機動戦士ガンダムSEED THE GATHERING 作:えいじぇんと
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C.E.70年7月17日 地球軌道上
ザフトの宇宙輸送艦から一基の降下カプセルが地上に向けて撃ち出された。
大気圏へ突入するタイミングでカプセルを覆っていた第一外装が弾け飛ぶと共に、強制冷却装置が作動する。
「これが、地球の重力…。重いな」
降下カプセル内に格納されたモビルスーツのコックピット内で、シャルル・ヴァイスは呟く。
大気圏に入った途端、荒ぶる気流が身体に絡みついてくるような、そんな感覚に襲われたからだ。同時に突入時に発生した衝撃波が機体を大きく揺さぶる。
先の新星攻落戦で出向していた特別編成隊が解隊され、シャルルは本来の所属であるクリューガー支援隊に戻っていた。
しかし休む間もなく次の任務を言渡され、現在に至る。
「確かにな。これがプラントの1Gと同じとは信じられん」
無線を通してシャルルの呟きに応えたのは、支援部隊の隊長を務めるクリューガーだ。
苦み縛ったその声は年配のそれを思わせるが、ヘルメットのバイザーから覗く相貌はまだ年若い。
「アレ?隊長達地球は初めてでしたっけ」
クリューガー支援隊に所属する新人パイロット、ケーサイ・ラルゥが意外そうに尋ねる。
「あぁ。先のヴィクトリア戦には招集されなかったんでな」
シャルルが地球の重力に引っ掛かるものを覚えたように、クリューガーも初めての地球に少なからず戸惑っていた。
宇宙育ちの彼には、新鮮な感覚と言えばそうなのだが、大気の所為か機体がやたらと重い。
「いや、そんな事よりこの挟空間にヤロー4人とか最悪なんすけど」
突然通信に割り込んできたのは、同隊2人目の新人パイロット、ロムド・キャロルだ。
クリューガー支援隊が乗り込んでいるのはMSを最大4機搭載出来る大気圏降下カプセルである。
各員は搭乗機のコックピットで待機している為、些か語弊がある言い方だとシャルルは思ったが口には出さない。
おまけに同隊のMSパイロットはこの4名しかいない為、他の組み合わせになる事はあり得ない。つまるところ、どうしようもない問題だ。
「お前な、仮にうちの隊に女の子がいたとしてもお前がエッチ出来る可能性は上がらないぞ!」
「でも下がるって事もないでしょ!?」
せきを切ったように叫ぶクリューガーに、ロムドもムキになって言い返す。
「第二外装、剥離。暖流層突破。減速、0コンマ9マッハ。冷却装置停止。各員、高度の確認を」
作戦中にもかかわらず緊張感の無い隊長達の会話に苦笑しつつ、ケーサイが計器を見るように促した。
「時間だな。全員気を引き締めて掛かれ。降下と同時に対空監視を厳にしろ」
クリューガーは軽口を叩くのを止め、全員に号令を掛ける。
「了解。我らに天の加護を」
シャルルが口にしたのはザフトの兵士達の間で定型句となっている言葉だ。間髪入れずに3人が応答する。
「ザフトの為に」
「ザフトの為に」
「ザフトの為に、ってね」
降下ポッドから、4機のディンが同時に飛び出す。
次世代主力機シグーをベースに開発された、単機で大気圏内での飛行を可能にした空戦用MSで、地上での機動性を重視して支援隊に配備された機体だ。
6月に決着したスエズ攻防戦以降、ザフト軍はアフリカを南下して、戦線を拡大してきた。
同時にザフトはアフリカ侵攻の足掛かりとして、イベリア半島のジブラルタル海峡に軍事基地の建設を開始する。当然だが、地球連合も黙っていない。
ジブラルタル基地の着工以降、今日に至るまでザフト軍と地球連合軍は小競り合いを繰り広げており、ジブラルタルの戦力は着実に疲弊していた。
アフリカ戦線を強化維持する為には、新たな補給拠点の確保が急務であった。
その為には補給がしやすい沿岸部に基地を設置しなければならないのだが、そこでザフトが目を付けたのがペルシャ湾近郊に位置するムハムールである。非プラント理事国であり、大西洋連邦と対立関係にある汎ムスリム会議の領土でもあるそこは、連合のスエズ基地を牽制し続けたいザフトの目的とも合致していた。
ムハムール基地建設に要する資材並びに降下してくる本隊の護衛の任を受けたのが、クリューガー支援隊だった。
