機動戦士ガンダムSEED THE GATHERING   作:えいじぇんと

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星が落ちる時 中編

 

 

前回の戦闘から半日が経過し、シャルル達パイロットは再びブリーフィングルームに集められていた。

前と違いがあるとすれば場違いな格好をした少女ソフィアと、彼女をラザフォードまで運んできた広報部隊のパイロット―ゾルダンとゲオルグが同席している事くらいである。整備ドックにあった偵察型のジンはこの2人の機体らしい。

シャルルはまたもや居心地の悪さを感じながらも、アイリの話に耳を傾けた。

アイリがメインモニターを背に作戦内容を説明する途中、何故かソフィアが立ち代わり八本脚の詳細説明を引き継いだ。

前回の戦闘時の映像記録から解析した八本脚の機体スペック、武装、出力、装甲強度などの予測値を身振り手振りを交えて話す。MCをしているだけあってその説明は明瞭で聞き取りやすいのだが、彼女のヴィジュアルと語る内容のギャップがあり過ぎて違和感が凄い。

説明する最中、ふいにシャルルと目が合ったソフィアはにっこりと微笑む。シャルルは理由もなく気不味くなり目を反らした。

 

今回の作戦はシャルルの小隊が先行して中央に圧力を掛け、アイリの小隊がそれに追随する。更にその後ろからPR映像を記録する為に、複座のジンが追随し遠距離からガンカメラで戦闘の様子を撮影するというものだった。

シャルル個人としては広報部の相手など煩わしいが、本部の意向であるならば付き合わざるをえない。

 

ブリーフィングを終えて、機体の調整の為にMSデッキまで足を運んだシャルルは自身の機体を見上げながらため息を付いた。

 

ジンアサルト。

シャルルの意向でスラスター出力、関節部などは強化改修されてはいるが、大元はノーマルのジンと大差ない機体である。整備班により推進剤と弾薬の補充は済んでおり後は細かい調整作業を残すのみだ。

タブレット端末を立ち上げ、起動画面を眺めていると背中から声をかけられる。

 

「シャルルさんは機体をカスタマイズされないんですか?ほら色を塗ったりとか」

声を掛けてきたのは広報部から出向しているソフィアだった。振り返ると何が楽しいのか、ニコニコしながらシャルルの眼を真っ直ぐに覗き込んでくる。アイシャドウが塗られたソフィアの大きな瞳はまるでこちらを探ろうとしているようにも見えた。

 

「あぁ、えっと・・・俺はこのままで良いんです。ところでどうしてソフィアさんはMSデッキに?」

彼女の首のチョーカーからぶら下がったチェーンは当てもなく空中を彷徨っており、何処かに引っ掛けたりしないのか、とどうでもいい感想が頭に浮かぶ。

 

「えぇと、・・・広報部のガンカメラをチェックしようかと。不具合があったりしたら大変ですから!シャルルさんは機体の調整ですか?」

「えぇ、まぁ」

「お手伝いしますヨ!何を隠そうワタシ、MSエンジニアの資格を持っているのです。マニュアルとご指示さえいただければ、一通りの作業はこなせると思います!」

力強く胸を叩いてサムズアップするソフィアを横目に、本当かよ、とシャルルは訝しみながら端末を操作する。

 

「いや、でも手伝わせるのも悪いですし」

「いえいえ、状況開始まで手持ち無沙汰なので。それにウロウロしてるとスゴい煙たがられるんですヨ、ワタシ」

 

その格好の所為だろ、と思わずつっこみそうになったが、シャルルは押し黙る。やがて諦めたように深く息を吐き出すと、シャルルは手に持っていた端末をソフィアに投げて放った―と言っても無重力下の為、ゆっくりと空中をすべるようにだが。

 

「ではすみませんが、数値調整を手伝っていただけますか?今から火を入れます。マニュアルはホーム画面の左下のアイコンです」

そう言い残すと床を蹴って愛機のコクピットハッチへと跳躍する。ソフィアは端末を両手で受け止めると慌ててシャルルの後を追いかけた。

 

 

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「私が先行する!アンタは回り込んで」

向かって来る3機のメビウスに増速を掛けながら、アレックスはバズーカと両脚部のミサイルで狙い撃つ。瞬く間に膨れ上がった火球が3機のメビウスを包み込んだ。

 

「待てアレックス!前に出過ぎるな!」

レオールは突出していくアレックス機に向けて叫ぶ。左右から編隊を組んで向かって来る6機のメビウスを光学センサーが捉えたからだ。

レオールはフットペダルを踏みつけ、左カーブを描きながら一気に増速をかける。

 

「私が右をやるからっ、レオは左をお願い!」

計器でレオール機のシグナルを確認しながらアレックスは右側から来る3機のメビウスに狙いを定めた。マシンガンを乱射しながらバズーカを撃つが狙いが甘かった所為か1機撃墜に留まる。メビウスのリニアガンを躱しながらすれ違いざまにマシンガンの銃口を向けるが、照準した時には敵は飛び退っていた。

咄嗟に姿勢制御バーニアを焚いて機体に急制動をかけ、ターンする。

 

「ッ、!」

リニアシートに身体を押し付けられながら、アレックスは機体をメビウスに正対させた。2機のメビウスは二手に分かれ、大きく旋回しながらこちらに向かって来る。

増速を掛けながら、右から来る一機に狙いを定めバズーカの引き金を引いた。

メビウスが爆ぜると同時に、コックピットに衝撃が走る。

 

(撃たれた?!)

