機動戦士ガンダムSEED THE GATHERING   作:えいじぇんと

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内容的には「星が落ちる時」のエピローグになっています。近い内に話の並び順を変える予定です。
こいつ誰だっけ?となった方は「登場人物紹介・その他」を参照いただけましたら幸いです。





エピローグ「宴に至る」

 

 

C.E.70年 7月9日

 

頬を叩かれる衝撃にシャルル・ヴァイスは慌てて飛び起きた。

 

「ッ痛」

瞬間、シャルルの額に衝撃が走ったのと、眼前から悲鳴が聞こえたのは殆ど同時だった。

ゆっくりと目を開けるとそこには、形の良い唇を歪め鼻頭を涙目で押さえるアイリがいた。

 

「ッ、隊長…?」

ちょっと待て。さっきまで自分はカナード達と脱走の計画を話し合っていて…いや、でもそれは夢の話だ。現実の自分はさっきまで八本脚を相手に戦っていた。

覚醒しつつある頭でシャルルはぼんやりと状況を理解する。

 

一方のアイリは帰投中にコックピット内で寝落ちしたシャルルを起こしにきたのだが、まさか顔面にヘッドバットを貰う事になるとは予想していなかった。

 

 

****************************************************************************************************

 

 

「戦闘中に爆睡ってクソ度胸か!」

コックピットから降りてくるシャルルをエミリアが出迎えた。慣性の力に任せて流れてきたシャルルの右手を取るとストンと床に降ろしてくれる。

 

「何かすいません」

「でも大戦果じゃん!さっすが」

「トドメを刺したのは隊長ですよ」

 

テンションが高いエミリアとは対照的に、上の空で返事をしながらシャルルはモビルスーツハンガーを見渡す。奥のドックに固定されたボロボロのジン・ハイマニューバーを見付け、様子を見に行くべきか迷っていると背中から声を掛けられる。

 

「シャルル、身体は何ともない?」

「あ…ハイ、ご迷惑をおかけしました」

 

アイリの鼻頭はまだほんのりと赤く、何ともバツが悪くなってシャルルは視線を伏せた。

 

「ローラ・ヴァイスなら…えっと、お姉さんなら今、医務室で寝てる。頭を打ってるけど軽傷だって。ヴェイアもアレックスも無事。だから安心して」

シャルルの視線に気が付いたアイリが、状況を説明する。

 

「君とヴェイア、レオの機体は修理に時間かかるとさ。ワタシとアイリ、アレックスは修理と補給が済み次第再出撃」

脱色した髪をかきあげながらエミリアが事も無げに言う。

 

「えっ…アレックスもですか?」

 

「機体を遊ばせておける状況じゃないって事…今は後続部隊が攻勢に出てるけど、彼等を援護しないと」

怪訝そうにシャルルが訊ねるとアイリが応える。

 

ザフトはその大半を志願兵が占めている。

血のバレンタイン以降、ザフトには入隊希望者が殺到し爆発的に兵士の数を増やした。

だがザフト全体の戦力はそれに反比例して弱体化する。

コーディネーターといえども短い訓練期間でいきなり戦場に送られても、マトモに戦える訳がない。

現在のザフトは濃い溶液に多量の薄い溶液が足され、大量の薄い溶液が出来上がってしまった状態に近い。

此度の新星攻落作戦にしても、ここまで時間と戦力を浪費したのは、人材の払底が真似いた結果だろう、とアイリは思う。

それに最初から自分が指揮を執っていれば、ここまで死者を出す事もなかった筈だ。

 

「ボスキャラはもう居ないんだし、あとは手軽な仕事ってね!」

心配するな、とでも言いたげにエミリアはシャルルの肩を叩く。

エミリアの言うように防衛ラインを死守する為に配備されていた《八本脚》が居なくなった事で、ザフトは再び勢いを取り戻しつつある。この機を逃さず一気に新星を制圧したい、とアイリは考えていた。

 

