お兄様のことが大好きな雨の魔女トネリコ或いは冬の女王モルガン 作:今井綾菜
というわけで第100話目『アルトリアvsモルガン』です。
『トネリコ〜女王モルガン戦〜』をお供にご覧ください。
その光景は、まさに一つの極致だった。
まさに入り込む余地のない、人智を超えた頂上のもの達の争い。
カルデアはこれまで幾度も人智を超えた存在と対峙してきた。
その中で出会った存在はまさにヒトには超えられぬ存在であったものもいくつもあった。
それは神であった。
それは果てなき宇宙の彼方から飛来した機械であった。
カルデアという組織において、これまで対峙してきたものの中で“神”という理不尽には幾度とぶつかり合い、そして超えてきたものである。
しかし、目の前に広がるこの光景は。
自分たち魔術師という存在が、自分たちの誇るその技術が。
全てがちっぽけに見えてしまうほどの魔術戦が眼前に広がっていた。
もう既に数十と繰り出される魔術の一端でも再現できれば現代の魔術師としては最高峰の栄誉すら与えれるであろう魔術たち。
当たれば即死、なんてものではない。
指先に掠っただけで即死級の魔術の応酬をモルガンとアルトリアは行っていた。
水が押し寄せ、光が舞い、雷が降り、炎が奔る。
それを自身の杖を触媒にして放ち、最低限の防御魔術で防ぎ、相手に届かせるように己の頭の中で次々と魔術の組み合わせを作り上げていく。
ありとあらゆる魔術を納めたモルガン。
それに対抗するのは“聖剣”に特化した魔術を納めたアルトリア。
魔術のバリエーションでは圧倒的にモルガンの方が上。
しかし、それを覆すようにアルトリアは自身の納めた聖剣魔術を様々な形で応用し新たな形として打ち出していく。
「……やはり、お前のその才覚は非凡だな。私の攻撃にここまで耐えているのはお前で4人目だ、褒めてやろう」
それはモルガンからの惜しみない賛辞だった。
彼女が生まれてからこの時まで、彼女の攻撃をここまで捌き切ったのはレインフォートにライネック、そしてメリュジーヌの3名のみ。
しかし、その賛辞をアルトリアは素直に受け取ることができない。
モルガンから放たれる猛攻を前に、今自分ができるのは対粛清防御を展開しながら反撃の魔術を撃つことだけ。
アルトリアに映るモルガンの姿は全力の3割、いいやもしかしたらそれ以下の力しか使っていないと思わせるほどの余裕が伺えた。
「しかし、術式の展開が甘い。お前の持つ対粛清防御は確かに最強の守護だろう、自分を守るだけならばそれだけで十分すぎる」
「思考を防御に回しすぎているせいで反撃に使っている魔術が雑だ。その程度の魔術では如何に聖剣の名を冠していても私には届かぬ」
「っ!こ、のぉ……!」
アルトリアとてそれはわかっていた。
モルガンの指摘はアルトリアが決め手に欠ける原因の全てだった。
モルガンの苛烈な魔術による猛攻。
それを受け止めるために展開している対粛清防御。
ほんの少しでも気を抜いて仕舞えば一瞬で抜かれてしまうような緊張感の中で反撃に割く魔術へのリソースは少しづつ雑になっていた。
「その程度では、私に勝つなど夢物語にもならない。戦う理由が希薄なお前では、その程度の魔術しか扱えないのでしょう」
「これではお兄様も浮かばれませんね。手塩にかけた弟子であり娘がこの程度の魔術しか扱えないとは」
「───は?」
それは明確な理性への攻撃だった。
モルガンが呟いたその言葉に、アルトリアの中の何かが震えた。
ぷつん、と確かに、明確に何かが切れた音がした。
「ふざ、けるな……!」
「事実でしょう、バーヴァン・シーを下して気が強くなっていたか?ウッドワスを退けて強くなった気でいたか?ならば、その高くなった鼻とプライドを今ここで砕いてやろう」
そうしてモルガンは魔槍を逆手に持つ。
無造作にその槍先を空中に突き刺し……そこから射出された槍の魔術が水鏡を経由してアルトリアの眼前に展開される。
(回避は……間に合わない!展開した防御の内側に直接送り込んでこれるなら対粛清防御も意味がない!やばい、このままだとあたる……!)