アレックスが慌てて計器を確認すると左脚の不具合を示すアラートが点灯していた。

パルデュスを最初に撃っておいたのは僥倖だった。そうでなければミサイルに誘爆してダメージはもっと大きかった筈・・・。

 

「コイツ!」

アレックスは苛立ちながら残る一機にマシンガンを向けロクに狙いを付けないまま乱射する。

その時、左側にいたメビウスを一掃したレオールが両肩に構えたバズーカを発射してアレックスが撃ち洩らした敵を撃墜した。

 

「レオ―」

「増援が来る!」

アレックスはレオールの言葉にハッとなり計器に視線を走らせた。

敵の母艦《アガメムノン級》から9機のメビウスが飛び出し、一直線に向かって来る。

 

(速いっ)

ジンは敏捷性は高いが直線軌道においてはメビウスに分がある。そしてメビウス・ゼロや八本脚のように、稀にMSを凌駕する機体も存在するのだ。

 

「俺がメビウスをやる!お前は母艦を!」

言うが否やレオールのジンが、メビウスの群れに猪突していく。アレックスは歯噛みしながら、メビウスを迂回する進路を取った。

 

「了解!」

フットペダルを限界まで踏み付け、アレックスはジンを加速させる。しかし予想に反して敵は二手に分かれ、アレックスの進路を防ぐように4機のメビウスが立ちはだかる。

 

「こっちは見逃してよ!」

アレックスは叫びながら先頭の一機にバズーカを撃った。爆炎がメビウスを包み込むと同時、爆発を目眩ましにして後続の3機がガトリングガンとリニアガンを斉射する。

アレックスは咄嗟にバズーカを盾代わりにして砲弾を受け止めてしまう。数瞬遅れてキャットゥスが誘爆し爆炎を生み出した。

 

(ヤバッ)

コックピットを襲う衝撃の後に鳴り響くアラートとモニターに表示されるMISSION FAILUREの文字。

しばらくするとモニターの映像が切り替わり、コックピットブロックを模したシュミレーターのハッチが持ち上がった。

しかしアレックスは、演習が終了してもリニアシートから立ち上がることが出来ずにいた。

 

(くそっ・・・やっぱり私には)

「お疲れ・・・そんなに落ち込むなよ」

シュミレーターから出てきたレオールは、項垂れるアレックスの様子を見て声を掛ける。

 

「お疲れさま・・・気落ちもするって。これが実戦なら死んだって事でしょ?」

「3機推奨の任務なんだ。1人いないんだから手が足りないのは仕方ないだろ」

 

レオールの言う事は理解できる。だがメビウス相手にこの体たらくでは仮に八本脚と戦闘になったとしても足手まといにしかならないのは明白だった。

 

「しかし、八本脚が出て来たら勝てると思うか?隊長は倒す気満々ってカンジだけどさ」

「その為のシュバルツァー隊なんでしょ?アンタと私は単なる数合わせなんだろうけど」

 

実際に小隊を組んでみて、シャルルとヴェイアの技量が自分とはくらぶべくもないのは理解した。けれど、だからと言って彼等の力をあてにし過ぎるわけにも行かない。

戦場で足を引っ張らないだけの働きをして見せねば立つ瀬が無い、とアレックスは思わずにはいられなかった。

 

「どうする?まだやるなら付き合うぜ」

「ゴメン、レオ。お願いして良い?」

少しでもパイロットとしての練度を上げたい、そう言って無理矢理レオールを演習に付き合わせた手前、申し訳無さはある。

 

「お前は攻撃を躱す時にスラスターを噴かし過ぎなんだよ。ちょっと機体をずらすだけで良い。あれで一動作分遅れてる」

シュミレーターのリニアシートに腰を下ろしながら、レオールは演習目標と機体設定を更新していく。

 

「それは、・・・そうかもなんだけど」

隊長のように変則的な機動で滑らかに動くにはどうすればよいのか、アレックスには検討もつかなかった。

そもそもジンに搭載されている標準のOSで再現できるような動きとも思えない。

 

「ちょっと良いカンジに動かそうとして失敗した人みたいになってるからな、お前。普段の動きすら出来なくなるくらいなら止めとけっつー話」

 

こちらの考えを見透かしたようなレオールの言葉にムッとするが、彼の言い分は尤だ。しかし戦場で出会ったローラはシャルルに良く似た動きで戦っていたように思う。

ローラがまだラザフォードに居れば何か操縦のコツを聞けたかもしれないが、彼女は出撃準備の為に自分の艦に帰ってしまった。

しばらくしてモニターに表示されるMISSION STARTの文字。アレックスは再び操縦桿を握ると、機体を走らせるのだった。

 

 

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新星を防衛する艦隊旗艦・アガメムノン級の中で《アイアンヘッド》の整備が進められていた。

 

《アイアンヘッド》は東アジア共和国が拠点防衛用に研究開発していた試作モビルアーマーで、メビウス・ゼロの兵装を踏襲しつつ、使用火器・推進剤等は最新の物にアップデートされている。

円錐状のコアユニットに左右4基ずつ8基のガンバレルユニットが付いている。3人のパイロットでの運用を前提に設計された機体で、1人が操縦を担当し2人が4基ずつガンバレルの操作をする形となる。

ガンバレルユニットの先端には、超振動モーターによって高周波振動する近接戦用のクロー《アーマーシュナイダー》が3本付いており、オールレンジ攻撃時には格納された砲身が展開する仕組みだ。コアユニットは三重ハニカム構造の装甲を採用、その名が示す通り群を抜く装甲強度を誇る。

 

元々ガンバレルを扱うには優れた空間認識能力が必要で、共和国軍内でも限られた人間にしか扱えない。

テストパイロットをそのまま正規パイロットに登用し無理やり実戦投入された試作機ではあるが、先日の戦闘でジン8機を撃墜するという快挙を成し遂げた。

しかしその機体の特殊性から複雑化するメンテナンスの問題を解決出来ず前回の戦闘から再出撃の目処が立っていなかったが、それも今日までの話だ。

 