「だったら俺がアレックスの機体を借りて出ます。エミリー先輩となら俺の方が連携も取りやすいでしょう?」

新人のアレックスよりは戦い慣れた自分が出るべきだ、とシャルルは思った。あまり自分のような人間が出しゃばるとブレナン隊の面々は良い顔をしないだろうが、どうせこの作戦が終わるまでの付き合いだ。ならば気にしても仕方ない。

 

「へぇ。元シュヴァルツァー隊、再結成ってワケか。いいねソレ」

そう言ってエミリアはアイリの双眸を覗き込む。シャルルもそれに習って視線を投げると、根負けしたようにアイリが口を開く。

 

「二人がそう言うのなら、良いでしょう。言ったからにはシャルル、貴方は時間までに準備を終わらせて」

 

「了解」

シャルルはアイリとエミリアに敬礼すると踵を返した。

 

 

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「ヴァイス隊長!」

負傷したローラに付き添っていたアレックスは、医務室に入ってきたシャルルに気が付くと慌てて椅子から立ち上がり敬礼した。

 

「アレックス、良く姉さんを連れ帰ってくれた。ありがとう」

シャルルはアレックスに敬礼を返し、そのまま椅子に座るようにと手で制する。

 

「怪我の具合について何か聞いてるか?」

頭にガーゼと包帯を巻いた姿でベッドに寝かされているローラを見て、シャルルは表情を曇らせる。姉が打ちのめされた姿を見たのは随分と久し振りだった。

 

「あ、えっと、医師の話では外傷による一過性の意識消失だろう、との事です。この分なら直に目が覚さめる筈とも言っていました」

多少上擦った声でアレックスが応える。要約すると軽い脳震盪である。

 

(それなら心配ないか)

ローラが撃墜された姿を見た時は不安に駆られたが、この様子なら大丈夫そうだ。規則的に上下するローラの胸を一瞥して、シャルルは口を開く。

 

「アレックス、再出撃の話は?」

 

「はっ、はい。D装備で行くと」

D装備とは拠点制圧に特化した重爆撃装備の事だ。当然ながら新人のアレックスはD装備で出撃した経験は皆無である。

 

「代わりに俺が出る。悪いがお前の機体借して貰うぞ」

 

「はいっ。え?隊長が私の機体でですか」 

アレックスは事も無げに告げるシャルルの顔をマジマジと見て、訝しげに聞き返した。

 

「俺の機体はさっきの戦闘でやられて動かせない。約束は出来ないがなるべく傷付けずに返す」

シャルルはそう言って床を蹴り、部屋の入り口の方へと身体を滑らせる。医務室がある区画は重力ブロックの影響化にあるが、1Gよりも軽い為その気になれば跳躍運動だけで移動する事も可能だ。

 

「それは、はいっ。全然お気になさらず!」

アレックスが反射的にそう応えると、シャルルは僅かに首肯して踵を返し出ていってしまう。

しかしそこでアレックスはハッとなり、頭を抱えた。

自分の体臭やら汗やらで愛機のシートが臭かったらどうしよう、と不安になったからだ。命を預ける者同士でそんな事を気にしている場合ではないのかもしれないが。

 

 

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《M66キャニス短距離誘導弾発射筒に換装急げ!》

《衛星を墜とすんだよ!》

《三番機の被弾箇所は外装ブロック毎交換しろ》

 

ラザフォードのモビルスーツデッキでは整備員達が慌ただしく動いていた。

アレックス機の腕に二連装ミサイルが取り付けられていく。その隣のハンガーには傷付いた真紅のカスタムジンが固定されていた。

シャルルはジンの足元に佇む人影に気が付くと声を掛ける。

 

「ヴェイア!」

氷嚢で頭を冷やしながら、愛機を見上げていた少年グゥド・ヴェイアは自分を呼ぶ声に振り返る。

 

「シャルルか、無事で良かった。…さっきは迷惑を掛けたみたいだな、済まない」

シャルルの姿を認めた途端に、ヴェイアは申し訳無そうな表情を浮かべる。

 

「生きて戻れたら何だっていいさ。でも入れ替わっていた時の事を覚えてるのか?」

消沈した様子のヴェイアにシャルルは問いかける。グゥド・ヴェイアの中には穏和な人格と攻撃的な人格の二つが共存しており、何かのスイッチが入るとこの人格が度々切り替わる。

