お兄様のことが大好きな雨の魔女トネリコ或いは冬の女王モルガン   作:今井綾菜

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第六雨

───滅びをみた。

 

───誰よりも深く愛したブリテンを手にする事はできず。

 

───魔女は憎悪と慟哭の中、何も得られず。

 

───アーサー王(アルトリア)を決して許さないとその憎しみだけが……

 

 

幾度となく見た滅びと憎悪の夢。

幸せというぬるま湯に浸かっている今の自分に対しての警告のようにここ最近はずっとその夢を見ていた。

 

汎人類史の自分(モルガン)の生前の記憶。

英霊となって召喚されて、白紙化してしまったブリテンの未来を変えるべく同一存在となるヴィヴィアン(わたし)に記憶と知識を全て託して消え去った稀代の魔女。

 

このままオークニーで幸せな暮らしをしていたら、ブリテンが滅ぶというのなら……それは正直「それ、私のせい?」と誰かに問いただしたいくらいだ。

 

だが、それが原因で【聖剣】が造られなかったのが私たちのブリテン。

楽園の妖精として、妖精達に聖剣の鍛造を促すために派遣されたのがアヴァロン・ル・フェである私の役割だというのは変わらない。

妖精達に反省を促して聖剣を鍛造させる。

明確な使命こそ持って流れ着いたものの、そのやり方が示されていない。

役割だけ押し付けて具体的な解決策考えてないとか流石に無責任じゃない?

 

でも、そんな役割だけ押し付けられた楽園の妖精(わたし)を慈しんでくれる妖精達がいた。

雨の氏族、『はじまりのろくにん』と呼ばれる聖剣を鍛造しなかった妖精の末裔の氏族のひとつ。

8000年前から見ればかなり代替わりをしたであろう雨の氏族に楽園から流されて赤ん坊だった私は拾われた。

 

楽園の妖精として名付けられた『ヴィヴィアン』という名前から『トネリコ』という名前に変えて、私は雨の氏族に愛されて育てられた。

雨の氏族、お母様は私を拾った時ひどく悩んだという。

楽園から遣わされた妖精は過去の妖精たちの行いを裁くためにきたのだと、本能で理解していた、しかし……それでもお母様は拾う決意をした。

いいや、お母様の後押しをしたのは私が愛してやまないお兄様の行動だったのだという。

 

『こんな雨晒しのところに放置するわけにはいきません。それに、ここで楽園の妖精とはいえ赤子を見捨てるなど……私たちはまだ弱く、罪のない幼い命を見捨てるような下等生物であるという烙印まで重ねるわけにはいかないのです』

 

そうして雨の氏族に拾われた楽園の妖精(わたし)はお母様やお姉様、そして何よりもお兄様の愛を受けてすくすくと育って行ったわけです。

 

え?私の育った経緯なんてどうでもいい?

そんなこと言わないでください、これは汎人類史のモルガンとは決定的な違いがあるんですからね!?

 

だからこそ、考えてしまうのです。

もし、お兄様がいなかったら……私はどのような道を辿っていたのかと。

お兄様は良く私がいずれ旅に出て自分の使命を果たす時が来る、と話します。

きっと、かけがえのない旅の仲間ができて大切な思い出を積み重ねてブリテンの妖精達から好かれる旅になると語ってくれるのです。

そのために魔術を教えてくれて、たまに旅で必要になるであろう技術を教えてくれて、そして私が成長を重ねる度にとても喜んでくれて。

 

でも、お兄様の話すその世界に……お兄様がいてくれる話は一度もありませんでした。

それはどうしてなのか、私の國を作ったとして……ブリテンを平和で優しい世界にできたなら褒めてくれるでしょうか。

お兄様の語る旅路の果てに、いずれ出会うかもしれない旅の仲間たちとその果てに辿り着けるのでしょうか。

 

教えてください、お兄様。

妖精でありながら世界を見通す眼を持つ貴方には、どんな未来が見えているのですか?

 

思考を巡らせてもお兄様の考えることの全てを理解できない。

あの優しい笑顔の裏で考えているであろう私の未来とオークニーの未来。

他の氏族を相手にした立ち回りやいざという時の備え。

その全てを察することは今は出来ずとも、いつか……理解できる日が来れば、とはいつだって思っている。

 

「……なんて、考えたって仕方ないんだよなぁ。妖精相手とはいえ妖精眼(グラムサイト)を使ったって見えるのは言葉の裏だけ。お兄様みたいに二つも三つも同時に思考できる人にはほぼ通用しないし。第一、楽園の妖精である私がいうのもなんだけどお兄様ってズルの化身みたいな性能してるじゃん」

 

整った顔立ちに芯の通った声音。

おおよそ出来ないことはない、といったハイスペックぶりに妖精でありながら魔術を扱い、その果てには最高ランクの千里眼持ちと来た。

 

最高ランクの千里眼ともなれば世界を見通す。

それは過去であったり、未来であったり、現在の世界の全てであったり。

お兄様が持つそれは現在視であるとは言うけれど、それはこのブリテン島で起こっている全てを見通しているということ。

 

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それはこの世界(ブリテン)における全てを把握していて、他の氏族が何をしようとしているかを視ているということ。

 

「……でも、だとしたらブリテンが滅んだのはなんで?お兄様さえ生きてれば、お兄様がその眼を駆使して妖精たちを治めればブリテンの崩壊は起こらないはずなのに」

 

ただ、そこまで口にしていくつかの答えに辿り着く。

現在の全てが視えているその瞳がありながら滅びたということは、何かしらの原因でお兄様が亡くなったこと、そしてもう一つはお兄様が指揮したとしても避けられない滅びがあったということ。

そのどちらでも私にとっては最悪どころの話ではないけれど、その可能性を考えるのが一番早かった。

 

「もし、そのどちらかが現実になるというのなら……」

 

汎人類史のモルガンから託されたその知識と魔術。

その全てを使ってお兄様を補佐することができたなら、ブリテンを存続させつつモルガン(彼女)の夢も叶えられるのではないだろうか。

 

他の全てを失ったとしても。

 

ヴィヴィアン(トネリコ)である私は家族だけは失いたくない。

 

出来るなら、モルガン(彼方の私)の願いだって叶えてあげたいけれど。

 

それよりも大切なものは今、この場所に───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「トネリコ!すまないが今すぐ来てくれ!」

 

 

 

 

滅びの足音は、決断よりも早く側に来ていたのだ。




今は失われた、遠い夢を───
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