2人いるガンバレル操手の内の1人―グェンは整備ドックに佇む異形の機体を見つめる。

前回の戦闘で破壊されたレールガンユニットの替わりに16連装ミサイルポッドが背中に取り付けられているが、これを発射前に撃ち抜かれでもしたら全員あの世行きではないか。

グェンはそう思ったが担当エンジニアの話では使い切りの兵装なので撃った後は棄てて構わないとの事だった。ガンバレルを除けば機首の真下に取り付けられた大口径のリニアガンと真横に1門ずつ付いたガトリング砲がメインウェポンになる。

 

「よくできたツギハギの玩具、そんなところだな」

誰にともなくグェンは呟いた。アイアンヘッドがいくら破格だろうとたった一機で戦況をひっくり返せるとは思わない。だがザフトのジンにむざむざやられるつもりも毛頭なかった。

 

 

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『第一種戦闘配備!繰り返す、第一種戦闘配備!』

 

突如艦内に鳴り響く戦闘開始の警報。

グェンはパイロットスーツに着替える為急いで更衣室に入った。

 

(ザフトの連中が先に仕掛けてきたのか?)

ここ数日は少しでも戦場のイニシアチブを取る為に、共和国軍から戦いの口火を切ることが多かった。だが昨日の戦闘で損耗した戦力は甚大で、残存戦力を固めてはいるもののとてもザフトのMSを相手には心許ない戦力と言わざるを得ない。

 

「アイアンヘッドの修理は?!」

着替え終えたグェンと入れ替わるように更衣室に駆け込んできたのは《アイアンヘッド》の操舵を担当するパイロット、カイである。

 

「終わってる!先に行くぞ」

グェンは叫び返すとカタパルトデッキのハッチ口へと急いだ。

 

グェンは自身の搭乗する異形の機体に辿り着くとコックピットブロックへ身体をすべりこませる。3人での操縦を前提に設計されている事もあってか、アイアンヘッドのコックピットは窮屈さを感じない程度には広い。グェンは3つあるリニアシートの内、左後席に腰を降ろし素早くOSを立ち上げた。

 

「ごめん、遅れた」

もう一人のガンバレル操手リーファがグェンと背中合わせになる形で右後席のリニアシートに腰掛ける。

最後に駆け込んできたカイは2人の真ん中に位置する前席に座るとベルトを締めコンソール・モニターに目をやる。既に機体の最終チェックと推進剤の充填は完了済みで、いつでも出撃できる状態だ。

アイアンヘッドの巨体を載せたエレベーターがゆっくりと上昇しカタパルトデッキへ向かう。

 

『作戦開始、繰り返す。作戦開始』

 

「アイアンヘッド、発進どうぞ」

オペレーターのシュンファイの顔がモニターのウインドウに表示され、無表情かつ抑揚の無い声が告げる。

 

「アイアンヘッド、出すぞ!」

発射の瞬間、カイは歯を食いしばって慣性Gに耐えるとフットペダルを踏み推力を上げていく。

 

『現在、我軍はザフトと交戦中。先遣隊が前方の宙域でモビルアーマー部隊を展開、敵モビルスーツと応戦中。司令部より入電。アイアンヘッドは敵モビルスーツの迎撃にあたり、防衛ラインを死守されたし』

カイは淡々と戦況を報告するシュンファイの顔を見ながら、これでもう少し愛想があればな、と一瞬考える。

レーダーに目をやると中心部に敵MSがわらわらと集まり、その内の何機かは味方の防衛部隊を振り切ってこちらへ向かってきていた。

 

「アイアンヘッド了解。先遣隊は下がらせろ、射線を塞いでんだよ!」

レーダーを確認しながらグェンが叫ぶようにして応える。ガンバレルの特性上僚機は足手まといでしかない。

 

「突出してるヤツをやる、いけるな」

カイは後席にいるグェンとリーファに尋ねた。2人は間髪入れずに肯定の意志を伝える。

 

「「了解」」

 

 

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ミゲル・アイマン率いる小隊は中軍の防衛艦隊に攻撃を仕掛けていた。ミゲルが駆るカスタムジンはシールドを片手に構えながら、キャットゥスで駆逐艦の艦橋を狙い撃つ。ダメ押しとばかりに僚機のオロールが動力部にマシンガンを浴びせた。

爆散する駆逐艦には目もくれず、ミゲルは周囲を飛び回るメビウスの一機に接近するとその背中を踏みつけバズーカをゼロ距離から発射して離脱する。

 

「こいつらを片付けて新星に取り付くぞ!」

ミゲルは火花を咲かすメビウスを背にして前方の艦隊へと増速をかけた。

それなりの数を維持してはいるものの、損耗した戦力でそのまま迎撃に出ている共和国軍の守りは昨日よりも薄い、とミゲルは感じた。

ミゲル達の戦闘配置は昨日と変わらないが、今日の作戦ではザフト全隊の配置が見直され中央に戦力を集中的にぶつけて防衛ラインを突破する、という旨の作戦が各隊に通達されていた。

昨日の戦闘から間髪入れずに再出撃せよ、という上からの命令には面食らったが敵の増援が来る前に新星を占拠するのが目的であるならば納得はできる。

前方で編隊を組んでいたメビウスが散開しこちらから距離を取るように後退していくのを見て、ミゲルは違和感を覚えた。

自分のカスタムジンにビビって逃げ帰ったようにも見え、敵ながら情けない奴等だ、等と愚にもつかない事を考えていると僚機のオロール・クーデンベルグが叫ぶ。

 

