お兄様のことが大好きな雨の魔女トネリコ或いは冬の女王モルガン   作:今井綾菜

102 / 110
第二十八旋律 『エピローグ』

 

キャメロットでの決戦から数日が経った。

 

モルガン陛下が撤退したあの後、オーロラの風の知らせがブリテン中に響き渡り……妖精歴でモルガン陛下がトネリコとして活動していて全ての事件の暗躍をしていたと公言し、それはこの國の民衆にとって真実になってしまった。

 

わたしたちはあの後移動の止まったキャメロットを走破し、玉座の間に向かったものの、その先にあったのは血みどろの地獄だった。

心臓を貫かれ横たわるウッドワス、血に濡れた霊剣シャスティフォルに無数の妖精の亡骸、バーヴァン・シーのドレスの切れ端や妖精騎士長アーデルハイトの胸当て、そして……血に濡れたモルガン陛下の王冠が無造作に転がっていた。

 

なにがあったか、なんてわかりきっていた。

あのオーロラの言葉を間に受けた下士官や暗躍していたスプリガンがモルガン陛下に反旗を翻したのだろう。

その証拠に、扉の方へ少し進んだところに深く切り裂かれたスプリガンの死体が転がっていた

 

円卓軍と女王軍の戦争は、女王軍の内輪揉めで勝利となったのだった。

 

わたしはといえば戦いの勝利を喜ぶことができず、その後の祝勝会にもリツカたちと顔を合わせることも出来ないでいた。

唯一願ったのは霊剣シャスティフォルを受け取ったことくらい。

いまリツカたちはキャメロットに装填されているロンゴミニアドの摘出を円卓軍に依頼していて、円卓軍はその作業に追われている。

 

あの血まみれの玉座の間にたどり着いた時、わたしは一気に血の気が引いた。

 

心の何処かでモルガン陛下は大丈夫だと安心していた。

あれだけ強い人だ、信念も、なにもかもこのブリテンでいちばんの人だと思っていた。

だから、たとえ内乱が起きてもあの人だけは大丈夫だって……思っていた。

血に濡れて転がった王冠を見た時、頭が真っ白になった。

 

わたしはこれからレインにどんな顔をして会えばいいの?

レインのいちばん大事な人を奪ったわたしは……。

 

膝を抱えて、部屋の片隅でひとり……小さな身体を震わせていることしか出来なかったのだ。

 

 

 

 

 

 

****

 

ブリテンは女王モルガンを倒したことで新たな女王を迎えることとなった。

 

次代の女王は王の氏族のノクナレア。

北のエディンバラの女王がこのブリテンを導く次代の女王となり、この先のブリテンの安泰を約束してくれることだろう。

 

数日後に新女王陛下の戴冠式を控えたブリテンは何処か浮足立っていた。

何処の街も新たな女王の誕生に心を躍らせ、今までの窮屈で苦しいだけの生き方から解放されると期待していた。

 

ブリテンのあちこちでモルガンの悪評が語られ、それを肴に酒を飲む。

予言の子一行の冒険と戦いが詩になり、それを語って歩くものまで現れた。

 

そう、2000年の苦行から……いいや、もっとそれ以上前から自分たちを苦しめていた悪しき妖精から自分たちは解放されたのだと。

 

「……私たちは、本当に正しいことをしたのでしょうか」

 

「私は、少なくともそうだって信じてるよ」

 

そんな喧騒を横目に、マシュと立香は小さな声で語り合う。

妖精歴でトネリコと共に冒険したマシュは今のこの状況を素直に喜べなかった。

 

マシュは知っていた。

トネリコの苦悩も、トネリコの笑顔も、そして……大切な兄に逢いたいという心からの涙も。

だからこそ、あんな凄惨な現場を目撃したマシュはあの瞬間、あの玉座の間を見た瞬間に動くことができなかった。

アルトリアとモルガンの戦闘に介入することも出来ず、その後も自身のマスターを守ること以外にリソースを割くことも出来ず。

再び現れたモルガンが撤退した後も不安と焦燥に駆られるアルトリアを宥めることも、あの玉座を見て取り乱した彼女を支えることも出来なかった。

 

「いま、ブリテンの皆さんはオーロラさんの言葉を信じています。彼女が語った、偽りの女王歴はトネリコさんが涙を堪えて心をすり減らしながら走ったあの救世の旅をぜんぶ……ぜんぶ踏み躙ったんです」

 

「マシュ……」

 

「……ごめんなさい、私も少し頭を冷やしてきます。夜には、夜までには必ず戻ってきますから」

 

マシュが立ち上がり、2人でいた酒場から出ていく。

この勝利はカルデアにとっても決して明るいものではなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

****

数日前

オークニー・大図書館。

 

「……どうして!!!どうして私だけを連れてきたのですか!!!」

 

モルガンとレインフォート。

その2人しかいない大図書館にモルガンの怒声が響く。

彼女の目蓋泣き腫らしたことで赤く腫れ、それでも何も言い返さないレインフォートの胸を掴んで叫ぶことしか出来なかった。

 

