機動戦士ガンダムSEED THE GATHERING 作:えいじぇんと
八本脚の元へと向かうヴェイアとシャルルに追随すべく機体を走らせていたアレックスは、宙域に漂う友軍機の残骸の一つに目を奪われた。
ジンハイマニューバー。
ジンの上位機でザフト最新鋭の機体。これを駆るパイロットをアレックスは知っている。
慌てて計器を確認すると表示された機体のIFFコードはローラ・ヴァイスとなっていた。思わず機体に急制動をかけ、先行しているシャルルに近距離用の光通信を入れる。
「った・・・隊長、ローラさんが!」
殆ど悲鳴に近い声がアレックスの喉から漏れた。
「・・・ッわかっている!」
絞り出すような声でシャルルは応える。ヴェイアとシャルルは既に八本脚と戦闘状態に入っていた。アレックスのジンの光学センサーが戦闘に伴う光の明滅を感知する。
「アレックス、損傷した姉さんの機体を回収して母艦まで引け!」
僅かな沈黙の後、私情を挟んだ判断である事を自覚しながらもシャルルは命じていた。
「隊長?!でもっ・・・」
「八本脚は俺とヴェイアでやる!姉さんを頼む」
僅かに震えた声でシャルルは叫ぶ。上手く言葉で説明できないがシャルルには姉が生きている確信があった。
何のホラーか、シャルルとローラの姉弟は離れた場所にいてもお互いの存在を感じ取る事が出来るのだ。
傷付いた機体からは微かに姉の気配を感じる。同時に姉が簡単に死ぬ筈はない、とシャルルは信じていた。
「り、了解です!」
アレックスはシャルルの剣幕に気圧されながらも手脚を潰されたローラのジンハイマニューバーをマニュピレーターで抱えるようにして掴んだ。コックピットがある胸部が無事である事を確認し安堵するものの、機体の凄惨さが戦闘の凄まじさを物語っていた。
「ローラさん!・・・」
何度か呼びかけるが返答はない。最悪の可能性が頭をよぎるがかぶりを振って無理やりその考えを追い払う。今は少しでも早くこの機体を戦闘圏外から運び出さなくては。それに―
「貴女は私を助けてくれた。だから、今度は私が助けます」
アレックスは、ローラのジンを抱き抱えながら徐々に増速をかけていく。
「我らに天の加護を。彼の者に憐れみを、彼の者に加持を与えたまえ。慈悲を持つ者よ、どうか我の願いを!」
アレックスは知らず知らずの内に祈りの言葉を口にしていた。モニターに映る火勢の激しさに後ろ髪を引かれながらも宙域を後にする。
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「ヴェイア!迂闊に近付くな!」
全速で機体を走らせてヴェイアを追ってきたシャルルは、眼前の八本脚へ増速をかける真紅のジンを見て叫ぶ。回線はオンラインだがヴェイアは警告を無視した。機体を上に走らせながら敵の機首にバズーカを撃つ。
「この踏み込みは!」
カイは姿勢制御バーニアを焚いて飛来する砲弾を横移動で回避すると、モニターに映る真紅の機体を睨み付けた。即座にガトリング砲で牽制射を撃つ。それに呼応するようにリーファが機首に連結したままのガンバレルで砲撃した。
ヴェイアは超人的な反応速度で機体を横ロールさせて攻撃を躱すと、右手に構えたバズーカと左手のマシンガンを斉射した。
「迷いがない!これが《ザフトの英雄》か」
カイはフットペダルを一気に踏みこんだ。同時に姿勢制御バーニアを焚き、アイアンヘッドの機首を下に向けながら旋回して攻撃を躱した。次の瞬間、敵機の接近を知らせるアラートがコックピットに鳴り響く。
真紅のジンの反対側から腕、肩、胸、くるぶしを覆い隠すような装甲をまとった機体―ジンアサルトが距離を詰めてくるのが見えた。
リーファとグェンはほぼ同時に動く。6基のガンバレルがアイアンヘッドの本体から勢いよく弾け飛んだ。
「赤い奴は俺が相手をする!お前は
グェンは充電を終えたガンバレルを機首から分離させ、不規則な機動で赤いジンを取り囲んだ。瞬間、ジンのモノアイが閃きこちらを睨む。ザフトの英雄のプレッシャーに気圧されつつもグェンはガンバレルを操り、前後左右から時間差で狙い撃つ。
散開するガンバレルにヴェイアはマシンガンを乱射するが、滑るように躱されて当たらない。
ガンバレルの砲撃とタイムラグ無しで機首から放たれたリニアガンの攻撃をスラスター制御で無理矢理躱すと、ヴェイアはノイズにまみれたコックピットの中でモニターを睨み付けた。