「前方に熱源!でかい、・・・なんだこの熱反応は!?」

「報告にあった新型か!」

ミゲル・アイマン率いるMS小隊のメンバーは、前方の宙域に出現した大型MAに警戒心を募らせる。

 

「所詮ナチュラルが作った玩具だろ!黄昏の魔弾の力を見せてやるよ!」

ミゲルのカスタムジンを先頭を走り、オロールとマシューのジンが続く。さらに同じ空域で戦っていた別部隊のジンもそれに追随していく。

 

 

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「ザフトの雑魚どもが!好き勝手にやってくれたな」

 

アイアンヘッドの操舵を担当するカイは、接近してくるオレンジのジンを睨み付けて叫ぶ。

言うが否やミサイル、ガンバレル、リニアガンのフルファイアを浴びせる。

 

「オロール、マシュー、散開しろ!」

ミゲルは操縦桿を引き戻すと逆噴射をかけ一気に機体を下降させた。同時に《パルデュス》を発射しながらマシンガンで迫るミサイルの何本かを撃ち落とす。

その一方でミゲルに追随してきていた別部隊のジンは攻撃をかわし切れず爆煙を撒き散らした。

 

「調子にのるなよ!デカブツ!」

ミゲルが吠え、フットペダルを限界まで踏みぬく。オレンジのカスタムジンはあっという間にアイアンヘッドに肉薄した。

 

「なんて装甲だ、こいつは!」

ミゲルはマシンガンを叩き込むが、敵の装甲にすべて弾かれてしまう。ジンのマシンガンでは装甲を打ち破るだけの威力が足りないのだ。

ミゲルは知る由もなかったが、その名が示す通りアイアンヘッドのコアユニットの装甲は三重ハニカム構造を採用しており、メビウスの数倍の強度を誇る。それだけの硬度を維持する為に大型化してしまった、という背景があった。

 

「でかいなりに装甲も厚いって事かよ」

マシューは肩に担いだバズーカを構えると、狙いを付けようとスコープをのぞき込む。

その時、敵の機首の右側から4つの兵装が弾け飛ぶように分離したかと思うと、あっとう間に取り囲まれ火線に晒される。

慌てて攻撃を躱そうとスラスターを吹かすが、動きを読んでいたように回り込んでいたガンバレルにマシューのジンは右肩を撃ちぬかれた。

次の瞬間、バランスを崩したマシュー機を絡め取るようにガンバレルの砲火が集中し、火球がジンの機体を包み込んだ。

 

「マシュー!」

「気を付けろミゲル、こいつはヤバ過ぎる!」

マシューの撃墜を目の当たりにした僚機のオロール・クーデンベルグが警告を飛ばす。

両手に構えた2丁のマシンガンで飛び回るガンバレルを狙い撃つが全く当たらず、牽制にもならない。アイアンヘッドの機首にガンバレルが引き戻されていくと同時、背中のミサイルポッドがパージされる。

アイアンヘッドは凄まじい速度で横に滑るように移動しながら、先程の物とは反対側のガンバレルが弾け飛ぶように分離した。

 

次の瞬間、ミゲルとオロールのジンはガンバレルに包囲され、砲撃の嵐に晒される。

 

「させるかよ!」

ミゲルはオロールを庇う様に前に出ると、シールドを掲げ正面からの攻撃を受け止めた。

しかしガンバレルの何基かが死角へと高速で移動し、躱しきれない攻撃が2機を襲う。

 

「何ッ!?」

咄嗟の事に反応できず、最初は右足を。次いで左腕を撃ちぬかれ、バランスを崩したオロールのジンを容赦なく砲撃が貫いた。

 

「オロールっ!」

ミゲルの叫び声に重なるようにオロールのジンが爆散する。

 

「あの野郎よくも!」

ミゲルは弾切れになったマシンガンを投げ捨てると腰にマウントしていたサーベルを抜き放ち敵との距離を詰めようとスラスターを吹かす。

 

迫りくる敵の砲撃をバレルロールの要領で旋回しながら回避する。

強引な軌道を取ったことで身体にGがかかるが、歯を食いしばりこれを耐えきった。

さらにフットペダルを踏み込み敵との距離を詰める。

最高速度で切り付けてやればいくら装甲が厚かろうと幾分かダメージを与えられる筈だ。

ミゲルがそう思った瞬間、さらに4基のガンバレルが敵から分離しこちらを狙ってくる。

 

「クソッ、何なんだコイツは!」

慌てて機体に逆噴射を掛け咄嗟にシールドで砲弾を受けとめる。

だがガンバレルの攻撃を防ぎきれず左足と右腕を打ち抜かれ機体のバランスを崩してしまう。

その時、飛び回るガンバレルをマシンガンで牽制しながらローラのジンハイマニューバーがもの凄い速さで接近してきた。

 

「ミゲルっ、無事ですか!」

いつになく切迫したローラの声がコックピットに響く。

 

「助かったぜ、ローラ!」

「早く後退を!ここは私達が抑えます!」

ローラに続いて、彼女の僚機を務めるデレクのジンも戦闘に加わる。

 

「すまんローラ、デレク、絶対に死ぬなよ。撃たれても死ぬな!」

ミゲルは急いで機体のバランスを立て直すと一気に離脱していく。

無論ローラもここで死ぬつもりはないが、目の前の敵は普通の相手ではなかった。

 

 

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アイリの小隊に先攻して共和国軍に攻撃を仕掛けていたシャルル・ヴァイス率いる小隊は、同じ空域にいたファフニール隊の隊員らと共闘して駆逐艦を沈めていた。

