お兄様のことが大好きな雨の魔女トネリコ或いは冬の女王モルガン   作:今井綾菜

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あなたは、わたしの、たいせつな、ほしだったのです。








第二星 『ノクナレア』

 

手渡されたお酒を飲んだとき“ああ、そういうこと”とすぐに冷静になれた。

 

手渡されたお酒には毒が入っていた。

 

おそらくは私と北の妖精と、アルトリアたちの杯に。

 

私は大丈夫、この程度の毒で死ねるならとっくの昔に楽に終われていた。

 

でも心配なのはアルトリアたち。

 

なんでもない素振りで杯だけを傾けて、飲むフリだけをしていた。

 

なんだかよくわからないけどナイスプレー。

 

ただの偶然だとしても、助かった。

 

私の親友……ライバルに何かあったらこの後の人生張り合いがないもの。

 

エディンバラであった時に言ってた“父親”の教育かしら。

 

素敵なお父様だと嬉しそうに言っていたものね。

 

そんなに自慢するなら、一度くらい会わせなさいって思っていたけど。

 

……北の妖精たちは最古参の私の臣下たちだ。

 

私が平気なら彼らだって平気、知らないふりをして戴冠式を続けよう。

 

やっとここまできたのに、ケチがついて中断なんてさせるものですか。

 

モルガンがいないこの状況で、いつ『大厄災』がくるかわからない不安定なブリテンで王を不在にすることはできない。

 

誰が盛ったかなんて想像するするまでもないけど、思い通りにならなくて残ね───

 

 

その宣言は何一つ信用に値するものではないと断言する。

 

ノクナレアは悪である。『北の妖精』はブリテンには不要である。

 

───告発する妖精の顔を見て、マズいと思った。

 

他の氏族からではなく王の氏族から弾劾される時点で、私の敵はもうすでに全ての準備を終えていたのだ。

 

さっきまでなんでもなかった身体が痺れだす。

 

指先が動かなくなって、喉と内臓が焼け爛れる。

 

視界の先に不安に揺れるアルトリアの顔があった。

 

まさか、こんなに強い毒だったなんて。

 

純粋で優しいあなたが口にしなくて本当によかった。

 

自称王の氏族からの告発はさらに続く。

 

ここだけではない、ブリテン中でおそらく同じことが起きている。

 

私の最大の武器は『忠誠心』であり、そして最大の弱点も『忠誠心』だ。

 

私の力を分け与えた妖精の心が離れれば、その分私の力は減っていく。

 

ごっそりと半分以上、自分が小さくなったのがわかった。

 

なんでもなかった毒が身体中に回る。

 

最古参の臣下たちも倒れていく。

 

つい先程まで髪をとかす櫛にもならない衛士の槍が背を貫き、腹を破る。

 

───まいったなぁ、私もまだまだ小娘でした。

 

ずっと焦がれていた服を着たからかしら。

 

それとも親友に晴れ姿を見せられたからかも。

 

ちょっと、浮かれてしまったみたい。

 

 

 

 

****

 

「ひ、ひぃ……!予言の子が大聖堂の騎士を手にかけた!」

 

「やっぱり北の妖精と予言の子は通じ合っていたんだわ!」

 

「北の妖精の末裔と楽園の妖精!なんて恥知らず!なんて恐ろしい組み合わせ!!」

 

「黙れ!恥知らずはどっちだ!!!ノクナレアはお前たちのためにあんなに頑張ったのに!!!こんな……!こんな毒なんかで……!自分の手を汚さない1番汚いやり方で!!!!」

 

激昂するアルトリアとそれでもアルトリアとノクナレアを罵倒する妖精たち。

それを遮ったのはグリムの放つ炎だった。

 

「それ以上は喋んな、黙って出て行け……出来ないなら今ここで死ね。2度は言わねぇぞ」

 

その言葉に偽りはなかった。

これ以上口を開けば殺される、なんの躊躇いもなく自分たちに向けられた炎で焼き殺される。

それを理解したからこそ、ノクナレアを告発した王の氏族たちは大聖堂の外へと大人しく立ち去っていった。

 

「───ノクナレア!ノクナレア!!!!」

 

それを見送る暇もなく、アルトリアが杖も投げ捨ててノクナレアに駆け寄った。

 

「ダメ、しっかりしてノクナレア!なにこれ、血が止まらない!!どうしちゃったの!?こんな傷、すぐに治るんでしょ!?」

 

「……霊基の規模が小さくなってるんだ。体内の魔力生成が少なくなって……これは、子供に戻ってる……?」

 

