お兄様のことが大好きな雨の魔女トネリコ或いは冬の女王モルガン 作:今井綾菜
血染めの王冠、おひとつどうぞ
第一星 『おしまい〜戴冠式〜』
女王モルガン政権崩壊から数日後。
その日、ソールズベリーには多くの妖精たちが集まっていた。
何を隠そうモルガンに代わる新女王の戴冠式が行われるのである。
新女王はエディンバラを治めていた王の氏族であるノクナレア。
モルガンが討たれてからほんの数日で決まった新しき女王はブリテン中の妖精たちの期待を一身に受け、この日を迎えたのである。
「……ノクナレア、綺麗だなぁ」
式典が始まってノクナレアが入場する。
わたしにとっては大事な友人の晴れ舞台だ。
煌びやかではないけれど彼女にとても合うドレス。
その頭に載る王冠だって彼女の美貌を活かすデザインのものだ。
モルガン陛下の後に彼女が女王になるのは複雑な気持ちだけど、それでも彼女のためなら力になってあげたいと思ってしまう。
戴冠式の進行は風の氏族からコーラルが行うようだった。
オーロラとムリアンは欠席で祝辞だけが送られて来たようだった。
式自体は急なこともあって簡易的に、後日情勢が落ち着いたら盛大な戴冠式が行われるのだろうというのがわたしの見解だ。
コーラルの進行によって式は進んでいく。
六氏族よる祝福が彼女の王冠へ為されることで、ノクナレアは無事に新女王としてこのブリテンに認められる。
「皆様もこちらをどうぞ。祝福が終わり次第、この場の皆で歓びを分かち合うためのものです」
聖堂騎士からそう言われて渡されたのは葡萄酒。
この場にいるすべての招待客に渡されたそれを受け取って、わたしはその中身を凝視した。
(アルトリアさん……?)
(みんなはこれ飲むの?)
(あー、私は未成年だし……あとこれでも任務中だから)
(そうですね、私も同じ理由で)
(そう、安心した。レインからこういう場所で出される飲み物は絶対に飲むなってキツく言われてたから)
(…………お前の親父がそういうなら間違いはなさそうだな。じゃあ
理由は言わなくてもわかるだろう。
毒だ、わたしにはこんな杯一杯程度の毒は効かないけどリツカやマシュはわからない。
村正にグリムだって自力でどうにかできるだろうけど、そもそも毒なんて摂取しないに限るのだからわざわざ危険かもしれないものを飲む必要なんてなかった。
****
祝福が終わり、ノクナレアが受け取った杯を飲み干す。
「よろしい、では新女王の誕生を祝い……ここに祝福の印を授けるものとします。新女王ノクナレア。公正と勤勉、共存と潔白を示す宣言をどうぞ」
「いいでしょう」
コーラルの言葉に返すように、ノクナレアは新女王としての宣言を行う。
それは、自身が公正を遵守し、国のために勤勉であるという宣言。
それは、すべての氏族との共存を志し、嘘のない国を運営するという宣言。
私は『ブリテンの妖精』の一員として、公正である事を誓います。
『北の妖精』の長として、勤勉である事を続けます。
『予言の子』に島を託された妖精として、共存の正しさを信じます。
『偉大なる女王マヴの娘』として、生涯、潔白である事を約束しま───
しかし、その宣言は最後まで告げらることはなかった。
「異議あり」
宣言を断ち切ったのは大聖堂の入り口に立つ妖精だった。
「その宣言は何一つ信用に値するものではないと断言する」
「ノクナレアは悪である。『北の妖精』はブリテンには不要である」
そう、弾劾するかのように強い言葉で彼女の宣言を止めたのは───
「───な、あなたたち、『王の氏族』……?私の、臣下……?」
動揺するノクナレア、それをこれ見よがしに声を強める『王の氏族』。
「告発する、我々は告発する!」
『王の氏族』たちは次々に言葉を並べる。
ノクナレアに王の資格なし、北部で行われて来た圧政と悪逆をここに告発する。
曰く、ノクナレアに血を分け与えられたものは彼女に逆らえなくなり奴隷となる。
曰く、モースの呪いを価値のない妖精に移し替え巨人兵へと生まれ変えさせられノクナレアの奴隷にさせられた。
しかし、ノクナレアは反論する。
それは同意の上であったこと、彼らの献身あってこその此度のモルガンを相手にした勝利であったと。
彼らが犠牲になったのは彼らにも褒賞があったからこそ、自身がもう助からないからこそ兄弟を守るための武器になることを同意したのだと。
しかし、妖精たちの告発は止まらない。
では、あの都市の地下にあるものはなんなのか。
それはエディンバラの正体。
女王マヴがエディンバラを構成する核であること。
彼女は地下に亡骸として保管され、数多の妖精を食い荒らしたと。
そして、より強い妖精を産むために力を蓄えて生み出されたのがノクナレアだと。
本来ならブリテンの大地に変わるはずだった妖精たちの亡骸、その全てで構成されているのがノクナレアの正体だと。
故に、ノクナレアはこのブリテンにおける裏切り者だと!