アイリやヴェイアのようなエースパイロットが参戦しているといっても、新星で戦っている兵士達の多くはまだ実戦経験に乏しい新人が多い。

ファフニール隊の隊員達も機体の動きを見ているとどこかぎこちない印象があって、おそらくは自分と大差無い力量だなとアレックス・リスタは思った。

 

アレックスはジンのコックピットの中で機体を操りながら戦況について考える。

本来であれば八本脚と交戦した時に自分は死んでいた筈で、ブレナン隊長らが命を賭して自分とレオールを助けてくれた。

そして昨日の戦闘でもローラ・ヴァイスが駆けつけてくれなければ自分は命を落としていたかもしれない。

所詮はこの新星攻防戦で自分のような、吹けば飛ばされるような現場の兵士に何ができるわけでもないのだ。

だが特務隊のアイリやエミリア、シャルル、ヴェイアのような突出した力を持つパイロット達は確かに戦力を底上げしているし、自分が敗走するしかなかった八本脚を相手にしても活路を見出せるかもしれない。もし隊長達が窮地に陥るような事があれば自分を弾除けにでも使ってくれればいい。実力で大きく劣る自分が出来る事などそれくらいだ、とやや卑屈な考えが頭に浮かぶ。

アレックスはその考えを振り払うように頭を振って、再びレーダーに視線を走らせる。次の瞬間、彼女は通信機に叫んでいた。

 

「10時方向に巨大な熱源!き、距離およそ、250000!このパターンは・・・《八本脚》です!」

 

緊張したアレックスの声をコックピットで聞きながらシャルルはフットペダルを踏み込んだ。

ドレイク級の対空砲火を躱しながら艦首に回り込むと、グレネード弾を叩き込んでこれを沈黙させる。すかさずファフニール隊のジンが動きを止めたドレイク級の艦底に回り込んでバズーカを発射した。エンジン部に命中して派手な爆煙を撒き散らす。

 

「隊長の言っていたヤツか・・・ヴェイア気を付けろ!大物が出てきた」

ジンのレーダーを確認したシャルルは、僚機のカスタムジンを駆るヴェイアに光通信を入れる。しかしヴェイアは沈黙したまま何の返事も返してこない。

 

「聞いているのかヴェイア!」

回線は開いているが真紅のジンからはうめき声しか返ってこない。嫌な予感がする。

シャルルは火勢の増えたポイントをモニターで確認しつつ、レーダーと照らし合わせる。友軍機のシグナルが一つ、二つと瞬く間に消えていく。

 

「味方の援護に向かう。俺と・・・ヴェイアが先行する。アレックスは周囲を警戒しながら付いてこい。デブリが邪魔なら迂回してもいい」

「り、了解です」

アレックスは慌てて機体を転進させ、計器をチェックする。

 

「・・・くくくっ。あいつは俺の獲物だ!邪魔はさせないぞシャルル」

通信に割って入る荒々しい声。普段は眠っているヴェイアのもう一つの人格が現れたのだろう。彼の声に重なるように耳障りなノイズの音が流れている。ヴェイアのヘッドフォンから漏れた音が無線を通してシャルルにも聞こえた。

 

「ヴェイア?!単機で相手にするなと言われただろう!」

突然の事に言葉を失うアレックスを他所に2人は言い争いを始める。

 

「ハッ!"腰抜け"は黙っていろ!俺と同じように戦うために生み出された存在の癖に」

そう吐き捨てるとヴェイアはジンを反転させ、シャルルの静止を振り切って八本脚の元へと向かってしまう。

 

「くそっ・・・俺はもう腰抜けじゃない!やってやればいいんだろ!」

 

腰抜けというワードに苦い記憶が一瞬蘇る。

シャルルはそれを振り払うようにジンのフットペダルを一気に踏み込み、ヴェイアの後を追った。

 

ヴェイアの性格が豹変した事は、サーカスでの訓練中にも度々あった。

その時は暴走するヴェイアをなんとか諌めたが何機ものジンが戦闘不能に追い込まれた。

シャルルは言いしれぬ不快感が胸中を満たしていくのを感じた。この不快感はヴェイアに言われた事が原因なのか、それとも八本脚から来るプレッシャーか。シャルルには判別が出来なかった。

 

ジンアサルトを追い掛けながらアレックスは、先刻のシャルルとヴェイアの言い争いを気にしていた。急に態度が一変したヴェイアにも驚いたが、思い返すとシャルルがアイリにそのような話をしていた気がする。

あの時、シャルルは《サーカス》と言っていた。その時は深く気に留めなかったが、一体何の事なのだろうか。

 

(でも、今は集中しないと)

アレックスはかぶりを振って操縦桿を握り直すと、デブリを避けながら機体を走らせるのだった。

 

 

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「あのミゲル達が手も足もでなかった奴に俺達で勝てんの?」

まさに異形ともいえる敵の姿に、デレクは完全に気圧されていた。

それはローラとて同じだがこのMAが壁になっている限り、新星へのルートは開けない。

死んだ仲間のためにもここで逃げ出すわけにはいかなかった。

 

デレク達に標的を切り替えたアイアンヘッドは、瞬く間にガンバレルでジンを方位し四方から火線の雨を浴びせてくる。

 

「くそっ、これがガンバレルってやつか!」

デレクは飛び回る砲塔を狙い撃つが滑る様に躱されまるで当てられない。

 

「デレクは右に回り込んで!敵の注意を分散させればそれだけ回避しやすくなる!」

「ちっ、わかった!」

ローラの叫び声に驚きながらもデレクは敵の火線を済んでのところでかわして、機体を走らせた。モニターに目をやると後から来た部隊も八本脚を取り囲むように集まってきているが、有効打を与えられぬまま次々と撃ち落とされていく。

 

(この変な感じ、でもなんなの?)