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左側から回り込んでくる2基のガンバレルに注意を向けながら、シャルルは敵の砲撃を回避する。
敵のオールレンジ攻撃も厄介だが、ガンバレルユニットはジンの速度を上回る素早さで回り込んでくる。
シャルルはフットペダルを踏み込んでガンバレルの攻撃を振り切った。出撃前にソフィアのアドバイスで、フットペダルの反応数値を《+4》に再設定したのが功を成した。
実際に相対してみると敵ガンバレルの推力は広報部のエンジニアが解析し予想した数値とさほど変わらないように思える。
(広報の仕事ってのは、こういう時に役に立つんだな)
シャルルは内心疎ましく感じていた広報部への認識を改めると同時、生きて無事に戻れたら機体調整を手伝ってくれたソフィアには礼を言わなければ、と思った。生きて戻れたらの話だが。
計器を確認するとバッテリー残量は4割弱。推進剤にはまだ余裕があるが、マシンガンの残弾は僅か、予備のマガジンは一つのみ。
その一方でヴェイアは派手にスラスターを吹かし、敵の攻撃を躱しながら突っ込んでいく。
ヴェイアの機体もバッテリー残量は少ない筈だ。
戦闘に夢中で気が付いていない可能性が高いのではないか。
(だとしても補給にはもう戻れない。ここでコイツを仕留めるしかない)
先程後退したローラがやったのか、8基あった筈のガンバレルは数を減らし6基になっていた。
シャルルは両手に持ったマシンガンでガンバレルを牽制しつつ、アイアンヘッドの本体をモニターの端に捉える。
多少、身内贔屓目に見たとしても姉のMSパイロットとしての技量は自分と同等か、それ以上のものだった筈。
事実、サーカス同期組の中での序列はシャルルよりローラの方が上である。
その上で搭乗していたのはザフト最新鋭機である。その姉を半壊にまで追い込んだ眼前のMAは警戒に値するし、脅威と呼べた。
今も自分とヴェイアの2人を相手にして動きが崩れる様子もない。
この数の攻撃モジュールの操作に意識を割きながら、本体の操作もこなすというのは尋常な乗り手ではないな、とシャルルは思った。
シャルルはバルカンで飛び回るガンバレルを牽制しつつ、両脚の三連装短距離誘導弾を敵の機首に向けて発射する。
しかし巨体に似合わぬ俊敏さで攻撃は躱され、吸い込まれるようにして周囲のガンバレルが引き戻されていく。敵の本体に六基の砲塔が合体すると、再び一斉射を浴びせてくる。
「くっ」
撃ち終えたミサイルポッドをパージしながらシャルルは歯噛みする。
「大した火力だな、モビルアーマーにしては!しかしそれでこそ壊し甲斐がある!」
ヴェイアは叫びながら、目前の敵の強さに目を細める。まるで獲物に狙いを付けた狩人のように。
次の瞬間、敵の胸下のリニアガンが火を噴き、ガンバレルによるオールレンジ攻撃を仕掛けてきた。四方に火線が走る。
「この俺を墜とす気か。この英雄ヴェイアを!」
ヴェイアが吠え、ジンのフットペダルを思い切り踏みつけた。
ジンのスラスターが火を噴き、圧倒的な加速で攻撃を振り切りながらバズーカを敵の機首に叩き込む。
分厚い装甲に攻撃は阻まれはしたが、敵の動きは僅かに減衰する。
「ヴェイア!闇雲に戦ってもコイツは崩せない!」
ガンバレルによる波状攻撃、装甲強度、そして並のコーディネーターを上回る反応速度。
少なくとも自分が今まで相手にした敵の中でもこのモビルアーマーの厄介さは群を抜いている。
シャルルの第六感とでも呼ぶべきモノが、こいつは危険だ、と警笛を鳴らしていた。
「"腰抜け"は黙っていろ!」
先刻の攻撃は確かに命中した筈だが、装甲が少し凹んだだけで敵は尚も健在だ。
しかし僅かでもダメージを与えられたという事は倒せる筈だ。
ヴェイアは急制動をかけて攻撃を素早く躱すと、横ロールしながらアイアンヘッドの機首に再びバズーカを放った。
カイはとっさにアイアンヘッドを上昇させてこれを躱す。
同時にリーファが2基のガンバレルを赤いジンの左側面へ高速で回り込ませる。
すかさずグェンは砲塔をリーファのガンバレルと対角になるように移動させ、わずかに角度を調整して一斉射を放つ。6基のガンバレルは網の目のような射線を描いてジンを絡め取った。
赤いジンは超人的な反応速度でこれを回避しようと動くが、ガンバレルの砲撃全ては躱しきれず左腕に火花を咲かせる。
ヴェイアは火花を散らすジンの左腕をバズーカごとパージして、敵の追撃を逃れるように後方へ距離を取った。
(迂闊に近付くから!)
