この中に主人公がいるっ!   作:サカサマ

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2 魔法少女系主人公

 

 検索結果。そんなものなかった。

 それは当然。検索内容が限定的すぎるだろう。そんなことはいい。よくない。相手は僕を知っているのに名前を尋ねなければいけないこの状況。気まずいったらありはしない。すごく逃げ出したい。

 

 ここは以前聞いた偉人の対応を真似しよう。僕は賢い愚か者なのだ。

 

「…君、名前は?」

 

 緊張して取り調べじみた感じの聞き方になったがご愛嬌。

 

「……愛久沢(あいくざわ) 八七(はちなな)

 

 こんな感じの自己紹介をつい最近も聞いた気がする。流行ってるのかな。

 現実逃避はそれまでで、この名前に僕は覚えがあった。だが、偉人ロールはまだやめるつもりはない!

 

「バカモン。僕は下の名前を聞いたんだ」

「誰がバカよ」

 

 偉人ロール終了。

 記憶を掘り起こし、目の前の顔をまじまじと見る。…僕の目の前にいるそれと、どうにも記憶の中の人物の姿と合わなかった。

 

「な、なにそんなに見つめて。見惚れた?」

「……」

「な、なんか言いなさい!」

「…髪染めた?」

「ッ……そ、そう。染めたの。高校デビューってやつかな」

 

 そうだ。僕の中の、記憶上の八七は髪は短くても耳上あたりの高さで短くポニーテールにしている。そして濃いブラウン色の髪だったはずだ。こんな真っ赤な色ではない。眼鏡…はしてたけどこんなぐるぐる眼鏡ではなかった。てかそれどこに売ってるの? ドンキ? ドンキホーテなの?

 

「へぇー。思い切ったな。赤色とか。気づかなかったぞ」

「…赤…ね。ああ、だから学校で会ったのに声かけてこなかったんだ……こっちのせいかと思ったよ」

 

 残念そうにがっくりと首を落とし、これのせいじゃないのとぐるぐる眼鏡を整える。レンズがきらりと光った。

 なんでそのバカみてえな眼鏡にしたのか一週間と小一時間話をしたいけれど。

 いまなかなか重要なこと言った?

 

「同じ学校だったのか!?」

「お、驚くところそこから!?」

 

 どうやら、同じ学校に通い、通学路とクラスに向かう廊下の途中であっていたらしい。

 …僕はこんな目立つ赤髪を見逃したのか?

 

 今更だが、こいつも主人公なのだろうか。早とちりに主人公だと思ったけど、この場合五鬼上のヒロイン的な可能性もあり得る…かも。

 ならこれを聞いておこう。

 

「…ところで学校で気になる人とかいる?」

「久しぶりの再会なのに話すことそれかぁ…」

 

 眉間を押さえて呆れたように息をつかれた。悪いな。今日の最優先事項は主人公とその周りについてなんだ。というより八七の方が個性強いしこっちが主人公かもしれない。だって短髪赤髪にぐるぐる眼鏡だぞ。もしや逆ハー系の主人公か?

 考えをめぐらせて有名なポーズを決める。

 

「…っゆ、唯人!」

「おわっ! なんだ急に」

 

 顔を赤くして急に大きな声を出してきた。まさか怒ってる?

 

「出会い頭にそういうこと聞くのは悪かったですごめんなさい」

「あ、あれ。そういうことじゃ…」

 

 謝罪が足りないのか。土下座でもしてやろうかおぉん!?