眼前の敵から感じる不思議な感覚に戸惑いながらも、ローラは操縦桿を握る手に力を込める。

ガンバレルの追撃を躱しながら、ローラは機体を加速させ敵の右に回り込もうとした。その動きを追うように2基のガンバレルがこちらを狙ってくる。

正面からの攻撃を避け、スラスター制御で無理矢理機体を反転させると、マシンガンで自分の真後ろへ移動してきたガンバレルを撃ち落す。始終動き回っている的に命中させるのは容易ではないが、予め敵の機動が予測できれば不可能ではない。

 

黄昏の魔弾と呼ばれるミゲルでも躱せなかったオールレンジ攻撃に対応出来たのはジンハイマニューバーの機動性のおかげもあるが、周囲の攻撃を察知するローラ自身の空間認識力に依る所が大きい。

突出した空間認識能力を持つが故に、敵のパイロットとガンバレルの配置が手に取るように分かる。それこそがローラのエースたる所以だ。

だが腑に落ちない点もある。自分の勘違いでなければ、目前の敵からは異なる二つの気配を感じるのだ。

 

「ガンバレルの機動が読まれた?」

先刻撃ち落とされたガンバレルの操手リーファが驚愕し目を見開く。

 

「まだ交戦して一分も経ってないぞ!」

もう一人のガンバレル操手グェンが叫ぶ。この短時間で複雑な軌道を描くガンバレルユニットの一つが落とされたのだ。相手がコーディネーターといえど俄かには信じられない。

 

(この緑のジン、先のオレンジより手練れか)

アイアンヘッドの操舵を担当するカイは、あっという間にガンバレルを撃ち落した敵機に警戒心を強める。

 

「敵の機銃の威力が普通じゃないな。しかしこのアイアンヘッドは!」

リニアガンをジンに向けて発射するカイに呼応させるように、リーファは残るガンバレルを機首に引き戻すと、間髪入れずに砲身を展開して一斉射を放つ。

 

 

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「見付けたよ。戦術情報をリンクする。1時前方に巨大な熱源」

長距離用の光学センサーがぎりぎりで補足できる位置だったが、漆黒のジンは型式番号が存在しない機体《八本脚》を捉えていた。

 

「データ確認。さっすが。長距離用のセンサーは良い精度してるよね」

アイリのジンハイマニューバーが捉えた敵味方機の位置データを見てエミリアが応える。

 

「確認しました」

レオールはアイリが取得したデータを、自身のジンに上書きする形で更新した。計器にちらりと目をやり、バッテリーと弾薬の残量が十分にある事を確かめる。

レオール機の武装はバズーカ砲、腰にサーベルとマシンガン、両脚に三連装短距離誘導弾を装備していた。ノーマルジンの中でも重武装となる。

八本脚の座標を確認してから、レオールは心臓の鼓動が早まってきたのを自覚した。気付けば操縦桿を握る手が汗ばんできている。

 

(怖がっているのか、俺は)

危険、恐怖、不安、脅威、怖気、そういったネガティブな感情すべてが合わさりまざったような、気持ちの悪い感覚が胸中を満たした。

レオールは八本脚のプレッシャーに気圧されそうになりながら、かぶりを振って正面モニターを見据える。

 

「先行した部隊が落とされ始めた。やはりコイツは私達が相手をしないと。2人はここで私と別れて別行動よ。八本脚の元へ先行して。私はこの宙域からターゲットを狙撃する。もし可能なら味方機の撤退を援護して」

アイリが淡々とした口調で作戦を説明する。緊張でそれどころでは無いレオールを余所に、回線の向こう側ではアイリとエミリアが言い合いを始めた。

 

「それはイイけどさ、後続を待たないワケ?数で押せるっしょ?」

アイリの指示に納得できないのか、エミリアが口を尖らせる。

 

「戦力逐次投入の愚になる、と言いたいの?」

「そう、それ!」

「考え方次第ではありと思うけれど。狙撃が成功すれば戦力を温存したまま新星へのルートが開けるでしょ?」

「もし、出来なかったら?」

「・・・その時は直に叩く。だから二人に先行してもらうの」

「了解!任せるよアイリ」

「・・・っ了解」

レオールは上の空で通信を聞いていたが、慌てて肯定の意志を伝えた。

アイリは焦った様子のレオールを訝しんだが、深くは言及せず回線を切り替えた。

 

「ゾルダン、こちらを補足しているか?」

後方の宙域で待機している広報部の偵察型ジンに通信を入れる。

 

「ばっちりです。レーザー回線で付かず離れず」

「ラザフォードに伝令したい。そっちの回線でリレー出来る?」

「可能です!・・・どうぞ」

「こちらはアイリ・シュバルツァー。ラザフォード、戦術情報はモニターしているな?全艦全隊に通達しろ。八本脚はシュバルツァー隊が相手をする。ヤツのいる宙域に味方を近付けさせるな。それと後続隊はまだ動かすなよ。新星の制圧は八本脚を殲滅してからだ」

 

 

****************************************************************************************************

 

 

空間認識能力を持たない普通のパイロットではガンバレルの機動を見切るのは困難だ。ただでさえガンバレルはジンの速度を上回る機動性でまわりこんでくる。

飛び回っていたガンバレルの内何機かが引き戻され、敵の本体に合体したかと思うと、一斉射を浴びせてくる。

 

「くそっ!」

デレクのジンは肩に被弾しながらも機銃を打ち返すが、敵の装甲に阻まれ大したダメージにはなっていない。そしてこちらの攻撃を無視するかのように再び3基のガンバレルが弾け飛ぶように散開する。

直後に敵の機首から放たれたリニアガンがジンのメインカメラに当たり、モニターがブラックアウトした。

 

(ちょ、待っ!)

