解く事は叶わず、ローラも無言で後を追った。
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隊長室にやって来たミゲル達は、相変わらず怠そうにデスクに突っ伏しているこの部屋の主の姿に、辟易しつつ敬礼した。
エイジャ・ディーツェン。
20代半ばに差し掛かっているとは思えない、まだあどけなさを残した面立ち。バレッタでまとめた茶髪を無造作に後ろに流している。
風貌だけ見ればそこそこの美人にカテゴリーされる筈だが、全身から漂う倦怠感がそれを台無しにしていた。
ラウ・ル・クルーゼがその優秀さと情け容赦の無さで味方からも恐れられているの対して、ディーツェンはその真逆を地で行く逆エリートだった。
軽い世話話をした後、ミゲル達はディーツェンから次の任務を言い渡される。だがその内容は思いがけないものだった。
「
ミゲルが訝しみながら尋ねる。
少なくとも前線で戦っている自分達には似付かわしくない任務に思えたからだ。
「分からんよ。本部からの辞令だ。何でも
そう言ってディーツェンは机の上に無造作に置かれていた13インチ程の電子ペーパーをローラに放って寄越した。
「分離式統合制御高速機動兵装群、ネットワークシステム…これって、まさか?」
渡された資料に目を通したローラは、そこに記された内容に喫驚し双眸を見開く。
「そのまさかだ。ナチュラルがガンバレルと呼んでるヤツだよ。例の八本脚が使っていたのと理論的には同じ兵装らしい。
戦場で新しい兵器が優位性を保つ期間というのは、実はすごく短い。他国も直ぐにそれを真似し始めるからだ。
「そのテスト機に自分が、ですか?」
ローラが怪訝そうに聞き返す。何故自分がパイロットに抜擢されたのか分からなかったからだ。
「何でも適性のあるパイロットでないとこれは扱えんらしい。運良くお前のパーソナルデータはその条件を満たしていた、って事だ」
ディーツェンは何が気に入らないのか、苦虫を噛み潰したような表情で吐き捨てる。
「はぁ、なるほどです」
ローラは生返事しつつ、あまり納得のいかない様子で再び資料に視線を落とした。そこには巨大な円盤のようなバックパックを背負ったジンの図面データが描かれている。
バックパックの左右から翼のような突起を生やしており、この突起物が有線分離兵器らしい。
何と言うか、実物はいろいろと凄そうだ。
「ヤキン・ドゥーエに寄港した
ディーツェンが気怠そうに告げ、出て行けと手でジェスチャーする。それ以上話はないとでも言いたげだ。
ミゲル達はディーツェンに敬礼して、隊長室を後にした。
「しっかし新型機のテストとはね。どんだけ便利に使われてんだよっ」
部屋から出て開口一番にデレクが言う。厳密には試作機―数あるジンのバリエーション機の中の一つ―に過ぎないが、わざわざ訂正する程でもない。
「ってか休みの話は!」
まるでそっちが本命だ、とばかりにデレクが口を尖らせる。
「いや、流石に下船の時間くらいはあるだろ。ストークスのメンテにも時間が掛かる筈だぜ」
ミゲルが呆れ混じりに呟く。確かにこうも働き詰めでは心身共に参ってしまう。リフレッシュする為の休暇は欲しいところだ。
「あ、それもそうか」
デレクが納得した様に頷くのを見て、ミゲルは肩をすくめた。
ややあって、渡された資料を一瞥する。
この円盤みたいな物体を背負ったジンがどれ程の機体かは分からないが、再びガンバレルを操る敵と相見える機会もあるかもしれない。
デレクは不満そうだが、もしもそうなった時にこの活動テストの経験が役に立つかもしれない、とミゲルは思い始めていた。
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現在、ザフトの作業艦が収奪した新星外壁にスラスターエンジンを取り付けている。
東アジア共和国軍が残していった物資や機材の他、地下にある発電施設も無傷で接収出来た為、そこから電力を引き込む事が可能だった。
ザフトはL5宙域への移送と並行して要塞化の為の改修作業も行おうとしているのだが、地球軍がそれを黙って見過ごすとも思えない。その為、コースト隊、ハリソン隊、フォスター隊が新星に駐屯し護衛の任に就く。
その他の艦は補給が済み次第ヤキン・ドゥーエに寄港し、そこで欠員が出た部隊の再編が行われるとの話だった。
その為、先の新星攻落作戦で艦隊旗艦を務めたナスカ級ラザフォードは未だシュヴァルツァー隊の母艦として運用されていた。
艦内の食堂では、朝食を終えた二人のパイロットが向かい合わせで雑談していた。
「そういえば元ブレナン隊の再編ってどうなるんです?」
シュヴァルツァー隊の新人パイロット、レオール・ハイゼンは同隊の先輩パイロットであるエミリア・フィリス・ベルサリオに尋ねる。
現在のシュヴァルツァー隊は、隊長を含め数多の欠員が出たブレナン隊にアイリ・シュヴァルツァーを始めとする助っ人パイロット4名を再編成した部隊である。
「ん?そっか。そういやワタシら臨時の部隊だっけ」
アイリは元々ザフト国防委員会の直属の特務隊員なので、必然的にシュヴァルツァー隊は解散という事になる。
「エミリー先輩かヴァイス先輩が部隊長を引き継ぐ話とか無いんですか?」
「や、それはどうだろ。何にも聞いてないけど。ってかワタシは元々ヤキンにいたし、シャルルはナントカって隊長の支援部隊じゃなかったっけ…」