傷が塞がらない。

それは純粋に彼女の肉体が必要としている魔力生成料が足りていないのだ。

沢山の妖精の亡骸を取り込んで成長するとするのなら、霊基の縮小を続けるのは確かに子供に戻り続けていると言っても過言ではないだろう。

 

「ノクナレア!目を覚ましてノクナレア!女王になるんでしょ!?そのために今までずっと頑張ってきたんでしょ!?いつもみたいに偉そうに……高笑いしてよ!!」

 

「───あれ、やっば。ねてた、わたし?」

 

アルトリアの声が届いたのか、それとも最後の力か。

ノクナレアの焦点の合わない瞳が、アルトリアを捉えた。

 

「良かった!気がついた!待ってて、いますぐに解毒と治癒の魔術使うから!」

 

アルトリアの手が、ノクナレアの傷口に近づく。

しかし、その手を止めたのは力のないノクナレアの手だった。

 

「あー……それいらない。だいじょうぶ。なれてる、なれて、ますので」

 

すでに、何かがおかしかった。

いつものような威厳のある為政者のような、悪戯っぽく笑う彼女とは違う子供のような。

 

「ええっと……あれ、おかしいな。あなたのかおは、よよ、よく、しっています」

 

「いつも、つらいとき、おもいだして、いたので。きそいあう、らら、らいばるで、たいせつ、な。しん、、ゆうなので」

 

「なのに、おかしいな。ごめんなさい、しってるあなた」

 

「おなまえ、おなまえが、、わからなくて。わたし、なんたが、よくわからなくて」

 

「ここは、どこでしょう?わたし、は、わたしはのくなれあといいます」

 

「とても、とてもおおきなしめいを───しめい、を……しめいってなんだっけ」

 

「あれ。どんどん、わすれて、わすれて」

 

「ああ、そっか。たくさんのようせいに、あげちゃったから」

 

「わたしのもとになる、ちせい、は。とっくに、のこって、なかったみたいです」

 

知性が薄れていく。

ノクナレアという少女が終わりへ向かっていく。

死の間際に、アルトリアを親友と呼んだ少女は親友(ライバル)の腕の中で幸せそうに笑って……。

 

「な、何言ってるのノクナレア……みんなにあげたって……何もかも、分け与えていたの?あんな奴らのために?こんな、こんなブリテンのために?魔力も、奇蹟も。知性までみんな、ここにくるまで全部、使い切っちゃったの───?」

 

アルトリアはノクナレアの言葉を信じたくなかった。

文字通り、全てを懸けたのだ。

自分の存在の全てを懸けて、懸けて、擦り減らして、何もなくなっても全力でここまで走ってきた少女だったのだ。

その終わりが、こんな結末でいいはずがないと───。

 

「あーーーーー………………」

 

「えーーーーと…………」

 

「ごめんなさい。なかないでし(・)ら(・)な(・)い(・)か(・)た(・)」

 

「あなたのことは、いまでも、わかります。いつも、しるべに、していたので。そのひかりをたどれば、かえれるのです。どんなみちでも、まっすぐに」

 

「や、やだ!ふざけないで!やめてよ!へんな空気出さないで!女王になったら恋をするんでしょ!?すっごい大恋愛をするんだって、あんなに笑ってたじゃん!まだ、始まってすらいないんだから……お願いだから、ノクナレアまでわたしを置いていかないでよ……」

 

「ううん、それも、ちょっとだけ、しったのよ。よぞらのきみ」

 

「とってもすてきなきもちなの、この、しきが、おわったら……」

 

「ふふっ、ぜったいに、ものにして、やるんだから。きっと、じょおうになるより、むずかしいわ」

 

力なく、ノクナレアの言葉が消えていく。

瞳から大粒の涙を流してはノクナレアの頬に溢れ、落ちていく。

 

「ねえ、しってる?べつのせかいの、わたしは、たくさんこいを、するんだって」

 

「───おっかしいの、なまえはなんていうのかしら」

 

「じょおうのはか、なんて、なまえじゃなくて」 

 

「きっと、すてきな、はなのような、なまえなのでしょう」

 

焦点の合わない瞳が、ゆっくり落ちていく。

きっと、次が最後の言葉になるとアルトリアもわかっていた。

それでも、あまりにも報われないその最後を認められなかった。

 

「待って!待ってよノクナレア!消えないで……勝手に勝ち逃げしないで!ノクナレアがいたから、わたしも頑張ってこれたのに!あなたまでいなくなったら……わたしは……」

 

