怪々奇談   作:瓶詰め蜂蜜

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陸の上の溺死体Ⅰ

 夜、人気の少ない通りを必死になって走る男の姿があった。

 

「ハッハッハッハッハッ……」

 

 息が乱れる。手も足も既にヘロヘロと力ない動き。されど走るのをやめない。やめる事が出来ない。

 

「うぐっ!?」

 

 足が縺れ、転倒する。感じる痛みに顔を顰めながらも、這うように前へと進む。

 

ぺた……ぺた……

 

「っ!?」

 

 背後から聞こえる湿った足音に振り向く。その顔は恐怖に染まっていた。

 

「くっ……来るな!!来るなぁぁぁぁあっ!!」

 

 必死な男の叫びが、夜の闇へと消えていった。

 

 

 

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「……それ以降、その男は行方知らず。なんだって!!」

「……何そのガバガバな怪談話」

 

 笹森岬高校二年B組の教室で、友人の四月一日わたぬき七音どれみの語る怪談話を話半分で聞いていると、それが不満なのか、七音は頬を河豚のように膨らませる。

 

友利ともりってなんか冷めてるよね〜。もうちょっと、「きゃ~こわ~い」みたいな事言えないのー?」

「そんなキャピキャピしたキャラじゃないんだけど、私。というか、怪談話でそこまで盛り上がれるのって七音ぐらいだよ」

 

 私の言葉に、「そっか〜」と落胆し、七音は引っ込んだ。

 

「……それにしてもさあ。なんでそんなに怪談話で盛り上がれるわけ?」

「えー?なんか面白くない?お化けとか!妖怪とか!」

「いや、訳の分からないものに襲われるとか恐怖でしかないじゃん」

「そうかな〜?」

 

 相変わらずの七音のホラー、オカルト好きに、思わず溜息を吐きそうになる。

 これでも小学校からの付き合いだから、七音の話には私ぐらいしか付き合ってくれないのだろう。懐いた大型犬の如く、事ある事に私に駆け寄っては新しく仕入れた怪談話を教えてくれるのだ。……私としては、正直興味ないのだが。

 

「……それで?その男を襲った、湿った足音の正体はなんなの?」

 

 仕方無いので、話に付き合おうと質問するが、七音は肩を竦めて「さあ?」と言う。

 

「……は?」

「でもでもっ!湿った足音って言うから、私は河童なんじゃないかなー?って思うんだよね!!」

 

 私の怒りを感じたのか、慌てて言葉を続ける七音。

 その様子を見て、私はまたもや溜息を吐きそうになるのだった。

 

 

 

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 学校が終わり、家へと帰宅する。

 私の通学路は人気の少ない場所を通る為、まだ明るい内に帰らないと暗くて危ないのだ。

 

「……ん?」

 

 ふと、今歩いている通学路がいつもと違うような気がした。何が違うのかと少し辺りを見渡し観察してみると、交差路に濡れた裸足の足跡を見つけた。

 

「ああ。あれか」

 

 違和感の元を見つけ、溜飲が下がる。そして、ちょっとした好奇心で私はその濡れた足跡を辿ることにした。

 

(まあ、どうせ子供かなんかが遊んだ跡なんだろうけど)

 

 そして、濡れた足跡を辿る中、ふと、今日七音から聞いた怪談話を思い出した。

 

(……いや、無い無い。あれは所詮作りばな……し……)

 

 曲がり角を曲がると、そこには全身がぐしょ濡れとなったサラリーマン風のおじさんが物凄い形相で仰向けに倒れているのを見つけた。

 

「え……?」

 

 突然のことで思考が少しの間停止する。が、慌てて携帯を取り出し救急隊を呼ぶ。

 運がいいのか、近くの電柱に住所が書いてあった為、場所をスムーズに伝える事ができた。

 しかし、このおじさんに一体何があったのだろうか。私の背筋を冷たい物が通り抜けていくような、そんな気がした。

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