パッキングされたドリンクを啜りながらエミリアが呟く。
通常は部隊に欠員が出れば、新たに隊員が補充されるか、規模の小さい部隊であれば統合、大隊の傘下に入る、といった場合がある。
しかし今回エミリア達は通常異動ではなく特殊任務に伴う特別異動に該当する為、作戦が終われば元いた部隊に戻るだけだ。
レオもアレックスも良い人間だ。短い間ではあったが、ずっと昔からの知り合いだったような、そんな気さえしてくる。
しかしシュヴァルツァー隊がこのまま解散すれば二人との縁もここまでだ。
アイリに頼めば特務隊の権限で何とかしてくれるかもしれないが、人事担当は良い顔をしないだろう。何よりも、
特務隊を何だと思ってるのか、とキレられそうだ。
「あ、エミリーさん、レオさん。おはまるでーす!」
突然割って入ってきた高めの声。レオールとエミリアは声の主―ソフィア・ローレンスを仰ぎ見る。
今日はオフショルダーブラウスにストラップが幾重にも付いたロングスカートという出で立ちで、ウェーブがかった藍色の髪をサイドポニーにしていた。
軍人らしからぬ格好をしているが、紛れも無くザフト広報部所属の軍人で、首から写真付きのIDをぶら下げている。
「ソフィーちゃん、おはまるー」
指で輪っかを作りながらエミリアが微笑む。
「…っはようございます」
レオールは独特過ぎるソフィアの挨拶に気後れしつつも、何とか返事をした。
笑い合う二人を見て馴染んでいるな、としみじみと思う。ほんの数日前までお互いに面識すら無かった者同士の筈である。
「お隣失礼しますネ」
ソフィアはテーブルの上に朝食の載ったトレーを置きつつ、レオールの隣の席に腰を下ろした。同時ににっこりと微笑みかけられて、レオールの心臓が小さく跳ねる。
トレードマークとも言える頬のザフトエンブレムと濃いメイクは、ソフィアの愛らしい容姿と相まって、怪し気な魅力を出していた。
「さっき医務室に行ったら誰もいなくて!ローラさんを探していたのですケドネ」
ソフィアがわざとらしく声に怒気を滲ませる。
「シャルルのお姉ちゃん?あの娘ならアレックスが朝早く艦に送ってったよ」
エミリアは事も無げに告げると再びドリンクを口に運ぶ。
「なんとっ。帰る前にお話を聞きたかったのですが…」
「ローラちゃんに
エミリアが意外そうに目を丸くする。
「えぇまあ。新星の戦いもこうして決着したコトですし…そこで何が起きていたのか。裏のドラマに興味を持つ人々は多いのでは、と思うのですヨ」
ソフィアは小さく吐息をつくと、サンドイッチを頬張り始めた。
「そう?あんま分かんないな、その感覚」
エミリアが訝しみながら呟く。
ソフィアは咀嚼していたサンドイッチを飲み込むと、思案するように天井を仰ぎ見た。
「ウーン。ザフトの軍人とプラント市民とではそもそもの感じ方や見え方が違いますからネ。言ってしまえば
そして当事者以外の言葉には何の説得力も生まれない。だからこそソフィアはパイロットの語る言葉を聞きたいのだ。
「ナルホドね」
何となく分かるような、分からないような説明だったがエミリアは首肯する。
「ところで、ソフィーさんは部隊再編について何か聞いてますか?」
今まで黙って話を聞いていたレオールが口を挟む。
「あぁ、えぇと。ヤキンで大掛かりな再編成を行うようですが…詳しくは知らないんです、ごめんなさい!」
ソフィアはレオールの方に身を乗り出すと、両手を顔の前で合わせてウインクする。
「あ、いや。全然オッケーです」
レオールが慌てて取り繕う。
「ま、不安なのは分かるけどねー。短期間で二回も隊長が変わったらビビるって」
エミリアの言葉に耳を傾けながら、レオールは思い返す。最初エミリアと共にシュヴァルツァー隊に編成された時は、とんでもない部隊に放り込まれた、と自棄になっていた。しかしこれが逆に良い経験だったと今になって思う。
ザフト軍でも指折りのエースパイロット達と同じ轡を並べられる機会など滅多にない。短い間ではあったがシュヴァルツァー隊で戦えた事がレオールには誇らしかった。
考えてみれば、シュヴァルツァー隊以上に常識破りな部隊などそうそうない筈だ。
この二日後、レオールとアレックスはディーツェン隊へ配属されるのだが、自分の認識が甘かった事を痛感する事になる。
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その他補足・元ネタ
>巨大な円盤のようなバックパックを背負ったジン
元ネタは、Reで出てきたシグー・ドラグーンです。これを作る為のデータ集めの機体。
>スラスターエンジン
元ネタって程の物はありませんが、アクシズ等にくっついてる核パルスエンジンをイメージしていただければ。
現実世界でも圧電素子を利用した宇宙用スラスターは研究されているらしく…科学の力スゲー。
>この二日後
年表を見てるとアスラン(ヴェサリウス)が物凄い短時間でプラントと地球軌道上を往復してて、実際二日も掛からないのかもしれませんが。
登場人物紹介
エイジャ・ディーツェン
24歳・女
ディーツェン隊を率いる隊長で艦長も兼任。元々はパイロットだったが最近ではモビルスーツに乗って戦うような事はなく、モビルスーツ隊の指揮はミゲルかローラに任せきり。とにかくものぐさで率先してアクションを起こすのを嫌う。
ラウ・ル・クルーゼと同期だがライバル関係という訳ではない。