 

「…っ……唯人ごめん。そろそろ行かないとだ」

「? おう。引き止めて悪かった」

 

 唐突にどこか空を睨み、そういうと足早に先ほど歩いてきた道へ去っていく。去っていく後ろ姿をぽけーっと何の気なしに見ていたら、その影が揺れた。

 

「ッ? 今…髪茶色だったか?」

 

 蜃気楼みたいに揺れた瞬間。髪色は昔の色に戻っていた。そう思えば、彼女の後ろには胴の長い耳の尖った猫みたいな生物がふよふよと浮いていた。契約しそうな見た目だった。

 

「…あれ?」

 

 この世界はあれではないのか。異形が蔓延る世界じゃないのか? 五鬼上が相手しているあの感じのムキムキマッチョのやつ。しかし八七は…あいつは見るからに格闘しそうな感じはない。こうなると敵は同一なのか?

 わからない。これから起こるであろう主人公の動きもある。それに関わらないためには世界観を知っておくのも手だろう。関わらないために関わることになるとか。本末転倒だけれども。

 主人公には関わらないと決めていたが、関わらないために知らなければ…危険かもだけど…今後のため。僕は先を見据える男なのだ。

 

 そう思いまた彼女がいたところを見たが、すでに姿はなく。

 ただまあ、彼女が睨んでいた方向に何かがあるんだろう。ふん。僕は主人公(五鬼上)の戦いを見届けその場から逃げ切った男。主人公(八七)に気取られずに観測など容易い。そう。容易い!

 

 ははは、と気味よく笑いおよそ何かあるであろう方向へ走り出した。

 

 

 

 何かあるであろう場所は、寂れたシャッター街でした。

商店街は何事もなく寂れていた。僕の暮らす街にはこういう場所が少しある。田舎と都会の間みたいなところは特に。人が残る理由もなく、人口は右下がりの減少傾向。

 でかいスーパーマーケットが近くにできてしまえば、お肉屋さんとかお魚屋さんとか、八百屋さんとかに行く人が少なくなる。ここに立ち並ぶ飲食店や雑貨店もそう。

 時代の流れに対応しなかった、できなかった露店の立ち並ぶ、時代の墓場のストリート。シャッターが降りている店も多く、きっとここはもうすぐにでも取り壊しになるんだろう。

 

 そんな寂れた有象無象の上、広がる空に彼女はいた。

 

 日曜の朝に、眠い目を擦り早起きしてテレビをつければその画面にいたであろう。およそそんな格好で。

 

 

 どういうわけか空に固定されたやつに立ち、髪色と同じく赤を基調としたドレスのような、アイススケートでも始めそうな格好に身を包み、背中に赤薄色のひし形の半透明な羽のようなものを生やし、利き手である右手には先端がクリスタルのステッキを持ち、そして。

 そして何よりあのぐるぐる眼鏡を外していた。

 

 そんな彼女の対面には、雑多なデザインとしか形容できない手が長い黒色の異形のひとが。見れば、身体から少し煤けたように煙が出ているようにも見える。

 どう見ても、以前見た敵とはなんというか画風というか見た目というか、毛色が違う。

 

 このとき、ああ、どうしようもなくジャンル間違ってるなと僕は思った。

 

 そんなのよそに、その長い手を振り回しおおよそ魔法少女に攻撃していく。遠心力がはたらいていたそう。

 そんな野郎の攻撃を、ステッキで弾いたかと思えば、そいつの手は結晶化。そして流れるようにステッキを振りかぶって。

 

ガシャン

 

 ……野郎は気付けば手足をもがれて達磨になっていた。これが魔法少女のやることか?

 

 それでも、と抵抗を続ける野郎に、むしろ僕はこっちが主人公なんじゃないかとも思えて仕方がなかった。頑張れクロもやし。

 

 吠えるクロもやし達磨から距離を取り、改めてステッキを構える。

 

 トドメだ。

 

 下から見ていると、口だけが動いているのが見える。声が聞こえないと臨場感もなく、なんだか結果が分かった気がした僕はそのまま立ち去ることにした。

 

 というより、僕はあの魔法少女の中学生のときの同級生なのだが。

まさか物語に組み込まれるとかないだろうな。そう思うと背筋に冷たいものが走る。

 

 早く帰って家族に会いたい。不意にそう思った。

 




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