 

「正直あまり覚えてないんだ。頭にモヤが掛かったみたいで、思い出せない」

声に苦渋を滲ませながらヴェイアは言う。

以前にもヴェイアはもう一つの人格とどちらが本当の自分なのか分からない、と語っていた。

もしもこの先、ヴェイアの人格のどちらかが消えるような事があったら、その時に自分はどうするだろう。何を思うだろうか。

シャルルは難しい顔で考え込む。だがやがて顔を上げ、ヴェイアの瞳を見詰めながら告げる。

 

「もしまた入れ替わりそうになったら言ってくれ。俺が殴って止めてやる」

冗談とも本気とも付かない声音に、ヴェイアが目を瞬かせる。

それは答えを出せない問題をこれ以上考えても仕方ない、と結論付けただけであったがヴェイアを勇気付けるに足る言葉だった。

シャルルとヴェイアの付き合いは長い。不思議な事にそれぞれ別の部隊にいた筈が、こうして雁首を揃えて一緒に戦っているという事実。こういうのが特別な縁というやつなのか、とシャルルは漠然と思った。

 

二人はお互いの拳を軽く突き合わせて別れる。シャルルは身を翻すと、換装作業が完了したと思しきアレックス機の元へと急ぐ。

その背中越しにヴェイアがほくそ笑んでいるのには気が付かなかった。

 

 

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「ヴァイス先輩、アイツを倒せたんですね」

ジンのOSを立ち上げ、接続したタブレット端末にメインコンソールを呼び出していると、頭上から声を掛けられた。

キャットウォークの上で胡座をかいて作業していたシャルルは、声の主を仰ぎ見る。

 

「落としたのは俺じゃない。けどお陰でさっきは助かった」

シャルルは立ち上がりながら眼前に佇む少年―レオール・ハイゼンに感謝の意を伝える。先刻の作戦で弾切れを起こしたシャルルに自らの銃器を投げて寄越したのがレオールだった。

何となくノリでフィスト・バンプ(グータッチ)しようとしてシャルルは思い留まる。ヴェイアならまだしもレオールとシャルル、二人の距離感は微妙なのだ。

 

「あ、いえ。せって夢中だっただけで」

頭を掻きながらレオールが応える。

実際八本脚を相手に回して、良く生きて戻れたな、とレオールは思う。それも二度も。

 

「ってか、先輩がアレックスのジンで出るんですか?それなら俺が―」

レオールはシャルルの足下に無造作に置かれたタブレット端末を一瞥して呟く。これからジンの制御系の数値設定をリライトするのだろうか。

 

「言いたい事は分かる。だけど今回は俺に譲ってくれないか」

元々アイリ達と小隊を組んでいたレオールをを差し置いてシャルルが出るのは、彼にとっては面白くないだろうな、と思う。

多少マイルドな言い回しをしても、すっ込んでいろ、と言われたのと同義だからだ。

 

「レオール…レオ。お前には度胸がある。腕もある。焦らなくてもスコアを稼ぐ機会は必ず来る」

故にシャルルはかつて自分が新米だった時に言われた言葉を、レオールに言って聞かせる。

それでも逸る気持ちを抑えきれないのが、パイロットという人種ではあるが。

 

「了解しました。健闘を祈ります」

レオールは胡乱げな表情をしていたが、やがて納得したように呟いた。

レオールはまだ何か言い出そうな表情を浮かべていたが、結局は何も言わず踵を返した。

シャルルは、その後姿を一瞥すると腰を降ろし再び作業へと戻った。

 

 

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「シャルルさん!とにかくご無事で何よりです!」

出撃間近となり、ジンアサルトのコックピットに置きっ放しだったヘルメットを取りに戻ったシャルルはソフィア・ローレンスとばったり出くわす。シャルルは知る由もなかったが、ソフィアは各機のデコーダーから映像記録の吸い出し作業を行っていた。

 