クリューガー達が機体を中空へと踊らせたタイミングで、宇宙から数多の降下カプセルが落ちて来る。
「各機、高度1000を維持、防衛ラインを構築しろ」
クリューガーは計器に視線を這わせ高度・速度・姿勢を確認すると、即座に指示を飛ばした。
4機のディンが示し合わせたように飛び退き、各々が距離を保ったまま滞空する。
上空に展開したクリューガー達の真下には無骨な岩肌の大地と、ペルシャ湾の広大な水面が広がっていた。
「各機、重力下での操縦に問題はないか?」
クリューガーは眼下の光景に圧倒されつつも、部下達に尋ねた。
「飛ぶだけなら何とか。機体の慣熟にはもう少しかかりそうです」
ディンのスラスター出力を調整しながらシャルルが応える。言葉とは裏腹に、その機体制御におぼつかない部分は見られない。
「少し違和感はありますが、僕も問題はありません」
ケーサイは若干の据わりの悪さを感じたが、もう少し飛べば感覚が掴めるだろうと思った。
「こっちも問題無し!」
機体をふらつかせながら、深く考えずにロムドは勢いよく返事をする。
「なら良い。だがあまりサポートシステムをアテにし過ぎるなよ」
3人の返答に若干不安を感じつつも、クリューガーは気休めを口にした。
「どうだシャルル、敵の気配は感じるか?」
クリューガーは自身もレーダーと目視で周囲に探りを入れていたが、不意に副隊長を務めるシャルルに意見を求めた。
「っ、何で俺に聞くんです?全員で索敵した方が良いと思いますけど」
隊長から唐突に話を振られ、シャルルは怪訝そうに聞き返す。
今度の降下作戦では、
敵に動きがあればクリューガー達にもレーザー通信が入る筈だが、偵察部隊や空中早期警戒機(自分達の事だ)が敵を捕捉できず、ターゲットへの接近を許したらその時点で作戦は失敗だ。
「お前の勘はよく当たるからだろ。発見力ってヤツ?」
ロムドが通信に割り込む。
サイキックなどと断じるつもりは毛頭ないが、索敵レンジ外にいる敵をいち早く察知する事にシャルルは長けていた。
「はぁ…いや、あまりアテにされても困るけど」
バツが悪そうにシャルルは言うと、メインカメラを最大望遠にして周囲を探る。
「ハハッ、そりゃそうだ」
ロムドは小さく笑った。
計器に視線をやりながらクリューガーは思案する。
対空レーダーが使用できない以上、高速で落ちて来る降下カプセルを探知追跡する事は事実上不可能だ。もし自分が降下カプセルを破壊しようと思ったら、減速した瞬間か降下直後の無防備な状態を狙う。
しかしその為には、前もってこの降下作戦を把握していなければならないし、降下地点の正確な割り出しなど、それこそレーダーがなければ不可能だ。
今現在、敵がこちらの動きを察知していたとしても、行動を起こす為の出撃準備には相応の時間がかかる。
こちら側に攻撃が飛んでくるような事態にはそうそうならないだろう、とクリューガーは考えていた。
要するに護衛とは建前で、
「6基目の降下を確認。あと何基降りるんだ?」
ロムドはフットペダルを踏み込み、落下傘を開きながら降下してくるカプセルを正面モニターに定位させる。
「計画ではあと8基。それで最低限の人員と資材が揃うよ。ってか、作戦内容は事前に確認したじゃん」
ケーサイが呆れ混じりに言う。
「悪いケーシー、俺長い話は覚えられなくて」
ロムドは全く悪びれる様子もなく、口にする。
地球に降りた影響か、少なからず熱に浮かされているのを自覚しながら。
「お前がアホなのは構わんが、全基降下するまで周辺警戒を怠るな」
クリューガーは、まるでピクニック気分の部下達を諫め嘆息する。
スムーズに行けば2日で基地の基礎工事は完了するが、完成には2週間程度は必要だ。
クリューガー支援隊は降下した部隊と協力して完成まで基地を防衛しなければならない。
今からこの体たらくでは、これから先が思いやられるというものだ。
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C.E.70年7月18日 プラント・マイウス市近郊
コックピットハッチから前のめりになって、試験機体のセッティングを行なっていた
「システムの理論はお分かりですよね?貴女はテストでも十分なスコアを記録していたので、問題なく扱える筈です」