シャルルは内心で焦りながら、フットペダルを思い切り踏みこんだ。全身のスラスター制御とAMBACを使って不規則なジグザグの機動を取る。
戦闘の間隙を突いて、ヴェイアのジンを包囲していたガンバレルの一基を両手の機銃で撃ち抜く。
「ちっ!」
グェンは反応できない速度で自身のガンバレルを落とされ歯噛みする。
(コイツっ、さっきの緑のヤツと同じ動きを?!)
リーファは先ほど倒したジンハイマニューバーと全く同じ機動を見せた眼前のジンアサルトを見て、驚愕に目を見開く。
あのジンのパイロットも厄介だったが、アイアンヘッドを相手にして未だに生き残っている眼前の二機も十分に厄介だった。
「冷静になれヴェイア。損傷機で何ができる?いったん下がれ!」
両肩のバルカン砲で飛び回るガンバレルを牽制しながらシャルルはヴェイアに通信を入れる。
「冗談だろう?こんな手ごたえのある獲物は初めてだ。あいつはこの手で沈めたい、絶対だ!」
強い者と戦って勝つ。それは戦闘用コーディネーターの存在理由でもある。
戦う為に生を受けた自分達は、敵を倒し勝利する事でしか生きる事を許されない。否、許されなかった。
メンデルから脱走した自分達は既にその頸木にはいない。だのに、こうして戦いに身を委ねているのは本能に逆らえない、という事なのか。
シャルルが聞く耳を持たないヴェイアに何かを言い返そうと口を開いた時、友軍機の接近を報せるシグナルが鳴り響く。
「ヴァイス隊、まだ生きてる?!」
「エミリー先輩?!」
弾むような声が無線から流れる。この状況で軽口を叩けるエミリアの度胸に感心しながらシャルルは応答する。
「ヴァイス隊長、状況を教えてください!」
レオールがエミリアを無視して通信に割り込んだ。それはアレックス機の行方を気にしての事であったが、戦闘中のシャルルはそれには気が付かない。
「八本脚は健在・・・敵はガンバレル3基を損耗。こちらの弾薬は残り僅か。先ほどアレックス機は後退」
シャルルは敵と自分達の状況を淡々と報告する。
「オッケ。ワタシらが援護する。アイリもここに向かってるよ。けど、それまでに落とせそうならアレを落とす。どう?」
エミリアは閉口し無線からの反応を待つ。数瞬の沈黙の後、シャルルが口を開いた。
「火器を潰さないとこいつは崩せません。俺とヴェイアが左右から仕掛けるので、エミリー先輩とレオールは上下から。ガンバレルの動きを崩してその隙を突きます」
「そう来なくっちゃ!」
エミリアが歓喜の声をあげ、機体を跳躍させる。シャルルは自分で立てた作戦にも拘らず、実際に《八本脚》と矛を交えた経験から遂行は難しいと感じていた。シャルル自身、ガンバレルの操作に敵を注力させ、手薄になった本体を叩く作戦を漠然と考えてはいたのだが、敵は左右でガンバレルを使い分けている風でコアユニットである機首も動きが崩れる様子がなかった。処理能力に限界はあるのだろうが、尋常ならざる相手だ。