「あのとき……!お兄様がいてくれればウッドワスもレイレナードもバーヴァン・シーだって救えたのに……!!どうして、あのときにあんな状態になるまで来てくれなかったのですか!!」

 

「…………すまない」

 

それはもう、何度目か分からない謝罪だった。

もう何時間も泣き続け、モルガンから向けられる罵声と怒声に彼はただ謝罪することしかできなかった。

 

自分の選択が今回の出来事を招いたの事実だ。

あのとき、アウローラだと分かった時点でキャメロットに跳んでいれば少なくともまだマシな結末には向かっていたかもしれない。

ほんの少し、あの十分少しの時間の選択を間違えなければ……。

 

「あの子は……バーヴァン・シーは私の希望だった……!あの子のためなら、私は……このブリテンすら捧げてもいいほど大切な子だったのに……!」

 

「…………」

 

何度も、何度も力のない拳が胸を叩く。

ただただ、女王としての彼女は何処にもおらず……大切なものを無くした少女が心のままに慟哭するのだった。

 

 

 

数日後にはモルガンのメンタルはなんとか持ち直した。

持ち直した、というよりは無理やり叩いて立っているという方が正しい。

なんとか落ち着きを取り戻し、悲しみの淵からギリギリまで戻って来た彼女は小さく謝罪をして話し合いをすることとなった。

 

「どのみち私はもうキャメロットには戻れません。次代の女王はノクナレアが担うでしょう。もとより、そのように彼女とは取り決めていましたから」

 

「そうか、用意周到さは変わらずだ」

 

大図書館の中央に設置されたテーブルを囲んで、レインフォートとモルガンは今後の展開について話し合う。

モルガンが玉座から下されたことで無理やり押さえ込んでいた厄災やそれに続く大厄災への対処、それに伴う引き継ぎが全く行われていないのである。

キャメロットの城壁に設置されたロンゴミニアドの使用方法も、それを扱う資格のある者の名前も今のブリテンでは、次の女王の治世では誰も知らないのだ。

 

「1番の問題はあの大穴の下に眠る祭神の亡骸です。アレが何らかのキッカケで再起動してしまった場合……ロンゴミニアドを起動して扱えるものがアルトリアしかいないのです」

 

「それはなぜ?」

 

「あの魔術式は本来私が使うことを想定して作ったもの。聖槍を魔術として再現したものを、何処の馬の骨ともしれぬ魔術師が扱えるとでも?もとよりアクセスに必要な権限を楽園の妖精と聖剣の騎士に限定して作っていたのです。今のブリテンではアルトリア以外にはまともに起動することすらできません」

 

さも当然のように、モルガンは語る。

つまり、あの玉座に組み込まれたロンゴミニアドの術式を起動できるのははじめから3人しかいなかった。

いや、アレを作り出したその時はモルガンたった1人しか使う権限がなかったのだと。

 

「ノクナレアの戴冠式を終えれば嫌でも分かるでしょう。もう目の前まで迫っている大厄災、それを鎮めるためにどれだけの準備を私が重ねてきたのかを」

 

「それに、あのオベロンと名乗った糞虫もキャメロットで消滅させました。アレが本体だったのならひとまずは問題ないでしょう……あとは……」

 

「アウローラ、だな。オーロラの魂にその残滓が残ってる。あの虫唾の走る演説も彼女がオーロラの身体で行ったことだ」

 

「また厄介な存在が残っていましたね。雨の氏族、ウッドワスにお兄様にお母様、お姉様……そしてバーヴァン・シーとレイレナード……あの女に奪われたものを考えるだけで腹の底から憎悪が沸き立ちます」

 

「……始末することを選択に入れれないのが、余計に厄介なんだ」

 

「そうですね、私もオーロラを始末することは考えていましたがメリュジーヌのことがあってからその選択を取れないままでした」

 

どうするのが一番いいのか、と問われれば生かしておくしかない。

少なくともレインフォートとモルガンにどれだけ害悪であろうとも彼女を殺すという選択は出来なかった。

 

「……どちらにせよ私たちが取れる行動は一つだけです。厄災が現れればそれを祓う、そのための準備を進めなければなりません。いざとなれば玉座の奪還も視野に入れるべきです」

 

「わかった、僕の方でも準備を進めておくよ」

 

「ではそのように、私は準備のためにログハウスへ向かいますので合流は明後日にしましょう。このブリテンの戴冠式が、そのまま終わるとは到底思えませんから」

 

そう告げたモルガンは水鏡であのログハウスへと消えていった。

図書館に残されたのはただひとり、また何も守れなかった男が椅子に腰を深く預けて大きくため息を吐いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソールズベリー大聖堂で戴冠式が行われるまであと2日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




Coronation of Her Majesty the New Queen

新女王陛下 裁冠式が行われます。
妖精國ブリテンソールズベリー大聖堂にお集まりください。

The coronation of the new Queen will commence shortly.
Please gather at Salisbury Cathedral of Faerie Britain.

アヴァロン・ル・フェの更新について

  • 今まで通り月に3〜4話見れればいい。
  • 待ってもいいからストックして放出
  • 別に気にせんでええねんで(^ω^)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。