「ソフィアさん。お陰様で何とか」

シャルルは声の主を一瞥して呟く。

病んでいるとしか思えないゴスパンク風のファッション、頬にZAFTマークのタトゥー入りという強烈なヴィジュアルの少女だ。これで広報部所属の情報番組MCと言うのだから俄には信じ難い。

 

「流石、シュヴァルツァー隊の皆さんに掛かれば共和国軍の新型も形無しですネ!」

ソフィアがサムズアップしながら、持ち上げてくる。言う程楽な相手でなかったが、訂正するのも億劫で聞き流す。

 

「えっと、もう一度お礼を言いたくて。命拾いしたのはソフィアさんのお陰です。ありがとうございました」

シャルルは頭を下げる。

何故かソフィアが出撃前に機体の調整作業を手伝ってくれたのだが、結果的に彼女の見立てに間違いはなかった。

 

「いえいえ。お役に立てれば何よりです!ワタシのエンジニアとしての知見もなかなか役に立つでしょう?」

ソフィアはそう言って誇らしげに胸を張る。

モビルスーツエンジニアの資格を持っているだけあって、おそらくシャルルよりも分析能力は高い。

 

「えぇ。驚きました」

奇抜なファッションとのギャップに未だにシャルルは戸惑ってしまうが。

ソフィアはシャルルの返答に満足げに首肯すると、話を切り出す。

 

「それでですネ。えぇと、この作戦が落ち着いたらシャルルさんにも是非ともお話を伺わせて頂きたいのですが。そんな堅苦しいものではないのでご安心ください。ワタシの方でイイ感じにまとめますので」

ソフィアの見立てが正しければ新星の陥落は目前だ。作戦成功の立役者としてシュヴァルツァー隊のパイロット達から話を聞ければ、とソフィアは考えていた。

 

「それは取材、ですか…お断りします。申し訳ないですが」

シャルルはソフィアの申し出をにべも無く断った。勘違いでなければ昨夜も似たようなやり取りをした気がする。

 

「え?」

ニコニコした笑顔のまま、ソフィアは暫しの間フリーズする。しかし突然せきを切ったように騒ぎ立てた。

 

「えぇ、ガード硬過ぎないですか!?ここはフツウ喜んで!って協力する流れじゃないですか。ワタシもうちょっとデレを期待したんですケド!」

憤慨した様子で捲し立てるソフィアの勢いに多少押されつつ、シャルルは弁解する。

 

「あの、ちょっと何言ってるか分かんないです。それってニュースみたいのに映るかもって事ですよね。それはちょっと」 

 

「フゥン…なかなかに謙虚なんですネ。ワタシが今まで取材してきた方々は皆さんノリノリで協力してくださいましたが」

シャルルへの不満を隠そうともせずにソフィアが皮肉を口にする。確かに取材させて欲しいと言われて気を悪くするパイロットは珍しいかもしれない。

だがシャルルは別に自分の名が売れる事を望んでいない。

 

「ワタシが言うのも何ですが、新星陥落のニュースはプロパガンダとしてアイリさんを前に出す感じになるかと思います。ネームバリューがあるし、本部の意向がありますので」

多少冷静さを取り戻したのか、落ち着いた口調でソフィアが話し始める。

シャルルは無言で首肯した。スターパイロットをプロパガンダに用いるのは至極当然と言える。

 

「えぇと、ワタシの番組はどっちかって言うと、作戦の裏話とか、ちょっとマイナーなパイロットの武勇伝を紹介したりが多いんですヨ」

ソフィアは小首をかしげつつ、シャルルの瞳を上目遣いに覗き込む。

一方のシャルルは、だから自分に白羽の矢が立ったのか、と納得する。同時にソフィアが自分の世話を焼いた理由も理解した。

思い返せば、ソフィアがアイリに取材を申し込んできたのは特務隊に入る以前、今程有名でなかった時だ。

ついでに自分の記憶違いでなければ、その頃ソフィアの顔には未だタトゥーが入ってなかったように思う。

 

「あ、コレですか?」

シャルルの視線に気が付いたのか、ソフィアが自分の頬に描かれたZAFTのエンブレムを指差す。

 

「いえ…そのタトゥー、随分と思い切りが良いなと思いまして」

 