「ヴェイア、聞いていたろ!コイツを沈めたいのなら力を貸せ!」
「チッ、今だけ特別に隊長ヅラさせてやる!」
フンと鼻を鳴らすと、ヴェイアは明らかに不愉快そうに吐き捨てた。
「俺が左をやるッ。お前は右を!」
示し合わせたようにジンアサルトと真紅のジンが同時に散開する。
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「アイリには悪いけど、このスコアは私が貰うよ!」
声を弾ませながらエミリアは機体を上昇させた。ジンアサルトのスラスターが火を噴き、爆発的な加速で跳躍する。
《アイアンヘッド》は5基のガンバレルを引き戻し一斉射を放つ。カイは4機に増えた敵機を睨みつけた。左腕を失いながらも向かってくる赤いジンを見て歯噛みする。出来ればさっきの攻防で《ザフトの英雄》は片付けたかったが流石に手強い。
「赤いやつは私が仕留める」
リーファが誰にともなく口に出す。普通のジン相手であれば2分も掛からずに沈めているのに、赤いジンと重装甲型が来てから一層リズムが崩されている、とリーファは感じる。さっきは咄嗟にグェンと連携を取ったが、一機にかかりきりになると、その間隙を突かれこちらが崩される。普通のジンならそれでも押し切れるが、目の前のジンはその隙を正確に突いてくる相手だ。
「右の鎧付きは俺が!カイはリーファを援護しろ」
グェンが叫び返す。ジンアサルトにあの変則的な軌道を取られると自分ですら反応できない。だが3基ガンバレルを残す自分がやるべきだ。
「ぶん回す!舌噛むなよ」
カイはフットペダルを踏み込んで向かってくるジンの群れにアイアンヘッドを突進させた。真紅のジンと薄桃色のジンアサルトにガトリングガンとリニアガンを各々照準し撃つ。
機体同士がすれ違った刹那、姿勢制御バーニアを焚いて勢いそのままにアイアンヘッドを素早くUターンさせる。瞬間、左右からガンバレルが弾け飛んで散開し、4機のジンを包囲した。
レオールがアイアンヘッドと対峙するのはこれで二回目だ。前回は為す術なく敗走したが、今回はブレナン隊の弔い合戦でもある。自分がこの4人の中で一番格下なのは理解している。それでも簡単にやられる訳にはいかなかった。
「こいつっ!4機でかかってるのに!?」
レオールの気概とは裏腹に、距離を詰めようにも、ガンバレルと敵の機首から放たれる攻撃を躱すので手一杯だった。次の瞬間、足元で爆発が起こりモニターを見ると右足首が吹き飛んでいた。
「レオール!出過ぎるな、動いて撹乱しろ!」
回り込んで来るガンバレルに視線を走らせながらシャルルは叫ぶ。レオールはシャルルの物言いに歯嚙みするが、彼の言い分は正しい。自分に彼ほどの操縦技術は無いし、気負った所でどうにもならない。その事実が余計にレオールを苛立たせた。
(そろそろ機体がヤバい。でもやるしかない!)