「さがって!早く!」

殆ど悲鳴のようなローラの警告に急いでペダルを踏み込み機体を後退させると、数瞬前までジンがいた場所を火線が駆け抜けた。あと一秒遅ければ撃ちぬかれていた所だ。

 

「デレクっ!、大丈夫ですか?」

モニターをサブカメラに切り替え、慌てて機体状況を確認するが各部の不具合を示すアラートでディスプレイは真っ赤に染まっている。

 

「不思議と生きてる・・・だがメインカメラをやられた。っすまんが後退する」

「私が援護します。今のうちに早く!」

ローラはフットペダルを踏み込んで火線の雨を潜り抜けた。そして意を決して操縦桿を握る手に力を込める。間髪入れずにフットペダルを踏み込み、スラスター制御とAMBACを使って不規則なZ字型の機動を取る。ガンバレルの砲撃を躱しながら敵が反応出来ない速度で砲塔の一つを撃ち抜く。

 

「っ!・・・、きっつ」

強引な機動を取ったことで凄まじい慣性Gがローラの身体を痛め付ける。戦闘用コーディネーターの強化された肉体を持ってしてもダメージがなくなる訳では無い。この機動は本来弟のシャルルが得意とする必殺の動きで、技巧習得に長けたローラにも真似はできるが何度も繰り出せる類いのものではなかった。

ローラなデレクのジンが安全圏まで後退したのをレーダーで確認すると、痛む身体を無視してフットペダルを更に踏み込んだ。

 

「こいつ!?私の機動を」

瞬く間に2基のガンバレルを失ったリーファは残る2基を機首に引き戻し、コアユニットに連結した状態でジンハイマニューバーを狙い撃つ。

最大加速で敵の攻撃を振り切ったローラは機体をそのまま上昇させ敵の頭上から機銃を浴びせる。しかし戦闘の間隙をついたローラの攻撃に、八本脚は反応して見せた。目の前で敵の巨体が高速で横方向に移動する。

 

(躱したっ?!)

「こいつは俺がやる!お前は周囲を警戒、この戦場を維持しろ!」

二基のガンバレルを落とされたリーファに代わって、もう1人の操手グェンがジンハイマニューバーを相手取る。グェンは2基のガンバレルを機首から分離させ、左右から挟み込むように狙い撃つ。前方に増速をかけて砲撃を躱したジンハイマニューバーを見て、グェンはほくそ笑んだ。

 

(そう、そっちだ!)

残る2基のガンバレルの砲身を収納し、アーマーシュナイダーを作動させる。MSの装甲だろうと、紙切れのように切り裂くことができる代物だ。

 

「切り刻んでやる!」

それはまるで意志を持った生き物の様に刃を震わせ、ローラの元へ突き進んでくる。一基をスラスター制御で強引に躱し、躱しきれなかったもう一基を咄嗟に銃剣で受け止め、攻撃を反らそうと力を加えるがいともたやすくジンのサーベルは切断されてしまう。

 

「っ!?」

右腕を切り裂かれたローラの機体はバランスを崩す。そこに敵のリニアガンが放たれた。今からでは回避も間に合わない。

苦し紛れにコクピットをかばうようにジンの左腕を前に出すが、次の瞬間リニアガンの直撃を受け腕が吹き飛んだ。

コックピットを襲う衝撃に思わず悲鳴が漏れる。脳を揺らす衝撃に耐えながらもローラは、必死でバランスを立て直して敵の追撃をかわした。機体の異常を示すアラートがコクピット内に鳴り響く。

 

(マズい、逃げないと!)

八本脚から逃れようと慌てて機体を降下させるも、敵の機首から放たれるリニアガンとガンバレルによる波状攻撃から逃れるのは容易ではない。ましてやこちらの機体は両腕を失いロクな武装がないのだ。

距離を離そうとするローラに、敵は尚も追いすがる。躱し切れずに右脚と左のバインダーを撃ち抜かれジンハイマニューバの背中が爆ぜる。衝撃でシートベルトが千切れんばかりに伸び、ローラの身体を正面モニターに叩き付けた。

 

(ごめん、シャル・・・)

爆発の衝撃で気を失う寸前にローラの脳裏に浮かんだのは、弟の事だった。

それは幼い頃の記憶。

弱虫でいつも自分の後ろに付いて回っていたシャル。

何が起ころうと姉である自分が守ればいいと思っていた。

 

あの頃・・・あの頃の私は―。

 

そこでローラの意識は闇に沈んで行った。

 

 

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被弾したローラのジンハイマニューバーは誘爆することなく慣性運動に従って漂い始める。グェンがトドメを刺す為にガンバレルを機首に引き戻したのと、リーファが叫んだのは殆ど同時だった。

 

「カイ!狙われてる!」

次の瞬間、アイアンヘッドの機首に砲弾が撃ち込まれ小爆発が起こった。

 

「何処から撃たれた!?敵が見えるのかリーファ」

カイは慌てて機体を後退させる。着弾の衝撃に歯噛みしながらモニターを確認するが、敵の姿は見えない。

 

「カイ!左に避けて」

リーファの警告に慌ててスラスターを噴かして左に機体を逃がしたのと、右側面に砲弾が命中したのは同時だった。アイアンヘッドの三重装甲であれば砲弾の2、3発はどうって事はないが、堅牢ではあっても決して無敵ではない。

ジンのマシンガン程度なら耐えうる強度はあるが、バズーカ級の砲撃はそう何発も受け止められない。また、強固なのはあくまでコアユニットのみでそれ以外の兵装は違うのだ。

 