そして一面が平らになった、流線型のヘルメットをローラに手渡した。それはバイザーにあたる部位まで外殻に覆われた、見た目からして特殊なデザインの物であった。
テストマシンの専用デバイスなのだろうか。
ローラは訝しみながらもそれを頭に被ってみるが、案の定何も見えない。
「そのヘルメットは、ジンのカメラとリンクしてます。首元のボタンを押してみて。それです」
ローラがボタンを押すと、ヘルメットの内側に張り巡らされたディスプレイの中央に《D.R.A.G.O.O.N. System Online》の文字が表示され、瞬時に映像が切り替わる。
「わっ、これ、凄いです」
ジンのメインカメラの映す光景が、眼前に広がっていた。
まるでジンの視界と自分の視界が一体化したような錯覚に陥る。
ローラが首を振ると、連動してディスプレイの映像も動く。
ローラの動きに合わせて、ヘルメットの下からはみ出した色素の薄い髪が揺れ、光を反射して煌めいた。
「そのメットはドラグーンの運用データを収集する為の物ですが、ドラグーンを操る上でも助け手になる筈です。ですが、もし頭痛がしたり気分が悪くなったら報告を。すぐにテストを中断します」
「お気遣いありがとうございます。全力を尽くします!」
「期待しています、ローラさん」
そう言って
その後ろで、機体を拘束していたエネルギーケーブルが次々と外れる。そして、カタパルトへ通じる昇降機がゆっくりと上昇していく。
「ローラ・ヴァイス、ジンドラグーン出ます!」
ストークスの前部がゆっくりと開口していき、リニアカタパルトから、異形のジンが飛び出していく。
ローラは
ジンハイマニューバーをベースに開発された機体で、巨大な円盤のようなユニットを背負っている。ユニットの両側から突き出るような形で接続されている突起物がメインウェポンとなるドラグーンだ。
Disconnected Rapid Armament Group Overlook Operation Network System(分離式統合制御高速機動兵装群ネットワーク・システム)の頭文字を並べた頭字語で、地球連合軍のガンバレルを参考にした兵装である。
それは本体から分離した状態でも、遠隔からの攻撃を可能とする砲台だ。
2基のドラグーンは有線式のケーブルで本体と繋がっており、本体から電力も供給される為、バッテリーが無くなるまで展開し続けることが出来る。
巨大な円盤状のバックパックは、それ自体にも大容量バッテリーを搭載し、稼働時間の延長を図っている。
一方で一番厄介なのはパイロットの問題だ。この兵装を扱うには高度な空間認識力が必要で、尚且つドラグーンを操作しながら機体の制御も行わなければならない。尋常では無い並行処理能力が求められるのだ。
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ジンドラグーンに続いて、4機のジンが
「ローラ、機体の調子はどうだ?」
近距離用の光通信を入れたのはオレンジのカスタムジンを駆るミゲル・アイマンだ。
ミゲル達が命じられた任務は、ザフトが新たに開発した特殊兵装「ドラグーン」を装備した試作MSの活動テストである。
原理自体は地球連合軍がガンバレルと呼んでいるモノと同じであるが、ザフトでは初となる武装だ。
その為、実戦形式で模擬戦闘を行ない、その有効性や耐久性、問題点を精査しなくてはならない。
「問題ないです。いつでも行けますよ」
機体のレスポンスを確かめていたローラは、動作確認を切り上げて深く息を吐く。密閉されたヘルメットの中で自身の吐息が鼻腔をくすぐった。
(外連味あり過ぎだろ、その機体)
ローラの駆るジンの評価試験機は、異形と呼ぶに相応しい外見をしていた。
もしかしたら相手を威圧する目論見もあるのか、とミゲルは勘繰ってしまう。
「すぐに墜とされても恨むなよ!」
ミゲルのジンが先陣を切って突っ込み、僚機を務めるデレクがそれに追随する。
そして此度の作戦からディーツェン隊に配属された新人パイロット、レオール・ハイゼンとアレックス・リスタの駆るジンは二手に分かれて、ジンドラグーンの側面へと迂回する機動を取る。
「そちらこそ!」
挑発に乗る形で、ローラはオレンジのジン目掛けて機体を加速させた。背中に背負ったドラグーンの基部ユニットが火を吹き、凄まじい加速を得る。