避けられない、そう判断した瞬間アルトリアのとった行動は
完全に避けようとすれば間違いなく間に合わない。
けれど、何処かを犠牲にすれば最低限のダメージで済む。
あの槍の破壊力だって相当なものだ。
杖を持っている右手はダメだ。
顔は論外、足も、腹も胸もダメ。
ならば、あの槍を受け止めるのに使えるのは左手しかない。
全力で魔力を左手に集める。
少しでもダメージを軽減させるために左手を覆うように防御魔術を張り巡らせて迫る槍を叩き落とすように側面から触れた。
「っ!痛っ!!!」
触れた瞬間に襲いかかってきたのは激しい痛み。
それが呪詛の類だと気づくのには時間はかからなかった。
ジンジンと腫れるような痛みに、自分が身につけていた呪詛に対抗する礼装に感謝することになる。
触れた勢いをそのままに、現れた槍を叩き落とした瞬間に駆け出した。
痺れるような不快感はあるものの左手は使える。
防御の内側に直接攻撃できるのなら、同じ場所に立って防御をするのは却ってリスクでしかない。
進め、走れ、モルガンの目の前まで……!
左手に現れ、握ったのは光の剣。
ルクス・アロンダイトを携行剣として扱えるようにした擬似聖剣。
自分に幾重にも強化の魔術を掛け、一瞬でトップスピードに乗りそのままモルガンへ斬りかかる。
しかし、その斬撃はモルガンに届かない。
強化の魔術を重ねがけしたアルトリアの一撃の重みはウッドワスの一撃にも負けず劣らずというものでありながら、その一撃をモルガンは魔槍を変形させた漆黒の剣で受け止めていた。
「うそでしょ」
「嘘ではない。私が魔術しか脳のない女だと思っていたか?いいことを教えてやろうアルトリア」
光の剣と漆黒の剣が鍔迫り合う。
アルトリアとモルガンの顔が近くまで寄り、モルガンは不敵な笑みを浮かべた。
「私は、近接戦の方が得意だということを」
瞬間、アルトリアの持つ剣が弾かれる。
光の剣が魔力へ霧散し、行き着く間もなくいつのまにか持ち変わっていたハルバードの横っ面で殴打されて吹き飛ばされた。
石畳の道を転がり、なんとか立ち上がったアルトリアは頭を強く打ったせいで歪む視界をなんとかモルガンに合わせようとする。
しかし、視界の先には既にモルガンの姿はなく……その代わりに背後から嫌な視線が向いていることに気がついた。
それはもはや反射だった。
振り返ることもなく、ただ条件反射的に本能で腰を落とした。
それと同時に先ほどまで身体が合った場所を通り抜ける風切り音。
背後に立っていたのは剣を振り抜いた姿のモルガン。
どうやって、こんな一瞬の間にと覚束ない思考で考えて瞬時に理解する。
「水鏡……!」
「上出来だ、この程度理解できて当然だが」
「バカ言わないで、普通の魔術師は転移魔術なんて使えないの」
瞬間的に距離を取り、モルガンを凝視する。
魔術で迎撃するには距離が近い、しかし剣を再び手に取るには一歩遠い。
目の前に立つ冬の女王が、どれだけ強いかなんて嫌でもわかった。
「ブリテンを1人で平定したの嘘じゃなかったんだ」
「この程度、まだ序の口だ。ブリテン全土に戦争を仕掛けた時は街一つを押し流す規模の魔術を乱用したものだ」
「これだから天才は……!」
「その天才に挑むのだ。この程度で音を上げるのなら始めから尻尾を巻いて逃げておけばいいでしょう」
バカにして、と心の底で思った。
しかし、事実でもあるのは言葉にするよりも明らかだ。
ブリテンをたった1人で制圧できる彼女であったからこそ、妖精たちは2000年もの間彼女に支配されていたのだから。
「……まだ、諦めるつもりはないようだな」
「当たり前でしょ、逃げたら昔のわたしと変わらない!強くなったんだ!あの時から心も身体も!魔術の腕だって……!」
両手で杖を握り、ぎゅっと力を込める。
巡礼の鐘を鳴らし終えて、アルトリアは自分がなにか違うものに変わってしまいそうな気配はしていた。
それはきっと、剪定の場に向かえば変わってしまうのだと。
きっと、帰って来れなくなって違うモノに変質してしまうんだと。
でも、それがわかったからこそ自分を使う切り札だってひとつだけ用意できていた。
大きく息を吸い込む。
大丈夫、こわくない。
一瞬なら使っても大丈夫。
だって、1番大切なひとが同じことをしてたんだから。
身体の奥底に、新たにできた器官へ意識を向ける。
身体を巡る魔力が新しい器官からの知らない魔力に上書きされる。
「……アルトリア、貴様」
「───妖精炉、接続っ!」
それは、いまのアルトリアには過ぎた力だった。
まだ幼い楽園の妖精がそれを扱うにはリスクが高過ぎた。