シャルルはジンのフレームがあげる悲鳴を感じながらも、フットペダルを踏み付けた。アサルトシュラウドのスラスター制御とAMBACを使い不規則なジグザク機動を取る。ガンバレルの砲撃を躱しながら両手のマシンガンで回り込んで来たガンバレルの一基を撃ち落とす。同時にアクチュエーターの過負荷を示すサインがモニターに点滅した。関節が強化してあるといっても、元々シャルルのデタラメな機動に耐えうる機体ではないのだ。
「さっすが!後はワタシが!」
装甲を削られながらもガンバレルを無理矢理振り切って突破したエミリアが、アサルトシュラウドの全砲門を開く。アイアンヘッドの直上から火線の雨を降らせた。敵は回避行動に出るが、全ては躱し切れずに爆煙に包まれる。
「硬った、何なのコイツ?!」
ジンアサルトの斉射を食らって尚原型を留めたままの敵機を見て、エミリアは信じられないと言う風に呟く。
「先輩!八時方向!」
「くっ!」
シャルルの警告に超人的な反応速度でジンを動かすエミリア。ガンバレルの砲撃を紙一重で躱し、すぐさま機体を反転させて距離を取ろうとする。瞬間、散開していたガンバレルがすべて引き戻されていく。
「こいつ、舐めた真似を!」
カイが怒りに歯噛みする。ガトリングガンは潰されバーニアのいくつかを破損したが、この程度の損傷でアイアンヘッドは落ちない。アイアンヘッドのOSがオートで損傷箇所をチェックし、機体のウェイトバランスを即座に再調整する。
「ピンクの鎧付きをやる!」
カイは叫びながらリニアガンでエミリアのジンアサルトを狙い撃つ。それに呼応するように機首に固定されたガンバレルからも火線が飛ぶ。
「またワタシ!?」
エミリアはスラスターを思い切り噴かせて後退した。アイアンヘッドは背中から火花を散らしながらも旋回し、エミリアの機体と正対する。4基のガンバレルが切り離され周囲に散開した。
エミリアは両肩のバルカンで飛び回るガンバレルを牽制するが、焦りばかりが募っていく。四方から飛んでくるガンバレルの砲撃を四肢に喰らいながらエミリアは攻撃を必死に躱そうと機体を動かす。
「援護しろ!シャルル」
敵の砲撃がエミリア機に集中し始めたのを好機と捉え、ヴェイアがフットペダルを思い切り踏み込んで接近していく。ヴェイアは残弾を撃ち尽くしたマシンガンを投げ捨てると、腰にマウントしていたサーベルを抜き放ち機体を跳躍させる。
(こっちも残弾が少ないんだよ!)
周囲を散開するガンバレルをマシンガンとバルカン砲で牽制しながら、シャルルは叫ぶ。
「レオール!《キャットゥス》で狙え!」
「当てなくて良い!」
レオールは歯噛みしながら敵の左側へ回り込み、バズーカで敵の本体を狙う。気が付くと操縦桿を握る手が異常に汗ばんでいた。流れ弾が左肩を撃ち抜いたが、何とか踏み止まる。
ロックオンされた事を察知したアイアンヘッドは上へ避けようとするが、そこにはヴェイアがサーベルを手に肉薄していた。ガンバレルで撃ち落とすには、近すぎて狙えない距離。カイは咄嗟に後退しようとバーニアを吹かす。
「遅いんだよ!」
ヴェイアは機体を急降下させ容赦なく、敵の頭上に刃を振り下ろす。しかし刃先が半ばまで刺さったところで、敵の装甲に阻まれそれ以上刃は刺さらない。同時に過負荷に耐えきれなくなったカスタムジンのマニピュレーターが砕ける。
「クソッ!」
驚いたのも束の間、アイアンヘッドはサーベルが刺さったまま強引な加速で真紅のジンを振り払うが否や突進して弾き飛ばした。機体を揺さぶる大きな衝撃。撃墜こそされなかったが、コクピットへの衝撃はヴェイアの脳を揺らし容易く意識を刈り取った。
「ヴェイア!」
シャルルは沈黙したまま微動だにしないヴェイアのジンに呼びかけるが、応答はない。
(ヴェイアはやらせない!)