ローラが以前乗っていたジンハイマニューバーを遥かに凌駕する速力だ。
「あいつ、あのガタイで!」
なんて速さだ、と言う呟きを咄嗟に飲み込む。
あっという間に距離を詰めてきた敵機に喫驚しながら、ミゲルはバズーカを構えた。
「油断すんなよ、ミゲル。アレと戦うの俺達は2回目なんだからさ!」
先日の戦いでガンバレル式のMAに辛酸を舐めさせられたデレクが警告を飛ばす。
「分かってるさ!行くぜ」
ミゲルはシールドを油断なく構えながら、射程内に入って来た敵機に向けて引き金を引く。
瞬間、ジンドラグーンは急旋回して砲撃を躱した。敵ながら優雅とさえ思える機動だ。
そして間髪入れずに背中のユニットから2基の兵装が弾け飛ぶようにして分離する。
「来るか!」
ミゲルは操縦桿を握り締め、今しがたドラグーンを射出したジン本体に牽制射を浴びせた。
ローラはステップバックして砲弾を躱しつつ、マシンガンを撃ち返す。
ミゲルは咄嗟にシールドで受け止めながら、レーダーに視線をやった。
だが分離した筈のドラグーンの機影が見当たらない。レーダーでは小さ過ぎて捉えられないのだ。
ミゲルは小さく舌打ちすると、メインカメラを操作して周囲を探る。しかし次の瞬間、機体に衝撃が走り被弾を報せるワーニングアラートがコックピットに鳴り響いた。
撃ち合いを演じている隙に、ローラはドラグーンをミゲルの死角へ回り込ませていたのだ。
リニアガンを発射する分離兵装は漆黒の宇宙空間では、目視する事も難しい。
ローラの駆るジン本体にどうしても意識を割かざるを得ず、本体の相手にかまけていると明後日の方向から砲弾が飛んでくる。
これの相手は、並のパイロットには荷が勝ちすぎている。
ミゲルは遮二無二スラスターを噴かして火線から機体を逃がす。被弾した影響か機体の動きが鈍い。
「ミゲルさがれ!ここは俺が」
オレンジのカスタムジンと入れ替わるようにして、デレクの駆るジン・アサルトが前に出る。専用の追加装甲アサルトシュラウドはジンの胴、肩、腕、踝を鎧のように覆った、火力、推進力、防御力を底上げする武装だ。
ジン・ドラグーンに向けて両肩のガトリングと両足にマウントされた三連装
ローラは姿勢制御バーニアを焚いて、機体を思い切り後退させた。マシンガンを乱射してミサイルを撃ち落とす。
「初めてだな。お前と
コックピットの中でデレクは誰にともなく呟く。上下から挟み込むようにして回り込んでくるドラグーンを睨め付け、フットペダルを思い切り踏み付けた。
ドラグーンの砲火を無理矢理振り切って、異形のジンへ肉薄する。撹乱を混ぜた動きで機体を旋回させながら両腕のグレネードを撃つ。
「デレク!」
迎え撃つローラは最大速で機体を上昇させ、攻撃を躱した。すかさずジンアサルトに機銃の雨を降らせる。
「くっ、アサルトシュラウドを」
舐めるな、と言う台詞を言い終える前に機体に衝撃が走った。高速で飛び回るドラグーンの砲塔が、左右から砲撃を浴びせてきたのだ。
慌ててモニターに目をやると、左腕と右脚に不具合を示すサインが点滅していた。
即座にジンのOSがオートで機体のウェイトバランスを再調整する。
だがその僅かな間に、背中と胴を撃ち抜かれ、コックピットにアラートが鳴り響く。デレクの機体は撃墜判定を受けたのだ。
「くそっ!」
コンソールに拳を叩き付け、デレクは忸怩たる思いでモニターを睨め付けた。
アサルトシュラウドを持ち出して尚、足留めもままならない自分に憤る。自分とローラの間にはそれ程までに力量差があるというのか。
デレクを撃墜したローラは機体を下降させ、ドラグーンを基部に引き戻した。
ローラは以前戦場で戦った《八本脚》のガンバレルの機動を真似て、ドラグーンを操る。
無論、ドラグーンとガンバレルとでは詳細な仕様は異なる。
ローラは映像記録で何度も見たイメージと自分の中のドラグーンを飛ばすイメージを重ね、近付けようとしていた。
この戦闘技巧を自分の物にできれば――身体で覚えた技術ならば、何度でも再現出来る。
「デレクがやられた!挟み込めレオ、アレックス!」
瞬く間に墜とされた僚機を見て、ミゲルは歯噛みする。機体を上昇させ、突き上げるようにしてバズーカを撃つ。
ローラは基部に接続したままドラグーンを折り曲げて、オレンジのジンを狙い撃った。
(そのまま撃てんのかよ?!)
