機動戦士ガンダムSEED THE GATHERING   作:えいじぇんと

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炎の幻影 前編

 

 

 

C.E.64年 6月16日

ユーラシア連邦アルメリア研究所

 

 

「こいつらがメンデルの実験体か?」

そう言って興味深そうにこちらを覗き込んできた白衣の男をカナード・パルスは睨み付ける。

 

カナードにとって誤算だったのは、L4コロニー・メンデルの訓練施設から脱走を試みた折に、施設を襲撃してきた傭兵部隊に捕えられてしまった事だ。

傭兵たちはユーラシア連邦からの依頼で動いており、その目的は大西洋連邦の軍事施設を襲い戦闘用コーディネーターの実験体を確保する事だった。

そうして今、スペイン・アンダルシア州にあるアルメリア研究所にカナード・パルスの姿はあった。

 

「接収した資料によれば少年の方は最高のコーディネーター(スーパーコーディネーター)、その実験体らしいですが」

「そんなヤツがどうして大西洋連邦の訓練施設にいたのだ?」

 

大西洋連邦が出資する遺伝子研究所は54年にGARM R&D社から廃棄実験体を受託。59年に第二訓練施設へ移送、と記録にはある。

戦闘用コーディネーターの研究は、大西洋連邦の裏にいるブルーコスモスが推進する強化兵士計画の一つだ。だが戦闘用に強化したコーディネーター1人を作り出すには、莫大な手間と費用が掛かる。

カナードはGARM R&D社のヒビキ研究室で作られ、廃棄寸前で大西洋連邦の研究所へ移送される、という数奇な運命を辿っていた。

 

「おそらく廃棄予定の実験体を大西洋連邦が買い取ったのでしょう」

「こいつは失敗作という事か?」

「ええ。ですがそのお陰で我々も最高のコーディネーターの実験ができる。願ったり叶ったりというやつです」

カナードの目の前で研究員達が酷薄な笑みを漏らす。

 

「しっ、失敗作といっても収奪したせっ戦闘用コーディネーターのデータと比べてもそっ遜色ない数値ですよ、これは!」

データを分析していた研究員の一人が興奮しながら早口で捲し立てる。

 

「戦闘用コーディネーターと同程度では意味がない!そうだろう?」

報告を聞いた主任研究員が熱り立つ。軍用のコーディネーターを作り出す研究においては、ユーラシア連邦は大西洋連邦に大きく後れを取っている状況なのだ。

 

「こんな失敗作ではなく、成功体のサンプルさえいれば」

 

「くっ!」

殺意のこもった眼でカナードは研究員たちを睨み付ける。

研究員の多くが凶暴な視線にたじろぐ中、主任研究員がその様子を見咎めた。

 

「なんて目をしてやがる、実験動物の分際で!」

彼が手に持った装置のスイッチを入れた瞬間、カナードの両手首に取り付けられた腕輪から高圧電流が流れた。あまりの衝撃にカナードが頽れる。

苦悶の表情を浮かべながらもカナードは主任研究員を睨め付けるが、たじろぐ様子はない。

 

目の前で無様に這い蹲った子供―カナード・パルスは、腐っても最高のコーディネーターの実験体だ。

これから上下関係を身体に教え込んで、ユーラシア連邦の為に戦う道具にしなければならない、と主任は考えていた。

アルメリア研究所の職員の多くは軍属ではないが、その管轄はユーラシア連邦である。予算に見合った成果を出せなければ当然予算は削られ、最悪研究所の閉鎖もあり得る。

 

 

「大人しくしときなよ、カナード」

今まで黙ってカナードの隣に立っていた少女が口を開いた。立ち上がれずにいるカナードの様子を見かねて肩を貸す。

少女はカナードと同様に無理矢理連れてこられた戦闘用コーディネーターの実験体だ。

 

リリー・ザヴァリー。

あどけない顔立ちをした少女で、鮮やかなオレンジの髪がまず目を引く。年齢はカナードの一個上の11歳だ。

カナードとは同じ訓練施設で育ったが、それほど親しかったわけではない。どちらかといえばリリーと仲が良かったのは、同時期に生み出されたグゥド・ヴェイアの方だ。

しかしヴェイアはここにいない。その事実はヴェイア達がメンデルから逃げ遂せた事を意味している。

 

元々カナードに脱走の話を持ち掛けてきたのは彼の担当官だった。

どういう訳か担当官は施設が襲撃される事を察知しており、その混乱に乗じてここから抜け出す、とカナードに語った。

カナードは施設で共に育った仲間の何人かに脱走計画を打ち明ける。この時、誘った仲間の一人がグゥド・ヴェイアだった。

カナード達は事前に逃走経路を頭に叩き込み、担当官が待つ合流地点までのルートを何度も確認した。

担当官の言葉を信じるならば―無論、内通者や裏切り者は100%信用はできない―ヴェイア達はプラントに渡る手筈になっていた。

不測の事態が起きなければカナードも今頃こんな場所にはいない。だが予想に反して襲撃者達の手際が良く、カナードは自ら囮役を買って出た。

その結果カナードは捕まってしまったが、仲間が助かったならそれで構わなかった。

仮に別の誰かが囮になり、自分が助かってもきっと後悔したに違いない。それは意味や理屈ではなく、生き方(スタイル)の問題だった。

 

(生きている限りは負けじゃない!)

立ち上がりながらカナードは自身を鼓舞する。例え力尽くで地面に頭を押し付けられようとも、その程度では自分の意志を砕く事は出来ない。

 

何者にも屈しない強さ、それさえあれば自由も、誇りも、仲間も全ては手に入る。

それを手にするまで死ぬことは出来ない、絶対に。

 

 

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登場人物・その他あとがき


カナード・パルス
C.E.54年生まれ。最高のコーディネーター(スーパーコーディネーター)の失敗作の烙印を押され処分されるところを、ヒビキ研究室の助手に助け出され、大西洋連邦の遺伝子研究所に引き渡される。
軍事施設で戦闘用コーディネーター達と共に訓練を受けていた。スパイとして入り込んでいたカナードの担当官は、カナードを《サーカス》に移送したかったが適わず。


リリー・ザヴァリー
C.E.53年生まれ。戦闘用コーディネーターの実験体としてグゥド・ヴェイアと同時期に生み出される。訓練施設を襲ったテロリスト達に捕まり、カナードと共にユーラシア連邦の研究施設に送られる。


主任研究員
ユーラシア連邦所属アルメリア研究所勤務。ロシアにあるポドカメンナヤ・ツングースカ研究所に左遷された過去を持つ男。その為キレやすい。


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カナードがユーラシア連邦に拉致されたという体で過去話を考えてみました。
《サーカス》の運営元は一族なので(公式)、スパイが大西洋連邦に潜り込んでいて、優秀な人材を集めてる過程でカナード達に目を付けて、という感じです。

リリーに関しては、深い意味はなく何となく出しました。
正史ではもう少し後に生み出されるんですが、彼女のモデルはプルツーだし、ソキウスのようにオリジナルが以前に存在していたという体で。ヴェイアの機体色を継ぐ事に執着しているという良く分からん設定を何か活かしたいなと思ったのもあります。

いや、まあ、書いていて色々無理があったなと思いました。

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