「まけ、られない!負けられないんだ……!」
「その力、その決断がお前の肉体を蝕む。幼いその肉体でそれの負荷に耐えられるものか」
モルガンはアルトリアが接続したものの正体を瞬時に見抜いていた。
それは『竜の炉心』のようなもの、楽園の妖精である自分にも同じく星の内海から派遣されたアルトリアにも、そして同じく特別な妖精のレインフォートにも備わっている特別な器官。
莫大な魔力を生み出す特殊な妖精が持つ炉心、すなわち妖精炉。
自身の膨大な魔力の源がそれであるからこそ、モルガンはその負荷を知っている。
幼い肉体のアルトリアがその状態を維持できないのも、下手をすればそのまま戦うことはおろか数日昏睡してしまうような正に背水の切り札だということも。
「ルクス・アロンダイト、ルプス・ガラティーン、レイン・クラレント、シャスティフォル、スピュメイダー……!」
モルガンの周囲をドーム状にあらゆる聖剣魔術が囲う。
この一撃に全てを賭ける、この一撃で必ず届かせてみせる。
「聖剣魔術・多重展開……!74基並列抜刀!」
出鱈目だと、誰もが口を揃えて言うことだろう。
アルトリア自身もこの一撃に全てを賭けるせいで多重展開した魔術の処理に脳が追いついていない。
激しい頭痛と今も身体の中を奔るなれない魔力。
鼓動と共に莫大な魔力が溢れてその使い道を彷徨って放出される嵐のような魔力たち。
「聖剣よ……眼前の敵を討ち滅ぼせ……!」
アルトリアの号令、それと同時にモルガンへ降り注ぐのは74の聖剣。
たった1人にぶつける魔術としては過剰どころかオーバーキルもいいところだが、相手はこの妖精國全てを纏めても敵わない女王である。
爆炎と雷撃、光の爆散、目にも止まらぬ速度で駆け抜ける剣。
その全てを撃ち切った時、確かな手応えがアルトリアにはあった。
全てが当たったとは思っていない、しかしそのどれもが致命傷になりかねない魔術が直撃していたと確信すらしていた。
「……凄まじい魔術と物量だ。私でなければ死んでいた」
しかし、爆炎の中から歩いてきたのはほんの少し掠った程度のダメージしか無いモルガンの姿で……。
「そんな……」
「だが、時間切れだ。私も少々羽目を外して楽しみ過ぎたようだ。褒めてやろう、アルトリア。お前の魔術は確かにこの私に届いたのだ」
モルガンの肉体から光の粒子が舞う。
それは以前にトリスタンが退去した際に発生したものと同じで。
モルガンの肉体がほんの少しづつその輪郭を失っていく。
「妖精炉、その力を使うのならもっと研鑽しなさい。付け焼き刃の切り札ではなく、今度こそ正面から私を打ち倒せるようにな」
その言葉を最後に、輪郭を失ったモルガンは虚空に溶けていった。
実感がない、目の前で起きたことがまだ理解できない。
でも、この瞬間確かにアルトリア・キャスターはモルガンに勝ったのだ。
「……うそ、勝ったの?」
鼓動が早鐘のようにうるさい。
アドレナリンが分泌されているからか肉体への痛みがカットされている。
でもそれよりも、自分の手でモルガンを消滅させたことが何よりも理解できなかった。
離れたところから仲間たちが駆け寄ってくる。
そんな声すら、遠くに感じて……。
「っこのバカ!アルトリア!!!」
「───え?」
必死な顔でわたしの前に躍り出たオベロンの姿が消え去るその瞬間を、わたしの眼はしっかりと捉えていたのだ。
記念すべき第100話はモルガンとアルトリアの決戦でした。
上手く書けたかな?楽しんでもらえたでしょうか?
アルトリアとモルガンの戦闘はしっかり描けていたでしょうか。
あまり長々と戦闘描写を書いても読む側も疲れてしまうのでこのくらいのボリュームと相成りました。
ここからは妖精國最大の胸糞ポイント。
作者が吐き気に襲われて体調をガチで崩した玉座の間での出来事になっていきます。
うっ、思い出しただけでも……。
次回も崩壊編を畳むために話が進んでまいりますので是非お楽しみいただければと思います!
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アヴァロン・ル・フェの更新について
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今まで通り月に3〜4話見れればいい。
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待ってもいいからストックして放出
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別に気にせんでええねんで(^ω^)