虚を突かれたミゲルは一瞬反応が遅れてしまう。そしてMS戦に於いて一瞬というのは雌雄を決するのに十分な時間だ。
ワーニングアラートが鳴るコックピットの中でミゲルは歯噛みする。
「動きを止める!」
戦闘の間隙を突いてレオールが仕掛けた。
急旋回して異形のジンの背後を取ったレオールは、ジン・アサルトの全砲門を開き斉射する。
(正面のミゲルは囮か!でも…連携が
ローラは鮮やかな横ロールで、砲弾を回避した。背中に目でも付いているのか、こちらの殺気を感じ取ったとしか思えないタイミングにレオールは目を見開く。
「今のを避けるのか!」
悪態をついた瞬間、ジンの背中からドラグーンが射出された。
ケーブルを伸ばしながら、ドラグーンそれ自体が意思を持った生物のように宇宙を滑る。
レオールは必死に機体を操りながら《八本脚》と交戦した時の事を思い出す。
あの時は4人で
それより砲塔の少ないジンドラグーンの方が、相手としては易しい筈。
だのに攻めきれない。機体を駆るローラ・ヴァイスは未だ一発の被弾も許していなかった。
(ちっ、テストパイロットを任されるだけの事はあるってか!)
ガトリングガンでドラグーンを牽制しながら、レオールは頬を歪める。丁度その時、コックピットに友軍機の接近を報せるアラートが鳴り響いた。
「レオ!」
レオール機に僅かに遅れて駆け付けたアレックスは、近距離用の光通信を入れる。
丁度ジンドラグーンを挟んでジンアサルトと正対する位置だ。
アレックスの駆るジンハイマニューバーは、飛び回るドラグーンにマシンガンを向け、撃ち落とそうとする。
「アレックス、本体を狙え!」
叫びながらレオールはフットペダルを思い切り踏み付けた。火線を避けながら、急ターンしてドラグーンの一基にアサルトシュラウドの全火力をぶつける。
さしものローラも躱すことは出来なかったようで、レオールは沈黙したドラグーンに驚喜する。
しかし残るもう一基のドラグーンが死角に回り込んできている事にレオールは気が付かなかった。
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ナスカ級ストークスのブリッジで頬杖をつきながら気怠そうにモニターを眺めていたエイジャ・ディーツェンは、あくびを噛み潰して視線を泳がせる。彼女はその軍服がシワになるのも気にならないのか、だらしなく着崩して艦長席に腰掛けていた。
ローラの駆る
ブリッジクルー達もザフト初となる兵装が気になる様子で、殆どの者はメインモニターで戦闘の成り行きを見守っていた。
隊長席の傍らに立つ神経質そうな男――この活動テストの為に工廠から出向してきた
再びディーツェンがメインモニターに視線を戻した時、甲羅のようなバックパックを背負ったジンから2基のドラグーンが弾け飛ぶように分離し、ジンアサルトに波状攻撃を仕掛けるところだった。
「囲んで仕掛けりゃいいのに、何でアイツら個人プレーに走るかね」
ドラグーンの砲火に晒され沈黙する
「元々ザフトには対モビルスーツ戦闘のノウハウがありませんし、メビウスが相手なら、複雑な連携はまず必要ないですから」
艦長席の傍らに立つ担当技官がディーツェンの呟きに応えた。
単なる独り言で、返答を求めたつもりは無かったディーツェンは、少々唖然としつつも再び口を開く。
「確かにね・・・そもそもドラグーンとやらの使い方はアレで合っているのか?」
着脱を繰り返すドラグーンの様子を見て、出したり戻したり忙しい奴だ、等とどうでも良い感想がディーツェンの頭に浮かぶ。
「未だ戦術を模索している段階ですが、初めてのテストでああも自在に扱えるとは、驚きですよ」
担当技官は素直にそう思った。
ジンドラグーンは中近距離どちらでも戦えるように開発されているが、実戦でコンセプト通りの運用が出来るか否は今回のテストで浮き彫りになるだろう。
「ん。ローラは器用に躱してるけど、あの兵装…あのケーブルの所為で接近されるとしんどそうに見えるが」
ジンドラグーンはその特性上、砲火を掻い潜って接近されると機体の小回りが利かない。展開中は有線で繋がっている為、回避運動が取り辛いのだ。
「有線の問題は、確かにおっしゃる通りです。無線化には技術的にクリアしなければならない課題が多く…設計局でも何とか解決したいと考えていますが…」
「あー、いや。その為のテストなのは分かっているよ」
申し訳無さそうな表情で項垂れる担当技官を見て、少し気の毒に思えたディーツェンは形だけフォローする。
丁度その時、ブリッジがざわついた。何事かとモニターに視線を戻すと、
先の新星攻落戦でガンバレル式のMAと二度交戦して生き延びたと言う経歴は伊達ではないという事か。
「何だ、やるじゃないか」
ディーツェンは新入りの戦果に目を細める。
《サーカス》からザフトにスカウトされたローラ・ヴァイスの操縦技術は同隊の中でも抜きん出ているが、付け入る隙が無いわけではない。
機体と二基の分離兵装をタイムラグなしに操っているように見えるが、見掛けだけだ。人間は2つの物事を同時には考えられないように出来ている。
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(一基落とされた・・・やるッ!)