シャルルがアイアンヘッドへ増速を掛けようとした瞬間、彼方より飛来した砲弾が敵の機首を穿つ。立て続けにもう一発砲弾が叩き込まれ小爆発が重なった。
「みんな無事!?」
友軍機の接近を知らせるアラートと共に現れたのはアイリが駆る漆黒のジンハイマニューバーだった。スラスター光で流れるような軌跡を描きながら、マシンガンでガンバレルを牽制する。
「っ、何とか!」
左腕を吹き飛ばされたレオールが応じる。
「こっちもねッ」
被弾したアサルトシュラウドの装甲をパージしながらエミリアが応えた。彼女が駆る薄桃色のジンはアサルトシュラウドが鎧の役割を果たしたとはいえ、至る所でスパークを散らしている。
「・・・エミリー、レオ。アナタ達は損傷したヴェイア機を回収、彼を護衛しつつ母艦まで後退して!」
アイリは即座に判断を下すと、フットペダルを思い切り踏み込んだ。舞うような横ロールでガンバレルの砲撃を振り切る。
「了解」
「・・・オッケ」
アイリは機首に引き戻されて行くガンバレルをモニターの端に捉える。頭にはジンの剣が刺さり、所々から火花を散らしているが動きを止める様子はない。この損傷で動けるというのは尋常な機体ではない、とアイリは感じた。
「シャルルはまだやれる!?」
八本脚に左手のマシンガンを乱射しながらアイリが叫ぶ。敵の斉射をバレルロールの要領で回避しながら長射程ライフルで左側面に固定されたガンバレルユニットを狙い撃つ。しかし巨体に似つかわしく無い俊敏さで回避され、装甲を掠めるだけに留まる。
(この距離で躱すって・・・、フツー無いでしょ)
アイリは敵の素早さに警戒心を抱きつつ、歯噛みする。
同時にその間隙を突く形でエミリアが損傷したヴェイア機を抱え、飛び退って行った。
「まだやれますッ!」
シャルルは応えながら弾切れになった右手のマシンガンを投げ捨て、予備弾倉を左手のマシンガンに装填する。計器を確認するとバッテリー残量は2割程度。普通なら撤退すべき状況だ。
「ヴァイス先輩!俺のバズを!」
後退する寸前にレオールがバズーカをブーメランの要領で投げ付ける。慣性に従って回りながら漂うそれを、シャルルは機体を走らせながら受け止めた。マニピュレーターから読み取った火器データがモニターに表示され、シャルルのジンとキャットゥスがリンクする。
「すまない、ヴェイアを頼む!」
レオールは機体を回頭させ飛び退っていく。シャルルは受け取ったバズーカを逆手に構え、眼前に佇む八本脚を見据える。
「その根性見せてもらうわ。でもヤバくなったらさっさと逃げてよ!」
「了解っ・・・我等に天の加護を」
アイリに応えながらシャルルはお決まりの文句を口にした。同じ部隊にいた頃、状況開始前に幾度となく交わしたやり取りだ。
「「ザフトの為に!」」
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散開する漆黒のジンハイマニューバーとジンアサルトに注視しながらグェンは飛び退って行く損傷機を睨み付ける。
「逃がすかよ!」
グェンは再充電を終えたガンバレルで離脱していくジンに追撃をかけようとする。
「グェン、こいつは踊る黒い死神だ。油断するな!逃げる奴はほっとけばいい」
カイは叫びながら機体状況をチェックした。既にガンバレルの半分を失い、ガトリングガン二門を損耗。主武装のリニアガンを残すのみだ。
「この黒いジン、多分さっきのスナイパーだ」
誰にともなくリーファが呟く。
踊る黒い死神のジンはカラーリングは違えどさっきの緑のジンと同じ―高機動機だ。あの速いのと格闘戦は美味くない、と咄嗟にグンフォンは思った。
「アーマーシュナイダーを使う。リーファ、黒いのを撹乱しろ」
アーマーシュナイダーはバッテリー消費が著しい武装だが、それを使わざるを得ない程度には追い込まれているのをグェンは自覚した。
8基全てのガンバレルが残っていれば話は違ってくるのだが、出撃前にあった心理的余裕はとうに消え失せていた。
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「隊長、長射程ライフルは!?」
「残り1発!ってか叩き込んでるけど落ちない!」
「俺が援護します、隊長は後ろに回り込んで動力部を!」
(簡単に言ってくれるけどさ!)
高機動機に乗っていてもアイリにはシャルルのような機動はこなせない。だが、遅れて来た分は働いて見せねば特務隊としての立つ瀬が無い。
アイアンヘッドへ増速を掛けようとした瞬間、上下左右から迫る殺気を感知する。アイリは操縦桿を引き戻し、バーニアを焚いて無理矢理機体を後退させた。数瞬前までジンハイマニューバーがいた座標をガンバレルが撃ち抜く。
(理想の機動が取れない!)