「あ〜、えぇと。実はこれタトゥーじゃなくってシールなんです。下品でカワイクないですか?」

ソフィアはそう言うと軽く頬をつまんで見せる。てっきりと本物のタトゥーかと思ったのだが違ったらしい。

そもそも下品と可愛いを同列視して良いものなのか、シャルルには判断が付かなかった。暫しの間言葉を失っているとソフィアが口を開く。

 

「シャルルさんが乗り気でないのは分かりました。分かりますケド。ウ〜ン…今回は諦めます。ごめんなさい。強引でしたネ、ワタシ」

ソフィアが胸の前で勢いよく手を合わせてお辞儀する。

 

「いえ、そんな事は」

シャルルはバツの悪さに顔を伏せた。

ソフィアの申し出を断った手前、罪悪感がある。その上先の作戦で彼女には借りが出来てしまった。何かしらの形で受けた恩は返さなければならないだろう。

 

(ヤレヤレです。お姉さんにアプローチした方が良いのかな、コレは)

若干気不味そうなシャルルと笑顔で別れると、ソフィアはすぐに思考を切り替える。

取材を断られたら次に行けばいい、それだけの話だからだ。

 

 

****************************************************************************************************

 

 

「よもやアイアンヘッドが堕とされるとはな…我が国の粋を集めた機体ではなかったのか?」

 

そう口にしたのは新星内部に設置された、東アジア共和国軍司令部の責任者、李彦秋(リ・ゲンシュウ)大佐である。

アイアンヘッドはカタログスペック上はザフトの主力モビルスーツ・ジンを凌駕する機動性と攻撃力に加えて、殆どの銃火器に耐えうる堅牢な装甲を備えた破格のモビルアーマーだった。

最新の工業部品でアップデートされたガンバレルを8基搭載し、試作機という事もあってコストを度外視して作られたそのモビルアーマーは、ジンを10機以上撃墜する戦果を上げたものの、ザフト軍のエースに後一歩及ばず撃墜されている。

 

「通常のジン相手ならば遅れは取らなかったでしょう。ただ高機動機を相手にしては流石に分が悪かったようです」

モビルアーマー部隊を取りまとめる岩浪(イワナミ)少佐は、忸怩たる思いでメインモニターを見やった。

アイアンヘッドの通信記録から、撃墜される直前まで《ザフトの英雄》と《踊る黒い死神》と交戦していた事は分かっている。

 

昨日の戦闘を生き残った残存戦力でザフトを迎え撃った共和国軍もよく保ってはいるが、如何せんアイアンヘッドが抜けた穴は大きかった。 

維持していた防衛ラインにモビルスーツが殺到し、アイアンヘッドを欠いた中軍はされるがままだったのだ。

 

アイアンヘッドが堕とされてからの李大佐の決断は早かった。

左右に散っていた部隊を中央に集め、そこを最終防衛ラインに定め、迎撃作戦を指示。

新星撤収を月本部に訴え、参謀総長から同意を得ると直ちに撤退準備に移ったのだ。

前進部隊がザフト第二陣の侵攻を食い止めている隙に、月基地から来た補給艦に大急ぎで負傷兵を収容させて後送を開始。同時進行で新星内部に設置されていた設備と機材を撤収すべく搬出作業を命じた。

前進部隊は迎撃陣形を敷いて敵モビルスーツを何とか食い止めていた。両翼に部隊を展開した布陣でこれを受け続ければ、総崩れになっていた可能性が高い。ザフトの狙いが一点突破であった為、そこに残存艦隊を集結させ固守する事が可能だったのだ。

 

「この短期間でこうも一方的にやられるとは小官も予測できませんでした」

岩浪少佐が損害報告に目を通しながら呟く。

幸いにして艦隊総旗艦を務めるアガメムノン級宇宙母艦は健在だが、ネルソン級戦艦4隻、ドレイク級駆逐艦20隻、モビルアーマー120機余りが残存戦力の全てだった。母艦を失ったモビルアーマーと、モビルアーマーを失った戦艦の数が釣り合ったお陰で部隊再編が滞りなく進んだのは皮肉としか言いようがない。