ローラは残る一基のドラグーンに意識を割きながら、ジンハイマニューバーが撃ち散らすマシンガンの攻撃を半身を捌いて躱す。そして銃剣を手に斬り掛かった。
(
考えるよりも先に身体が動いた。
アレックスは姿勢制御バーニアを焚いて、機体に急制動を掛けると、迫りくる刃を咄嗟に銃剣で受け止める。
メインモニターにアクチュエーターの過負荷を示すサインが表示され、警告アラートが鳴った。
「良い反応!でも宇宙で動きを止めたら駄目だよ、アレックス」
「っ・・・!」
声を弾ませるローラとは対称的に、アレックスは苦悶の表情を浮かべる。
かつてローラが搭乗していたジンハイマニューバーを駆り今回の作戦に参加したアレックスであったが、機体の慣熟訓練は十分とは言えなかった。
また、エースパイロットに優先的に配備される高機動機を乗りこなすには、実力不足だとアレックス自身も分かっている。
思い通りにMSを動かせない己の未熟さが、アレックスを一層苛立たせた。
ローラが飛び退くと同時に、コックピットを衝撃が襲う。
背後に回り込んだドラグーンがジンハイマニューバーを穿ったのだ。
アレックスの口から短い悲鳴が漏れ、次の瞬間活動テスト終了を報せるアラートが鳴る。
全機が撃墜判定を受けた為だ。
(ダメだ・・・敵わないなぁ)
アレックスは操縦桿から手を離して、リニアシートに身体を沈める。天を仰ぎながら深く息を吐き出した。
何も出来ずに一瞬で墜とされた、という事実が重くのしかかってくる。
「大丈夫?戻ろう、アレックス」
ストークスのオペレーターから帰投命令が出ても微動だにしないアレックス機を見て、不安になったローラが近距離用の光通信を入れる。
「あっ…えっと、大丈夫です。ありがとう、ローラ」
アレックスは一瞬の自失から立ち直ると、機体を翻し、ストークスへ針路を取った。不意に口を開く。
「・・・やっぱ、あんまり大丈夫じゃないかも」
機体を走らせながら、アレックスは目を伏せて呟いた。
「えっ、どこか怪我した?!」
アレックスの弱々しい声に狼狽しながら、ローラが不安そうに訊き返す。
「違くてっ!えっと、どうしたら私も・・・ローラみたいに強くなれる、のかな」
アレックスは己の心情を吐露する。
それは答えを求める問い掛けというよりは、願望に近い訴えだ。
アレックスは先の新星攻落戦では何も出来ず、足手まといでしかなかった。
今回の活動テストも同様だ。
戦えない人々の代わりに戦う。
その為に銃を手に取った筈だった。
さりとて次の戦場に行って、自分は敵を倒せるのか?
ザフトの為に、何も為せず死ぬのではないか?