それが、『王の氏族』の告発。
参列者たちに動揺が広がる中、それでもノクナレアは言葉を強く返した。
「裏切りなものですか!マヴの気持ちも知らないで……!全ての妖精を賄うだけの魔力を持たなければ妖精國は維持できない!」
「それを知ってしまったからマヴは『女王都市』なんてものになったのに」
そこまで口にして、ノクナレアはこの国の真実を。
どうして妖精が絶滅した妖精歴が終わっても、こうして2000年も妖精が生きながらえてこられたのかの真実を口にすることを決めた。
「いいわ、教えてあげる!一度滅亡した『ブリテンの妖精』が今も存在してる理由、私たちが女王モルガンから受け継いだこのブリテンのしんじ、つ」
だが、その言葉も最後まで口にすることは叶わなかった。
ノクナレアの口から、血が溢れていた。
ノクナレアの腹から、槍が突き出ていた。
「───ぇ」
アルトリアの口から小さい声が漏れる。
信じられなかった、ノクナレアの身体を突き抜けたあの槍が信じられなかった。
だって、ノクナレアの身体は人一倍頑丈に出来ていた。
高々一兵卒が持つような剣や槍なんて“そもそも通るはずがない”のに。
ノクナレアが倒れる。
血を吐きながら、荘厳な大聖堂の床に血を溢しながら。
「倒れた、倒れました!罪を暴かれて耐えきれなかったのでしょう!」
「衛士の皆さんいまです!偽の女王に裁きを!」
「『北の妖精』に女王なんてとんでもない!
その声に踊らされるように、または引き寄せられるように。
血を吐き、倒れるノクナレアの周囲に衛士が、聖堂騎士が集まる。
その手に持った武器を、先ほどまで祝福していた新たな女王に向け───
「何やってるんだお前たちーーー!!!!」
アルトリアの怒声と魔術の轟音が大聖堂に響き渡った。
****
オークニー・大図書館。
「そんな……それは本当なのかいレイン」
「こんなことで嘘は言わない。オーロラの中にはアウローラがいる、キャメロットでのあの決戦の時、僕は彼女と話していたんだからね」
「じゃあ……あの演説は、あの時にはもう……オーロラは……」
「乗っ取られていたよ、彼女は時間がない……持っても1時間なんて言っていたけど、それだって本当かどうかはわからない」
レインフォートを探して訪れたオークニーの大図書館。
メリュジーヌがここにやってきて最初に聞かされたのはオーロラの中には彼女の先代であるアウローラの人格が残っているということ。
そしてそれが、表に出てきて行動しているということだった。
「でも、でもどうして君がオーロラの元に……?君の存在が彼女にバレたらマズイことくらい君だってわかっていただろう!?」
「僕の存在が彼女に認知されるよりも、あの演説の方が危険だと判断したからだ。僕はあの時、オーロラを殺すつもりであの場所に行ったんだから」
「……っ!」
「そこで知ったよ、彼女を殺すことの意味。彼女を殺した時に発生する厄災の話を……だから僕は彼女を殺せなかった。判断が遅れた結果が、この状況というわけだ」
図書館に沈黙が流れる。
互いにかける言葉など見つからないだろう。
レインフォートはメリュジーヌの『愛』を奪いに行ったのだ。
そして、その『愛』を奪うことで起きる事象を知って躊躇ったから……レインフォートは自身の大切なものをまた失ったのだから。
「…………レイン」
「なんだい」
「僕は君に初めてあった時に言ったよね。『僕』の愛はオーロラのもので『私』の愛は君のものだって」
あの極寒の山頂に存在した施設での邂逅。
圧倒的な威圧感に気圧されながらも彼女の美しさに目を惹かれていた。