 

「ザフトの力を低く見積もりすぎたな」

ザフトが開発したモビルスーツという兵器は、人型故に敏捷性に優れコーディネーターの神経伝達速度と相まって、モビルアーマーや従来の対空火器しか持たない艦艇では相手にならない。

一方で開戦当初は1対5とされたジンとメビウスのキルレシオも、最近のザフト軍の質の低下に伴い1対3に計算し直されている。

だがここに来てザフトは多くのベテランパイロットを増援として送り込んで来たようで、昨日の戦闘で共和国軍が被った損害は一日で受けたものとしては最多であった。この数字はザフトが新星に侵攻して以降最大の損失を示しており、敵パイロット達の技量はまさに開戦当初のそれだったのだ。

アイアンヘッドを撃墜してからもザフトは全力で攻勢に出ており、第一陣が下がったかと思えば、すぐさま第二陣が前進して戦場を維持する。応戦する共和国軍は後退して補給を受ける暇もなく、総崩れとなった。

甘く見積もって残存戦力の5割が撤退出来れば成功という厳しい戦況だ。

 

「大佐、設備と機材の搬出作業が完了しました」

李大佐は下士官の報告に首肯する。

その他、持ち運びできないような大型機材や不要な物資は全て破棄する。傷病兵を乗せた補給艦は既に新星防空圏外に出ており、あとは新星内部にいる人員を引き上げるのみである。

 

「全艦に通達しろ。まことに遺憾ながら新星を放棄する。現時刻をもって戦闘を中止、全艦全隊は最終防衛ラインより撤退。プトレマイオス基地まで後退し、友軍との合流を目指す」

李大佐はコーネリアス級輸送艦に座乗すると撤退作戦の指揮を執り始めた。

 

 

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ザフトの先行部隊は先の戦闘で一度は後退したもの、素早く補給と整備を終えると各艦から再発進した。

アイリ・シュヴァルツァーの指揮で前方に展開していた護衛艦隊に打撃を与えると、先に攻勢に出た前進部隊との合流を目指す。

 

「こいつら、逃がすかよっ!」

ミゲル・アイマンは後退していくメビウスに肉薄すると、背中を踏み付けゼロ距離からバズーカを発射して即離脱する。

ミゲルの専用機オレンジのカスタムジンは未だ修理が終わらない為、現在ミゲルが駆るのはディーツェン隊に配備されていた予備機のジンである。

 

「デレク、艦を沈めるぞ!」

ミゲルの僚機を務めるのはディーツェン隊のパイロット、デレク・ウェザリーである。

ミゲルとデレクは元々別の小隊だったが、小隊長のローラは怪我で戦線離脱し、オロールとマシューが先の戦闘で戦死した為、必然的に小隊同士が合流した形である。

 

「オーケー、任せな!」

デレクとミゲルは機体を跳躍させ、駆逐艦の左右から挟撃する。

デレクもミゲルも同じ隊の仲間を失った怒りのやり場を敵にぶつけていた。

一機でも多くの敵を沈める事で、怒りや悲しみを紛らわせるかのように。

無論、そう考えるのはミゲル達だけではない。他部隊のパイロット達も撤退していく敵を黙って見過ごす気はないようで、彼らは一丸となって追撃戦を仕掛るのだった。

 

(何だ?敵が引いていく)

一方、同じ空域にいたファフニール隊と共闘して護衛艦を相手取っていたシャルルは、レーダーに視線を走らせ、後方の機影が遠ざかって行くのに気が付くと眉根を寄せた。

 

「どうするの、アイリ?追い掛けなくて良いワケ?」

前方のモビルアーマーをミサイルで撃ち落としながらエミリアが光通信を入れる。

 

「前方の敵を排除したら新星の確保を優先する。私達の勝利条件は敵の殲滅じゃない」

後方から狙撃支援を行っていたアイリは、戦況を見て冷静に判断した。

目と鼻の先に新星があるこの状況だ。逃げる敵は捨て置けば良い。

後退していく共和国軍に追撃戦を仕掛ける部隊もいるだろうが、深追いして先に継戦能力を失うのはザフトの方だ。

 