アレックスはその不安を払拭出来ずにいた。
だから彼女は切望する。戦場で生き残る力を。
実際に手合わせをして、ローラはアレックスの事を特別弱いとは思わなかった。
だが戦闘用コーディネーターとして生を受け、物心がついた時から訓練漬けの日々を送ってきたローラとアレックスとでは、そもそもの地力が異なる。
ローラには彼女の悩みを完全には理解できない。
「・・・なれるよ、私がアレックスを強くする」
気が付いたら、力になりたい、とローラは申し出ていた。
かつてアレックスは、戦場で無様に死に掛けていたローラを救ってくれた。
そして、自分は未だその恩に一切報いていない。
受けた恩には同等の対価を支払わなければならない、とローラはずっと考えていた。
それを返す機会に恵まれた自分は幸運と呼べるだろう。
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C.E.70年7月18日夜 ムハムール
基地の建設予定地は、ペルシャ湾沿岸部に位置するムハムールの都心部から、内陸に30km程進んだ砂漠地帯だ。
ザフトには海に面した断崖の中に基地を設置する計画もあったが、最終的には汎ムスリム会議から提供された岩肌の平地を利用するに至った。
現在、基礎工事と並行して降下したザフト兵士達の仮設住宅となるトレーラーハウスと、MSハンガーの設営が行われている。
周りが砂漠の中、フェンスで囲われたその区画だけが鈍色で浮いていた。
「高高度から降下したばかりなのに。参ったぜ。まったく」
クリューガー支援隊に所属するロムド・キャロルは悪態をつきながら、トレーラーハウスの玄関先に倒れ込んだ。
ハーフアップにした長い黒髪は、汗と砂ですっかり汚れている。
砂塵の太陽、湿った空気、絡みつく砂、地球の重力は容赦なく彼の体力を奪い去った。
地上に降りてからモビルスーツハンガーの設営にかかりきりだったロムドは、先刻ようやく形になったハンガーに自分の機体を格納してきたところだ。
ハンガーと言っても、プレハブをそのまま巨大化したような簡素なシロモノだが、陽射しと砂煙を防ぐ役割は十分に果たせるだろう。
「だらしねえな。最初の威勢はどうした?」
様子を見に来たクリューガーは、倒れ伏したロムドの鼻先にドリンクボトルを置きながら、肩をすくめた。
軍人らしく短く切り揃えた茶髪はロムド同様に砂埃で汚れているが、その声と切れ長の双眸にはまだ力があり余裕が見て取れた。
「いや…もうプラント帰りたいっす」
力なく上体を起こしながら、ロムドはドリンクボトルを手に取る。
「帰るのは当分先だ。面倒だろうが慣れるしかないぞ」
クリューガーはにべもなく言い放った。
「…ってか他の2人は!何処行ったんです?」
「ケーシーとシャルルか?あいつらは監視塔の設営だ」
「いや…こんな砂漠か何かよく分かんねぇ所に敵なんてこないんじゃ?」
受け取ったドリンクに口を付けながら、ロムドは訝しむ。
すかさずクリューガーは語気を強め言い返した。
「警戒を怠るわけにはいかんだろ。それにな、最悪のケースを想定して動くのは基本だ。24時間常に臨戦態勢でいろ。寝てる時も、糞してる時もだ」
スエズ基地が目と鼻の先にある以上、油断は禁物だ。
汎イスラム会議に属するいくつかの国は既にユーラシア連邦から圧力をかけられているという話だ。
いつ状況が開始されたとしても何の不思議もない。
それに、起こり得る最悪の事態を予測しておけば、不測の事態に見舞われたとしても対処がしやすい。
もしもこんな筈では、と膝を折る時が来たらそれは己の想像力不足が原因だ。
それならばクリューガーは後悔しない方を選びたい。
ロムドはクリューガーの
軽口を叩こうとロムドが口を開きかけたその時、クリューガーの持つ無線が音声を拾う。
「隊長、監視塔の設置完了しました」
設営を手伝っていたシャルルとケーサイからの無線通信に、クリューガーは労いの言葉を掛けた。
「ご苦労だったな2人とも。後はゆっくり休め。今日の監視任務はファフニール隊が担当する」
「了解」という短い返事の後、通信が切れる。
目の前で愚痴るロムド同様、2人にも不平不満はあるだろうが、こういう時は口数の少ない方が好ましい。
「はぁ、ってか、基地の外には出ちゃ駄目なんすか?」
飲み干したドリンクボトルを傍らに置きつつ、ロムドが尋ねた。
ムハムールはその土地の半分以上を砂漠に囲まれているが、沿岸部は近代化が進んでおり、観光地として栄えている。この機会に立ち寄りたいと思うのは、自分だけではない筈だ。
「お前が言いたい事は判るけどな、普通
内心ではロムドのような若者には到底、納得できないだろうと思いながらも、クリューガーは諭すように語りかけた。
クリューガー支援隊は基地の完成まで
今回の作戦で地上に降下したのは、クリューガー支援隊のディン4機の他、ファフニール隊のジンオーカー3機とバクゥ3機だ。