「それは、うそ。だって、あんなにまけずきらい、なんだもの。たとえひとりになっても、あなたは、きっと、ほしをさがすでしょう」

 

「だから、ほんのすこしだけ、おやすみ……あ(・)る(・)と(・)り(・)あ(・)」

 

最後にそんな言葉を残して、ノクナレアの身体から力が抜ける。

毒に侵されて苦しんでいたとは思えないほど優しく、幸せそうで満たされたようなそんな笑顔で。

 

「───ノクナレア、死んじゃった」

 

誰も、何もいえなかった。

言えるはずがなかった。

それでも、誰かが状況を口にしなければならないのは事実で。

 

「……剣を持ち出した衛士は片付けた。参列していた妖精たちも逃げ出した。コーラルの仕業ってわけではなさそうだ、ムリアンって線も考えにくい」

 

「それに外から物騒な音も聞こえてくるな。こりゃ口喧嘩じゃねえ殺し合いの音だぞ」

 

「…………おそらく北の妖精と南の妖精が争っているのでしょう。ようやくモルガン陛下を倒してブリテンの平和に向かったというのに、このままでは泥沼の内乱を迎えます、なんと……愚かな」

 

「これでは、あのロンディニウムの戴冠式と同じで……同じ……?」

 

マシュが何かに気がついかけたその時、外の騒乱の音が一際大きくなった。

 

「……話はそこまでだ。それでどうするアルトリア、お前が望むならこのままノクナレアの後を追いかけてもいい。そうじゃないなら、『旅の続き』をすることになる。オレも鬼じゃねえ。今だけはアンタの選択を尊重してやる」

 

「続き……?巡礼の旅はもう終わったんだよね?」

 

グリムの問いかけ、立香の疑問。

たった2人しか知らない巡礼の旅の続きを口にする時間は今はなかった。

 

「アルトリア」

 

誰もいない大聖堂に、少女の声が響く。

誰もがその少女に視線を向けて、そしてその姿を見て納得と警戒を露わにした。

 

「ランスロット……」

 

「今はもう、その名前を名乗る資格はないよ。私がレインに……そして陛下にできる最後の恩返しをしにきた」

 

「……やるつもり?」

 

「まさか、君たちを逃しにきたんだよ。ここにはもうすぐ聖堂騎士を山ほど引き連れたコーラルが戻ってくる。その前に、裏道を通ってソールズベリーの外に逃げるんだ」

 

「ありがとう……でも、ノクナレアの遺体は」

 

「私がこのあと誰の手にも渡らない場所に持っていく、それでいい?」

 

「うん」

 

「じゃあ、早く行きなさい。裏口はそこの隠し扉から通っていける」

 

ランスロット、メリュジーヌが指差したその先に先程まではなかった通路が現れていた。

おそらく、このソールズベリーの隅々まで知っているメリュジーヌくらいしか知らないであろうその通路へ全員が進んでいく。

 

「……達者でね、パーシヴァル」

 

「…………はい」

 

唯一の弟とすれ違うその瞬間に漏らした小さなその言葉は、今生の別のような寂しさを彼の胸に残して。




今回は原作とあまり変化はありませんでした。
アルトリアとノクナレア、作者は本当に好きなんですがそれにしたって原作での描写が少なすぎる。
やっぱり2018年のグロスターを集団幻覚で終わらせないで俺たちに見せろって言ってんの!

ラストスパートの崩壊編、少しでも読者の皆様に楽しんでもらえるように作者も命(睡眠時間と疲労回復の時間)を削って進めて行けたらなと思います。

それはそれとして3500万DL記念の★4鯖誰もらうか悩みますね。
作者はもうどのサーヴァントもらっても戦力に変わりはないので純粋に欲しい子のピックアップしてるんですがなかなか決めきれず……。
水着アルキャスや水着メリュジーヌが来て嬉しい一方、ここからの展開を考えると素直に喜びきれないもどかしさもありつつ……。
それはそれとして水メリュは無事お迎えできました。
『いえーいっ!マスター見ってるぅ〜?』で爆笑してきました。
あといつものあらすじでのクソデカピックアップお祝いも内容が内容だけに流石に自重しました。


【高評価】や【感想】も常々お待ちしてますのでよろしくお願いします

アヴァロン・ル・フェの更新について

  • 今まで通り月に3〜4話見れればいい。
  • 待ってもいいからストックして放出
  • 別に気にせんでええねんで(^ω^)
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