予想外の方向から飛んでくる砲撃を躱しながらアイリは歯噛みする。この兵装を相手にしながら機首の攻撃も躱すのは、新人パイロットは勿論だがベテランにも荷が勝ち過ぎている。複数の敵を相手にしていると思えば対処は出来るものの、エミリーがやられるのも無理はないとアイリは思った。こいつに新人パイロットをぶつけるなど餌をやるに等しい。
アイアンヘッドの機首から放たれるリニアガンの砲撃を躱しながら、アイリはマシンガンを照準した。その僅かな間隙をついて背に回り込んで来たガンバレルがジンハイマニューバーを狙う。
アイリは機体を旋回させながら攻撃を振り切った。が、その行く手を遮るようにもう一基のガンバレルが高速で飛来する。
「こいつッ!」
アイリは咄嗟に急制動をかけ、姿勢制御バーニアを焚いて機体を横ロールさせた。だが先ほど振り切ったガンバレルが後方から砲撃を浴びせて来る。
「私でッ!」
アイリが吠え、フットペダルを思い切り踏みつける。加速させた機体を横に逃がす。
「私で!遊ぶなッ!」
前後からの挟み撃ちを紙一重で躱した漆黒のジンハイマニューバーは、マシンガンを乱射して前方のガンバレルを撃ち抜いた。
リーファは落とされたガンバレルには目もくれず、踊る黒い死神の行く手を塞ぐように進路を妨害する。少しずつグェンの射程へと誘導しながら。
(そう、そっちだ!)
グェンは機首に引き戻した2機のガンバレルの砲塔を格納し、高周波ブレードを起動させる。黒いジンと鎧付きのジン各々をターゲットし、ガンバレル自体を砲弾のように撃ち出す。
凄まじい速度でこちらに向かってくる物体を見て、アイリは驚愕に目を見開く。
「避けて!シャルル!」
機体を旋回させながらアイリは僚機に向けて叫んだ。この刃を受けるのはマズい。ローラ・ヴァイスのジンハイマニューバーがサーベルごと切り裂かれたのをアイリは目の当たりにしている。食らえばMSの装甲などひとたまりもない。
刃を震わせながら突進してくるガンバレルを眼前にして、シャルルはスラスター制御で無理矢理機体を左に逃がした。
だが回避する事まで織り込み済みとでもいうように、回り込んで来たガンバレルの砲撃がアサルトシュラウドの胸部に突き刺さる。
「くっ!」
コックピットを襲う衝撃にシャルルは歯噛みした。意識が飛びそうになるのを堪えて、胸の装甲をパージする。遮二無二スラスターを噴かして敵の追撃をギリギリで躱す。
「シャルルっ!?」
「っ、装甲をやられただけです!」
悲鳴に近いアイリの声がコックピットに響く。焦燥感に駆られながらもシャルルは言い返した。先刻から機体に対する負荷で警告アラームが鳴り放しだが無視する。
「グェン、カイ!」
リーファが叫びながら残る1基のガンバレルをジンアサルトの左側へと高速で回り込ませた。その意図を理解したグェンはリーファと対になる位置にガンバレルを配置する。
カイがリニアガンを照準し引き金に指を掛けた瞬間―モニターに映っていたジンアサルトの姿がブレる。一瞬遅れて斉射した砲弾がことごとく空を切った。
(またあの機動を!?)
グェンは反応できないタイミングでガンバレルを落とされ、双眸に怒りを滲ませる。
「!」
リーファが目を見開いた瞬間、アイアンヘッドのコックピットを激震が襲った。
(コイツっ、なんて動きだ!)
不規則なジグザグの軌道でこちらを撹乱し、戦闘の間隙をついてきた敵の機体を、カイは呆然と見つめる。
そして数瞬にも満たない反応の遅れがアイアンヘッドの命運を分けた。
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「俺が前に出ます!」
シャルルは強引なスラスター制御でガンバレルの砲撃を躱し、アイアンヘッドの眼前に機体を踊らせた。バズーカ、マシンガン、バルカン砲、グレネード弾、残る全ての火器を斉射しながら叫ぶ。
「いい加減に!」
シャルルの機体はバッテリーも推進剤も尽きかけていた。だがアイアンヘッドを操るカイも、ガンバレル操手の2人も眼前のジンアサルトを先に落とさなければならないと本能で感じていた。コックピットを襲う衝撃に耐えながらも鎧付きのジンを狙い撃つ。
敵の火線に晒されながらシャルルは死を覚悟した。速る心臓の鼓動、機体を襲う強撃、けたたましいアラートの只中にいながら何故か自分の思考はクリアになっていく。
戦闘用コーディネーターとして作られ、《サーカス》に拾われ、ザフトに雇われた自分は、ただ与えられた仕事をこなせばいい。戦って敵を倒す、それだけを目標に訓練された自分はそれ以外に余計な事を考える必要はない。
何も考えるな、とシャルルは自分自身に言い聞かせる。
「何とか保たせて!もう片付ける!」
シャルルが敵を引き付けている間に最大速で後方に回り込んだアイリはライフルとマシンガンを斉射した。八本脚のブースターを貫いた砲弾が激しい爆炎を生み出す。推進剤に引火して膨れ上がった火球が瞬く間に巨体を包み込む。閃光が止んだ後に残ったのは慣性に従って漂うガンバレルと、大型MAの残骸だった。
(やっ、た、・・・やれたのか?)