ムハムール基地は小規模な作戦基地に過ぎないが、10機のモビルスーツは仮設基地にはおよそ似つかわしくない戦力と言える。
今から4ヶ月前、マスドライバーがあるビクトリア宇宙港を占拠する為に、ザフトは南アフリカ統一機構へ進軍したが、その結果は惨憺たるものであった。
ザフト本部の人間達は、MSを揃えれば敵地を制圧出来ると考えているきらいがある。当然ながら敵地の制圧には陸戦隊が必要で、その作戦行動を支える後方支援がなければ、まともに戦う事などできない。
先の敗戦を踏まえ、ザフトはビクトリア宇宙港を確実に占領する為の戦力を整えており、このムハムール基地建設もその一環である。
今後の戦局次第でどうなるかは不確定だが、再侵攻の時はまだ当分先になるだろう。
それまでクリューガー達はムハムールに駐屯し続けるのか、また別の支援任務に回されるかは本部からの指令を待つしかない。
「
ロムドは億劫そうに敬礼して、再び床に突っ伏した。
基地の完成まで行動範囲が制限されるのは致し方ないが、外出の目処が立ったのは素直に喜ばしい。
任務とは言え、せっかく地球に来れたのだから、愉しまなければ損だ。
シャワーを浴びるのも面倒で、ロムドはそのまま
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その他補足・元ネタ
ムハムール基地
本編(種運命)でラドル隊が駐屯していた基地。詳しい建設時期や経緯などは不明ですが、多分73年に建設されたのではないかと。本作ではそれを早めました。
73年時点でユーラシア連邦にいくつかの国が取り込まれているのですが、本作ではまだ支配されていない段階。
現実世界のクゥエートをイメージしています。現実でも少し内陸に基地や発電施設があるので、それを踏襲しました。
ジブラルタル基地
こちらも詳しい建設時期が謎に包まれたザフト2大拠点の一つ。
クリューガー支援隊
本編でパナマ戦の折にグングニール設置を手伝った部隊です。本作の隊員などは完全にオリキャラ。
クリューガー隊長が二十歳そこそこで、ロムドとケーサイは15、6歳の想定。
規模としてはかなり小さい部隊で支援任務を主としている。
>降下してくる本隊の護衛
ガンダム系ゲームでよくある任務がHLV発射まで護衛とかですが、その逆をやっちまいました。
本編1話の降下シーンをオマージュしたかったのですが、何か名目がないとカプセルごと降下した方が良くね?と思い…。
故にクリューガー達は本来不要な早期警戒を請け負っています。敵地に降下したワケではない為、肩透かしな話になりました。さーせん。
>そのメットはドラグーンの運用データを
なんとなく追加してしまったデバイスで本編には存在しません。イメージ的には、ターンエーガンダムの頭がロランの首の動きに合わせて動くのと一緒です。
>実戦形式で模擬戦闘
弾丸等は模擬弾で撃墜判定はコンピューターが行っています。え、じゃあ銃剣は?!
別の漫画作品で模擬戦闘でのサーベル使用を禁止するシーンがあったような。じゃあ銃剣は?!
>有線式のケーブル
これもシグードラグーン等の設定を踏襲した感じ。あちらはビーム兵器ですが、本作の試作ドラグーンはリニアガンです。
後半でローラはケーブルが絡まるのを怖れ理想の機動が取れないまま戦っています。
>プレハブをそのまま巨大化
小説版でオーブ近郊に急に現れたザフトのプレハブ基地が元ネタと言えば元ネタです。
登場人物紹介
シャルル・ヴァイス
クリューガー支援隊所属。メンデル生まれの戦闘用コーディネーター。鬱屈な性格をしているが、任務に対する責任感は強い。
ケーサイ・ラルゥ
クリューガー支援隊に所属する新人パイロット。同隊の隊員の中では一番マトモな常識人。オペレーター業務を兼任する事もある。愛称はケーシー。
ロムド・キャロル
クリューガー支援隊に所属する新人パイロット。
重い空気を和らげようと任務中によく冗談を言うが、クリューガーをイラつかせるだけにとどまっている。ノリと勢いで戦争をこなせると考えている。
ローラ・ヴァイス
ディーツェン隊所属。メンデル生まれの戦闘用コーディネーター。高い空間認識能力を持つが故にドラグーンの評価試験機のテストパイロットに抜擢された。シャルル・ヴァイスは弟。
デレク・ウェザリー
ディーツェン隊所属。モビルスーツパイロットとしての腕前はそこそこ。戦闘ではローラの僚機を務める事が多い。
エイジャ・ディーツェン
ディーツェン隊の隊長であり艦長も兼任。外見はそこそこの美人の筈だが、全身から漂う倦怠感がそれを台無しにしている。やる気の無さと勤務態度の不真面目さに定評のある逆エリート。
新たにディーツェン隊に配属された新人パイロット。モビルスーツパイロットとしての技量は低いが、先の新星攻落戦では撃墜されたローラを戦場から助け出した。
レオール・ハイゼン
新たにディーツェン隊に配属された新人パイロット。先の新星攻落戦ではガンバレル式の大型MAと交戦し生き延びた。アレックスとは腐れ縁の仲。