この中に主人公がいるっ! 作:サカサマ
家までの帰路。
先ほどのこともありなかなかナイーブな気持ちで歩いていた。もしかしたらもしかしてしまうのかもと考えが暗雲へ向かう。しかしそれを救い上げるようなタイミングで家に着いた。玄関に着いた途端安心して、肺から息が抜けるような声をあげる。
「ただまぁ〜」
話が変わってしまうが。僕には反抗期真っ盛りの弟がいる。目が合うと律儀に舌打ちをし、近づくと離れて、だけれど時々ゲームに誘ってくる。そして常に関わるなと言わんばかりの低い声を出す。しかし成長中の高い声で頑張ってるのかあんまり怖くない。
また話が変わるが、僕の家には決まりがある。家訓みたいなものなのか挨拶を大事にする家なのだ。おはよう、こんにちは、おやすみ。いただきます、ごちそうさま。これらだけではないけれど、とにかく欠かすことは許されない。
「…おかえり」
ゆえに、弟は嫌っている兄貴に挨拶だけはしっかりするというツンデレのような挙動を取らずにはいられないのだ。恨むなら生まれたお家を恨むが良い! ふははは!
ぶっきらぼうに振られた挨拶。普段ならばこれ以上に話すこともないのだが、今日はそうではないようだった。弟は不安げに眉を寄せて少し俯いている。
「…どうした。
心配になり弟、もとい旭に声をかける。
少しの沈黙。どうしたものかなと頭を掻くと、腹のあたりに衝撃が来た。そしてそのまま腰に暖かさが感じられる。
「…旭?」
「うっせだまれ」
えぇ…。抱きつかれながら言われてもねぇ…。
旭は力一杯に腕を絞める。万力ほどでもないが、ちょっとだけ苦しいけど弟が落ち着くまで待つことにした。どうしたんだろうか。怖い夢とか見たのか、まさかイジメとか。くだらない悩みなら良いのだけれど。
鼻水を啜る音が聞こえてきて、居ても立っても居られず何もできない誤魔化しに頭に手を置く。
「今日なにかあった?」
そのままの状態で質問が飛んできた。その質問は是非とも僕がしたかったのだけれど。
よくわからないが、同級生を見かけたとか久方ぶりに幼馴染に会ったことなどを伝えた。あっそとよくわからない反応が帰るが、この状況はどうにかならぬのか弟よ。
「…んじゃ」
おい待てい。
離れ翻し自室へ向かう肩を掴み、理由を問うた。
「どうした?」
「…べつに」
掴んだ手を振り払い一泊置いて、旭は玄関を見つめそして壁にかかった丸時計を見つめて言う。
「あとちょっとで郵便屋さん来るから出ろよ。不在票だと怒られるのお前だから。んじゃ」
突然の予言じみた言葉に呆けると、その隙にドタドタと音を立てて自室へ戻ってしまった。
数瞬。納得できず追いかけるために踏み出した足を、僕は止めることになる。
ピンポーン
インターホンが元気になった。
驚愕を隠すこともできず、慌てて振り返り玄関を見る。窓から外に人が立っていることがよく見えた。驚愕に固まった僕を、催促として二度目にならされたインターホンが正気に戻してくれる。
はーい、と返事をして扉を開け訪問者を見ると、確かにクロクマ宅急便であった。判を押し荷物を家族共有の場へ運びながら考える。
今日は多くの、非日常があったがゆえかこの手の思考がトップスピードに加速する。
記憶の復習から、今日のことがよく思い出せた。
異形と日々戦う五鬼上遥。魔法少女のような愛久沢八七。そして…僕の弟はおそらく。
タイムリーパー 浅川旭
あの予言めいた発言も、僕が帰宅してからの挙動不審も、そうと考えれば説明がつく。どうやら今日をすでに——宅配便の時間を覚えてしまうほどに——繰り返しているらしい。
そしてあの慌てよう。僕はよほど酷い目に遭うか、はたまた死んでしまっていたか。そんなところだろう。少し過剰なようにも思えたけれど、身内が死んでしまう夢を見たとき、僕だって多分そうなる。あの様子…タイムリープができるようになったのは最近なのだろうか。少し湿った腹を撫でながら、考えた。
そして遅れて、恐怖がやってくる。
弟がタイムリープをする存在として正しいのなら、その仮説が本当なら、僕は今日大変酷い目に遭うか、何かに殺されてしまっていたらしい。いつだ。今日の僕は一体いつそんな目に、もしくは死んだのだろう。考えつく限りならば、あの土手か商店街での観戦…。交通事故などもあるかもしれない。
慌てる呼吸を、キッチンの水道から水を取り飲むことで無理やり落ち着ける。
落ち着けよ僕。そうだポジティブにいこう。タイムリーパーがいるのなら、これ以降僕が苦しむことも危険なこともないじゃないか。これから先は正解とも言える世界を歩むのだろう。
そこまで考えて、やっと安心して息を吐く。
安心して、そのままの足で2階の自室へ向かいベットに眠った。
唯人は知らない。
タイムリープは一本の木から枝を切り、本命の一本を逞しく育てるものだと。
唯人は知らない。
自身が枝の一本であるのか、本命の幹であるのかも。
唯人は知らない。
旭が今日という日を26回生きていることを。
唯人は何を知ることもなく、寝るのだった。
シリアスじゃないです。