「シャルルとエミリーはファフニール隊と協力して新星内部を制圧、安全を確保しなさい。ただ中の状況は分からない。トラップには十分に気を付けて!」

先のグリマルディ戦線では、サイクロプスを暴走させた地球軍が敵味方を巻き込んで自爆した為、多くのザフト兵が帰らぬ者となった。あれほど大掛かりな仕掛けは無いにせよ、トラップが無いとも言い切れない。

 

「了解、取り付きます!」

もし白兵戦になったら嫌だなと考えつつ、シャルルは新星へ増速をかけた。ジンのメインカメラで入港ゲート付近を拡大表示するとゲートは開放されているらしかった。

 

シャルル達は知る由もなかったが、新星内部に設置されていた基地はすでにもぬけの殻で、東アジア共和国軍は一部の物資や機材を放置したまま撤退していた。通常であれば破壊するか後方に持ち帰るべきなのだが、それだけ余裕が無い状態だったのだ。当然トラップを仕掛ける時間もなくシャルルの不安は杞憂に終わる事になる。

 

 

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「夢を見ていたの。何かを試されている場所で、私はお姉ちゃんと戦って、それから―」

ローラ・ヴァイスは、作戦を終えて医務室に様子を見にやってきたシャルルに、意識を失っていた間に見た夢の内容を語り始めた。

 

「何かってなんだよ。何かのテストって事?」

怪訝そうにシャルルが聞き返す。ローラが言う《お姉ちゃん》というのは、メンデルで生き別れになった長姉―エルザの事だ。

シャルルがローラに不思議な繋がりを感じるように、ローラもエルザに特別な繋がりを感じているのかもしれない。

シャルル達、戦闘用コーディネーターには当然ながら親がいない。だが幸いと言うべきか、シャルルの側にはローラという家族がいた。もしローラがいなかったら、シャルルは家族がどういう存在か、その絆や繋がりを理解できなかったかもしれない。

 

「改めて聞かれると分かんないけど、そうかも」

 

「…それから?」

何とも煮え切らない答えを返すローラに、シャルルは呆れた様子で聞き返す。

 

「滅茶苦茶に殴られたから、殴り返した。多分引き分けかな」

ローラは天井を見上げると心此処にあらずといった調子で呟く。

 

「ちょっと何言ってるか分かんないな。夢の中でエルザ姉さんと殴り合いの喧嘩して、それで終わり?」

ローラの話はまるで要領を得ない内容だったが、話を統合するとそうなる。忘れつつある夢の仔細を思い出そうとする程無為な行為もないのだが、ローラは覚えていたいらしい。

 

「そう言われると凄い殺伐とした感じなんだけど、そういうんじゃなくって、もっと神聖な―」

ローラの言葉を遮ってシャルルは言う。

 

「それってさ、昔エルザ姉さんにぶん殴られたのがトラウマになってるんじゃないの?」

神聖な殴り合いってどんなだよ、とシャルルは思ったが口には出さない。

所詮は夢の中の出来事で、現実ではない。

自分が過去をやり直したくて、繰り返し同じ夢を見るのと同じだからだ。

そこに意味などない。

 

シャルルは尚も納得がいかない様子のローラを見て、嘆息し肩を竦めるのだった。

 

 

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その他補足・元ネタ

»ボスキャラ
ゲーム感覚でナチュラルを殺していた事をディアッカは後に後悔する場面があるのですが、エミリアはその典型みたいなザフト兵です。

»重力ブロック
擬似的な重力下にある区画の事です。ホワイトベースに使われている技術で、SEED世界では何と言うのか分からず。

»広報部所属
ザフトの組織図を見ると正しくは広報局らしいですが、本作では広報部に。

»一部の物資や機材を放置したまま撤退
ニュースで某国の軍隊が武器弾薬や戦車を放置して撤退してるのを見て顎が外れかけてしまい、これくらいは全然ありかな、と。

»夢を見ていた
この時ローラが見ていた夢が前話「魔女の流儀」の内容です。

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