「11時前方に何かいる。こいつ射程外から狙ってきてる」

「スナイパーか!」

 

(デブリで射線を切るか?いや、移動されたら意味がない。それにこいつは―)

今まで手を出してこなかったんじゃない、アイアンヘッドが味方機と戦闘中で手を出せなかったのだ。次の瞬間コクピット内に新たな熱源の接近を知らせるアラートが鳴り響く。

 

「前方から2・・・3機接近!その後方から更に2機来る」

グェンがレーダーを見ながら叫ぶ。

 

「迎え撃つ!振り回すから舌噛むなよ!」

応えながらカイは、全速後退していたアイアンヘッドに急制動をかけ、フットペダルを思い切り踏んで前進させた。

 

「真紅のジン?!《ザフトの英雄》か!」

モニターに映った敵の姿を見てカイは僅かに目を見開いた。さっきの高機動機といい、ザフトが自分達をそんなに高く買っているとは驚きだ。

 

「ざけんな・・・エース機の収穫祭じゃねーんだぞ」

モニターを睨みつけながらグェンは吐き捨てる。アイアンヘッドと言えど先程のジンのような化け物を相手にして生きて帰れる保証などないのだ。

 

 

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アイリの駆る漆黒のジンハイマニューバーは撃沈した巡洋艦の残骸に身を潜めながら遠距離から八本脚を狙撃していた。

アイリがここに陣取った時には既に八本脚は友軍のジンハイマニューバーと戦闘状態に入っていた。戦闘の間隙を突いて敵の機首に2発の弾丸を叩き込んでみたものの、装甲が僅かに凹んだのみで撃破には至らない。

 

「直撃でも抜けないか」

アイリは狙撃用のカメラモジュールの設定を近距離用に切り替えると、ライフルを引き戻し殻になった弾倉を吐き出す。

 

(接近戦は趣味じゃないけど、そうも言ってられないか)

狙撃手は通常、発見されにくい場所に潜みながら目標を狙い撃つのがセオリーだ。だがこの距離から狙ったのではあの巨大MAに致命傷を与えるのは難しいだろう。

 

「エミリー、レオ。作戦内容を変更する。狙撃に失敗した、八本脚は尚も健在。現在ヴェイア機と交戦中。2人はそのままヴァイス隊と合流、彼らを援護して。私もすぐ向かう!」

八本脚の元へ先行する僚機に光通信を入れる。

 

「了解!でも落とせそうなら私が落とすよ、アイリ」

カスタム機のジンアサルトを駆るエミリアが軽い口調で応じる。緊張感のない彼女の様子にアイリは唸った。

 

「アンタを信用してない訳じゃないけど、おそらくアレは簡単には墜とせない。二人とも私が行くまで無茶しないでよ!」

いつになく真剣なアイリの口調から察したのか、エミリアも軽口をやめトーンを切り替えた。

 

「了解。我等に天の加護を」

「「ザフトの為に!」」

アイリとほぼ同時にレオールが返す。

アイリはジンハイマニューバーを転身させフットペダルを踏み込んだ。慣性Gを受け止めたアイリの身体がリニアシートに押し付けられる。

機体を全速で走らせながら、アイリは先ほど見た八本脚の戦闘を頭の中で反芻していた。正直先の戦闘を目撃するまでは、八本脚を侮っていた。

あれだけの機動をやってのける相手に、単機で渡り合ったローラ・ヴァイスの技量は称賛に値するが、そのローラですら倒された。もちろん副官であるシャルルの姉の安否は気掛かりだが、かかずらわっている時ではない。

 

「どのみちやる事は変わらない、か」

アイリは思考を打ち切りひとりごちる。敬愛するパトリック・ザラの期待に応えるには、ここで下手を打つわけにはいかない。

新星の攻落に失敗するような事態にでもなれば指揮官としての自分の力量不足だ。アイリにはパトリックの不興を買うのが何より恐ろしかった。

 

 

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その他補足・元ネタ


・アレックスが弱過ぎ問題。
これは自分も思ったんですが小説版アストレイで開戦時のザフト軍は弱い兵が多く弱体化してしまったと語られていたので、まぁいっかと。
映画なんかで最後まで生き残って主人公達の足を引っ張る役回りのキャラクターです。

・操手は操縦手の略。造語に近いです。

・アイアンヘッド《八本脚》の名称は鋼タイプの物理技から来ています。外観のイメージはメガ進化したメタグロスみたいなのをイメージしていただければ。
没ネームにグランデ・イ・フェルテ(巨大で丈夫)、イワガニ、鉄蟹なども考えておりました。

・オロールとマシューは本編開始前に死にました。

・ローラの技巧習得云々は戦闘用コーディネーターの死神スーが元ネタ。

・八本脚の修理・メンテナンスに時間かかり過ぎ問題。
これはコミックでデュエルの修理に時間かかりすぎだろと指摘されていたのでそういう事もあるかなと。マシンガンを無効化する三重ハニカム構造の装甲はファーストガンダムのパクり。
八本脚の操縦システムは、宇宙、閃光の果てに、でNT専用モビルアーマーをオールドタイプ3人が操縦していたのが元ネタです。

・広報部隊出しゃばり過ぎについて。
これはガンダム戦記等で広報チームが撮影の為に作戦に口出ししたり、カメラマンや撮影用戦闘機が同乗・同行する描写があったのでまぁいっかと。彼等とアイリの台詞はライデンの帰還のユーマの会話そのままです。

・アイリのジンハイマニューバーが頭に付けているカメラはゲルググ・クサントスのカメラモジュールみたいのをイメージしていただければ。


パクリも大概にしましょうよ。

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