機動戦士ガンダムSEED THE GATHERING   作:えいじぇんと

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記憶の欠片

 

 

C.E.54年5月28日

 

 

最高のコーディネーターを生み出さんとする狂気の研究。

その過程で生み出された、ユーレン・ヒビキの理想に届かず廃棄されるのを待つだけの存在。

その存在を何と呼べば良いのか。少なくとも普通の人間とは呼べないだろう。

 

ユーレン・ヒビキの研究助手を務めるフリーデ・パルスはコットの中で寝息を立てる赤ん坊を冷ややかな瞳で見詰めた。

先日、人工子宮から誕生したばかりのその子供は、これから待ち受ける自分の運命など知りもせずに穏やかな寝顔をしている。

この子に名前は無い・・・不要だからだ。ただ何体目の被検体かを示す管理番号が割り振られているのみである。

この子は遺伝子設計の段階で、極めて高い能力を与えられていた。そして経過を見る検査でも良好な水準を保っていた。

フリーデもこの子がユーレンの理想を体現する最高の資質を持つコーディネーター、その成功体になるのだと思った。たがフリーデの期待は裏切られる事になる。

 

「こいつは失敗作だ」

 

産まれてきた子供の検査結果を見るなり、ユーレンはそう告げた。

それきりこの子への一切の興味を失くしたようで、後は廃棄しておくように、とフリーデに伝えるとユーレンは再び研究に戻っていった。

これまで、ユーレンが調整を施した受精卵が誕生まで生き延びた例は、目の前のこの子以外に存在しなかった。

そのどれもが形成の段階で望む水準に達していないとして、人工子宮から生れ落ちる前に破棄してきたからだ。

 

今までフリーデは知識としてしか、生命というものを認識していなかった。

受精卵に処置を施し、しばらく経ったら破棄するだけの存在。だが目の前の赤ん坊は確かに生きていて、それは自分と何ら変わらない人間の子供だった。紛れもない生命がそこにあった。

 

この子を破棄しろ、と。

ユーレンは、そう告げたのだ。

 

「っ・・・」

こらえようの無い吐き気がフリーデの喉元まで迫る。思わずフリーデは口元を押さえた。

 

最高のコーディネーターを生み出さんとする狂気の研究。

その過程で生み出された、廃棄されるのを待つだけの存在。

その存在を何と呼べば良いのか。少なくとも普通の人間とは呼べないだろう。

だがもはや普通のコーディネーターとも呼べない存在だ。

 

しかし同時にフリーダは思う。

ユーレン・ヒビキにとっては無価値な存在であっても、喉から手が出る程この子を欲しがる研究機関は存在する筈だ。

最高の資質を持つコーディネーター、それに限りなく近い存在。それがこの子なのだ。

考えるより先にフリーデはこの子の引き取り手を探し始めた。

 

フリーデは自問する。この件が表ざたになれば、会社は自分を放ってはおかないだろうし、何よりユーレンが黙っていないだろう。

何故自分のキャリアを棒に振ってまで、この子を助けようとするのか。

自分の手を汚したくないからか?

 

たとえ命が助かってもこの子は、その一生を実験動物として過ごすかもしれないし、普通の人間としての人生は歩めないだろう。

だからといって、この子を養っていくような甲斐性も覚悟も自分にはない。

自己欺瞞に過ぎないのだ、所詮は。

こんなにも自分は人間らしさを失っていたのかと冷静に分析する一方で、まだ自分に人間らしい感情が残っていた事にフリーデは驚いた。

 

時を待たずして、この子の引き取り手は見つかる事になる。しかしフリーデは、そこがブルーコスモスが出資する遺伝子研究所とは知らずに引き渡してしまう。

そしてこの時、フリーデ・パルスの命運は尽きてしまうのだった。

 

 

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あとがき


のちのカナード・パルスが破棄される寸前のお話として考えました。フリーデはオリキャラ。
ブルーコスモスの過激派はメンデルの研究所を襲っては保管されていた受精卵を奪取し、戦闘用コーディネーターの研究所に横流ししていた、という旨をダンテが語っていた為、まあこういう経緯もありなんじゃないかと。大西洋連邦の研究機関を経由してユーラシアの研究機関に、という妄想です。

調べるとカナードの出生日はキラと同年という記述もあったんですが、逆算すると54年7、8月頃にはユーレンがヴィアの受精卵に処置をした筈なので、それだと辻褄が合わなくなるんじゃと思いこの日付けに。

元々作者はカナードをスーパーコーディネーターの実験体としてではなく戦闘用コーディネーターという体で主役にする話を考えていたのですが、それだとカナードのアイデンティティが失われてしまうかなと思い直し、ちょっと過去話を書いてみました。

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