バッテリーが落ちたジンのコックピット内で、シャルルは荒々しく息を吐く。手持ちの火器はすべて撃ち尽くしていた。
「手強かった・・・。シャルルがいなかったらやられてたよ」
戦闘中に抑えていたあらゆる感情を吐き出すようにアイリは深く息を吐く。
「いえ、俺だけの力では」
「・・・にしても、ナチュラルがこんなものを作っていたなんてね」
アイリは謙遜するシャルルに対しそれ以上の追及はしなかった。空になった薬莢をライフルから吐き出しつつ呟く。
「6機がかりで、ようやく倒したってとこですか」
シャルルは応えながらリニアシートに深く身体を沈めた。あと一瞬でも遅ければ死んでいたのは自分だったかもしれない。今になって、それが恐ろしくなってくる。
「そうね・・・でもシャルル、なんて無茶を」
バッテリー切れをおこしたシャルルのジンをマニピュレーターで掴みながら、アイリは機体の凄惨さに息を呑む。装甲には亀裂が入り、左脚と右腕に至っては吹き飛んでいる。彼女が知る限りシャルル・ヴァイスの駆る機体がここまで損傷を負った事は無い筈だ。
「大物を狙うならリスクを負わなければならない、でしょう?」
かつて自分がシャルルに説いた台詞を言い返されてアイリは鼻白む。
「それは、そう・・・けど死を覚悟した戦い方を立派とは思わない。ただ無事に生きて帰る事だけを考えて行動しなさい」
「・・・そんな風に考えられるのは隊長が強いからだと思―」
「かもね。でもあなたも強い。弱い人間は自分の生き死にを選べないけど私達は違う」
「そんな風には・・・考えられませんよ」
シャルルはこんな問答に意味はないと感じつつ吐き捨てていた。
自分の強さは戦闘用コーディネーターとして、そうなるよう作られた結果に過ぎない。その上でシャルルには、その力をうまく扱えている自信がなかった。
先の戦闘で、シャルルは自分の安全より《八本脚》を倒す事を優先した。しかし結果的には部隊から死者を出さずに帰投できる。これ以上は望むべくもない事だ。アイリもそれ以上は何も言わず、押し黙る。
アイリに牽引されてラザフォードに帰投する途中、コックピットの中でシャルルはヘルメットを脱いだ。瞬間、細かな血の雫がコックピットを浮遊する。
戦闘中にぶつけたのか、口元から僅かに出血していたが、それを乱暴に腕で拭う。シャルルは強張っていた全身の力を抜くと、瞳を閉じて静かに息を吐いた。
同時に強烈な睡魔に襲われ、咄嗟にかぶりを振って眠気を追い払おうとする。
アイリのジンハイマニューバーと機体同士が触れ合っている為か、回線がオフラインでも向こうの通信内容は漏れ聞こえてきた。
「…ン!こちらをモニターして…ラ…ォードに回線を繋げて!・・・こちらはアイリ…ルツァー…ラザ……ド、全艦…隊に通達…本脚は撃…た。後続隊…動か……を制圧…ろ…」
猛烈な強い眠気に襲われつつある頭でアイリの話をなんとか理解しようとシャルルは努めるが、気持ちとは裏腹に彼の意識は急速に眠りへと落ちていった。
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その他補足・元ネタ
・アレックスが口にしている祝詞のフレーズは、カミヤドリという漫画が元ネタです。
・フットペダルの反応数値。これは0083の漫画で出てきたシーンを参考にしました。
・アイリが叫んでるセリフはライデンの帰還でイングリッドがシャアにキレてる時のをパクりました。