その時に言われたことはしっかりと記憶していた。
「ああ、覚えてる」
「僕が僕でなくなったとしても、『私』の翼はきっとあなたを迎えに行く。だから───私を信じてくれる?」
それは、別れの言葉のように感じた。
その言葉はメリュジーヌにとって別れの言葉でもあり、必ず逢いに行くという約束でもあった。
「信じてる。君が僕を愛していると言ってくれたから、その言葉に嘘はなかったんだから」
「それ、いま言う?もっと雰囲気のある時に言うことじゃないの?」
「ごめん、でも僕の愛は妹と娘で在庫切れなんだ」
「サイアク、でもいいわ。そんなあなただから
メリュジーヌが、ほんの少しだけ離れる。
別れの挨拶はこれで済ませた、あとは覚悟を決めて飛び立つだけ……だったのだけれど。
「そういえば、フェイルノート受け取っていたでしょ」
「あ、ああ。バーヴァン・シーから敵討ちを頼まれてね」
「ふぅん?でも、弓だけじゃなくて剣も欲しくない?欲しいよね?欲しいって言って」
「………………」
「剣も 欲しいって 言って」
「……欲しいです、ハイ」
「ふふっ、よろしい♪」
圧に気圧され、思わずそんな答えを返せばメリュジーヌは満面の笑みのままレインフォートの一歩前に立ち、自分の両手につけていた鞘状のトンファーをレインフォートに差し出した。
「これ、私は魔力でいくらでも作り出せるから。とはいっても
「そこで自信を無くさないでくれ……でもありがとう。これで聖剣使いとして胸を張って戦えそうだ」
レインフォートからの感謝にメリュジーヌは微笑みを返した。
もう、彼とこの姿で会うことできないだろう。
でも、こうして出会えたこと自体が奇跡だったのだからこれ以上を望むことは今はしなかった。
「よかった、それじゃあ今度こそお別れだ。本当はもっと話したかったし君と出かけたりもしたかったけど……こうして出会えただけでも本当に嬉しかった。ありがとう、最果てのキミ」
「ああ、僕も君に会えてよかった。ありがとう、
別れは済ませた。
そうして、境界の竜は空高く飛び上がりソールズベリーへ飛び去る。
自身の愛を確かめるため、自身の愛を貫くため。
騎士としての誇りを、原初の愛へと託して。
お待たせいたしました、ついに始まりました崩壊編。
そして、アヴァロン・ル・フェにおける最終章。
この作品も初投稿から約2年が経過し、たくさんの読者の皆様に支えられてここまできました。
アヴァロン・ル・フェが終わってからが本番と銘打っておきながら本番始まる前に100話を超える作品が一体どこにあるのか……()
いいえ、ヤボなことは無しにしましょう。
お兄様とモルガン陛下の幸せなカルデアライフをみんなでニヤつくためにこの物語の最後まで見届けてください!
8/31日現在、この話を含めて四話分のストックがありそれぞれ9/1、9/3、9/5、9/7の投稿予定となっています。
第二星からの投稿時間は正午12:00を予定してますのでお楽しみいただければと思います。
アヴァロン・ル・フェの更新について
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今まで通り月に3〜4話見れればいい。
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待ってもいいからストックして放出
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別に気にせんでええねんで(^ω^)